新型コロナで加速するローカルシフト

新型コロナウイルスの被害は日本中に拡大したが、中でもやはり東京は群を抜いて感染者数が多い。ウイルスが活発化しない高温多湿のこの時期でも、過去最多の感染者数を更新し続けている。多くの人々が感じているように、この新型コロナとの闘いは長期戦になるだろう。

そのため「今後、日本の暮らしや働き方は、より一層ローカルシフトの流れが起きる」と強調するのは、LIFULL 地方創生推進部の渡辺 昌宏 氏だ。

「ウイルスに対応した新たな暮らし方、働き方のキーワードとなってくるのが『開疎化』です。空間の開放性、通気の良さ、座席の配置などが、オフィスや飲食店、娯楽施設、もちろん住まいでも重要視されていきます。となると、地価が高く広い面積を維持できない東京や大都市に拠点を置く必要性がなくなります」(渡辺氏)

そのため、注目されるのが地方の存在だ。
人口集中がなくスペースがゆったりと使え、適度に人口流入を増やしながら、地域課題を解決し「持続可能な社会」を築くことができれば、地方がより魅力的な場所になる。そのカギを握るのが「空き家の活用」だという。

空き家は放置すれば多くの問題を招くが、正しく活用することができれば地方創生の動力になる。ニューノーマル時代の空間づくりにも活躍できるはずだ空き家は放置すれば多くの問題を招くが、正しく活用することができれば地方創生の動力になる。ニューノーマル時代の空間づくりにも活躍できるはずだ

4つの取組みで、現実的な空き家活用を図る

空き家問題への対策は、何も今に始まったことではない。
もうずいぶんと前から多くの自治体や民間レベルで「空き家バンク」が興隆してきた。しかし、あくまでもこれは「点での活動であり、これを線に、面にしていかなければ意味がない」と渡辺氏は説明する。

空き家バンクは全国各地で取組まれているが、どの自治体でも課題になっているのは、ビジネス化の難しさや具体的な活用方法にまで踏み込める相談員のスキル不足だった。LIFULLでも2年ほど前に全国版の「LIFULL HOME’S 空き家バンク」を立ち上げているが、これはあくまでも最初の一歩でしかなかったという。

「地域活性化に、“空き家”などの遊休不動産は役立てられるはずです。ただし、そのためには、ヒト・モノ・チエ・カネを備えた包括的な取り組みが必要になります。そこで、LIFULLでは、4つの仕組みを整えました」(渡辺氏)。

1つ目の「LIFULL HOME’S 空き家バンク」の取組みは前述した通りだ。全国の自治体に空き家バンクのための管理システムを提供することで、自治体ごとに異なっていた取得情報を共通データベース化し、横断的な検索サービスを実現しようとしている。すでに615自治体が参画し、今後目指すのは、日本の全自治体の参画である。

そのデータをもとに、空き家活用を収益化も含めて強化していくには、何よりも「ヒト」の力が不可欠となる。そこで2つ目は「人材育成マッチング」の仕組みを整備した。まずは、空き家にまつわる相談・課題解決能力を身につけるための「空き家の相談員育成カレッジ」を創設。基礎編と応用編に分けてプログラムを提供している。

3つ目の取組みとして、LIFULLでは、地域の遊休施設を活用したシェア型多拠点居住+ワークスペース事業「Living Anywhere Commons」の展開も本格的に進みだした。空き家プロデュースも含め、このプロジェクトでは空き家活用のノウハウやプロデュース実例が蓄積されていくため、培った内容を相談員の人材育成やマッチングなどに活かしていくスキームを備える。
さらに、空き家再生には、一般的な住宅ローンが使えないなど資金的な問題も色濃くあったため、4つ目の取組みとしてクラウドファンディング・「LIFULL地方創生ファンド」を創設。資金調達の支援策も明確に打ち出している。

「この4つの取り組みを包括的に展開することで、空き家が地域の魅力を磨く価値あるものとなり、地域創生が進むと考えています」(渡辺氏)

LIFULLが提供する空き家に関わる4つの取組みLIFULLが提供する空き家に関わる4つの取組み

空き家プロデュースのノウハウを講座で提供

こうした包括的な取組みを進めるLIFULLだが、「やはり一筋縄ではいかず、時間や労力がかかるのが人材育成」と渡辺氏は強調する。

そこでLIFULLでは、より「空き家の相談員育成カレッジ」の充実に力を入れようとしている。これまでも応用編として、空き家の維持・管理方法や、サブリース活用などを学ぶ講座を提供してきたが、2020年8月からは空き家の「ビジネス活用講座」を開講するのだ。

この講座での目玉は、空き家を活用した新たな事業モデル等を展開する⼀流の講師陣5名のテキストとと、その講師陣から実践的な空き家のビジネス活用ノウハウを集中的に学べることである。直近の8月に開催される講座では、地域参加型の空き家活用総合プロデュースを得意とするエンジョイワークス 代表取締役 福田和則氏が講師として参加する。

いったい、講義ではどのようなことが学べるのか? 
福田氏は「空き家活用をする上で必要不可欠な場づくりの在り方、コミュニティのにぎわいの創出の仕方など、我々が汗をかいて少しずつ学んできたことを提供したい」と語っている。

場づくりというのは、ハードの構築よりも時間がかかり、言ってしまえば泥臭い努力が必要だ。地道に手にしたノウハウを簡単に他社・他者に公開することに抵抗はないのだろうか?福田氏に尋ねると「1社でできることなんてどれほどのものでしょうか。一人でも多くの人にまちづくりに興味を持ってもらって、一緒に動いてもらわなければ、地方創生、まちづくりなんてできません」と即座に返ってくる。

エンジョイワークスは、行政や事業者任せにしない「まちづくりや家づくりのジブンゴト化」による豊かなライフスタイル実現をテーマに、空き家活用も含めた不動産仲介や建築設計から、まちづくりのプロデュース、開業の運営サポートなどを幅広く行っている。

大手デベロッパーがトップダウンでまちづくりを行っていくのだとしたら、「地域の人々とボトムアップで場づくりを行っていくのがエンジョイワークス」と福田氏は言う。だからこそまちづくりに欠かせない遊休不動産である空き家の活用にも向き合い続けている。

エンジョイワークスが手掛けた空き家活用事例『平野邸 Hayama』エンジョイワークスが手掛けた空き家活用事例『平野邸 Hayama』

地道に培った地域との共創の仕組みとは

一棟貸しの宿泊施設『平野邸 Hayama』も、エンジョイワークスが古い民家再生を手掛けたまちづくりの拠点のひとつだ。昭和初期の邸宅を宿泊ゾーンとスペース貸しゾーンに区切り、ワーケションの場や地域との交流拠点として運営している。

面白いのは、事業資金を「日本の暮らしをたのしむ、みんなの実家」として古民家宿づくりの参加型クラウドファンディングで集めたことだ。クラウドファンディングなんて珍しくない、といった声も聞こえるが、このクラファンは「寄付型」ではなく「投資型」のファンド運用をすることで最終的には金銭的リターンも見込んでいるのだ。

「空き家再生で課題になる資金調達を行うためクラウドファンディング事業『ハロー!RENOVATION』を立ち上げています。通常、寄付型のクラウドファンディングでは資金集めに成功しても、プロジェクトが続かないことも多く見受けられます。それではせっかく資金を提供してくれた人たちの気持ちが無駄になってしまいます。もちろん、地域の協力も台無しになる。だからこそ、投資型にしてきちんとリターンを明確化しました」(福田氏)

そのほかにも『ハロー!RENOVATION』では、地域を巻きこむ空き家を使ったプロジェクトの進め方、ノウハウの習得と、事業計画策定がつくれるように講義とシートを提供する「ハロリノノート」という事業者向け業務支援ツールも提供している。

「空き家活用に手を挙げてくれる方は、仲間ですよね。だからなんとしても、できる限りのサポートをしていきたい。ただし、やるからにはきちんとした覚悟を持っていただかなければなりません。そのために、事業計画などもしっかりと組めるようなサポートにも力を入れているのです」(福田氏)

おばあちゃんの家に遊びにきたような落ち着きを感じさせてくれる『平野邸 Hayama』。ラウンジ1(左)とラウンジ2(右上)はレンタルスペースとして活用される。ラウンジ2で企業研修の会議をしている間に、ラウンジ1で地元の人が料理教室を行う、といったことも起きうる。縁側から見える庭には地元の人が育ててくれている家庭菜園もある(右下)おばあちゃんの家に遊びにきたような落ち着きを感じさせてくれる『平野邸 Hayama』。ラウンジ1(左)とラウンジ2(右上)はレンタルスペースとして活用される。ラウンジ2で企業研修の会議をしている間に、ラウンジ1で地元の人が料理教室を行う、といったことも起きうる。縁側から見える庭には地元の人が育ててくれている家庭菜園もある(右下)

ワーケーション会場の隣では、地域の婦人会も活動

これまでの空き家活用は、NPOなど営利目的ではない形での運営が多かったため、その分地域の理解も得られやすかった。しかし、福田氏は「継続性を考えていく上で、今後の空き家活用はビジネスの視点が絶対に必要になる」と言う。

『平野邸 Hayama』は、事業性を持つが、一方で地域住民の利用料金を地域外利用者よりも安価に設定する。また単に宿泊施設としての事業性を目指しているだけでもない。あえて宿泊利用者には貸し切りにせず、昼間の時間は別の部屋で地域の婦人会の会合が行われたり、庭先の菜園の手入れに来てくれた地域の人と会話が交わされるなど、交流の場としての機能も重要視している。

こうした交流を起こすには、長年にわたってまちづくりに携わってきたエンジョイワークスの経験値がモノをいう。その貴重なノウハウを「ビジネス活用講座」で学べるという。

このほか、ビジネス活用講座では、定額住み放題の多拠点生活プラットフォーム「ADDress」を提供し、現在注目を集めている株式会社アドレス 代表取締役の佐別当隆志氏も講師として登壇する。

「アドレスさんは、今まさに注目されている仕組みを行っている事業会社としての視点を語っていただけるはずです。エンジョイワークスさんは、建築か、設計か、不動産事業なのかそんな切り分けにこだわらずに多機能で、いかに地域の方とwin-winでの“まちづくり”ができるか、真摯に取り組んでいらっしゃいます。火を噴かずに地域を巻き込んでいく、できるようでなかなかできない。そんな空き家活用の先駆者の方々に生で学ぶ機会を提供できることを有り難く感じています」(渡辺氏)

新型コロナは、明らかに暮らしや生き方を考えるきっかけになっただろう。LIFULLの空き家バンクへの登録数も劇的に増えているそうだ。
このタイミングをどう生かせるか? 地方の新たな可能性に取り組もうとしている方に、実践してきたオピニオンから学べる「ビジネス活用講座」に、ぜひ参加いただきたい。


■ビジネス活用講座
https://local.lifull.jp/ikusei/madoguchi/business/

■エンジョイワークス
https://enjoyworks.jp/

■ハロー!RENOVATION
https://hello-renovation.jp/

お話を伺った株式会社エンジョイワークス 代表取締役 福田和則氏。押入れを改修した『平野邸 Hayama』のキッチン、柱がその名残を伝えるお話を伺った株式会社エンジョイワークス 代表取締役 福田和則氏。押入れを改修した『平野邸 Hayama』のキッチン、柱がその名残を伝える

2020年 07月28日 11時05分