焼失の翌日に社屋再建を決意

再建されたようび新社屋。真ん中で胸に白い花をつけているのが大島正幸氏、奈緒子氏。その両側、眼鏡の男女がウッドプロの中本敬章氏、由佳里氏である再建されたようび新社屋。真ん中で胸に白い花をつけているのが大島正幸氏、奈緒子氏。その両側、眼鏡の男女がウッドプロの中本敬章氏、由佳里氏である

2016年1月23日の早朝、岡山県西粟倉村で火事が起きた。その火災で約7年前から土地の檜を使って家具を作っていた木工房「ようび」が全焼した。被害総額は8,000万円以上。職人中心の、社員10人に満たない会社、しかも初期投資が大きい製造業にとって普通は立ち上がれないくらいに大きな、大きすぎるダメージである。

しかし、火事の翌日、彼らは立ち上がることを決める。「今、世の中には自分は小さな存在で無力だと感じている人が多いと思う。だけど、そういう人たちが集まればそれは大きな力になる。微力は無力ではない、普通の人が集まったら普通じゃないことができる、再建に当たっては多くの人の力を集めて、それを証明したいと思いました」とようび代表の大島正幸氏。

大島氏の決意を後押ししたのは2009年の創業以来、ようびを支援してきた人たちだ。火災後にはようび復興を支援するプロジェクトが立ち上がったし、協力依頼に言下に応えた人も多数いた。たとえば広島県廿日市市で杉足場板を扱うウッドプロの中本敬章氏は大島氏の「足場板を分けてもらえませんか」という依頼に一言、「分かったよ」と応えた。そして、とてもたくさんの貴重な材料を分けてくれた。「ようびは檜、ウッドプロは杉。お互い針葉樹で家具を作る異端同士、同志だと思っていました。だから必要ならば協力しなければと思った。それだけです」。

そうした手助けが問題を課題に変えてくれたと大島氏。「問題というと他人事で、大変なことのように思いますが、課題と考えれば乗り越えるべきもの、自分のテーマになる。様々な人の助けを得ながら、社屋再建は解決可能な課題になりました」。

「やったことがないからできない」を変える

時間をかけ、技術を磨いて家具には向かないといわれた檜を素材にした家具作りに成功した「ようび」である。効率的に短時間で建つような社屋を再建したのでは、これまでやってきたことに背くと木で作ることになった。しかも、延べ床面積800m2というサイズの建物を専門家ではない多くの人たちが手で木材を刻んで組み立てるという、非常に面倒な、いや、考えられる限り最も面倒な方法で作ることにした。

当然、困難は多々あった。棟梁を引き受けてくれたのは、これまでの数年間、ようびとの仕事を重ねてきた人。人口1,470人(2018年5月1日現在)の西粟倉村だが、そこに大工は30人以上いる。けれども、加勢を相談した何人かには「やったことがないからできない」と断られたという。棟梁には「小さな無理を少しずつお願いしてきた、その積み重ねがあったから受けてくれたのだと思います」と建築担当の大島奈緒子氏。最終的には棟梁やこれまで一緒に仕事をしてきた人たちからの紹介で職人が集まったそうだ。

地方の小さな自治体内で大きな建築物を作る場合、自治体外の大手が手掛けるのが一般的だ。一部、現場の作業を地元の職人がやるとしても大半の予算は自治体外に流れる。だが、今回の再建工事に関わった職人の大半は地元の人たち。それによって経済的流出が防げたのみならず、大きなものでも地元でできるという意識が生まれたのではないかと奈緒子氏。

加えて、今回は経験豊富な職人にとっても見慣れない納まりや、厳しい工期、ボランティアとともに作業をするなど、これまでの仕事とは違うやり方の作業が必要だった。その結果として新しい技術や経験が地域に残ったのではないか。伝統的な技術も大事だが、新たなことに挑戦し、成し遂げたという自信を得ることもまた、未来を築くうえでは必要。その機会になったのではないかとも。地域にも役立つ再建だったのである。

ツギテプロジェクトとはこの建物の木を継いで作ることでもあり、人を繋ぐことでもあり、様々な意味が込められているツギテプロジェクトとはこの建物の木を継いで作ることでもあり、人を繋ぐことでもあり、様々な意味が込められている

知らない同士が協働する難しさを超える

大工と家具職人、一般の人などお互いを知らない同士が集まって作業をする難しさもあった。木を扱う点は共通するが、家具職人と大工では水平、垂直の基準の取り方すら違う。家具は小さな精度の狂いが納まりに影響するため、すべての部材を水平垂直に加工するが、建物はその場所で水平垂直になるように調整して施工する。机の脚に乗せる材、柱に乗せる材では重さが違う。だとしたら木の変形への対処も異なる。

加えて木は1本ずつ違う。同じ場所をビス止めするように指示されても、イレギュラーがある度にどうすべきか、コミュニケーションが必要になる。黙々と仕事をしてきた人たちからすると、今回の作業はこれまでと全く違うものだった。

だが、それは良い経験になったと大島氏。「お金を払って誰かにやってもらっていたら、無垢の木の家具職人がさしがねや水平器を使えるようになどならない」。自分でやったらからこそ身に付くものがあるのだ。

社員にとっても試練の歳月だった。火災が起きる直前に入社した人からすれば、ひたすら火災の片付けをすることが目指す家具作りに繋がっているのかが見えない。再建までの2年半に何人かが先が見えない不安に押し潰されるように辞めた。だが、ようび再建のための「ツギテプロジェクト」に3回参加、4回目に社員になった人など、入ってきた人たちもいる。一緒に困難に立ち向かうことは絆を深めることでもあるのだ。

それ以外にも幾多の課題があったはずだが、最も大変だった作業のひとつは90mm角の木材5500本から合計で2万6000以上の継手を人の手で削る作業だった。削っても、削っても終わらない。2017年の6月から刻みはじめ、10月半ばには基礎工事、その後の2ヶ月半は刻んだものを組立て……。同じ作業が延々と続いたのである。

完成パーティーの日のようび社員一同。「夢を諦めない人が残りました」と大島氏。試練は人を強くするのだろう完成パーティーの日のようび社員一同。「夢を諦めない人が残りました」と大島氏。試練は人を強くするのだろう

新しいのに歴史を感じる、穏やかな空間

2階食堂からの風景と水田側から見た食堂。ここに青々とした稲あるいは黄色く実った稲を想像してみたらどうだろう。ここで食事できる人は幸せと思えないだろうか2階食堂からの風景と水田側から見た食堂。ここに青々とした稲あるいは黄色く実った稲を想像してみたらどうだろう。ここで食事できる人は幸せと思えないだろうか

使ったのは地域の杉材。杉は柔らかく、女性や子どものように非力な人にも加工できる素材だからだという。鉄は重く、専門の工場でしか扱えないし、欅や楢も素人には使いにくい。加えて杉は日本の山には豊富にある。それを大量に刻んで組み合わせて生まれた空間は圧倒的だ。最初に建物内に入った時、なぜか、寺院あるいは教会のようだと思った。天井が高く、仕切られていない大空間であるだけでなく、新しく作られたのに昔からあるような、人を包み込むような雰囲気が似ていると思ったのだ。これが木という素材の力だろうか。

ちなみに外壁には東本願寺のご修復で5~10年使った合板足場板が使われた。これも新しいけれど古い品で、それがあってか水田の中の建物としては奇抜に思われる形ながら、少しも違和感はない。以前からそこにあったと言われたら信じる人もいるだろう。

建物内では2階に設けられた食堂に目を見張った。ようびでは昼食は社内で一緒に囲むそうで、そのための空間である。ガラス張りの2階からは建物を囲むように広がる水田、その中を緩やかにカーブしながら山に向かう道が望め、取り立てて何があるというわけではないものの、穏やかな美しさは見ていて飽きない。強風、土砂降りの日の水田の波紋すらアートだ。「ここの風景が美しいと思えるなら、それは本当はどこの地元にもあるものなんですよ、それに気づいて欲しくて」と奈緒子氏。確かにそうだと思う一方で、地元の、いつもの風景には慣れてしまうのはなぜだろうとも思う。美は見方の問題でもあるのだろう。

長く愛される家具を作る、作り続ける

完成パーティーの様子。どれだけ愛されてきた会社かがよく分かる。そしてショールーム内からの風景。良い空間、良い家具に風景。理想の住環境である完成パーティーの様子。どれだけ愛されてきた会社かがよく分かる。そしてショールーム内からの風景。良い空間、良い家具に風景。理想の住環境である

2017年の工事開始以降、延べで400人以上が現地で作業を手伝い、応援メッセージやカンパ、食料品などを送ってきた人は1,000人以上。1ヶ月半も泊まりこんだ人もいたそうで、そうした支援が結実、ようび新社屋は2018年5月に完成。関係者を招いてのお披露目が行われた。

焼失から完成までには苦しいことも多かったはずだが、大島氏は「この経験がようびの家具を良くしてくれると思う」と言う。「ずっと愛着をデザインすると言って来ましたが、これからのことを考え、試行錯誤する中で愛着を生むのは素材だけではないという結論に至りました。良い素材で作られた品でも捨てられるモノがあり、どうしようもない素材で作られていても捨てられないモノがある。その違いは、捨てられないモノにある、人の手が生み出すゆらぎです。余白、気配と言っても良い、愛せる余地があるのです」。

ゆらぎは人の顔と同じでもある。いくら整っていたとしても全く同じ顔が量産されたとしたらどうだろう、それを愛せるだろうか。

「家具についてよく、長持ちしますか?と聞かれます。しかし、ペットについて同じことを聞く人はいない。ペットは一頭ずつ異なるし、愛情を持って飼養すれば長生きすることを知っているからです。モノだって本当は同じです。ゆらぎに愛情を注ぎ、大事にすれば長持ちする。これからもそういう家具を作っていこうと思います」。

家具は住宅同様、モノによっては長く使い続けられる、住まいの空間を左右する品である。ようび再興が日本の住空間をより豊かにしてくれることを楽しみにしたい。

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