イメージは良いけれど渋滞が多い、丘陵のまちの将来に不安

青葉台駅前。ロータリーからは各方面行きのバスが出ている青葉台駅前。ロータリーからは各方面行きのバスが出ている

青葉台駅(横浜市青葉区)といえば、人気の高い東急田園都市線の中でもたまプラーザ駅と並んで屈指の人気を誇る駅である。乗降客数も田園都市線の駅のうちでは長津田駅に次いで第6位、他路線との接続がない東急電鉄の単独駅としてはもっとも多い(いずれも2016年)。駅前を歩いてみる限り、人は多く、賑わっているように思われるが、将来のこの町に危機感を抱いている人たちがいる。2017年10月に設立された一般社団法人「青葉台工務店」のメンバー4人である。

東急田園都市線沿線は1980年代にテレビドラマの舞台となり、日本のヨーロッパ、高級住宅街ともてはやされた。その名残で今も知名度はあるものの、元々は丘陵を切り開いた町で坂と階段が多く、駅から離れたバス便物件が中心。同じ沿線でもたまプラーザやあざみ野は道路が整備されており、バスでの移動もスムーズだが、青葉台は道が細くて渋滞が常態となっている。しかも、たまプラーザより5駅も遠い。今後、人口減少その他で地価がどんと下がった時に選ばれ続けるかどうか。4人はそこに懸念を抱いた。

過去にはあざみ野以遠の生き残りは難しいと書かれた記事もあった。そうならないために町の工務店としてどうすれば良いか。4人は家づくりを通じて風景を良くし、選ばれる町づくりに貢献したいと考えている。

わざわざ歩きたくなる通りのお手本が青葉台にあった

自然素材をテーマにした雑誌主催でこの通りを歩くイベントなども開催されているという、通称小井田通り、入口近くの風景自然素材をテーマにした雑誌主催でこの通りを歩くイベントなども開催されているという、通称小井田通り、入口近くの風景

そのお手本として挙がったのが小井田通りである。青葉台駅から車で数分ほどの場所にある全長100mほどの通りで、通り沿いには小住宅を得意とした建築家・小井田康和氏が建てた住宅が自邸も含めて7軒建てられている。同氏事務所のホームページによると、元々は雑木林に囲まれた、特に何があるわけではない土地だったが、一番北にある土地に家を建てることになる本間さんが地主に頼んだという。「この通りだけは周辺で開発を進めている大手不動産会社には売らないで欲しい、20年の間には必ずいい通りを作るからと」。

その後、本間さんは知人を介して小井田氏と出会い、ヒューマンスケールのやさしい通りを作ろうと意気投合。1981年に本間さんの家が建って以降、順に本間さんの友人、小井田氏自邸と家が建っていく。共通するのは通りに対して高い塀や囲いが一切なく、家と通りを隔てているのは植栽ということ。緑の奥に住宅が佇むという風情なのである。小井田氏は住宅だけでなく通り全体を考えてアプローチ、植栽、照明にまで配慮した家作りをされていたのだろう。歩いていて実に気持ちの良い空間になっており、地元の人にはおなじみの散歩コースという。

青葉台工務店のメンバーの一人、桃山建設・川岸憲一氏はこの通りが子どもの頃から大好きだったそうで、2012年に小井田氏が建てたうちの一軒を購入。リノベーションをして住んでいる。

「全国共通の、工場製ののっぺりした住宅で作られる風景ではなく、武蔵野の風土を活かした木の温もりのある、歩いて楽しい風景。それが目指すものです」(川岸氏)

地元で長く家を見守る、そんな仕事へ転換を

設立記念パーティーの様子。鏡割りをする、左から大澤氏、川岸氏、黒羽氏、元井氏。会場は満員御礼の状態で、新しい動きへの期待が読み取れた設立記念パーティーの様子。鏡割りをする、左から大澤氏、川岸氏、黒羽氏、元井氏。会場は満員御礼の状態で、新しい動きへの期待が読み取れた

さて、「青葉台工務店」について説明しよう。立ち上げたのは地元で2代、3代続く工務店を中心にした4社。親の代だったらライバル同士で手を組むなんてとんでもないと言われただろうが、今はそんなことを言っている時代ではない。

まず、一番年かさの理事長、竹駒工務店・黒羽啓太郎氏は創業48年の2代目で大工修行から始め、業務を広げてきた人。理事(以下全員)の富士ソーラーハウスの大澤正美氏は創業53年目の3代目で、地域活動、商店街活動にも熱心に取り組んできた。桃山建設・川岸氏は創業64年目の3代目で本社は世田谷区にあるものの、地元育ちで前述の通り、小井田通りに住んでいる。もう一人の古今・元井史郎氏のみは親会社の建設会社設立に当たって声を掛けられた人だが、全員青葉台にオフィスを構えているという点は共通している。元井氏を除く3人は生まれ育ちも青葉台だ。

だが、青葉台で仕事をしているかといえば、それは違う。

「田園都市線沿線の中でも青葉台周辺は他駅に比べ、工務店やリフォーム店等がとても多い地域です。でも、仕事は地元より他の地域のほうが多いのが現実。地方に行くと地域密着で地元の仕事をし、建てた家のメンテナンスも含めて長く付き合うのが一般的ですが、首都圏は広すぎ、工務店は多すぎるのでしょう、ほとんどの工務店が地域に根ざせていません。それをなんとかして変えたい、地元で仕事をしていきたいというのも青葉台工務店を立ち上げた理由のひとつです」(大澤氏)。

集まることで情報発信力を強め、選択肢を増やす

1社では乏しい工務店の情報発信力を集まることで強めて行きたいという意図もある。

私達がモノを買う時、何を選ぶかは頭の中に蓄積された情報量に左右されることが多い。毎日、テレビコマーシャルなどで連呼されている商品と全く広告されていない商品が並んでいたら、多くの人はよく見慣れている商品を手にするだろう。そう考えると、情報発信力で劣る地元の工務店が選ばれるためにはハードルがある。それを乗り越えるため、地域限定で、複数社でまとまって情報を発信することで少しでも認知度を上げたいというのである。

「工務店で家を建てるのは決して安くはありません。収益を高めることを目的に価格にだけ着目してアパートを建てるのには向いていないかもしれませんが、きちんとした素材を使ったこだわりの住まいを建てるなら、納得いただけるものを作る自信はあり、そうした住宅を青葉台で増やしていきたいと考えています。実際、建設後に内覧会を開くとハウスメーカーで建てた人から『建てる前に知っていれば』とよく言われます。そう言われないよう、認知度を上げ、最初から比較検討の選択肢のひとつに加えてもらえるようにしたいと思っています」(川岸氏)

活動範囲は青葉台からバス20分圏を想定。具体的な活動としては4社で共同して見学会や情報発信を行う、現場で自社に加え、青葉台工務店のロゴの入ったシートを使うなどに加え、地域のイベントなどにも青葉台工務店として参加、アピールしていく計画だという。まずは2017年11月23日に開催される「あおばを食べる収穫祭@藤が丘駅前公園」に出店する計画だ。

左上から時計周りに桃山建設、富士ソーラーハウス、古今、竹駒工務店がそれぞれ手掛けた住宅。丁寧な作りが共通だ左上から時計周りに桃山建設、富士ソーラーハウス、古今、竹駒工務店がそれぞれ手掛けた住宅。丁寧な作りが共通だ

分割できない宅地は将来にプラスか、マイナスか

活動のベースとなっているのは川岸氏の実家を利用したモデルハウス「BADAI BASE」。川岸氏は世田谷の本社とは別にここに拠点を作ったことで他の3人と知り合い、小規模な工務店が自社だけで活動する限界を感じて協働を呼びかけた。青葉台工務店の設立パーティー、取材はともにここで行われたのだが、広々とした庭のある一戸建てはかつて憧れの的として見られた青葉台のイメージそのものである。

だが、問題があるという。かつて分譲された土地は多くが150~180m2。今の感覚で言えばかなり広く、徒歩圏で買おうとすると土地だけで4,000万円後半から6,000万円ほどになる。これでは買える層は限られる。特に始めて家を買う層には難しい。だが、この地域では土地を125m2以下に分割することはできない。とすると、売りたい人がいても分割して買いやすくして売るという手はないのだ。周辺地域の丘陵も造成され尽くされており、新たに造成するのは難しい。つまり、ここに住みたいと思う人がいて、空いている土地があったとしても、入ってこられない状態になっているのである。

もちろん、土地の細分化が良いとは思わない。しかし、このままでは新しく移り住む人は非常に限られることになる。それが町の将来にどう影響するか。短期にではなく、中長期的にこの町をどうしていくか、青葉台工務店が真剣に考えているように、周囲の人たちも考え始めなくてはいけないタイミングではないだろうか。

一般社団法人青葉台工務店
https://www.aobadai-k.com/

活動拠点となっているBADAAI BASE。広く、気持ちの良い空間で、建てるならこんな家をと思ってしまう活動拠点となっているBADAAI BASE。広く、気持ちの良い空間で、建てるならこんな家をと思ってしまう

2017年 11月19日 11時00分