42万人都市ながら市域の約7割は森林の愛知県豊田市

一口にディーラーと言ってもいろいろだが、クルマの街・ものづくりの街である愛知県豊田市には、この地域ならではのディーラーがある。
とは言っても、カーディーラーではない。木材のディーラー、その名も【ウッディーラー豊田】だ。

約10年前のいわゆる「平成の大合併」で、岐阜県と長野県に隣接するまで市域を大きく広げた豊田市は、山間部が大幅に増え、人口42万人都市ながら市域の約7割が森林を占める「森林都市」となった。市内の森林は6万3,000ヘクタールにも及び、その6割はスギとヒノキを主とする人工林。これにより、2007年には『豊田市100年の森づくり構想』を掲げて森林整備に取り組んできたという。

そんな同市が、ある大きな出来事に直面する。甚大な被害に見舞われた2000年9月の東海豪雨だ。
集中豪雨で流された倒木が、同地域の水瓶である矢作ダムを埋め尽くし、街を流れる川が決壊寸前まで増水。それを機に山の間伐を進めたものの、間引き後の木はほとんどが捨てられた。

「豊かな自然の恵みであり、市の財産でもある木を無駄にするのはモッタイナイ!どうにか活用できないだろうか?」
そんな想いを発端として、木を「使いたい」「提供したい」を繋げようと、木材の活かし方や使い先のコーディネートを目的に活動しだしたのが【ウッディーラー豊田】だ。

市街地再開発事業の一つとして、2017年11月下旬に駅直結型の再開発ビル『KiTARA(キタラ)』が開業。豊田スタジアムに繋がる豊田市駅東側の駅前通りは、約10メートル幅の歩道に景観配慮の空間デザインがされ、市産木材も活かされている市街地再開発事業の一つとして、2017年11月下旬に駅直結型の再開発ビル『KiTARA(キタラ)』が開業。豊田スタジアムに繋がる豊田市駅東側の駅前通りは、約10メートル幅の歩道に景観配慮の空間デザインがされ、市産木材も活かされている

元・大工の親方が「木材コーディネーター」として奮起!

木材加工・流通・建築工事請負・製造販売を行う向井木材株式会社企画室長であり、木材コーディネーターの肩書を持つ【ウッディーラー豊田】会長・樋口真明さん/木材コーディネートを行った豊田市駅前のまちの案内所&ソフトクリーム店『エヌロク』ウッドデッキにて木材加工・流通・建築工事請負・製造販売を行う向井木材株式会社企画室長であり、木材コーディネーターの肩書を持つ【ウッディーラー豊田】会長・樋口真明さん/木材コーディネートを行った豊田市駅前のまちの案内所&ソフトクリーム店『エヌロク』ウッドデッキにて

豊田市産木材のコーディネート活動を呼びかけたのは、【ウッディーラー豊田】会長の樋口真明さん。
木材コーディネーターの肩書きを持つ樋口さんは、地元で長年続く木材商社・向井木材株式会社での勤務を経て独立。大工の親方として13年間建築や木材にどっぷりと関わってきた。

「大工をしていた時、スウェーデンに視察に行く機会がありました。
北欧では木材を大量に使うんです。製材できる70年以上の木を1日に5,000本も。
だから、木を使うスピードに、木の育つスピードが追い付いていない。飛行機上空から見た森林もハゲていたりするんですよ!
そうして木がなくなってしまえば、また別の地でさらに木を切る、という流れです。
でも、それは違うのでは?それではいけないのでは?そう思ったんですよね。」(樋口さん)

「北欧の山を見て、日本の山を考えた」という樋口さんだが、北欧のように木を切りすぎ・使いすぎて“山から木がなくなる”ことが心配なのではなく、日本の場合は、そもそも“山の木を使っていない”ことに危険を感じたのだと話す。

「育った木・切った木を“放ったらかし”にすることなく使ってもらえるように調べ考えた中で、まずは“お互いの顔が見える関係づくり”が大切、との仮説を立てました。都市部と農村部、地域や人の繋がりを見えるようにして『木を使いたい』と『木を届けたい』を繋げながら距離を近づけていこうと。」(樋口さん)

その熱い想いから大工を辞め、改めて木と向き合うために以前勤めていた向井木材に出戻ることにしたのが6年前。その2年後には、人と木を繋げるべく“顔の見える流通”を進めるために、会社の同意を得て木材コーディネート活動を進めていった。

情報の壁を薄くし、一歩ずつ。人と木をつなげるプロジェクト

豊田市産木材の流通をデザインした例には、三角スツール(写真)や、ウッドデザイン賞2016を受賞したバイクラックの製作などがある。2016年には市内の小学校とこども園の合築を任され、原木ベースで3000m2の市産材を使用。樋口さんは元親方の腕を活かして監督・指揮も行ったそう豊田市産木材の流通をデザインした例には、三角スツール(写真)や、ウッドデザイン賞2016を受賞したバイクラックの製作などがある。2016年には市内の小学校とこども園の合築を任され、原木ベースで3000m2の市産材を使用。樋口さんは元親方の腕を活かして監督・指揮も行ったそう

人と木を繋げるべく4年前にスタートした“個人発”のこの活動だが、抱える課題に“情報の壁”があった。

「木材流通は商売特性もあって、買う側から売る側に適正な情報を伝えない気質があるように感じる」と樋口さん。また、国産木材価格の低廉化の影響を受け、地域の林業・製材業は立ち行かなくなり、山主が自分の山に情熱を注ぎ込めないこともあり、その“情報の分断”が地域材の衰退を招いていたと話す。

売り手と買い手の状況や想いが互いに分かりづらく見えづらいゆえに「どんな木を、どう使って、それが幾らでできるのか」が双方になかなか伝わらないジレンマがあったそうだ。しかし、情熱は人を呼ぶもの。

一級建築士やデザイナー、家具職人、カメラマンなどが志を共にするように集まり、各々の得意分野で知識や腕、人脈を持ち寄ることで活動が加速。提携・協働で関わる人も増えていった。
そして遂には、豊田市産木材を利用して伐採から製材・加工・設計・販売までを行って「地元の木を切る→使う→作る→提供する」までの一連を有志たちと実現することになっていく。
併せて、豊田市の木と親しむワークショップやイベント、「木育(もくいく)」や森を知ることをテーマとした講演会、伐採から製材までを行う1泊2日の林業ツアーなど様々に開催しながら、地域材拡大のプロジェクトは進んだ。

また“流通”では、made in TOYOTA/born in TOYOTAにこだわった。
ものづくりや手作りを行う部分と、品質・コスト・安定性を担う部分の両方にブランディングが不可欠と考え、地域の職人たちが、100%豊田市産の木から作り上げるオーガニックな木材『クラフトウッド』と、近隣エリアから集めた木材をブレンドして市産材のブレンド率も開示して豊田市内で製材・加工を行う一般建築用材『メーカーウッド』というの2つの木材をブランド化。ブランドマネジメントや情報発信を行いながら、新たな木材流通を目指している。

made in TOYOTA/born in TOYOTA を徹底。得意分野を持つ有志が集まり市産木材活用が拡がる

豊田市駅界隈の空き家をリノベーションし、ベーカリー・カフェ・地元ロックバンドの活動拠点がシェアする施設『CONTENTS nishimachi(コンテンツニシマチ)』や、豊田市駅のバス待合所でも豊田市産材がふんだんに使われている豊田市駅界隈の空き家をリノベーションし、ベーカリー・カフェ・地元ロックバンドの活動拠点がシェアする施設『CONTENTS nishimachi(コンテンツニシマチ)』や、豊田市駅のバス待合所でも豊田市産材がふんだんに使われている

人の目に触れる事例&実績を増やして地域資源活用を加速!

まちづくり事例の一つとして、2017年冬には駅前通りに豊田市産材で製作したベンチや花壇が置かれた。12cm角のスギ無垢材を屋外ベンチに使用する大胆な試みが可能なのも、ものづくりと林業・製材業が息づくこの街だからこそまちづくり事例の一つとして、2017年冬には駅前通りに豊田市産材で製作したベンチや花壇が置かれた。12cm角のスギ無垢材を屋外ベンチに使用する大胆な試みが可能なのも、ものづくりと林業・製材業が息づくこの街だからこそ

こうした活動が広がりを見せ、その存在が知られると行政からも声が掛かるようになる。
豊田市からの依頼や協働事業も増える中で、1次産業には目を向けているものの、地域材拡大を行うための「1.5次産業」となる部分が抜けていることが見え、市有地に製材工場も設立された。2018年夏に試験稼働を行い、同年度中に本格始動をする予定という。

駅前再開発をはじめ、まちづくりに採用された市産木材作品や施設など、人の目に触れる取組みが増えたことで、次の事例を生み出しやすく、活動を大きく進めているのではないだろうか。
プロジェクトを起ち上げ、ビジョンや夢を相手に伝えても、絵空事や机上の空論として受け止められるケースもある。だが、実際に目に見えるモノであったり、成功事例や評価を得た実績があれば、それを元に次のアイデアやオファーも生まれやすい。0から1を生む難しさを越えれば、1から数を増やす方がスムーズだったりするものだと感じる。

市内に限らず、名古屋にある有名百貨店からの依頼で木のイベントを行ったり、各地で交流を兼ねたセミナーの開催、林業ツアーを行うなど【ウッディーラー豊田】の活動に賛同する人は増え、会員は50社にも上るという。今後、人と木を繋げる流通拡大のため、来年度予定で社団法人化して事業を加速していくそうだ。

「木材を『使いたい』『提供したい』の双方の顔が見えるように人と木をつなげる。そのためには木材をコーディネートすることが必要だと感じています。
それには知識も経験も要ります。地域木材を流通するためには、モノに“情報”という付加価値をつけることが必要。私たちは、その情報を届けるべく、“木材の翻訳家”であるべきだと思っています。」(樋口さん)

「地域材の活用と言っても、無理に使うのは止めるべきだし、身の丈に合った事例をコツコツと進めていきたい」と話す樋口さん。個人から始まった「地域の木を活かしたい!」の想いが、有志を呼び、行政を引き寄せ、賛同者を集め拡がっているこの活動。情報を大切にした流通に着目したモデルケースは、他地域からも生まれるかもしれない。

■ウッディーラー豊田 http://woodealer.jp/ 

2018年 03月10日 11時00分