自宅を開放し、観光客を呼び込む「おおさわ縁側カフェ」

ちょっとお茶しにカフェへ―。
といっても筆者がやってきたのは静岡でも奥のほう、“オクシズ(奥静)”とよばれるエリアにある『おおさわ縁側カフェ』である。
田舎に住む人らが自宅の縁側を開放し、お茶とお茶請けでおもてなしをしてくれるという。街おこしの一環として始めたというが、どんな取り組みなのか取材してきた。

JR静岡駅から県道を走り、山の中へ。途中、細い山道で不安になりながらも車を走らせること約50分。縁側カフェののぼりを発見! ここでマップをもらい、この日オープンしているお宅を教えてもらう。
道沿いに車を止め、斜面をあがってまず一件目の縁側へお邪魔した。
迎えてくれたのは、『おおさわ縁側カフェ』をとりまとめている内野昌樹さん。内野さんのお宅は築200年という立派な古民家である。その縁側にはすでに先客が数組、のんびりとお茶を楽しんでいた。

内野さん宅のこの日のお茶請けは
◆きび餅
◆いもがらの煮物
◆漬けもの
すべて自家製である。縁側カフェの日は家族みんなで早起きをして、支度にとりかかるのだとか。
「毎回大変ですよ。でもいろんな場所からわざわざ来てくれるのでそれが村の人たちの励みにもなっていると思いますね」と内野さん。

大沢地区でカフェが開かれるのは毎月第2、第4日曜日。現在は集落の23世帯のうち18世帯が参加。それぞれの家の都合に合わせて毎回12、3世帯はカフェとして自宅の縁側を開放している。各家で300円の“お休み料”を支払い、淹れたての美味しいお茶と、お茶請けをいただけるのだ。

内野昌樹さん(写真左上)のお宅では、縁側から奥に続く畳敷きの2間、そして玄関から続く土間にもテーブルをおいて来訪者を迎えている。常連だという斉藤威(たけし)さん夫婦と内野さんのお母様(写真左下)は、野菜の下ごしらえの方法を聞いたりお茶請けのお菓子の話に花が咲いていた内野昌樹さん(写真左上)のお宅では、縁側から奥に続く畳敷きの2間、そして玄関から続く土間にもテーブルをおいて来訪者を迎えている。常連だという斉藤威(たけし)さん夫婦と内野さんのお母様(写真左下)は、野菜の下ごしらえの方法を聞いたりお茶請けのお菓子の話に花が咲いていた

総人口90人の集落に500人もの人が訪れることも!

ここ大沢は、安倍川の支流である西河内川上流部に位置し、全方位を山と茶畑に囲まれた戸数23戸の小さな集落。お茶の生産には特に力を入れており、総面積は9ヘクタールにもおよぶ茶園があり、集落のほとんどの世帯でお茶を作っているそう。しかし、なかなかお茶が売れなくなり、値段も下がる一方、なんとか打開策はないかと地元の茶業研究会でも頭を悩ませていた。そこで、市の地域茶業活性化推進事業の一環として縁側カフェをスタートさせたという。

2013年、縁側カフェのスタートと同時に大沢の人々を映したドキュメンタリー映画「ちいさな、あかり」(監督:大野隆介)が公開された。この映画が関東で上映されたことをきっかけに、大沢の知名度があがり縁側カフェに訪れる人は約4倍にもなったとか。取材に訪れた日も静岡以外だと関東ナンバーの車が多く見受けられた。
スタートから今年で4年目。1年目は2,800人、2年目は4,300人、3年目は4,900人と、年を重ねるごとに来訪者が増えて、内野さんによると4年目の今年は5000人を優に超える勢いだという。多い日は1日で500人以上が訪れ、村じゅう来訪者であふれるということもあるのだそう。大沢の総人口90余人に対して500人を超える訪問客が訪れ、村じゅうが観光客といった風景になることも多いのだそう。

集落全体を見渡せる大沢公民館からは、山間の大自然と茶園が見渡せる集落全体を見渡せる大沢公民館からは、山間の大自然と茶園が見渡せる

訪れる側を癒してくれるだけでなく、集落の人たちにも変化が

縁側カフェを訪れるのは4回目だという斉藤威(たけし)さん夫婦は、
「今の時代、なかなかこうしてのんびりお茶を飲むっていうことをしなくなりましたよね。でもここには、そういうゆったりした空間と時間が流れているんですよ」。何度来ても帰り際には、「また行きたい」という気持ちになるそう。

中国からの留学生で筑波大学院生のハク・ブンさんも大沢の縁側に魅せられた一人。
「縁側というのは日本にしかありません。日本独得の家の造りと地域の人の生活を研究して、論文などの参考にしたいです」と話していた。すでに15回ほど大沢の縁側カフェに訪れているそうで、集落の人たちとも顔なじみの様子だった。

「名物ばあちゃんがあっちにいるよ」と内野さんに教えてもらって行った先は白鳥松男さん宅。縁側に座って豪快に笑うおばあちゃんこそ、大沢の名物ばあちゃん・白鳥たにさんだ。御年86歳とは思えないほど元気で、小さい子ども連れの家族が訪れると一緒に紙飛行機を飛ばしたり、膝の上に抱いたりとおもてなし上手。
「あんたはどっから来なさったの?まぁ、そんな遠くからよく来てくださった。こんなばばしかおらんのに!カカカ!!!」
と豪快な笑いとともに冗談を飛ばすたにさん。一緒にいるだけでなんだか元気がもらえるから不思議だ。

訪れる側を癒してくれるだけでなく、集落の人たちにも変化があったという。
たにさん宅のお嫁さんは「おばあちゃんも、縁側カフェに来てくださる方から元気をもらっていると思いますよ。前よりずっと元気ですもの。知らない街のこととか、教えてもらえて喜んでいます」と、柔らかな笑顔で話してくれた。

また、集落の奥のほうにある内野咲夫さん宅の奥様・秋子さんは
「昼は郵便局の仕事をして、農業もやって、休みの日はこうして縁側カフェをやってましてね。大変だなと思うことも多いんですけど、いろんなところからお客さんが来てくださるので、そのたびにこちらも元気になっているんです。ほんとに何もないところなんですよ。でもこうしてみなさんがいいところだっていってくれて、なんだか自信がついたような気がします」と話してくれた。

『おおさわ縁側カフェ』の名物おばあちゃん・白鳥たにさん。お客として訪れた夫婦の子どももおばあちゃんが楽しくおもてなししてくれる。田舎のおばあちゃんの家に遊びに来た孫、といった感じで、見ているこっちも笑顔になる『おおさわ縁側カフェ』の名物おばあちゃん・白鳥たにさん。お客として訪れた夫婦の子どももおばあちゃんが楽しくおもてなししてくれる。田舎のおばあちゃんの家に遊びに来た孫、といった感じで、見ているこっちも笑顔になる

ピザやスイーツ、自慢の料理でおもてなし

どのお宅の縁側にも常時2、3組のお客がいるほどにぎわっていて、隣に座ると「何軒目ですか?」「どこからいらっしゃったんですか?」など、お客同士も気軽に話しかけている。集落を歩いているときにも何組かとすれ違う。小さい集落で同じ体験をシェアしようと集まっている人同士だからか、気軽に挨拶したり「あそこはスイーツ出してましたよ」とか「ピザを出してるお宅はもう行きました?」なんていう会話が自然と交わされる。大自然の中にいるからか、大沢の人たちがそうさせるのか、来訪者たちはみな笑顔だ。

8軒の家をまわって8つのスタンプをもらうと大沢のお茶がプレゼントされるスタンプラリーも行っている。「一日で8軒まわる人もいるんですよ」と内野さん。筆者もはりきって回ってみようと思ったが、それぞれのお宅でかなりボリュームのあるお茶請けをいただいたおかげで、4軒がせいいっぱい。取材前は、「お昼ごはんを食べるところがなさそうだから、何か買っていったほうがいいだろうか」と心配していたのだが、お茶請けだけでお腹がいっぱいになってしまった。

もちろん、お茶については言うまでもなく美味しい。さらに、お茶に疎い筆者でも味の違いがわかるほど、各家でだされるお茶はそれぞれに味が違っていたのが印象的だった。甘みが残るお茶、引き締まった味のお茶、各家でお茶を摘み、生産しているのでそれぞれのこだわりの味を比べてみるのも楽しい。

お手製のピザ窯で焼いた直径15㎝ほどのピザが人気のお宅。ぞれぞれのお宅で、季節の野菜を使った天ぷらを作ってくれたり、自家製の餡子を包んだよもぎ餅など、素朴だけれど手間暇かけたメニューでおもてなしをしてくれるお手製のピザ窯で焼いた直径15㎝ほどのピザが人気のお宅。ぞれぞれのお宅で、季節の野菜を使った天ぷらを作ってくれたり、自家製の餡子を包んだよもぎ餅など、素朴だけれど手間暇かけたメニューでおもてなしをしてくれる

縁側が紡ぎだす古き良き日本のふるさと

日本家屋特有の住宅の要素である縁側。深い軒があることで夏の強い陽射しを防いだり、冬には陽射しを室内に取り込んで暖かくしてくれる。それも最近では、縁側のある家をあまり見かけなくなった。家を建てる際に、縁側を取り入れるという人も少ないのではないだろうか。今の市街地の住宅事情を鑑みると、それは贅沢なものかもしれない。

縁側でスイカを食べて庭に種を飛ばすとか、縁側で日向ぼっこをしながらお茶をすするというのんびりした風景が懐かしくも感じる。
そんな昔ながらの日本のよさを思い出させてくれる大沢の縁側は、大自然の中で癒しを求める人たちと集落の人の「縁」を結ぶ場所でもあるように思えた。

「おかえり」。そんな風に迎えてくれる優しいふるさと。
ここには都会のカフェでは味わえない幸福の“味”がある、そんな気がした。


縁側カフェは毎月第2・4日曜
10:00~15:00
(11月~3月は14:00まで)
http://tsunagari-osawa.com/engawa_cafe

築200年という内野さんのお宅の縁側は、暖かい陽だまりのような風景が広がっていた築200年という内野さんのお宅の縁側は、暖かい陽だまりのような風景が広がっていた

2016年 10月17日 11時05分