「日ノ出町」駅~「黄金町」駅の高架下に新たなにぎわいの拠点が誕生

東京日本橋の一角にある『BETTARA STAND日本橋』。
神社の隣にあった駐車場を利用し、2年間の期間限定イベントスペースとして2016年にオープン。移動できる家・タイニーハウスやDIYで作った屋台を使い、 “街と一緒に創る・コミュニティビルド”をテーマにまちづくりに関する実験的な取り組みをしてきた場所だ。
残念ながらここは、暫定利用期間が終了し2018年3月をもって閉店となったが、ここで培ったノウハウや人とのつながりを基に新しい複合施設を展開するという。

新施設を展開するのは、世界中のタイニーハウスやモバイルハウスに関するメディア運営や企画開発を手掛けるYADOKARI株式会社。『BETTARA STAND日本橋』の仕掛け人でもある。

施設ができるのは京浜急行電鉄(以下京急電鉄)「日ノ出町」駅~「黄金町」駅の高架下。横浜市と地域住民らが一体となり、アートのまちへの再生を果たしたエリアだ。
YADOKARIは京急電鉄とともに、ここに日本初の高架下タイニーハウスホステルを有する『Tinys Yokohama Hinodecho(タイニーズ 横浜日ノ出町)』をオープンした。
タイニーハウスとは、おおむね20m2以内、1,000万円以内で手に入れられる移動可能な小さな家のこと。ローンを抱えない小さな暮らしとして、アメリカではリーマンショックをきっかけにムーブメントが起こり、日本では2011年の東日本大震災以降、注目を集めている住まい方のひとつだ。
この小さな移動式の家を高架下に設置し、まちのにぎわい創出を目指すという。その内容について取材した。

写真左:今回の取材に応じてくれたYADOKARIの相馬さん。写真右:『BETTARA STAND日本橋』は、年間300本以上のイベントを開催。地元の人たちだけでなく普段は日本橋に訪れない人たちや、地方の地域おこし協力隊のメンバーなど多くの人との交流の拠点となっていた写真左:今回の取材に応じてくれたYADOKARIの相馬さん。写真右:『BETTARA STAND日本橋』は、年間300本以上のイベントを開催。地元の人たちだけでなく普段は日本橋に訪れない人たちや、地方の地域おこし協力隊のメンバーなど多くの人との交流の拠点となっていた

宿泊・イベント・アクティビティの相乗効果で人が集まる場所へ

「車輪がついていて、移動できることで『BETTARA STAND日本橋』のような暫定利用もでき、コンパクトな形状は高架下などの遊休地の活用にも適しています」と話すのは、YADOKARIプロデュース事業部プロデューサーでありTINYHOUSE ORCHESTRA事業部部長の相馬由季さん。

『Tinys Yokohama Hinodecho』は、約495m2の高架下に、宿泊施設とカフェラウンジ、水上アクティビティの拠点と3つのスペースを併設。
車輪のついた移動式タイニーハウス3台はホステルとして使用される。室内は約13m2とコンパクトながら、トイレとシャワー、小さなキッチン、二段ベッドが2組、最大で4人の宿泊が可能だ。
大岡川に面した立地を活かし、SUP(Stand Up Paddleboard)などの水上アクティビティの拠点としても機能させる。
カフェラウンジは、宿泊者だけでなく、まちに開かれたパブリックスペースとしても開放し、イベントやマルシェ、ワークショップなどを定期的に開催する。

ここで力を発揮するのが前出の『BETTARA STAND日本橋』で培ってきたノウハウだ。2年の期間中、年間300本以上のイベントを開催してきた。イベント開催の要となっていたのはコミュニティビルダーの存在。コミュニティビルダーとは、「課題を発掘して、それをどう面白がるか。面白がりながらイベントをどう成立させ、人をどう巻き込むのかを考える人」(相馬さん)

YADOKARIのチーフ・コミュニティビルダーである柴田大輔さんは
「イベントでは “楽しかった” だけで終わらず、参加した人も開催した人も各々ちゃんと持ち帰るものがあったり、興味を刺激するものであることを目指しています。イベントをやって完結してしまわないような関係づくりや、次の課題を見つけて帰ってほしいと思って、イベントをマネジメントしています」と話す。
まちづくりイノベーションや多拠点居住、暮らしにまつわる話や題材を中心に多くのイベントを成功させてきた彼ら。
「面白くさせるアイデアならどれだけでも出てきます(笑)」(柴田さん)
と頼もしい。日ノ出町・黄金町の高架下界隈がこれからどんなつながりを作っていくのか、楽しみだ。

取材時、建設途中だった『Tinys Yokohama Hinodecho』。写真左下はイベントなどを行うカフェラウンジ。目の前には桜の名所で有名な大岡川が流れる。SUPなど、水上アクティビティを楽しむ人の更衣室なども施設内に完備。<br>同じ高架下の並びには、アートギャラリーや書店もできており、ぶらりと散策するのも楽しいエリアに。<br>「ライフスタイル感度の高い若い人やファミリー層、インバウンド需要を見込んでいます。日ノ出町の隣にある野毛のエリアは、外国人がもつ”日本の飲み屋街”のイメージにぴったりな地域。外国人観光客の宿泊にも利用してもらいたいですね」(相馬さん)
取材時、建設途中だった『Tinys Yokohama Hinodecho』。写真左下はイベントなどを行うカフェラウンジ。目の前には桜の名所で有名な大岡川が流れる。SUPなど、水上アクティビティを楽しむ人の更衣室なども施設内に完備。
同じ高架下の並びには、アートギャラリーや書店もできており、ぶらりと散策するのも楽しいエリアに。
「ライフスタイル感度の高い若い人やファミリー層、インバウンド需要を見込んでいます。日ノ出町の隣にある野毛のエリアは、外国人がもつ”日本の飲み屋街”のイメージにぴったりな地域。外国人観光客の宿泊にも利用してもらいたいですね」(相馬さん)

大きな可能性を秘めた高架下。歴史とアートと新旧織り交ぜた界隈性を生み出す

アーティストを招聘し期間限定で制作拠点を提供する「アーティスト・イン・レジデンス」の試みも行われ、アートのまちとして定着してきた日ノ出町・黄金町エリアアーティストを招聘し期間限定で制作拠点を提供する「アーティスト・イン・レジデンス」の試みも行われ、アートのまちとして定着してきた日ノ出町・黄金町エリア

「昔、日ノ出・黄金町のエリアといえばラブホテルやストリップ劇場など風俗店が並ぶ“ピンクの街”というイメージがありましたが、横浜市や地元の方がここ10年ほど水辺やアートをキーワードにまちづくりを行ってきて、ずいぶん明るい雰囲気になりました。けれども、持続的な活性化という面ではもう少し違うアプローチができるのでは、と思っていました。
そんななか、高架下の新たな活用法を模索していた京急電鉄さんからお話をいただき、今回の施設を作る運びに。ホステルができることで人の流れをうまく作っていけるのではないかと思っています」
と相馬さん。

明るく開かれたイメージに変わりつつある日ノ出・黄金町エリア。相馬さんも「地域の色が変わってきた」としながらも

「昔からあるピンクなイメージも歴史のひとつ。ある意味それもアートですよね。歴史は消してしまうのではなくて新しいものと混ざり合って、界隈性が生まれていけばいいなと思います」と話す。

高架下の利活用は近年、保育園を作ったり店舗開発などがあちらこちらで行われている。

「高架下は立地がよく利便性はいいのにここ最近まで有効活用されてきませんでした。うまく使えないから、防犯上、フェンスを作り閉じた空間にしてしまった。そうなると暗くなり人が寄り付かず、治安が悪くなるという悪循環を生みます。ここに何かできることによって明るくなり人が流れ、お金を生む。高架下の利活用はまだまだ大きな可能性を秘めていると思います」(相馬さん)
さらに、コミュニティビルダーたちによって面白いイベントが活発に開催されるようになれば、持続的な活性化につながるだろう。

待たれる法の整備

移動できるタイニーハウスは住居としての登記が難しい場合も(写真:Yuki Soma)移動できるタイニーハウスは住居としての登記が難しい場合も(写真:Yuki Soma)

移動可能な動産として少しずつ認知されてきているタイニーハウスではあるが、住居としてはまだ越えなくてはならないハードルがあるようだ。
タイニーハウスを建てる、住むにあたっては現在の日本の法律がまだ追い付いていないのだ。

「今の日本の法律はタイニーハウスを住居とみなしてはいないんですね。車輪がついていて移動できる面でいえば、車の法律ですし、住居としての法律が適用されるのか、そこが今は曖昧なんです。住居として認められる市もありますし、そうでない場合もあって、今は地方自治体に判断がゆだねられています。
ただ、民泊もそうだったように、認知が広がるにつれて少しずつ法の整備は行われていくと思います」

法律面がはっきりせず、グレーのままでは定着はしない。YADOKARIでは地方自治体ともタッグを組んで、タイニーハウスの活用を手掛けている。例えば、以前紹介した小菅村(山梨県)での『タイニーハウスデザインコンテスト』がそうだ。官民協働で行うプロジェクトによって広く認知され、法の整備が進むことが期待される。

大切なものは何なのか、向き合うきっかけに

「DISCOVERY(発見)」「WONDER(驚き)」「SILENCE(静寂)」をコンセプトにつくられた3棟のホステルが高架下に並ぶ。室内は約13m2。トイレとシャワー、キッチン、二段ベッドが2組、最大で4人の宿泊が可能だ。タイニーハウスでの暮らしを体験することで、本当に自分が求める住まいの形が見えてくるかもしれない「DISCOVERY(発見)」「WONDER(驚き)」「SILENCE(静寂)」をコンセプトにつくられた3棟のホステルが高架下に並ぶ。室内は約13m2。トイレとシャワー、キッチン、二段ベッドが2組、最大で4人の宿泊が可能だ。タイニーハウスでの暮らしを体験することで、本当に自分が求める住まいの形が見えてくるかもしれない

「タイニーハウスとは“大切なものと向き合う”ための通過点であり、きっかけとして機能する住まいの形なんじゃないかなと思っています。だから、移動式のものだけでなく一般の住宅のように基礎付きで固定したものであっても構わないと思うんです」と相馬さん。

きっかけとはどういうことを指すのか聞いてみると

「日本では、ローンを組み大きな家を買うという考えが定着していますよね。
でも、ローンのない小さな家に住めばお金に縛られることもなくなります。小さな家には必要最小限のモノを置くことになり、そうすると、自分にとって心地よいものなのかどうかきちんと見極めるようになると思うんです。働き方やライフスタイルと向き合うことで、自分にとって本当に必要なものは何か、本当の豊かさとは何かということを考えるきっかけとなるのがタイニーハウスだと思っています」(相馬さん)

高架下ホステルは、タイニーハウスを体験できる施設でもある。
もしローンのない家に住めたらその分のお金は何に使う?どこにでも移動できる家に住めたらどこで何をする? 限られたスペースに何を置く?
小さな家での暮らしを体験することで、自分が大切にしたいものが見えてくるかもしれない。

タイニーハウスの活用の幅は未知数。住宅としてまちづくりの拠点として、今後どのように活用されていくのか、小さな箱につまった可能性に注目していこう。


【取材協力・写真提供】
◆『Tinys Yokohama Hinodecho(タイニーズ 横浜日ノ出町)』
http://tinys.life/yokohama/

◆YADOKARI TINYHOUSE ORCHESTRA
http://yadokari.net/orchestra/

2018年 05月16日 11時05分