建築会社・ぬくもり工房が手掛けた複合施設

浜松駅からバスで約40分。バス停から住宅街を抜けて5分ほど歩くと、中世ヨーロッパの田舎町、あるいは、かつて読んだ絵本に描かれていたおとぎの国のような空間が現れる。浜松市の建築会社・ぬくもり工房による複合施設「ぬくもりの森」だ。筆者はこれまで、ぬくもり工房が手掛けた施設を取材(愛知県碧南市・風の井戸)しており、いよいよその本拠地を訪れることになった。

小さな森の中に、レストラン、雑貨店、パティスリーなどが点在。可愛らしい世界がSNSなどで話題となり、現在は年間16万人が訪れる観光スポットに。

この施設を作ったことへの思い、建物の魅力などに迫った。

木々に囲まれた小さな集落のような雰囲気の「ぬくもりの森」木々に囲まれた小さな集落のような雰囲気の「ぬくもりの森」

「こんな建物があったら…」独創的な建築スタイルを確立した創業者・佐々木茂良氏

独立した建築家・佐々木さんが、1983年に最初に建てたログハウス。ここの1階を家具工房、2階を建築事務所としていた独立した建築家・佐々木さんが、1983年に最初に建てたログハウス。ここの1階を家具工房、2階を建築事務所としていた

まずは、この独創的な建築を作り上げた、ぬくもり工房についてご紹介したい。創業者の佐々木茂良さんは、お父様の営む工務店で修業しながら、独自で建築に関する勉強も進め、独立。1983年、実家があった現在のぬくもりの森の地に、建築事務所兼家具工房を開いた。

ぬくもり工房が手掛ける建物は、木や石、漆喰など自然の素材を生かした造り。ヨーロッパにありそうな印象を受けるが、「ヨーロッパの建物をベースにした、ぬくもり工房独自の世界観です。絵本の世界に出てきそうな建物ですよね」(ぬくもり工房スタッフ)。
世界中の建物について学び、アンティーク雑貨などの仕入れもしていたという佐々木さん。ぬくもりの森の建物には、長い年月をかけて集めた扉や小物などが使われている。

さまざまな建築スタイルを学んだなかからインスピレーションを受け、独学で追求した唯一無二の建築スタイルの基は、クラシカルなものへの憧れを抱いていた佐々木さんの「こんな建物があったらいいな」という強い思いだ。独自の世界をゼロから作る作業は、「立体に起こしたとき、定規で描かれたものではなく、フリーハンドで描いたような柔らかなラインをつくっていくことが、設計にとっては大変手間のかかるものでした」(ぬくもり工房スタッフ)。自然界にはまっすぐな線というものはほぼ存在しない。自然の世界観を大切にする佐々木さんらしい逸話だ。

2016年、佐々木さんが急逝。現在、佐々木さんのスピリッツを受け継いできたスタッフたちが顧客の想いに応えながらぬくもり工房の世界観を新たに作り続けている。

ぬくもりの森を代表する建物として、内部構造も楽しいレストラン

当初は現在のように、全施設を公開する予定はなかったという。建築事務所兼家具工房を開設後、1991年に建築とのトータルコーディネートを提案する雑貨店をオープンした。そこから少しずつ、建物が増えていった。

フレンチ創作料理のレストラン「ドゥスール」は、2001年にオープン。佐々木さんはアンティークの扉が好きだったそうで、レストランの扉も自らがスペインから輸入したアンティークだ。「ぬくもりの森を代表する建物の扉としてふさわしい、風格があるものをと。実は、建築当初は別の扉が設置されていたのですが、途中で創業者が見つけて変更したそうです」(ぬくもり工房スタッフ)。

構想に約7年、建築に約5年かかったという建物は、ぬくもりの森を象徴する建物として内部も見応えたっぷりだ。

「丸みを帯びた漆喰の壁は、あたたかみがあふれています。」(ぬくもり工房スタッフ)。風合いを出すために角をとるひと手間をかけ、手で触れた時の感触をよくしているという。そのほか、スイッチプレートやコンセントなどもアンティークのものを使ったり、アンティーク風に仕上げたりと、雰囲気を統一させている。

さらに驚いたのは、階段の作りだ。2階へ、地下へ、テラスへと多方向へ向かう導線で複雑な段差になっているのが実におもしろい。「もともと、ヨーロッパの古城をテーマにしていたこともあり、緩やかなカーブを描いた階段はそのイメージに当てはまります」(ぬくもり工房スタッフ)。

扉や樹齢100余年の木をくりぬいてつくった看板オブジェ、照明、スイッチプレートなど、佐々木さんのこだわりが随所に扉や樹齢100余年の木をくりぬいてつくった看板オブジェ、照明、スイッチプレートなど、佐々木さんのこだわりが随所に

浜松市の都市景観賞を受賞した雑貨店の建物

1991年にオープンした雑貨ショップは、平成6年(1994)度の浜松市都市景観賞を受賞している。現在は雑貨と花のセレクトショップ「リーフとモモ」、ポーランド食器販売の「セゾンラズール」が入るこの建物は、かつてこの地にあった築250年の茅葺き造りの家の構造も使用されている。

二重扉を抜けた店内は、流木を使った手作りの棚など、建築の遊び心がつまっていた。

「リーフとモモ」の店内奥の階段を渡ると、1993年に完成した「コテージ」につながる。その名前は、以前、佐々木さんが住まいとしていたことに由来するそうだ。自分で実際に住むことで、住み心地を体感したという。明かりを取り入れる工夫や、2階建ての空間を十分に使いながら、使い勝手が考えられていた。

そのほか、もともとガレージ兼倉庫としていた場所をリノベーションしたケーキショップ「お菓子の森」もある。レストランや、これらのショップに囲まれた中庭で静かなひと時を過ごすことができる。

(写真上段・3点)セレクトショップ「リーフとモモ」(写真下段・左)ガレージを改装したケーキショップ&カフェ「お菓子の森」(写真下段・右3点)「コテージ」の1階内部のキッチンスペースなど。古い時代のヨーロッパ映画に出てくるような趣だ。ここには3月にアロマショップ「アロマの精」がオープン予定。2階はハンドメイドショップ「Pineta」となっている(写真上段・3点)セレクトショップ「リーフとモモ」(写真下段・左)ガレージを改装したケーキショップ&カフェ「お菓子の森」(写真下段・右3点)「コテージ」の1階内部のキッチンスペースなど。古い時代のヨーロッパ映画に出てくるような趣だ。ここには3月にアロマショップ「アロマの精」がオープン予定。2階はハンドメイドショップ「Pineta」となっている

ぬくもり工房の世界観を体感できる施設に

前述のレストランなどがある建物群と公道を挟んだ向かい側には、貸し出しギャラリー「創良(そら)」や水車小屋の雑貨ショップ「COZY」、そして最近注目が高まっているフクロウと触れ合えるスポット「福蔵(ふっくら)」などがある。

また、同エリアはぬくもり工房によって特許取得された一坪ほどのミニハウス「空とぶガーデンハウス」も設置されている。ぬくもり工房の建物は、手作業も多く、慣れた職人でないと対応が難しい部分がある。そのため、浜松市から遠く離れた地域の客の要望に応えられることができないときもあった。この「空とぶガーデンハウス」は、あらかじめ工房で製作した完成品をトラックにのせて運ぶことができる。ちなみに、この名称はクレーンで運ぶ際の空を飛ぶような様子から生まれたという。ぬくもり工房の世界観が十分に表れており、「庭先に置いたり、1坪ショップとして利用したり、最近では幼稚園などで遊び場・モニュメントとしての利用も増えています(ぬくもり工房スタッフ)。

ぬくもりの森が、年間何万人と訪れるようになったのは、ここ数年程のことだという。ここを訪れた人から、「こんな家・ショップを建てたい」という相談を受けることも多いそうだ。当初は公開する意図のないところからスタートしたが、現在では抜群の営業効果があるようだ。

建築材として使用している自然の素材が割れるのは当たり前、朽ちるのは当たり前という概念で、メンテナンスしながら住んでいくことも佐々木さんの考えのなかにあった。それにより、住まいに愛着が出るし、“ぬくもり”が現れるのではないかと思う。今後もさまざまな地域にぬくもり工房の建物が増えていくと思うが、ひとつの集落のように集まり、その世界観を存分に堪能できるのはこちらだけだ。インテリアコーディネートなど、住まいの参考になるものも随所にある。ぜひ一度訪れてみてはいかがだろうか。

取材協力:ぬくもりの森 http://www.nukumori.jp/

(写真左)空とぶガーデンハウス(写真右上)空とぶガーデンハウスの近くの手すりには、職人の遊び心でハート形のところが! (写真右下)手すりの下にある壁には空洞の箇所がある。こちらをスタッフたちが“ぬくもり工房らしく”仕上げるのが課題のひとつになっているとか(写真左)空とぶガーデンハウス(写真右上)空とぶガーデンハウスの近くの手すりには、職人の遊び心でハート形のところが! (写真右下)手すりの下にある壁には空洞の箇所がある。こちらをスタッフたちが“ぬくもり工房らしく”仕上げるのが課題のひとつになっているとか

2018年 03月13日 11時06分