20世紀になって使われ出したアルミニウム

アルミニウムと聞くと、住宅で思いつくのはアルミサッシだろう。昭和27年に八重洲のオフィスビルに初めて使われて以降、昭和30~40年代に急速に一般化。今では日本の住宅の窓のほとんどに使われているほど、身近な存在だ。

そのアルミニウムを使って建築物を作ろうとした試みがあったことをご存じだろうか。古くは1930年代のヨーロッパに始まり、日本でも1999年に実験ハウス「アルミエコハウス」が完成。居住実験、解体実験が行われている。

自然界では酸化アルミニウム(ボーキサイト)として存在するアルミニウムは地球上にある物質のうち、鉄に次いで大量に存在するとされる物質である。軽くて加工しやすく、高い熱伝導性、電気伝導性を持ち、空気中では表面にできる酸化皮膜が内部を保護するため、腐食されにくいという特徴もある。使い勝手の良い素材というわけだが、問題もある。精錬するためには大量の電力を要するのである。

そのため、広く分布する物質であるにも関わらず、工業材料として広く使われるようになったのは20世紀になってから。電気を大量に生み出せるようになってからと言い換えても良い。しかし、その分、先端素材という意識があったのだろう。洋の東西を問わず、アルミニウムを使っての建築が模索されたのである。

アルミニウムの部材を組み立てて家を作っているところ。軽くて扱いやすく、人件費が削減できるアルミニウムの部材を組み立てて家を作っているところ。軽くて扱いやすく、人件費が削減できる

解体後にリユースできるアルミ部材を開発

アルミハウス建設のために作った部材の断面図とそれを組み合わせる際の概念図アルミハウス建設のために作った部材の断面図とそれを組み合わせる際の概念図

そのアルミニウムを使って自宅を建てた人がいる。金沢工業大学環境・建築学部建築系建築デザイン学科の宮下智裕准教授である。

「北陸は水の豊かな土地で、その水力を使った安価な電力を使ってのアルミ精錬が広く行われています。言ってみればアルミは地場産業で生まれた素材。それを使って、もう一度、アルミニウムで家を建てる意味を考えてみよう、それが建設のきっかけです」。

かつて建てられたアルミニウムを使った家はアルミをその他素材の代替物として使い、建ててみることに意味があった。しかし、すでに建てられたことのある状況下ではただ建てるだけでは足りない。そこで、宮下氏は建設に当たって3つのコンセプトを掲げた。

ひとつはアルミを素材として使うことでCO2削減に取り組むこと。アルミニウムは生産時、リサイクル時に大量の電力を要するため、長寿命だとしても、素材そのものとしてはエコとは言いにくい。だが、1軒目を取り壊しても、次を建てる時には既存住宅の部材がそのまま再度使えるとしたら、どうだろう。コンクリートは取り壊すと廃棄物にしかならないが、木造住宅なら移築して使うことができる。アルミニウムでもそんなやり方ができないかというのである。

軽い家のメリット、デメリット

室内の様子。アルミニウムの部材が壁になっているのがお分かりいただけるだろうか。キッチンでは照明がその内部に組み込まれていることもよく分かる室内の様子。アルミニウムの部材が壁になっているのがお分かりいただけるだろうか。キッチンでは照明がその内部に組み込まれていることもよく分かる

そこで、宮下氏がまず作ったのは組み合わせることで床、壁、天井などが作れる、角波板のようなアルミニウム部材。解体後、再使用する際に自由に組み替えることができるように新しい家の6~7割にリユースできるように計算して製造されている。そして、この部材を使い、住宅内の3カ所にリング状の空間を作った。

「アルミニウムは加工性が高く、プラモデルの様に精度の高い部材ができます。そのため地面が歪んでいると部材が嵌らないほど。でも、そこに留意さえすれば、大工さんはもちろん、学生のような素人でも組立可能。軽いので6mの部材でも一人で持て、重機は不要になります。大型車の入らない狭小地向きの素材と言えます。また、軽いので、地震時に倒壊する危険は少なくなり、安全です」。

と聞くと良いことだらけのようだが、ひとつ、2008年に完成、以降住んでみて分かったのは強風に揺れやすいという点。筋交いは多めに入れてあるものの、木造住宅に比べると多少揺れるという。軽い住宅には軽いなりの不利があるのだ。

残り2つのコンセプトは北陸の産業、気候風土を活かすこと、環境型ライフスタイルを楽しめること。自然の力を利用した住まいと言うことである。たとえば、前述のアルミニウムで作ったリング状空間の内部にはポリプロプレンのチューブを通し、そこに地下水を循環させる仕組みを作り、冷暖房とした。夏は17~18度という地下水をそのまま、冬はヒートポンプで温めた温水を循環させるのである。こうすることによってアルミ表面から冷気、暖気が放射され、同時にアルミ表面に触れる空気が冷やされ、暖められることで室内の温度が変わるという仕組みだ。

先端素材・技術と自然を利用する知恵のコラボ

屋上緑化と環境へどのように配慮したかを図化したもの。金沢の厳しい自然に対応するように考えられている屋上緑化と環境へどのように配慮したかを図化したもの。金沢の厳しい自然に対応するように考えられている

だが、面白いのはこの冷暖房装置では完璧を目指してはいないという点。

「北陸は湿度が高く、東京の梅雨時の湿度より低い月が年に4ヶ月しかないほど。そうした場所で冷暖房を強力に効かせると結露が発生します。であれば、寝苦しくない程度に冷やし、あとは輻射の利点を使って窓を開けて風を通したり、扇風機を利用するほうが賢明。元々、金沢の町家に居住する人は風がいつ、どこから吹いてくるかを知っていて、それを上手に利用している。CO2削減にはそうした自然と折り合う知恵も必要だろうと思います」。

リング状空間の中に組み込まれているのは冷暖房用のチューブだけではない。照明器具も内部に設置されており、多灯分散型だという。日本では部屋の中心部に非常に明るい照明を1点設置、それですべてを賄おうとする家が多いが、それよりも必要な場所で必要な照明を使うほうがエネルギーを使わずに済む。

「100W1灯を20W5灯にし、さらにそれをLEDにすると電力消費量を85%程度削減できるという計算です。また、照明の位置、コンセントの位置は好きに動かせるようにしてあり、生活に合わせて変更できます。住戸全体が大きなワンルームになっており、その時々に合わせた使い方ができるのです。」

それ以外にも屋上緑化、緑のカーテン、雨水利用など自然を上手に利用する仕組みが随所に取り入れられたアルミハウス。延床面積は111.18平米というが、さて、建設費はいくらだったのだろう。

「実験住宅ですから、通常の倍近くのコストはかかっています。特にアルミニウムの部材はこのために実験的に作ってもらったものですし。そのため、実用化するにはまず、価格の壁があります。耐火性能の点から大規模建築物、公共建築物では使いにくい点も普及の障壁となっています」。

追求したいのはハードよりソフト

学生の等身大のアイディアを実際の物件に反映させていくことで少しずつ社会を変えていきたいと宮下氏学生の等身大のアイディアを実際の物件に反映させていくことで少しずつ社会を変えていきたいと宮下氏

だが、特性を活かせば一般的な住宅以外の使い道は考えられる。組み換えが可能な点から震災住宅という手が考えられるし、仮設店舗としても使える。また、強度の高いリング状の空間を、古く耐震性能の低い住宅のリビング部分に組み込んで、環境的にも優れた安全な住まいに変えると言う方法もあり得る。現在、外装はガルバリウムを使っているが、土壁を使い、土蔵のような建物にすれば、より断熱性能を高め、快適な住宅にすることもできるかもしれない。以上、様々な可能性は考えられるものの、現時点ではアルミハウスは休止状態。最先端の素材でも、それを有効に活用するためにはまだまだ試行錯誤が必要なのだろう。

その一方で宮下氏がこの数年取り組んでいるのは大学周辺の古アパートの再生。同じ工務店が約40年前に大量に建てた物件が同時期に劣化、空き家化しているそうで、その改装案を学生が提案、少しずつリノベーションしているというのである。壁面全てを棚にした部屋や入口に大家さんがいて毎日会話ができる物件といった、学生ならではの等身大の提案を活かした部屋が人気という。

「学生は下宿することになって初めて社会に接し、住宅に求めるものは何かを考えるようになりますが、そこでの選択肢が無さすぎます。『賃貸はこうあるのが普通だ』といった既成概念も多く、その結果、住み手の空間への関心は薄れてしまい、住宅はより面白さを失っていきます。そう考えると、賃貸を変えれば、たとえワンルームであっても豊かになるのではないか、そう思って大家さんにいろいろな提案をしているところです」。

アルミハウスの冷暖房装置同様、宮下氏の関心が向いているのは住宅そのものというより、より良い暮らし方というソフトということだろう。金沢発、学生発のアイディアが日本の住宅をもっと楽しくしてくれることを期待したい。

2017年 06月26日 11時05分