環境建築として高い評価を受ける

日本の伝統的な木組みでつくられた「落日荘」。材木の加工は、神社などの木材を加工している会社で木組み用のプレカットをしてもらい、岩崎ご夫妻で組まれたという日本の伝統的な木組みでつくられた「落日荘」。材木の加工は、神社などの木材を加工している会社で木組み用のプレカットをしてもらい、岩崎ご夫妻で組まれたという

横浜市の都市計画に携わり、また日本最大の国際協力NGO「日本国際ボランティアセンター」の代表を務め世界の飢餓、環境破壊問題などに取り組んできた岩崎駿介氏の邸宅「落日荘」。

セルフビルドでありながら、日本の伝統的な木組みの技を用いてつくられたその家は、建造物としての美しさもさることながら、永続的な地球環境の実現を目指して活動してきた岩崎氏の思想があちこちに見え隠れする。

自給自足を目指した基地として、都市ではなく山間部に拠点を置いたこともそうだが、落日荘が「環境建築」としても評価されていることを今回は紹介したい。

日本建築家協会 「環境建築賞 最優秀賞」を受賞した実力

天井にはラタン(籐)が顔をのぞかせる。カンボジア滞在中に「落日荘」の建設を思いついたため、アジアのテイストが採用されているが、ビジュアルだけでなく環境性能にも配慮されているのだ天井にはラタン(籐)が顔をのぞかせる。カンボジア滞在中に「落日荘」の建設を思いついたため、アジアのテイストが採用されているが、ビジュアルだけでなく環境性能にも配慮されているのだ

実は、落日荘は2011年に日本建築家協会の「環境建築賞 住宅部門 最優秀賞」を受賞している。この賞は、長寿命、自然共生、省エネルギー、省資源・循環、継承性などを考慮して社会資本としての建築を創造することができたかを評価しているものだ。落日荘は多くの観点から環境建築として認められている。いくつかその特長を紹介していこう。

まず、建設材料についてだが、落日荘では環境保全の立場から建設材料の「地産地消」を実現している。できるかぎり地元茨城の八溝産地の杉を使用している。しかも、この木材は人工乾燥ではなく、1年以上をかけながら自然乾燥されているという。

「木というものは、人工的に乾燥させると油が抜けてもろくなってしまうのです。自然乾燥をすれば耐久性や自然発色性が高くなる。とはいえ、普通はなかなか悠長に自然乾燥などといったことはできないのですが、この家の構想を話したところ、材木屋さんのご厚意で自然乾燥の杉を材料として使うことができました」

そのほか省エネルギー化にももちろん配慮されている。壁・天井には純毛を使い、30mmと厚い杉版、さらに複層ガラスなどを使用して断熱性能を高め、天井には、湿度調整のために吸湿性の高いラタン(籐)を採用している。このほか、自然エネルギーを最大限利用するために、OMソーラーシステムの導入、日照と自然採光を考慮した設計にも留意されている。水においては雨水貯水槽を設置している。

住宅の持つスペックとしては、上記のような点が環境建築として評価されているのだが、受賞の講評を見ると、「自給自足の生活による環境への負担軽減を目指してセルフビルドに取り組み、そして現在ここに暮らしている。 この作品から、環境という言葉の果てしなく広い意味を感じることができる」とあることからも、単なるスペックではなく、岩崎氏の思想自体が評価されているのではないかと思う。

セルフビルドで必要なのは、お金でも技術でもなく“根気”

足場も自分たちで組み、当然ながら基礎から自分たちの手でつくりあげる。現在、母屋の対には作業場棟の建設が進み、基礎づくりの様子が見られた足場も自分たちで組み、当然ながら基礎から自分たちの手でつくりあげる。現在、母屋の対には作業場棟の建設が進み、基礎づくりの様子が見られた

また、今回はこのセルフビルドという点に関しても注目してみたい。通常は、建設費用を削減する目的やセカンドハウスなど趣味の領域で行われることは多いが、自宅を8年の歳月をかけて構築した例というのはなかなかない目にしない。なぜそこまでしてセルフビルドにこだわったのだろうか。

岩崎氏自身は、「限りある予算を有効活用するためにセルフビルドをしただけ」というが、とても素直にその言葉を受け取ることはできない。なにせ着工を始めた最初の2年は建設地近くにアパートを借り、残り6年は工事用の単管パイプを使って作ったビニール小屋で生活しながらの建設だ。岩崎氏が「ビニールハウスは夏は限りなく暑く、真冬はまた限りなく寒かった」と回想しているように、並大抵の忍耐力では成し遂げられないように思う。

「セルフビルドの家を作るのに必要だったのは、お金でも、建てる技でもなく“根気”です。長年私たち夫婦は、地球平和と永続的な地球環境の実現を目指してボランティア活動を行ってきましたが、なかなかそれは実にならなかった。せめて小さなこの敷地の中だけでも永続的な空間を創りたい、その思いが強かったからこそ果たせたような気がするんです」

今後必要とされる“らせん”の概念

岩崎氏にお話しをうかがっていると、落日荘にとどまらず人生哲学のようなお話が数多く飛び出してくる岩崎氏にお話しをうかがっていると、落日荘にとどまらず人生哲学のようなお話が数多く飛び出してくる

さらに岩崎氏は建造物や空間意識を東西で比較しながら、今後必要な社会概念について次のようなことを語りはじめた。西洋と東洋の空間意識を見た時に「垂直」と「円環」の差があること、そしてそれらを合わせて今後「らせん」の意識が必要になることを説明した。

「西洋の建物や空間は、教会の建物やピラミットのように、いかに高くしていくか、いうなればいかに天を感じさせるかという“垂直”を目指すものです。一方の東洋の空間は、朝、山の端から朝日が上がって夕には西に沈むように、あるいは集落において人の“和”が尊重されたように“円環”を基本に成り立っていると思います。今後の地球が、国境を超えて平和を保つことができるとしたら、それは西洋と東洋の融合、つまり垂直と円環の融合である“らせん”がそれを可能にするのではないでしょうか」

落日荘は、セルフビルドというその「過程」を楽しむという意味でも、「らせん」を実践しているのかもしれない。

まだまだ進化する「落日荘」

実は「落日荘」は、まだ完成をしていない。今回紹介した母屋の他に、向い側には作業棟などが建設され、さらに左右の棟をつなぐ門が建設される予定だ。母屋の対では現在も手作りの足場の中にコンクリートの基礎が築かれている最中だ。完成を見るにはあと10年はかかるという。

数字だけみれば、18年の歳月をかけての自宅建設というのは気が遠くなる、しかし“らせん”にも表れる岩崎氏の想いを感じてみると、その挑戦がとても意味深いものに感じられる。

家をつくる際、ともすればスペックの優劣に陥りがちな今だが、本来家づくりにはもう少し思想があってもよいのではないかと思わせられる家、それが「落日荘」だった。

(注)掲載写真の一部は、岩為氏、砺波周平氏などの写真を、岩崎氏の承認を持って使用しました。

足場も自分たちで組み、当然ながら基礎から自分たちの手でつくりあげる。</br>現在、母屋の対には作業場棟の建設が進み、基礎づくりの様子が見られた足場も自分たちで組み、当然ながら基礎から自分たちの手でつくりあげる。
現在、母屋の対には作業場棟の建設が進み、基礎づくりの様子が見られた

2014年 10月12日 12時12分