修繕積立金はいずれ値段が上がるもの!?
「修繕積立金の値上がりは珍しいことではない、このことを知らない方が意外と多いですね」
そう話すのはマンション管理士の野田直裕氏。
愛知県・名古屋市いずれにおいても、戸建てよりマンションの販売件数が上回っていることを受け(※)マンション購入を検討されている方、マンション暮らしをスタートさせた方が心得ておくと良いポイントを教わろうと、マンション暮らしに関わる様々なアドバイスを行っているNPO法人マンション管理者管理方式推進機構 理事の野田氏にご意見を伺った。
(※参照:中部レインズ調べ http://www.chubu-reins.or.jp/pref_report?key=aichi)
築25年超。直面する2回目以降の大規模修繕問題とは
冒頭「修繕積立金の値上がり」とは、実は今まさに筆者が直面している問題だ。
筆者は約5年前に中古マンションを購入。
中古マンションの購入は経年による設備の劣化やリフォームにかかる費用などの不安要素もあったが、通勤や育児環境など、筆者のライフスタイルを考えると他に代えがたい立地条件。
古さは確かに気になったが、これを逃すと次に同条件以上のものにいつ出会えるかわからないかも・・・と購入を決断した。
住宅取得を考える際、新築・中古に問わず以下のような検討項目があるだろう。
・立地
・周辺環境(施設、治安などを含む)
・広さ
・間取り
・価格
マンションではこれらに加え
・管理費・修繕積立金
こちらも重要なチェックポイントだ。
賃貸生活から分譲へ変わる場合、「管理費や修繕積立の金額が妥当かどうか」を比較検討する材料は少ないように思う。
筆者の場合、月々のローン返済と管理費・修繕積立金が今までの家賃と比べてどうか、無理なく支払っていけるか?と考えはしたものの、暮らし始めて数年後、こんな風に修繕積立金の値上げ連絡がやってくることは全く想定していなかった。
さて、この修繕積立金、一般的にどのタイミングで使われていくことが多いのか調べてみると、国交省の『長期修繕計画標準様式』の中に「大規模修繕周期12年程度」、という記載もあることからだいたいこのあたりが目安になりそうだ。
しかし現実は「築後10~15年程度に実施される1回目の大規模修繕で修繕積立金の大半を使い切ってしまい、経年によって益々必要性の高まる2回目以降の大規模修繕時には「予算がない」という事態に陥るマンションも決して少なくない」とのこと。
『ライフサイクルコスト』を見直し、適正な修繕積立金の確保と運用を!
修繕積立金が足りなくなってしまうこうした多くの事例を前に、『ライフサイクルコスト(生涯費用)』を考えることの重要性を野田氏は訴えかけている。
建物のライフサイクルコストとは、その建物との関わりのスタート(購入・賃貸契約など)から、住み続ける期間にかかる費用、つまり購入金はもとより、管理、維持、保全などにかかる総費用のことを差す。
「マンションにおける『ライフサイクルコスト=維持管理費』と置き換えられる、と言っても過言ではありません。維持管理費の適正化によって、結果的にマンション価値を上げられることもあるのです」と野田氏。
管理費と維持費(修繕積立金)のバランスは、「維持費を厚くすることが理想的」だが、中には管理費が維持費を上回って設定されているケースも。高い、低いと金額のみに着目するのではなく、肝心なのは「そのマンションの規模・状況に見合った管理費」かどうか。
第三者のマンション管理士としてチェックすると、管理会社からの提案の中には過剰サービスや逆にサービス不足と感じられるものもあるようだが、実際に野田氏ご自身も、マンション管理士同士が集まり情報共有することで「維持管理費として必要なライン」が見えてきたというのだから、我々一般の居住者(管理組合側)にはその判断は難しいものなのかもしれない。
500万のコストカットも!マンション管理士を理事会運営のパートナーに
マンション理事会は、居住者が毎年交代の持ち回りで理事を請けて成り立っていることがほとんどだと思われる。
毎年のルーティンをこなすだけならまだしも、専門的な知識のない中で「長期修繕計画案」を検討したり、決断していくのは責任重大なので、煩わしいこと、難しいことを含め管理会社にお任せしたくなるのもよくわかる。
しかし、こうした事例もある。
中部圏にある某マンション(約250戸)の管理委託費をマンション管理士の団体が第三者として見直したところ、なんと500万円も削減できたというのだ。
「ポイントはコストカットをしても質を落とさないこと。ここに我々マンション管理士の専門性が発揮されます」と野田氏。
この事例に関して、管理会社からの提案がめちゃくちゃなものであったとは思えないが、数々の事例の中には時に根拠のない数字が含まれていることもあるそうだ。
その見極め方法の一つとして、マンション管理士を理事会運営のパートナーにつける、というのは有効かもしれない。
そもそも、マンション管理士はどのような資格なのか。
マンションの良好な住環境を確保することを目的に2001年に施行されたマンション管理適正化推進法に基づいて誕生した国家資格で、理事会、住民、管理会社に第三者的に意見が言える中立の立場(管理会社所属のマンション管理士の場合は多少立場が変わるであろうが・・・)であり、且つ、管理会社や設計会社の専門用語を、理事会や住民にわかりやすく伝える通訳的役割も担う。
私たちとの関わりをもっとイメージしやすいよう、実際の業務をいくつか教えて頂いた。
・建物診断
・長期修繕計画策定
・理事長代行
ちなみに、築40年ほどのマンションの診断と長期修繕計画を立てるためにマンション管理士に依頼すると、地域差などもあるだろうが約40万程で行えるそうだ。机上の計画ではなく、現場調査をした上での計画なので実状とマッチした長期修繕計画が立てられるメリットがある。
また、住人の高齢化が今後より進んでいくと予想される中で「理事長代行」というサービスは、終の棲家を守っていく意味でも安心なのではないだろうか。
「医療の世界でセカンドオピニオンが浸透しつつあるように、マンションの理事会運営においても、第三者診断に我々マンション管理士を活用いただけるように、この資格を多くの人に知ってもらいたいですね。
理想は新築時から関わらせて頂き、マンション管理士と住人の方々が一緒に理事会運営や長期修繕計画を立てていく風土を作ること。
そしてライフサイクルコストという観点を広めることで、マンション価値を高め、延いては住まい手の豊かな暮らしのサポートをしていきたいです」
野田氏の夢は尽きない。
取材協力:NPO法人マンション管理者管理方式推進機構 http://www.kanshinkun.com
2015年 03月07日 11時23分