相続税課税強化は基礎控除額の引き下げと相続税率の引き上げ

相続税改正による最も大きな変更点は、基礎控除額が引き下げられることだ。現行の基礎控除額は「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」だが、2015年1月1日からは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となる。たとえば法定相続人が3人の場合、これまでは基礎控除額が8,000万円なのに対し、改正後は4,800万円と大幅に縮小される。そのため、これまでは相続税が課税されなかった遺産でも、改正後には課税されるケースが大幅に増えると予想されている。

国税庁のまとめによる2011年の相続税課税割合(死亡者数に対する課税対象の被相続人数)は全国平均で4.1%に過ぎず、改正後も約6%にとどまるとの試算もある。しかし、この「死亡者数」には若くして亡くなった人も含まれていることに注意したい。一定年齢以上の高齢者に絞って集計をすれば、相続税の課税割合はもっと高い数値になるだろう。相続税の改正により東京23区では4人に1人が課税され、他の主要都市でも課税対象が1割を超えるといった予測もあるようだ。

また、同時に相続税率が引き上げられる。相続税対象額が2億円以下の場合は現行どおりだが、2億円超3億円以下の場合と6億円超の場合は、それぞれ税率が5%アップすることになっている。

相続税の緩和や要件の見直しもされる

課税財産の多くを占める土地については、「小規模宅地等の評価減の特例」を適用できる場合がある。被相続人が自宅として使用していた土地であれば、現行で240m2までが対象となっているが、基礎控除額の引き下げなどよりも1年早く、2014年1月1日からは330m2までが対象とされる。土地の評価額を80%減額し、たとえば1億円の土地を2,000万円とすることができる特例のため、広い敷地を持つ世帯であればその恩恵もあるだろう。ただし、この特例を受けられるのは配偶者や同居している子どもが相続する場合に限られる。

この小規模宅地等の評価減の特例については以前、敷地の一部が該当すれば全体に適用、共同相続人のうち1人でも該当すれば全員に適用などといった取扱いがされていた。しかし、2010年度の税制改正により要件の厳格化が図られ、2010年4月1日以降の相続では1宅地ごと、相続人の1人ごとに適用の可否が判断されることで実質的な課税強化が行なわれている。それに伴い二世帯住宅では、内部で構造上区分され、お互いに行き来ができない場合に同居と認められず、特例が適用されないといった不都合も生じていた。今回の改正ではそれが変わり、内部構造に関わりなく同居とみなすことで、敷地全体に特例が適用できるようになる。さらに、被相続人が老人ホームに入居している場合における特例の適用要件が緩和される。これらの規定は2014年1月1日以降の相続が対象だ。それ以外にも、2015年1月1日からは未成年者控除と障害者控除がそれぞれ引き上げられることになっている。

相続対策は慎重に検討することが欠かせない

相続税対策を兼ねた二世帯住宅が増えている相続税対策を兼ねた二世帯住宅が増えている

相続税の課税強化が決まったことや、東日本大震災後における意識の変化を背景に、このところ二世帯住宅の着工が増えている。小規模宅地等の評価減の特例における適用要件が見直され、設計上の自由度が高まったことも追い風となっているだろう。しかし、二世帯住宅を親と子で区分登記しているような場合には、改正後であっても被相続人の居住部分しか特例の対象とならないことに注意したい。二世帯住宅は建物を共有にしておくことが基本だ。また、兄弟姉妹が数人いて、親の主だった財産が自宅しかないような場合には、二世帯住宅を建てることが将来の「争続」の原因ともなりかねない。親と自分たち家族の住む家が、兄弟姉妹みんなの共有となってしまうこともあるだろう。

貸家などの敷地でも評価減の特例があるため、余った土地にアパートや賃貸マンションを建設する動きも目立っている。負債を相続財産から差し引くことができるため、建設費用を金融機関などから借りるケースもある。しかし、これからは全国的に人口減少社会となり、東京などでもその例外ではない。人口の減少によって需要がなくなり空室が多い状況になれば、相続税対策のつもりがかえって子や孫の負担を増やしたり、財産を失ったりすることにもなりかねないだろう。アパートや賃貸マンションを建設するときには、事業としての採算性などを長期的な視野でしっかりと見極めることも重要だ。

相続対策が必要なのは、相続税が課税される世帯だけではない

相続対策といえば税金のことにとらわれがちで、相続税が課税されない世帯には関係ないと思われるかもしれない。しかし、家庭裁判所における遺産分割事件の内訳をみると、総数8,740件のうち遺産総額1,000万円超5,000万円以下が3,797件で最も多く、次いで遺産総額1,000万円以下の2,824件となっている。つまり、相続税が課税されない世帯で全体の約4分の3を占めている状況だ(データは2012年度司法統計年報・家事事件編による)。相続税がかからない遺産でも、その分け方をめぐって多くの争いが起きていることは十分に考えておきたい。相続税が課税される場合には節税対策や納税対策が重要となるが、非課税世帯でも必要なのは「争族対策」だ。

相続対策では、遺産を平等に分けやすくしておくことが基本であり、生命保険の活用も対策の1つとなる。遺産を平等に分けることが困難なとき、あるいは誰かに多く残したいときには遺言書を作成しておくことも有効だ。財産が自宅だけという場合にはその処分方法も考えておかなければならない。複数の不動産を所有しているなら、一部を売却して現金化することや換金性の高い資産に組み替えておくことも検討するべきだろう。相続税が払えなくて相続人が困る事態は、何としても避けるようにしたい。

2013年 09月12日 11時21分