「万博跡地」と聞けば、新しい街が生まれる姿を思い浮かべる人が多いだろう。閉幕から1年を迎える夢洲で、大阪府と大阪市は2026年9月、跡地約42haの予定価格を921億1,300万円と公表した。買い手にあたる開発事業予定者が決まるのは、2027年2月の予定である。ところが、募集の条件は、この土地に住宅を建てることを認めていない。同じ島では、柵の向こうでクレーンが空を埋めていた。住まいにならない跡地は、何になるのだろうか。

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手前は更地、柵の向こうはクレーンの林

夢洲駅の通路。壁面の大きな画面が文字を流していた夢洲駅の通路。壁面の大きな画面が文字を流していた

2026年10月8日(木)の朝に夢洲駅の改札を出ると、広い通路に人影はなかった。壁面の巨大な画面だけが、「日本の技術と文化で紡ぐ未来」という文字を流している。

地上に出ても静けさは変わらず、駅前の広場は柵で仕切られ、「関係者以外進入禁止」の看板が立っている。目を引いたのは、その向こうに林立するクレーンだった。柵の内側には、砂利を敷いた広い敷地が続く。

「関係者以外進入禁止」の看板と、柵の向こうのクレーン「関係者以外進入禁止」の看板と、柵の向こうのクレーン

万博の間、この駅は島の入口だった。

会期中にはのべ約2,900万人が訪れ、来場手段で最も多かったのは、この駅へ通じるOsaka Metro(大阪メトロ)中央線で、全体の約7割を占めた。閉幕後のダイヤ改正で、コスモスクエア駅と夢洲駅の間の列車は、1日375本から平日99本へと大きく減っている。

夢洲は大阪市此花区にある人工島で、IR(統合型リゾート)の建設が進むのは第1期区域、万博会場の中心だった一帯は第2期区域である。

「関係者以外進入禁止」の看板と、柵の向こうのクレーン夢洲と舞洲を結ぶ夢舞大橋

決まる日と、土地が渡る日は別になる

売却の対象は、第2期区域のうち約42haである。予定価格を面積で割って、1m2あたりの単価にすると、約22万円になる計算である。

選ぶ仕組みは二段階で、まず計画提案の審査により、一定の水準を満たした提案に絞る。その上で、予定価格以上で最も高い価格を示した者が、開発事業予定者に決まる。価格提案の審査は、2027年2月17日の予定となっている。

ただし、この日に決まるのは契約の相手であって、売買の成立ではない。土地売買契約の申込期限は審査の翌月末だが、開発事業予定者が調査や検討のために願い出て、大阪市が認めれば、最長で約4年の猶予がつく仕組みである。猶予を受けて買受申込が2027年9月以降になる場合は、大阪市が価格を再検証し、再鑑定の額が提案額を上回れば、その額を売払価格とする決まりである。予定価格や提案額が、そのまま最終の売値になるとは限らない。引渡しも、万博協会が敷地を使う2028年2月末のあとで、撤去が遅れれば、さらに後ろへずれ込みかねない。

砂利の敷地を横切って残る、黄色い誘導ブロック砂利の敷地を横切って残る、黄色い誘導ブロック

横山英幸大阪市長は、募集の方針を決めた2026年6月の公開会議で、「事業の実現性を高めるために、契約締結期限を一定猶予することといった対応方針を確認することができた」と述べた。

決まる日と、土地が渡る日は、別々の時計で進む。

跡地は、住宅を建てられない土地である

「万博跡地が街になるなら、住まいも増える」と思うかもしれないが、募集の条件はそうなっていない。

実施要領は、この土地を、共同住宅などを含む「住宅等」の用に供することを禁じている。例外は、「国際観光拠点にふさわしい短期的な滞在を目的とした施設」と、開発事業者が従業員のために設ける専用住宅などに限られる。ホテルの客室を分譲するには、府市の事前の承認が必要だ。さらに開発事業者は、居住や生活の本拠としての利用が生じないよう、「必要かつ十分な措置」を講じる義務を負う。

宿泊はできても、住むことはできない。

宅地建物取引士の目で見れば、用途の制限は価格より先に確認する項目で、921億円という数字だけでは、この土地の使い道は読めない。

IRの施設で働く人は、約1万5,000人にのぼる見込みだ。その人たちの住まいの受け皿は、島の外にあるのか。大阪市が公表した2026年の地価調査の結果で、夢洲が属する此花区と、中央線でつながる港区・住之江区の住宅地を見ると、此花区は基準地の価格が前年から平均で4.9%上がり、3区とも市内全体の6.7%を下回っていた。

調べていて意外だったのは、夢洲を抱える此花区の上昇率が、3区のなかで最も低いことである。もちろん、この差の理由を夢洲の開発だけに求めることはできない。また、予定価格の単価は、此花区の住宅地の平均を少し下回る水準である。ただし、地盤の対策を事業者が担う土地と住宅地は、単純には比べられない。

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同じ島で、時計の進み方が違うのはなぜか

IRでは、用地の全範囲の引渡しが2026年4月に終わり、建設が進んでいる。開業は2030年秋頃の計画だ。ただし府市の資料は、この日程を「工程が最も早く進捗した場合の想定」とし、税制上の取扱いやカジノ管理規制の整備状況、「夢洲特有の地盤性状への対応状況」などによっては、1〜2年程度の後ろ倒しもありうると記している。

道路越しに見えるIRの建設現場道路越しに見えるIRの建設現場

対する跡地は、買い手を選ぶ前の段階にとどまる。時計の違いには、土地が2028年2月末まで万博協会の使用下にあることも大きく関わっている。地盤の扱いにも違いがある。夢洲は埋立地で、IR用地の「土地課題対策」(液状化や土壌汚染などへの対策)は、費用を土地所有者の大阪市が負担している。概算見込額は約479億円(2026年3月末時点)で、資材価格などの上昇により、一定の増額が生じる見込みとされている。

これに対し第2期区域の実施要領は、液状化と地盤沈下への対策を開発事業者の責任と負担とし、府市と「大阪・夢洲地区の地盤沈下管理に関する覚書」を結ぶことも求める。土壌汚染については、土壌汚染対策法の「形質変更時要届出区域」に指定されている。

道路越しに見えるIRの建設現場手前の更地と、奥に並ぶクレーン。同じ島で工事の有無が分かれる

先行募集の区画に、提案書は出なかった

同じ第2期区域で先に募集された大阪ヘルスケアパビリオン跡地では、7月の締切までに提案書が出なかった。横山市長は同月の会見で、参加資格を申請した事業者に聞き取りをしたと説明した。事業者の判断は、「昨今の急激な物価上昇による建設費の高騰、また地盤の状況確認なども必要な事業なので、公募提案までの限られた期間内で事業収支を見込み、応募の意思決定をすることが困難であった」というものだったという。

製造業の現場にいた筆者の感覚でいえば、埋立地の用地は、地盤の費用を地価と同じ重さで見なければ、事業収支を読めない。電気やガスの整備も、開発事業者が供給事業者へ依頼するところから始まる。

契約までの猶予について、実施要領は「開発事業予定者による調査・検討のため」と明記している。買い手が決まっても、すぐに工事が始まるとは限らない。その理由の一つは、ここにあるはずだ。

次の目印は、2027年2月17日の価格提案審査

ヘルスケアパビリオン跡地の市場調査は、2026年10月8日に受付期間が延長され、提案書は11月9日まで受け付ける。結果の公表は11月下旬の予定とされている。約42haのほうは、提案書の受付が2027年1月に締め切られ、価格の審査はその翌月に行われる。

跡地のうち記念公園ゾーンは、府市が整備し、大屋根リングの約200mを残して展望台に改修する方針だ。

横山市長は6月の公開会議で、「このプロジェクトを成功に導いていくことは非常に難しいが、それでも大きな未来をかけて、進めていきたいと思っている」と述べている。

柵に沿って、道は島の奥へ続く柵に沿って、道は島の奥へ続く

閉幕から1年で確かめられたのは、跡地に住宅は建たないこと、買い手の決定と土地の引渡しが別の日になること、そして隣のIRが先に動いていることだ。次に見えてくるのは、2027年2月に選ばれる者が、住まいを含まない42ヘクタールに何を描くのか、そしてその計画が、島の外の街の暮らしにどう響くのかである。

その分岐の目印となるのは、価格提案の審査だ。

審査のあとにも、日付は続く

価格提案の審査で買い手が決まっても、確かめる日付はその先に続く。実施要領では、土地売買契約の申込期限は審査の翌月末の2027年3月31日で、猶予が認められれば最長で2031年2月28日までのびる。土地の引渡しは、万博協会の使用が終わる2028年2月末のあとの、2028年3月1日が予定されている。

跡地に何が建つのかが見えるまでには、数年の幅がある。いま夢洲の周辺で住まいを探す人は、跡地の計画を前提にするより、決まった日付を一つずつ確かめるほうが確かだろう。2027年2月17日に選ばれる者は、この幅のなかで、何をいつ描き始めるのだろうか。


出典
・大阪市「夢洲第2期区域開発事業者募集の実施について」
・大阪市「二段階審査方式(公募型プロポーザル)による夢洲第2期区域開発事業者募集 実施要領」(2026年9月14日更新)
・大阪市「夢洲第2期区域開発事業者募集に関する会議」会議録(2026年6月3日)
・大阪市「令和8年7月16日 大阪市長会見全文」
・大阪市「令和8年地価調査 行政区別・用途別前年平均変動率及び平均価格」
・大阪市「夢洲地区のまちづくり」
・大阪府・大阪市「夢洲第2期区域マスタープランVer.3.0」(2026年6月)
・大阪府・大阪市IR推進局「大阪IR建設工事について」(2026年7月)
・大阪府「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備の進捗」
・大阪府「IRに関するよくある質問」(2026年10月1日更新)
・大阪府「大阪ヘルスケアパビリオン跡地活用ゾーンに関するマーケットサウンディングを実施します」(2026年9月9日、2026年10月8日更新)
・2025年日本国際博覧会協会「データから振り返る大阪・関西万博」
・Osaka Metro ニュースリリース「2025年10月14日初発からOsaka Metro 中央線のダイヤ改正を行います」(2025年9月9日)
・現地撮影日(2026年10月8日)