「築地の再開発」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは約19ヘクタールの市場跡地だろう。約5万人を収める大規模集客施設を中心に、9棟を建てる計画である。だが、手続きが一番先まで進んでいるのは、そこではない。日比谷線築地駅に隣接する約0.6ヘクタールの築地二丁目地区で、2026年7月29日に権利変換計画が認可された。市場跡地のほうは、都市計画の決定を2027年3月に控え、今も地下で発掘調査が続く。同じ築地で、2つの計画の時計は違う速さで進んでいる。
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本願寺も駅前も、今は覆われている
2026年9月18日の昼、日比谷線の築地駅から地上に出ると、築地本願寺の本堂が足場に包まれている。正面の横断幕には「重文築地本願寺本堂ほか4基建造物保存修理工事」とある。寺の告知によれば、工事は2026年12月まで続く予定だ。
通りを挟んだ向かい側も、白い仮囲いで覆われている。ここが築地二丁目地区の計画地である。仮囲いの掲示を読むと、今進んでいるのは「既存建物等地下解体工事」で、工期は2026年1月5日から2028年4月30日までとされている。地上の建物はすでになく、地下に残る部分を取り除いている段階だ。
新大橋通りを南へ歩いて晴海通りを渡ると、場外市場の路地に人の流れが続いていた。市場が2018年に豊洲へ移った後も、店々は今も通りに並んでいる。その先、隅田川側に広がるのは市場跡地だ。フェンスには大きなマグロの絵と「ようこそ築地へ」の文字が描かれている。
寺と駅前と跡地。歩いて回れる範囲の3ヶ所が、それぞれ別の工事の途中にある。
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(出典)
築地まちづくり株式会社「築地地区まちづくり事業」、日鉄興和不動産・NTT都市開発「築地二丁目地区第一種市街地再開発事業 権利変換計画認可について」、築地本願寺「重要文化財築地本願寺本堂 ほか4基建造物保存修理工事に関しまして」、東京都都市整備局「築地まちづくり」、築地二丁目地区 現地掲示(2026年9月18日撮影)
「権利変換計画の認可」で何が決まったのか
築地二丁目地区第一種市街地再開発事業の施行者は、日鉄興和不動産とNTT都市開発の2社だ。2026年7月29日に東京都知事から権利変換計画の認可を受け、同じ日に国土交通大臣から民間都市再生事業計画の認定も受けた。
権利変換計画は、区域内の土地や建物に権利を持つ人が、完成後のビルのどの床を受け取るのか、あるいは転出して補償を受けるのかを定めた計画である。宅地建物取引士の立場からいえば、この認可は着工でも完成でもない。権利をどう置き換えるかが、知事の認可を受けて決まった段階を指す。この事業は組合をつくらない「個人施行」で、都市再開発法は、認可を申請する前に区域内の権利者から同意を得ることを求めている。
2023年8月に高度利用地区の都市計画決定、2024年7月に施行認可、そして2026年7月に権利変換計画の認可となった。次の節目は2027年2月の新築工事着手で、竣工は2030年11月の予定だ。
建物は地上20階・地下2階で、主な用途は事務所と店舗である。地下鉄の出入口とビルは直結し、リリースには「これまで築地駅に無かった駅前広場を整備します」とある。
区道675号線の無電柱化と歩道の新設も、計画の一部だ。施行者はこの事業を「築地地区における先行開発プロジェクト」と位置づけ、ビルを新たな「築地の顔」と呼んでいる。
現地の掲示には、もう1つの数字があった
高さについて、2026年7月の施行者のリリースは「約110メートル」、竣工は「2030年11月」と記している。一方、仮囲いに掲げられた「建築計画のお知らせ」は2025年12月3日に設置されたもので、高さは「101.98(最高101.98)メートル」、完了予定は「2031年1月31日」と書かれていた。掲示はリリースより半年以上前に出されたものであり、「竣工」と「完了」が同じ時点を指しているとも限らない。2つの関係は、公表されている資料からは確かめられなかった。
(出典)
日鉄興和不動産・NTT都市開発「築地二丁目地区第一種市街地再開発事業 権利変換計画認可について」、e-Gov法令検索「都市再開発法」、東京都都市整備局「築地二丁目地区第一種市街地再開発事業」、築地二丁目地区 現地掲示「建築計画のお知らせ」
19haの跡地は、まだ都市計画の手前にある
市場跡地は、手続きの段階がまったく違う。東京都が事業予定者を決めたのが2024年4月、基本協定を結んだのが2025年3月である。2026年9月3日の中央区議会環境建設委員会には、跡地と周辺を含む約30.8ヘクタールについて、「再開発等促進区を定める地区計画」の手続きを進める方針が報告された。都市計画決定の告示は、2027年3月の予定だ。
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その足元で進むのが、2025年7月に始まった埋蔵文化財の本掘調査である。東京都によれば、明治期の海軍遺構と思われる製鋼炉の底部が出土し、有識者からは、移設して保存するなど一部を重要な遺構として扱うべきだという意見が示されている。2026年7月の発掘現場見学会には、約4,000人が訪れている。
なぜ、ここまで進み方が違うのか。
跡地は東京都が持ち続け、事業者に「定期借地権」を設定して貸し付ける仕組みだ。権利者の同意を得て権利を置き換える駅前と違い、跡地ではその手続きは要らない。その代わりに、19ヘクタールの土地の使い方を都市計画から決め直す必要がある。規模だけでなく手続きの性格の違いが、進み方の差になっていると考えるのが自然だろう。
事業者の資料によれば、暫定施設を除く開業の先頭は2029年度の舟運・シアターホール複合棟で、まちびらき一期が2030年代前半、二期が2030年代後半である。先頭の舟運・シアターホール複合棟は、中央区議会の資料で高さ約50メートル、地上7階とされる。公表されている予定で比べる限り、築地で100メートル級の建物が先に姿を見せるのは、駅前のほうになる。
(出典)
東京都都市整備局「築地まちづくり」、中央区議会環境建設委員会「築地四・五・六丁目地区に係る都市計画について」、築地まちづくり株式会社「築地地区まちづくり事業」
駅側と市場側で、地価の伸びに差がある
駅の周りでは、もう1つの計画も動いた。首都高速都心環状線沿いの築地一丁目地区では、高さ約180メートルと約110メートルの2棟を建てる計画があり、2026年9月8日の東京都都市計画審議会に付議された。内閣府の会議資料によれば、着工は2027年度、竣工は2032年度の予定である。
地価にも、駅側と市場側の違いが出ている。2026年の地価公示で、築地駅から約90メートルの標準地(築地2-14-5)は1m2あたり329万円となり、前年から18.8%上がった。市場跡地に近い標準地(築地5-3-3)は355万円で、上昇率は9.2%だった。中央区の商業地の平均変動率は13.5%である。
2つの地点は立地も規模も異なり、この差を再開発だけで説明することはできない。
それでも、ここで比べた2地点では駅に近い側のほうが大きく伸びた。
住まいの面で押さえておきたいのは、駅前の2つの計画がどちらもオフィスや店舗を中心にしている点だ。築地二丁目の主な用途は事務所と店舗である。一丁目で住宅が入るのは区域約0.4ヘクタールのB街区で、特別養護老人ホームなどの福祉施設と組み合わせる計画だ。東京都の集計では、千代田・中央・港の3区の新設住宅着工戸数は、2025年度に前年度比56.8%減っている。築地二丁目に生まれるのは住戸ではなく、駅前広場や新しい歩道といった、毎日の移動に効く空間である。
(出典)
東京都「第254回東京都都市計画審議会 付議予定案件」、内閣府「都市再生特別地区(築地一丁目地区)都市計画(素案)の概要」、東京都財務局「令和8年地価公示」、東京都「令和8年東京都基準地価格の概要」
築地の顔は、どちら側から変わるのか
2026年9月の時点で、3つの計画の位置ははっきりしている。駅前では権利の置き換え方が決まり、2027年2月の着工を待っている。駅に近い首都高速沿いでも、もう1本の計画が都市計画の審議まで進んだ。そして市場跡地は、都市計画の決定を半年後に控えながら、地下で明治の遺構と向き合っている。
本願寺の保存修理工事は、年内に終わる予定だ。その先、日比谷線を降りてまず目にする築地の景色は、駅前の新しいビルと広場へ変わっていく。隅田川側で19ヘクタールの街が開くのは、もう少し後のことだ。
2つの時計のあいだに挟まれるのが、場外市場の路地である。
先に動くのは駅側で、市場側はその後になる。ここまでは公表資料から読み取れる。まだ見えていないのは、その間の数年で、場外市場と本願寺の街並みがどちらの側に引き寄せられていくのかである。2027年2月の駅前の着工と、その翌月に予定される市場跡地の都市計画決定が、最初の目印となる。
(出典)
築地本願寺「重要文化財築地本願寺本堂 ほか4基建造物保存修理工事に関しまして」、日鉄興和不動産・NTT都市開発「築地二丁目地区第一種市街地再開発事業 権利変換計画認可について」、中央区議会環境建設委員会「築地四・五・六丁目地区に係る都市計画について」















