グリーンレジリエンスとは?

世界でも"自然災害"が多い国の一つといえる日本。
日本の国土は、複数のプレートの境界が接しており、傾斜の大きい急流河川が数多く存在している。また、世界の大規模地震の約2割が発生しているという、世界でも有数の地震国であり、世界の活火山の約1割存在する火山国でもある。また、季節風や海流の影響により四季の変化がはっきりしており、梅雨や台風の発生といった雨の多い気候でもある。こうした地形、気候条件などから地震、津波、洪水、噴火といった自然災害が発生しやすい国土となっているのだ。

国土のおよそ3分の2が森林である日本は、自然災害に対して脆弱な土地にまで居住地を拡大せざるを得なかった。それに伴い、災害防止のための堤防やダムといった人工建造物による社会資本整備や維持管理に多くのコストを要してきたのだ。高度経済成長期以降に集中的に整備されたそうした建造物は、建設後50年を超える施設の割合が今後20年で急激に高くなるという。

そうした中、自然がもつ機能を活用し、緩衝材とすることで、災害による人命や財産への影響を小さくしようとする"グリーン・インフラストラクチャー"が注目されている。
日本国内の例をあげると、林野庁による保安林の保全再生がその一例である。
2011年の東日本大震災では、海岸防災林や砂丘による津波エネルギーの減衰、船などの漂流物を捕捉など、自然がもつ機能を活用した緩衝材として、一定の被害の軽減が確認されたという。保安林は、こうした防災、減災といった機能に加え、平時の際は生物の多様性、景観、教育などの文化的な機能を生み出し、木材利用といった生産的な機能も兼ねている。
自然(グリーン)を利用し、災害などに対して、被害を最小限に留める。また、自然資源を活かしたビジネスモデルの創出など、経済的な側面も含めて迅速な復旧・復興を可能とする強靭(レジリエンス)な国づくりをする。それが"グリーンレジリエンス"という考えである。

2016年5月12日に開催された「グリーンレジリエンスシンポジウム」では、日本の自然環境を活用し、防災・減災や地域創生に資するビジネスモデルの創発についての議論がされ、自治体の先進的な取組み事例や、2016年4月14日に発生した熊本地震に学ぶ”グリーンレジリエンス”の課題が紹介された。今回はその模様をレポートする。

わが国における維持管理・更新費の将来見通し(図:国土交通省 「国土の長期展望」中間とりまとめ)わが国における維持管理・更新費の将来見通し(図:国土交通省 「国土の長期展望」中間とりまとめ)

自然を活用して地域経済を自立させる 人口減少に立ち向かう高知県の取組み

高知県の産業振興の重要な取組みとして、高知県の産業振興の重要な取組みとして、"地産外商による雇用創出"、"移住促進による中山間地域への対策"の二つをあげる高知県知事の尾崎正直氏

自然環境を活かしたビジネスモデル創出に取組む自治体の一つとして注目されているのが高知県である。
この背景には、高知県が平成2年、全国に15年先行して人口自然減に陥り、高齢化については、全国に10年先行して進んでいることがあげられる。国立社会保障・人口問題研究所がまとめた「日本の将来推計人口」では、合計特殊出生率が1.35で推移した場合、100年後の2110年には8,000万人以上の人口が減って総人口が4,000万人台、高齢化率41.3%に至ると推計されている。
県内市場の規模も縮小し、平成9年~19年の10年間で高知県内の消費額は2割減となっている。これは、県内の生産年齢人口にほぼ比例しており、人口減少の影響を直接受けていることがわかる。県内市場に頼った産業構造になっていることが原因だという。

高知県知事の尾崎正直氏は、今後の産業振興の重要な取組みとして、"地産外商による雇用創出"、"移住促進による中山間地域への対策"の二つをあげている。
「経済規模の縮小によって若者が県外に流出すると、ますます過疎化・高齢化が進行し、特に中山間地域が衰退。少子化が加速し、さらに人口が減少するという悪循環となる。下請け企業の多い高知県においては、地元のものを地元で消費するだけでは、縮小の一途をたどっていくのみ。いかに県外から稼ぐかという"地産外商"が必要なのです。特に、高知県が日本一である84%という広い森林面積割合や、ゆず、ニラ、しょうが等の農産物出荷量といった強みを活かしていきたい」と語った。
高知県では、こうした外商を強化するため、官民協働によって、県外に売り込みを行う高知県地産外商公社や外商センターといったプラットフォームを設置している。

「私たちの強みの源泉は、高知市内ではなく第一次産業を生みだす"中山間地域"にある。ここから真っ先に人がいなくなってしまったため、私達は競争力を失ってしまいました。災害の多い海辺や山辺こそ過疎化している現実に対し、森林の育成をするということは、間伐の推進、土砂災害の防止につながり、同時に国土強靭化の観点から地方創生に資する、またその反対に、地方創生の取組みがそのまま国土強靭化に資すると考えており、"国土強靭化"と"地方創生"のつながりは極めて大きなものがある」と語った。

熊本地震の実体験から学ぶ グリーンレジリエンスを活用するための課題とは?

「グリーンレジリエンスの課題と展望」と題されたパネルディスカッションに登壇したパネリストの九州大学大学院工学研究院 教授島谷幸宏氏は、2016年4月14日に起こった熊本地震で実家が被災したという。
島谷氏は、「熊本の地震の復興を実際に体験し、自然資本は災害時に非常に役に立つと感じたと同時に、これらを日頃から使えるようにしておくことが重要だと感じました」とグリーンレジリエンスを活用する課題を語り、災害時に必要だと感じた6つの項目を説明した。

[1]自然の水を活用すること(ブルー・ストック)
断水時、避難所や家庭で利用できる雨水を貯めておくこと。また湧き水なども非常用の貴重な水源となるため、事前にその場所、確保が必要。
[2]自然資源や食料、燃料の活用(グリーン・ストック)
家庭内にある食料や、農地や家庭菜園の食料を上手に活用する。今回の熊本地震では、まちや家の中にたくさんの食料が存在していたにも関わらず、うまく活用されていなかった。
[3]自然資源を活用した減災(グリーン・リダクション)
熊本地震ではブロック塀の倒壊による交通の遮断や被害が多かったものの、生垣などの倒壊は見られなかった。また、地域住民が集まることのできる公開緑地の必要性。
[4]自然資源を活用しやすくするための環境づくり(レジリエンス・ネットワーク)
自然資源を活用するための知恵を共有する人々の連携、連携を図るための拠点形成、さらにはそれらを結ぶ移動手段の確保が必要。
[5]グリーンレジリエンスを支えるための技術(レジリエンス・テクノロジー)
災害時には自立型の太陽光発電や、雨水の浄水器など、分散型、自立型の技術が必要。
[6]自然資源を活用するための訓練(サバイバルトレーニング)
災害時に自然資源を活用するための防災教育が必要。

パネルディスカッションでは、自治体や民間企業などが登壇し、それぞれの立場から、</BR>自然資源を活用した防災・減災の在り方について議論がされた</BR>※左から5番目が九州大学大学院工学研究院 教授島谷幸宏氏パネルディスカッションでは、自治体や民間企業などが登壇し、それぞれの立場から、
自然資源を活用した防災・減災の在り方について議論がされた
※左から5番目が九州大学大学院工学研究院 教授島谷幸宏氏

自治体に求められる「独立性」 石破茂地方創生担当大臣による特別講演

石破茂地方創生担当大臣による特別講演石破茂地方創生担当大臣による特別講演

今回のシンポジウムでは、特別講演として石破茂地方創生担当大臣が登壇した。「グリーンレジリエンス」に対する考えについて語った。

「私はこの国を、なんとか持続可能な国にしたいと思っている。横文字でいえば"サスティナブル"な国にしたいということでありまして、もうこのままいくとこの国は"サスティナブル(持続可能性)"を失います。
例えば、現在日本の人口は1億2,700万人ですが、このままの出生数、死亡数がずっと続くと、西暦2100年には5,200万人、今の半分以下になるのです。300年経つと423万人と今の30分の1になります。そして、西暦2900年になると日本人は4千人になり、西暦3000年になると1千人になり、やがてこの国はなくなっている。今のままいけば間違いなくそうなります。これを止めなければいけないのです。
農林水産業をはじめとする山や海など、今を生きる我々は100年先に200年先に、責任を持たなければなりません。
今まで日本は、経済が成長する、人口が増える、そして土地の値段が上がる、少子高齢化と反対の現象が続いていたからサスティナブルだったのであって、今やそれは全部崩れています。政策の立て方、従来の手法を根底から変えないと、日本はサスティナブルではなくなってしまう。

そしてもう一つのキーワードは、『インディペンデント(独立性)』です。今まで自治体は、ある意味で国の言うとおりにやってきた。しかしこれから先、本当にそれでいいのだろうか?ということです。独立性のある地域をどうやってつくっていくか。
地方創生担当大臣をやる中で、『サスティナブル』、『インディペンデント』という二つのキーワードが重要だと、確信に近いものを感じています。」

自然資源を利用した防災の知恵を未来に伝える

「グリーンレジリエンス」という言葉自体、まだ聞き慣れない言葉だろうが、自然の力を活用して防災、減災を考えること自体は、新しい概念ではない。
歴史を振り返ると、江戸幕府は「諸国山川の掟」により、下流の治水を目的として、上流域の森林の開発を制限しており、徳川時代には、立木の伐採を制限する留林(とめばやし)、水止山(みずどめやま)などと呼ばれる森林が全国に設けられていた。
また、木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)下流における「輪中」では、自然堤防により洪水といった水害から土地を守りつつ、低湿地という特性を活かして農耕を行っていることが知られている。
先人たちは、災害の教訓から、地域の生態系を保ちつつ活用することで、災害を未然に防ぎ、災害を前提とした土地利用や暮らし方など、様々な知恵を蓄積してきたといえる。

将来に渡り、大規模な自然災害の発生リスクが予測されている日本。過去から受け継がれてきた災害との向き合い方や知恵を学び、地域の安全と暮らしの豊かさの両立を考えていく必要があるのではないだろうか。

2016年 06月29日 11時08分