テクノロジーをベースに2社が取組む「おとり広告」の撲滅

コロナ禍の影響もあり、急速に社会のデジタル化が進んでいる。
不動産業界でも家電とスマートスピーカーを連携させるIoTマンションなどが登場しているが、業界全体を眺めてみると、まだまだ紙や電話やFAXが横行するなどIT化に遅れをとる印象が否めない。しかし、このところITを活用し、旧態依然の慣習を改めようとする動きも活発になっている。

例えばそのひとつが、いわゆる「不動産のおとり広告」排除の取り組みだ。
不動産のおとり広告とは、広告を行う不動産会社による故意過失を問わず、すでに募集が終了しているにもかかわらず、広告を継続する事を指す。

株式会社 LIFULLでは、以前より『LIFULL HOME’S』掲載物件に対して、やみくもに調査をするのではなく、
AIやLIFULL HOME'Sのビッグデータを活用して調査を行い、情報精度を高めてきた。さらに今回、賃貸物件の空室情報をAIが自動応答する物件確認サービスを利用する三菱地所ハウスネット 株式会社から情報を提供してもらい自動非掲載にする仕組みを整えた。

この三菱地所ハウスネットが採用しているのが、不動産テック企業の株式会社 ライナフが提供する「スマート物確」。LIFULLもライナフもテクノロジーをベースに業界変革に取組み、より良い社会を目指す企業だ。

今回は、ライナフの代表取締役 滝沢 潔氏とLIFULLの取締役執行役員 LIFULL HOME'S事業本部長の伊東 祐司氏が対談で語った現状の不動産業界の課題とその対策、そして両社が目指すビジョンを紹介する。

写真左)株式会社ライナフ代表取締役 滝沢氏 写真右)株式会社LIFULL 取締役執行役員 LIFULL HOME'S事業本部長 伊東氏写真左)株式会社ライナフ代表取締役 滝沢氏 写真右)株式会社LIFULL 取締役執行役員 LIFULL HOME'S事業本部長 伊東氏

AIを活用し、募集終了物件の自動非掲載を実現

<b>滝沢 潔:</b>1982年生まれ。神奈川県出身。三井住友信託銀行で資産運用相談、不動産投資セミナーの講師などに従事した後、不動産向けシステム開発会社の株式会社ライナフを設立。不動産投資を24歳から始め、4棟のビル・マンションのオーナーとなる。1級FP技能士、不動産証券化協会認定マスター、不動産テック協会理事。滝沢 潔:1982年生まれ。神奈川県出身。三井住友信託銀行で資産運用相談、不動産投資セミナーの講師などに従事した後、不動産向けシステム開発会社の株式会社ライナフを設立。不動産投資を24歳から始め、4棟のビル・マンションのオーナーとなる。1級FP技能士、不動産証券化協会認定マスター、不動産テック協会理事。

伊東氏:LIFULLでは、いわゆる「おとり広告」の問題に対応するために、管理会社から物件情報を提供いただき、システム内で照合して、いち早く募集終了物件の自動非掲載を実現することを行っています。また、その運用に協力いただける企業を募っています。今回、物件の空室情報をAIが自動応答するライナフさんの物件確認サービス「スマート物確」を活用される三菱地所ハウスネットに物件情報をいただくことができました。その仕組みづくりの際には、御社には多大なるご協力をいただけたのですが、どのような思いでご協力が可能になったのか、お話しいただけますでしょうか?

滝沢氏:もともと、自分の生きる意味を探す中で若い時から「人の役に立つ」ということが存在意義になっていました。最初は教師になろうとしていたのですが、学生時代に家電量販店でアルバイトをしたところ、パソコンのセールスで1億円以上を売り上げてしまって、大学生なのに企業セミナーに講師として呼ばれたりしてたんです。その時に世の中を良くするというのは民間企業の方がやりやすいのではないかと思ったんですね。そこから不動産会社や三井住友信託銀行で不動産投資の経験を積んでライナフを2014年に立ち上げました。社是は「誰も踏み出さなかった一歩を。その一歩を、社会の進歩に。」ということで、根底には社会をよりよくしたいという思いがあります。

伊東氏:そういう意味では、当社も代表の井上がディベロッパー時代に住まいを探している方が不動産情報にうまくアクセスできず情報の非対称性があると強く感じたことから、弊社を起業したという経緯があります。社是に「利他主義」を掲げる通り、自社の利益のみを考えるのではなく、広く社会の変革、ユーザーやステークホルダー全員がより良くあるため、企業活動を位置付けています。ライナフさんも志を同じくされていると感じています。

滝沢氏:今回、自動非掲載の取り組みを御社で推進すると聞いたときは、正直意外な気がしました。本当のことを言ってしまえば、おとり広告を撲滅することは、物件数に左右される部分もある御社の収益形態としては、あまりプラスにはなりません。それが「なくなるべきである」というあるべき論で検討されて実行された点では、さすがだなと感じていました。

<b>滝沢 潔:</b>1982年生まれ。神奈川県出身。三井住友信託銀行で資産運用相談、不動産投資セミナーの講師などに従事した後、不動産向けシステム開発会社の株式会社ライナフを設立。不動産投資を24歳から始め、4棟のビル・マンションのオーナーとなる。1級FP技能士、不動産証券化協会認定マスター、不動産テック協会理事。おとり広告をなくすための物件照合の仕組み

不動産共通IDが業界の未来を変える

<b>伊東 祐司:</b>大学卒業後、2006年株式会社ネクスト(現LIFULL)に入社。2015年に最年少の32歳で執行役員就任。2019年、LIFULL HOME’S事業本部長に、2020年12月に取締役に就任した。事業責任者として不動産業界が抱える社会問題の解決に向けて積極的に取組んでいる。伊東 祐司:大学卒業後、2006年株式会社ネクスト(現LIFULL)に入社。2015年に最年少の32歳で執行役員就任。2019年、LIFULL HOME’S事業本部長に、2020年12月に取締役に就任した。事業責任者として不動産業界が抱える社会問題の解決に向けて積極的に取組んでいる。

伊東氏:どうしても賃貸のサイトとなると、物件情報数の勝負のところがあります。ですが、たくさんあればあるほど間違った情報の割合も増えてくる。一番その間違いでがっかりするのは物件を探しているユーザーですから、是正していきたいという思いで手作業で確認作業をしてきました。ですが、それも限界がありますし、非常にコストもかかります。自動で物件情報をあるべき姿に精査できるのは非常にありがたいです。またここ数年は、業界の透明性を上げて、真摯にユーザーと向き合わなければいけないと考える経営者や管理会社が増えているようにも感じています。

滝沢氏:ただ、自動といっても、名寄せは必要ですし、賃貸物件の名称や住所は、結構まちまちに表記されますよね。名称に「・」が入っていたり、いなかったり。また、住所も最後の番地まで入っているか、いないかなど。そういったところも含めて、きちんと名寄せできる仕組みがあるLIFULLは凄いと思っています。

伊東氏:当社では、過去物件のアーカイブの仕組みがありますので、それを活用しています。もともと当社では2006年ぐらいから物件情報の透明性や利便性をあげていくため、物件情報のデータベース化、整備、活用が必要だと考えてきました。

滝沢氏:まさに、情報の一元化、物件IDの統一というのは目指すところですよね。それをなくして不動産業界のこれからの成長はないのでは、と思っています。現在、不動産テック協会の理事として「不動産共通ID」を進めています。これまでも国や企業が共通IDの整備を試みていたのですが、結局頓挫してしまっています。これについては、僕が生きている限り絶対やり切ろうと決意し、動き始めています。

伊東氏:当社も同じ思いです。我々の持っているデータも活用しながら、オープンな取り組みに協力していくつもりです。我々の見ている景色と他の業態から見ている景色は違うと思うので、かけ合わせれば、新しいサービスも生み出せるでしょうし、業界全体の効率化にもつながるはずです。

滝沢氏:不動産共通IDが活用できるのは、不動産だけではなくなっていくと思います。例えば、銀行のローンや損害保険などもIDと連動できると事務手続きコストを下げることもできるはずです。

伊東氏:IDが整備されその先に様々な情報が紐づけば、物件に紐づいた情報が経年で蓄積されていくことが考えられます。そのことにより、物件の価値、例えば管理状況など含め違いが出てくる世界が作れるのではと感じています。
日本の不動産の減価償却の考え方は、例えば戸建て住宅の場合約20年経過すると建物価値がゼロになる。単に一律に減価償却するのではなく、個々の物件の管理、修繕状況により物件によって物件価値に差が出てきて良いと思っています。修繕状況や管理状況などもデータで一元管理の上可視化することができれば、物件個々の価値を再評価できますし、そのことにより中古市場がきちんと活性化できる可能性がありますよね。

滝沢氏:そうなんですよ。ただ、既得権益のところでは、"情報を出したくない"という動きも出てくるはずです。そういう意味でどちらにもメリットが生まれるようなインセンティブ設計は必要だと思います。情報がオープンになっている方が売れる、となれば動きが変わってきますよね。

伊東氏:情報の透明性が購入者の信頼に繋がり、流動性が高まっていく市場になると良いですよね。

セルフ内見など、さまざまな協業も視野に

伊東氏:大きな話にもなりましたが、当社もライナフも不動産業界の未来を真剣に考え、よりよい社会を目指しています。そういった思いが通じる2社だからこそ、今回の空室情報の自動非掲載の取り組みに限らず、タッグを組めることは多いと考えています。

滝沢氏:そうですね。当社では現在Amazonの認定パートナーとして「置き配」を可能にする自動施錠入館システム「Key for Business」を無償提供しています。同時に当社のスマートエントランス製品の「NinjaEntrance(ニンジャエントランス)」の無償提供を行っています。もともと本体価格が数十万円、また月額利用料がかかるサービスですが、Amazonとの連携によって、当社としても本体のデバイス代金や工事費について、無償で提供できるようになりました。NinjaEntranceは顔認証も可能ですし、IoT製品と組み合わせて非対面の内覧なども可能になってきます。

伊東氏:1人暮らしで、宅配ボックス、置き配どちらもないというのは今の時代、非常に辛いですよね。現在は、宅配ボックスの有無も物件の設備情報として掲載していますが、そのうちオートロックマンションでの「置き配」の可否情報も必要になってきそうですね。

滝沢氏:あとは、セルフ内見の普及もいよいよできるのではないか、と思っています。いままでセルフ内見のためだけにスマートロックを設置することは、コスト上の問題で実現できませんでした。しかし、それこそAmazonとの取組みにより無償提供が可能になってきたので、可能性を感じています。

伊東氏:スマートロックも確かに置き配などのソリューションと組み合わせると、今後普及が加速してきそうですね。そしてエントランスの解除が自動でできるようになると空室物件の内見もスムーズになったり、鍵の明け渡しも必要なく効率も一気に上がりそうですね。今後の発展が楽しみです。ぜひ、これからも新しい時代の不動産業界を目指して、お互い協力していきたいと思います。
本日は、ありがとうございました。

セルフ内見など、さまざまな協業も視野に
セルフ内見など、さまざまな協業も視野に「置き配」の仕組み
セルフ内見など、さまざまな協業も視野に2021年7月19日 LIFULL本社にて

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