禁止されている「おとり広告」とは?

不動産の広告表示ルールについては、不動産公正取引協議会が定め、遵守を求めている
不動産の広告表示ルールについては、不動産公正取引協議会が定め、遵守を求めている

売買であれ賃貸であれ、不動産の物件情報に関する最初の入り口は広告だ。物件情報誌や折込みチラシの物件広告はもちろんのこと、不動産ポータルサイトの検索結果として表示される物件一覧も広告の一つである。広告の目的は顧客を誘引して契約に結びつけることだが、当然ながらそこに嘘があってはいけない。

不動産の広告表示については、不動産公正取引協議会(首都圏、北海道、東北、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州の各地区に設立)が「不動産の表示に関する公正競争規約」「同施行規則」「同実施細則」などによって細かくルールを定め、不動産会社だけでなく広告会社、広告媒体社、インターネットサイト運営者などにも遵守を求めている。

大半の不動産会社が所属する業界団体はいずれも不動産公正取引協議会の会員となっており、個々の不動産会社も団体に加入することによって自動的に不動産公正取引協議会の加盟店となる仕組みである。一部には非加盟の不動産会社や広告会社などもあるが、例外的な存在だと考えてよいだろう。

その「不動産の表示に関する公正競争規約」では、不当な二重価格表示、おとり広告、不当な比較広告、その他の不当表示(物件の内容や取引条件などについて実際のものよりも優良であると誤認されるおそれのある表示など)を禁止しているが、とくに違反件数が多く問題視されているのが「おとり広告」だ。

公正競争規約では「おとり広告」について次のように定義している。
□ 物件が存在しないため、実際には取引することができない物件に関する表示
□ 物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示
□ 物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件に関する表示

今回は「おとり広告」の現状や、それを掲載するポータルサイト側の防止対策などについて考えてみることにしよう。

「おとり広告」による処分は後を絶たない

まず「おとり広告」がどれくらい存在するのか気になるところだが、詳細な集計データなどは公表されていない。そこで公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県、山梨県)がまとめた2016年の措置内容を確認してみた。

1年間のうちに厳重警告や違約金の処分を受けた不動産会社は61社にのぼり、このうち52社が「おとり広告」によるものだ。ただし「おとり広告」だけという例は少なく、たいていは取引内容・取引条件の不当表示や、必要な表示事項の漏れなど複数の違反を重ねている。

そして「おとり広告」で処分された52社のうち、賃貸物件に関するものが41社、売買物件に関するものが11社だった。広告物件数そのものの違いもあるため一概にはいえないが、「おとり広告」は賃貸物件がかなりの割合を占める。また、処分を受けた事例のほとんどは不動産情報サイトや自社ホームページなど、インターネット広告によるものである。

処分事例をみると、成約後も更新を繰り返して数ケ月間にわたり掲載を継続していたものが多いほか、すでに入居している物件を新規登録したもの、実際の賃料よりも著しく安く掲載して「取引する意思がない」とみなされたものなどもあるようだ。

しかし、不動産公正取引協議会が処分に踏み切るのは「違反の程度が重大」と判断された場合に限られる。処分を受ける不動産会社は毎年、数十社にのぼるようだが、これは氷山の一角だと考えるべきかもしれない。

「おとり広告」の排除、撲滅が重要な課題に

「おとり広告」の存在はサイトの信頼性を損なうことにもなるため、各ポータルサイトは排除、撲滅に務めている「おとり広告」の存在はサイトの信頼性を損なうことにもなるため、各ポータルサイトは排除、撲滅に務めている

もちろん不動産情報サイトの運営会社も「おとり広告」を放置しているわけではない。

「おとり広告」の存在はサイトの信頼性を損なうことにもなるため、「おとり広告」の排除、撲滅は重要な課題だ。そこで、公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会の中に「ポータルサイト広告適正化部会」を設置(2012年3月)し、さまざまな取組みを行っている。

ポータルサイト広告適正化部会のメンバーは次の5社だ(2017年1月現在)。
□ アットホーム株式会社(at home)
□ 株式会社CHINTAI(CHINTAI)
□ 株式会社ネクスト(HOME’S)
□ 株式会社マイナビ(マイナビ賃貸)
□ 株式会社リクルート住まいカンパニー(SUUMO)

ポータルサイト広告適正化部会ではこれまでも違反情報を共有して「おとり広告」や不当表示などを削除してきたが、2016年11月16日に新たな対応を発表した。悪質な広告によって首都圏不動産公正取引協議会から厳重警告や違約金の処分を受けた不動産会社に対し、それぞれの不動産情報サイトへの広告掲載を原則として1ケ月間以上停止するものだ。

この措置は2017年1月にスタートしたが、悪質な「おとり広告」などを繰り返す不動産会社はインターネット広告を使わなければ集客できないケースが多く、どの主要サイトにも掲載できないことによる抑止効果は大きいとみられている。

ただし、今回の措置の対象となるのは公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会が管轄する10都県の約5万5千社である。そのため、他の道府県を含む全国への対応として国土交通省不動産業課長は2016年11月29日に「おとり広告の禁止に関する注意喚起等について」と題した文書を各業界団体の長あてに発した。「おとり広告」が宅地建物取引業法の規定に抵触することを周知し、法令遵守の徹底を求めるものだ。

不動産ポータルサイトが抱える課題は?

年度末の2月、3月は賃貸物件の取引も多くなる時期だが、今回の措置を含めて不動産情報サイトを運営する側ではどのように取組んでいるのだろうか。ポータルサイト広告適正化部会の構成メンバーでもある株式会社ネクストの担当者にお話を伺った。

「おとり広告」の現状はどうなのだろうか。
「サイトに掲載している物件について『内容が違う』『既に契約済みだ』などといった問合せや通報が、HOME’S、SUUMO、at homeの3社を合わせて全国で年間1万件を超えています。しかし、その9割以上は掲載情報をメンテナンスするタイミングが遅いなどの理由によるもので、成約したらすぐに削除するという意識を高めてもらうことによって改善が可能だと考えています」

物件掲載数が800万件超(HOME’S:2017年1月)であることを考えれば、問題があるものは1%に満たないようだ。さらに、そのうち悪質な「おとり広告」は1割未満のようだが、消費者にとっては区別することができず苦情も多いのではないだろうか。
「問合せや通報の大半は不動産同業他社や管理会社からのもので、消費者から苦情が寄せられるケースはごくわずかです」

大半の不動産会社は広告のルールを守っている。意図的に「おとり広告」をする会社はごく一部であり、業界内の自浄作用にも期待したい。

これまで「おとり広告」に対してどのように取組んできたのだろうか。
「通報があった物件に関してはいくつかの資料を付き合わせて確認するほか、実際に現地へ行って調査することもありました。そこで悪質だと判断された会社については掲載を停止したり、サイトとの契約を解除したりしています」
「しかし、1社で契約を解除しても他社のサイトには引き続き掲載されるなど、ポータルサイト単体での対応ではいたちごっこになっていたため、ポータルサイト広告適正化部会で悪質な会社の情報を共有するなどして対応を進めることにしました」

今後の課題についてはどのように考えているのだろうか。
「それぞれの不動産会社に広告の適正化に努めてもらうことはもちろんですが、それだけで『おとり広告』をなくすことはできません。そもそも掲載された物件が空室なのか、存在するのかといった情報やデータを集積していくことも必要です。2016年11月には楽天株式会社および公益社団法人日本賃貸住宅管理協会と共同で、不正注文防止やおとり物件対策を目的とした取組みを始めました」
「不動産業界の枠組みにとらわれず住まいに関わるさまざまな業種と連携することで、『おとり広告』の防止や、情報の更新漏れの排除につなげたいと考えています。ただし、ポータルサイト広告適正化部会による対応はまだ首都圏にとどまるため、これをどう全国に広げていくのかも今後の課題です」

消費者はどう対応すればよいのか

成約物件の情報削除が数日遅れたようなケースは別として、「おとり広告」は集客”だけ”を目的に行われるものだ。それを見て問合せをしてきた客の住所や氏名を聞き出したり来店させたりしたうえで、違う物件の契約に結びつけようとする。

それで本当に納得できる物件にめぐり合うことができれば実害はないともいえるが、不正な手段で集客しようとする不動産会社が、それ以外の場面で誠実な業務を行うかどうかはよく考えてみるべきだろう。

消費者の立場から「おとり広告」を見抜くことは難しい場合も多いだろうが、周囲の他の物件よりも条件が優れているのにもかかわらずいつまでも掲載されている、あるいは問合せをした後に違う物件ばかり熱心に勧めてくるようなときには注意が必要だ。相場よりも賃料や売買価格が安いのであれば、その理由もしっかり聞いてみよう。

営業担当者の態度を観察することも心がけたい。「おとり広告」に振り回されないためには、信頼できる営業担当者を見極めることも必要だ。

信頼できる会社、営業、情報を見極めることを消費者自身が認識することも必要信頼できる会社、営業、情報を見極めることを消費者自身が認識することも必要

2017年 02月13日 11時05分