今では入手困難、美術工芸品の宝庫

「迎賓館赤坂離宮」本館・和風別館をアテンドいただいた内閣府 迎賓館 渡辺誠一氏「迎賓館赤坂離宮」本館・和風別館をアテンドいただいた内閣府 迎賓館 渡辺誠一氏

前回記事「【迎賓館赤坂離宮①】その豪華さゆえに数奇な運命を辿った白亜の宮殿」では、「迎賓館赤坂離宮」創建にかけた明治の巨匠たちの情熱、時代の要請とともに役割を変えながら現在に至ったその歴史を紹介した。

東宮御所として、当時の日本が西洋の列強諸国に肩を並べるため渾身の力を込め、一切の妥協を許さず造り上げた宮殿。その意志と絢爛豪華な装飾は、迎賓館赤坂離宮となった今も変わらない。室内には国内外の家具や美術工芸品が並ぶが、その多くが今では入手することが困難なほど貴重な品だ。

その場に立てば、日常とはかけ離れた世界を体験できる。今回は、通常の一般公開では撮影が禁止となる迎賓館赤坂離宮の室内を紹介しよう。内閣府 迎賓館 渡辺誠一氏にアテンドいただいた。

迎賓館赤坂離宮は大理石の宝庫?

重厚な花崗岩で覆われた地下1階、地上2階建ての宮殿…完全なるシンメトリーで両翼を広げたようなアーチ形の中央にその正面玄関はある。ネオ・バロック様式を採用した外観はまるで日本とは思えない西洋の宮殿のイメージそのままだ。しかしよく目を凝らしてみると、その中にも日本的なモチーフが見え隠れする。少し離れて屋根を見ると、そこには青銅製の鎧姿の武士像が雄々しく二体天からこの館を見守っている。まるで阿吽を結ぶ仁王のように一体は口を開け、もう一体はきつく口を結ぶ。もちろん、正面には菊花のご紋章があり、周りには旭日章のレリーフや桐の葉のご紋章なども見受けられる。

重厚かつどこか気高さを感じさせる玄関の扉を開けると、そこは黒と白の大理石の上にレッドカーペットが敷かれた「玄関ホール」だ。日本風に言えば市松模様だが、西洋ではチェック模様であり「ヴェルサイユ宮殿」にも採用される。幾分シックに抑えられた空間だからこそ、深紅のカーペットが映える。

そして、玄関ホールの先には2階の小ホールへ導く中央階段が続く。この1階から見上げた情景が圧巻だ。小ホールの天井はアーチ型に美しいフォルムをつくり贅沢なほどに金箔で彩られる。8台の大燭台が左右を連ね、その先には煌びやかなシャンデリアが天井から降りる。中央階段の両壁面も単なる壁ではなく、まるで宝石のように輝く紅色の大理石「ルージュ・ド・フランス」が光を反射させる。中央階段の空間をしたから見上げた感触は、オーストリア・ウィーンの「王立劇場大階段室」の構成に似ているそうだ。

渡辺氏によれば、「迎賓館赤坂離宮は、大理石の宝庫」という。先ほどの中央階段壁面のルージュ・ド・フランスは、元のフランス産の緑色の大理石の損傷が激しく改修時に替えられたものというが、創建時の大理石の貴重な柱も多く残っているという。

その言葉の通り、中央階段を上がった大ホールには8本の立派な大理石の柱が並ぶ。これはイタリア産のブレッシュ・ビオレットという紫斑紋が美しい石なのだが、なんと1本丸彫りがされているそうだ。渡辺氏も「これだけ巨大な大理石を丸彫りするのは、今は無理に等しい」と言葉を続ける。しかも、こんなことも教えてもらえた。

「実は手前にある2本は、一見ほかの大理石の柱を同じように見えますが、スタッコと呼ばれる模造大理石です。これも創建当初に造られたもので、これだけの人工物を造れる技術力を世界に見せることが目的だったのでしょう」(渡辺氏)

このほか、中央階段をとりまく小ホールの南側には「朝日」の絵画が、北側には「夕日」の絵画が飾られる。これは階段を上りこれから宮殿に入る方には朝日での出迎え、階段を下る来賓には夕日でお見送りをという日本人らしい心配りのある演出である。

本館外観:天井には、左右に阿吽の武士像が見守る(写真左上)。中央階段からホールを眺める景観は圧巻、きらびやかな世界へ足を踏み入れる期待に胸が躍る(写真右)</br>小ホール:手前が人工の大理石、奥に見えるのが本物だがほとんど見分けはつかない(写真左下)本館外観:天井には、左右に阿吽の武士像が見守る(写真左上)。中央階段からホールを眺める景観は圧巻、きらびやかな世界へ足を踏み入れる期待に胸が躍る(写真右)
小ホール:手前が人工の大理石、奥に見えるのが本物だがほとんど見分けはつかない(写真左下)

ナポレオン一世の野外遠征をモチーフに?

正面玄関から中央階段を経て大ホールを抜けると「朝日の間」だ。何故「朝日の間」なのだろうか? それは圧倒的な天井絵画がそのカギを握る。天井絵画では、朝日を背に受けた暁の女神オーロラ(人々に明かりと希望をもたらすローマ神話の女神)が、左手に月桂樹の枝を持ち、白馬4頭にひかせた車で颯爽と駆け抜けている姿が描かれているのだ。どこか日本のアマテラスを彷彿とさせる。

この部屋は、創建当初は「第一客室」と呼ばれ、ヨーロッパの宮殿でいう謁見の間にあたるそうだ。現在は国公賓用のサロン(客間・応接室)として利用され渡辺氏の説明によれば「部屋の片隅に並べられた椅子は、謁見をするように向きあっている」という。室内装飾はフランス18世紀末様式が採用され、椅子を含めこの部屋にある家具は建設当初フランスから輸入した調度品であるという。いずれも大切に修復され、今にその歴史を伝えてくれる。

そのほか、ここでもノルウェー産の見事な大理石の柱が天井を支え、壁の美術織物には京都西陣の金華山織で濃い緑色のビロードが謁見の間という格調の高さを表現する。この金華山織は遜色が激しかったため、昭和の改修の際に復元され、当時の様子を我々に感じさせてくれている。

床には、桜の花が散ったかのような図案の緞通(だんつう:パイル糸で厚みと模様を出す絨毯)があるが、これは、天井絵画の端に添えられた桜の花弁が床に舞い散った様子を表現しているそうだ。こんなところにも日本人のきめ細やかな感性がうかがえる。

さて、次に正面玄関の真上にあたるのが「彩鸞の間(さいらんのま)」だ。「第二客室」と呼ばれたこの部屋が現在は、晩餐会会場の控えの間として利用され、国公賓のテレビインタビューや調印式などが行われている。

一風変わったどことなくエキゾチックな香りのする内装だ。それもそのはず、装飾は19世紀初頭ナポレオン一世の時代にフランスで流行したアンピール様式だという。

「壁のレリーフには、ホルン、スフィンクスといった日本では見慣れない象徴が使われているほか、天井はアーチ型の楕円形です。中心から放射状に走った筋があるのは、戦場に張ったテントを思わせるもの。ナポレオンの遠征がモチーフにされています」(渡辺氏)

こちらのお部屋の家具もまた豪華な印象を与えてくれる。テーブルの脚はライオンの脚を表現するなど細工が細かい。また壁には10枚の大鏡が置かれているため、鏡の向こうにもシャンデリアが連綿と続き、部屋を実際よりも広くゴージャスに見せる工夫がなされているそうだ。

朝日の間:華やかさというよりは格調高さがうかがえる。家具も創建当時のものを丁寧に修繕しながら今に伝える(写真左上)。この部屋の由来となった暁の女神オーロラの天井絵画(写真右上)</br>彩鸞の間:エキゾチックな雰囲気が漂う部屋(写真左下)壁のレリーフにはエジプトのモチーフも(写真右下)。天井は野外に張った天蓋をモチーフにしたもの(写真右下)朝日の間:華やかさというよりは格調高さがうかがえる。家具も創建当時のものを丁寧に修繕しながら今に伝える(写真左上)。この部屋の由来となった暁の女神オーロラの天井絵画(写真右上)
彩鸞の間:エキゾチックな雰囲気が漂う部屋(写真左下)壁のレリーフにはエジプトのモチーフも(写真右下)。天井は野外に張った天蓋をモチーフにしたもの(写真右下)

国宝級の七宝焼に囲まれた晩餐会場

一方で、また重厚な魅力を見せてくれるのが「花鳥の間」だ。ここでは現在公式晩餐会が開かれる。昭和61年(1986年)、平成5年(1993年)に開催された「主要国首脳会議」の会場にもなっている。

晩餐会会場となる花鳥の間は、華やかというよりは、どこか厳かという雰囲気が漂う。内装の様式は16世紀のフランスのアンリ―二世の時代を中心にした時代の「アンリ―二世様式」となるそうだ。フランス革命のはるか200年ほど前、フランスにおけるルネッサンス様式ともいえる。

しかしこの花鳥の間の最大の見どころは、壁に30面飾られた七宝の額だ。さまざまな鳥の姿とその鳥にふさわしい花や草木が描かれている。この下絵を描いたのは明治11年(1878年)にパリの国際博覧会に日本を代表して出品した渡辺省亭。七宝の焼成には名工・涛川惣助が携わった。間近で見ると焼き物とは思えないその色鮮やかな質感に驚く。技術力も高く、名のある画家と名工が作り上げた作品は、今では作ることのできない大変な価値のものだという。

「実はこの花鳥の間は、戦後国立国会図書館としても使われ、禁煙でなかったこともありひどく損傷が認められました。昭和の改修の際に東京芸術大学教授 田中勇氏の指揮の下、洗浄研磨によりかつての美しさを取り戻したのです」(渡辺氏)

そして舞踏室と呼ばれていたのが「羽衣の間(はごろものま)」だ。天井には謡曲『羽衣』の一節「虚空に花ふり音楽聞え、霊香四方に薫ず」を描いた雄大な絵画がこの部屋の由来だそうだ。絵画には羽衣が描かれているが天女の姿はない。渡辺氏曰くその理由は「天女はここで踊る着飾った女性」だからだという。なんともにくい演出だ。

この部屋では、主要国首脳会議の全体会合なども開かれ、カーター米国大統領、サッチャー英国大統領が席を囲む写真が飾られている。

[花鳥の間]晩餐会場になる重厚な雰囲気(写真左上)。この部屋には30点の七宝が飾られる。とても七宝とは思えないほどの質感だ(写真左下)。花鳥の間の天井にはイノシシやウサギなどいわゆるジビエになるような野生鳥獣が描かれる(写真左下)。[羽衣の間]は舞踏室と呼ばれる(写真右上)。天井壁画には羽衣は描かれるが天女の姿はない(写真右下)[花鳥の間]晩餐会場になる重厚な雰囲気(写真左上)。この部屋には30点の七宝が飾られる。とても七宝とは思えないほどの質感だ(写真左下)。花鳥の間の天井にはイノシシやウサギなどいわゆるジビエになるような野生鳥獣が描かれる(写真左下)。[羽衣の間]は舞踏室と呼ばれる(写真右上)。天井壁画には羽衣は描かれるが天女の姿はない(写真右下)

和室別館は、和の日本美を追求する場

迎賓館赤坂離宮には、実は昭和の改修時に新しく建てられた和風別館がある。その名も「游心亭(ゆうしんてい)」だ。設計は現在の東宮御所を手掛けた谷口吉郎氏。畳敷きで掘りこたつのある主和室、茶室、即席料理室からなり、洋風の本館とはまったく趣きは異なる。外国のお客様が日本美を感じていただける空間で、特に即席料理室ではカウンターもあり、天ぷらや寿司などで来客を喜ばせる。

見どころはなんといっても主和室からの戸外の眺めだ。青々とした日本庭園の美しさに、大きく広がる池。しかもそこには立派な錦鯉が悠遊と泳ぐ。この池の鯉たちは窓が開くと餌をもらえると勘違いして集まってくるのもまた一興だ。

「かつてエリザベス女王がこの場所で手を打ったところ、鯉が集まりとても喜ばれたと聞いています」(渡辺氏)

別館に行くには、本館の南側の主庭を通るのだがここも見どころは多い。主庭にある大噴水は創建当時に造られたもので、グリフィン、亀などをモチーフにした青銅合金の装飾水盤が風格を感じさせる。国宝にも指定されたもので一見の価値があるだろう。また、この噴水越しに本館建物を眺める景観も迫力のあるものだ。

全体像を捉えても、細部に目を凝らしてもあまりにも華麗かつドラマを感じさせる迎賓館赤坂離宮。通年公開によって、せっかくの日本の至宝を目にする機会が増えたのだから、ぜひ一度は見学していただきたい。

見学申し込みについては、内閣府のホームページ 「参観概要」に掲載されている案内をご確認いただきたい。

■内閣府迎賓館HP
https://www.geihinkan.go.jp/

[游心亭外観]庭園越しに見た游心亭外観(写真左上)。[主和室]外国のお客様に和食を提供する際には中央の落とし床を活用して掘りこたつ式にできる(写真右)。[即席料理室]柱や梁はすべて栗材を使用し、手斧を使った粗削りなつくりになっている。いわゆる田舎家風だ(写真左下)[游心亭外観]庭園越しに見た游心亭外観(写真左上)。[主和室]外国のお客様に和食を提供する際には中央の落とし床を活用して掘りこたつ式にできる(写真右)。[即席料理室]柱や梁はすべて栗材を使用し、手斧を使った粗削りなつくりになっている。いわゆる田舎家風だ(写真左下)

2016年 08月07日 11時00分