超高齢化社会を迎え、深刻化する単身高齢者の住宅問題

WHO(世界保健機関)などでは、高齢化率(65歳以上の総人口に占める割合)が21%を超えた社会を超高齢化社会と定義づけている。日本の高齢化率は『令和3年版高齢社会白書』によると、28.8%(2020年10月時点)

WHO(世界保健機関)などでは、高齢化率(65歳以上の総人口に占める割合)が21%を超えた社会を超高齢化社会と定義づけている。日本の高齢化率は『令和3年版高齢社会白書』によると、28.8%(2020年10月時点)

一人暮らしの高齢者は、賃貸住宅を借りにくい……単身高齢者は家賃滞納や孤独死が発生するリスクがあるということで、賃貸住宅の大家が単身高齢者の入居を断るケースがあとを絶たない。国土交通省の資料(※)にも、賃貸住宅の大家の約8割が高齢者の入居に拒否感を感じているという調査結果が示されている。

大家が最も懸念するのは、高齢者の孤独死に伴うリスク。亡くなったあと、相続人との連絡がスムーズにいかない場合には、原状回復の手続きや費用負担などが大家にかかってくるため、高齢者の入居には積極的になれないという背景がある。

この問題は、超高齢化社会の日本では、誰しもが当事者として直面する可能性がある社会問題である。そうしたなか、単身高齢者が住まいを確保しやすい環境をつくろうと、各自治体でもさまざまな施策を打ち出している。

そこで今回、レポートするのは、横浜市が2020年12月に開始した「セーフティネット住宅 見守りサービス補助モデル事業」。セーフティネット住宅に入居する単身高齢者が利用する安否確認などの見守りサービスに対し、市が費用の一部を補助する。一人暮らしの高齢者の安心とともに、物件の大家が単身高齢者に対して抱いている不安の軽減につながる取り組みとなっている。

(※)出典:国土交通省『新たな住宅セーフティネット制度における居住支援について』(2021年3月)

「簡単・安心・安価」な見守りサービスを提供する事業者に補助を行う

『横浜市の将来人口推計』によると、横浜市の高齢化率は2015年の23.4%から2040年には33.3%にもなると推計されている(2015年を基準時点としての推計値)

『横浜市の将来人口推計』によると、横浜市の高齢化率は2015年の23.4%から2040年には33.3%にもなると推計されている(2015年を基準時点としての推計値)

人口約378万人と、政令指定都市のなかでも最も多い人口をもつ横浜市だが、高齢化が進み、一人暮らしの高齢者も増え続けている。『横浜市の将来人口推計』(横浜市政策局総務部統計情報課)によると、65歳以上の単身世帯は2005年には9万8376世帯だったのが、2015年には17万6167世帯(世帯総数の10.8%)と約1.7倍に増加。横浜市全体の世帯数がピークを迎える2030年以降も高齢者(65歳以上)の単身世帯の増加は止まらず、2040年には27万2585世帯、世帯総数の16.4%になると推計されている。

このような背景があり、横浜市がスタートさせた「セーフティネット住宅 見守りサービス補助モデル事業」(以下、モデル事業)。具体的な内容を紹介しよう。

【実施期間】
2020年12月1日~2022年3月31日。

【事業の仕組み】
セーフティネット住宅に入居する単身高齢者に対し、横浜市の要件に合った見守りサービスを提供する見守りサービス事業者に補助を行う。初期費用と毎月の利用料の一部を、見守りサービス事業者に補助し、残りを入居者が支払うという仕組み。
※セーフティネット住宅の大家、管理会社がこの事業を活用したい場合、横浜市に登録した見守りサービス事業者(以下、事業者)のサービスの中から導入したいものを選び、事業者に連絡を入れる。その事業者が、横浜市への補助金申請手続きを行い、必要に応じて、セーフティネット住宅の登録のサポートも行う。

『横浜市の将来人口推計』によると、横浜市の高齢化率は2015年の23.4%から2040年には33.3%にもなると推計されている(2015年を基準時点としての推計値)

<「セーフティネット住宅 見守りサービス補助モデル事業」の仕組み>
※出典:横浜市ホームページより

【補助対象となる見守りサービス】
「簡単・安心・安価」な見守りサービスであることが条件。

●簡単
・IoT等の技術を活用し、リズムやセンサー等の方法で入居者に負担なく見守りを行うこと。
・機器の設置や初期設定が簡単で、速やかに利用できること。
・電池交換などのメンテナンスの負担が少ないこと。

●安心
・最低1日1回、見守りを行うこと。
・入居者に異常が発生した場合、電話やメールなどの方法で住宅の管理者、親族などに必ず連絡がいくこと。

●安価
・安心して継続的に利用できる料金であること。
※初期費用は1万円(税抜)以下、月額費用は2000円(税抜)以下。
それぞれの費用の半額を横浜市が補助する。

【補助内容】
補助対象戸数は50戸程度(先着順)。

●初期費用
見守りサービス機器の導入にかかる工事費や登録料などの費用を補助。
※補助率と上限額:補助対象経費の2分の1。1戸につき、上限5000円まで補助。

●月額費用
見守りサービスの月額利用料を補助。
※補助率と上限額:補助対象経費の2分の1。1戸につき、上限1000円まで補助。

空き家・空き室を活用し、セーフティネット住宅の供給促進も目指す

このモデル事業のポイントは、セーフティネット住宅が対象であることと、「簡単・安心・安価」な見守りサービスを対象としていることだ。

セーフティネット住宅とは、高齢者や障がい者、低額所得者など住まい確保が困難な人(住宅確保要配慮者)の入居を拒まない住宅として登録された民間賃貸住宅のこと。2017年10月に施行された改正住宅セーフティネット法によって創設された制度で、増え続ける空き家・空き室を活用するという狙いもある。

大家は、所定の要件を満たしてセーフティネット住宅として登録することで国の専用ホームページ(「セーフティネット住宅情報提供システム」)で広く周知させることができ、要件を満たせば国や自治体から改修費など経済的な補助を受けられるといったメリットがある。

国土交通省では、制度開始からの10年間で50万戸登録を目標に掲げ、2021年6月時点の総登録戸数は約45万戸。そのうち、横浜市の登録戸数は約8600戸となっている。

「横浜市では高齢者に限らず、外国人、障がいのある方など、住宅確保に困っている方が多様化しています。また、空き家も増え続けています。この2つの社会問題の解決につながるセーフティネット住宅については、制度が開始された当初から積極的に取り組んできました」と、横浜市建築局住宅部住宅政策課の石津啓介さん。

2018年の『住宅・土地統計調査』(総務省)によると、横浜市の総住宅数183万5800戸のうち、空き家は17万8300戸で全体の9.71%。空き家率は、全国の空き家率(13.6%)よりも低いが、戸数は15年前の2003年と比較すると約1.2倍に増加している。横浜市の場合、空き家のなかで賃貸住宅の占める割合が高く、2018年は63.6%(11万3400戸)を占めた。

<横浜市の空き家戸数の種類別動向></BR>※出典:『平成30年 住宅土地統計調査の結果について』(横浜市空家等対策協議会・横浜市建築局住宅政策課の資料より)

<横浜市の空き家戸数の種類別動向>
※出典:『平成30年 住宅土地統計調査の結果について』(横浜市空家等対策協議会・横浜市建築局住宅政策課の資料より)
取材に協力いただいた横浜市建築局住宅部住宅政策課のモデル事業担当のみなさん。左から堀下茜さん、担当課長の石津啓介さん、担当係長の小島類さん取材に協力いただいた横浜市建築局住宅部住宅政策課のモデル事業担当のみなさん。左から堀下茜さん、担当課長の石津啓介さん、担当係長の小島類さん

横浜市ではこうした空き室を活用し、高齢者など住宅確保要配慮者に提供していきたいと、不動産関係団体を通じて大家や不動産管理会社にセーフティネット住宅への登録を呼びかけ、供給戸数の増加をはかってきた。登録の総戸数は増えているが、内訳をみると、ほとんどが「住宅確保要配慮者以外の一般の人も入居可能」という「登録住宅」。住宅確保要配慮者のみが入居可能な「専用住宅」としての登録戸数は1割にも届かない状況という。

「横浜市では、要件を満たした専用住宅の大家さんを対象に、家賃と家賃債務保証料の補助(※)を行っています。入居者さんの負担の軽減とともに、家賃滞納などのリスクに備えたい大家さんのための補助制度ですが、専用住宅の登録は伸び悩んでおり、補助制度の利用は進んでいません。その要因は、単身高齢者の入居に対する大家さんの不安が根深いことに行き着きます。そこで、行政として何ができるのか、検討を重ねました」と、石津さんは打ち明ける。

「私たちが着目したのは、センサーなどを使った見守りサービスの技術が進化していることでした。安価な費用で利用できるサービスが増えているので、それらを活用した支援事業としてスタートしたのがこのモデル事業です。専用住宅に限定せず、セーフティネット住宅に登録していれば、補助の対象になります」(石津さん)

(※)横浜市「家賃補助付きセーフティネット住宅」
・家賃減額補助:上限8万円/月(補助総額480万円/戸まで)
・家賃債務保証料補助:上限6万円(初回のみ)

IT機器を活用した、多彩な見守りサービス

このモデル事業の開始にあたり、見守りサービス事業者の募集を行ない、9社の登録があった(2021年6月7日現在)。電気使用量の状況や人感センサー、室内に設置したセンサーなどが異変を検出して通知するサービス、電話(ナレーターの録音音声)による定期的な安否確認など、サービス内容はさまざま。万一のときには家族に代わって事業者のスタッフが現地へ駆けつけるサービスや、孤独死が起きてしまったときの補償保険付きのものもあり、いずれも大がかりな設置工事は不要で、安価で手軽に利用できるサービスとなっている。横浜市のホームページに各事業者のサービス内容が掲載されているので、興味のある人は確認してほしい。

※セーフティネット住宅見守りサービス補助モデル事業 見守りサービス一覧 
https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/torikumi/safetynet/safety-mimamori.files/0028_20210607.pdf

課題は事業内容の周知。利用実績を挙げて効果の検証を行っていきたい

横浜市のこのモデル事業は、大家の手続きは不要で、経済的な負担もなく、見守りサービスを導入できるのだが、実際にこのモデル事業を使って見守りサービスを導入した事例はまだ出てきていない(2021年6月時点)。横浜市では事業のチラシなどを作成し、不動産関係団体を通じて大家や不動産管理会社に配布し、広報活動を行っているものの、手応えがなく、いかに事業内容を広く周知させるかが、目下の課題だ。

「不動産関係団体以外にも福祉団体、民間団体など、さまざまな方面に働きかけてモデル事業の周知につとめ、利用実績を挙げたいところです。さらには、事業者さんを経由して大家さんや入居者さんへのアンケート調査の実施や、事業者さんにも報告レポートの作成をお願いし、このモデル事業の効果検証を行っていきたいと考えています。そこから見守りサービスの利用実態や需要をつかみ、モデル事業の改善を行ったうえで、本格実施の事業にしていきたいと思っています。高齢者の賃貸住宅の問題解決に向け、横浜市として有効な方法を探っていきたいです」と、石津さんは話してくれた。

横浜市のモデル事業のような、行政による高齢者の住まい探しを支援する取り組みは、少子高齢化が進行する日本では今後、ますます必要になる。住まいの確保が困難な高齢者が住まい探しの選択肢を広げられるよう、行政の取り組みの周知と活用が進んでほしいと思う。

☆横浜市 セーフティネット住宅見守りサービス補助モデル事業
https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/torikumi/safetynet/safety-mimamori.html

大家、不動産事業者向けのパンフレット、チラシ。大家の不安を払拭し、セーフティネット住宅の制度の活用を進めていく目的で作成された

大家、不動産事業者向けのパンフレット、チラシ。大家の不安を払拭し、セーフティネット住宅の制度の活用を進めていく目的で作成された

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