子育てや家事労働の負担を軽減できる場、豊かな人間関係を築ける場

さまざまな人たちと繋がりながら暮らす。そんなライフスタイルを選んだ人たちがいる。そうした人たちの話を聞き、これからの暮らし方を考えるきっかけにしようと開かれたのが、「ともに暮らし、支え合う生活を考えるフォーラムinKYOTO 2021」。主催は京都府。2021年3月2日にオンラインで開催された。

ともに暮らす例として取り上げられたのは、コレクティブハウスとシェアハウス。いずれも、一つの建物やビルの1フロアに複数の居住スペースと共用スペースが設けられている。二つの大きな違いは水回り。シェアハウスは一般的にはキッチンや風呂場などは共用のため、密な人間関係を築くことができる。一方、コレクティブハウスには居住スぺ―スに水回りが設置されている。自分の生活空間で独立した暮らしを送りながら、居住者とゆるやかに関わる住まい方が可能なのだ。

フォーラム当日は、2軒のコレクティブハウスと1軒のシェアハウスの紹介と、居住者を中心としたクロストークを実施。家事や育児などをサポートしあうことでの負担の軽減、また人との関わりなど、ともに暮らすことの魅力について思いが語られた。その様子をレポートしよう。

左上から時計回りに司会進行の「NPO法人場とつながりラボhome’svi」の篠原さん、「coco camo」の鈴木さんと小山さん、「Cift(シフト)/京都下鴨修学館」の山倉さん、「スガモフラット」の大島さん、「スガモフラット」の宮本さん左上から時計回りに司会進行の「NPO法人場とつながりラボhome’svi」の篠原さん、「coco camo」の鈴木さんと小山さん、「Cift(シフト)/京都下鴨修学館」の山倉さん、「スガモフラット」の大島さん、「スガモフラット」の宮本さん

尊重、共感が信頼関係につながる ~「スガモフラット」~

勉強をしたり、本を読んだり。子どもたちもコモンルームで思い思いに過ごす勉強をしたり、本を読んだり。子どもたちもコモンルームで思い思いに過ごす

まず登場したのは、東京都にあるNPO法人コレクティブハウジング社の宮前さん。同法人はこれまで6軒のコレクティブハウスに携わってきた。そのうちの1軒が、2007年にオープンした、豊島区にあるビルの1フロアを使った「スガモフラット」。もともと児童館だった場所を改装して作られた。こちらでは、11戸の居住スペースと、みんなでおしゃべりをしたり、子どもたちが遊んだりするコモンルームがある。ここには高機能の設備を持つキッチンが備えられ、コロナ禍以前は夕食づくりを共同で行っていたそうだ。

「大人はそれぞれ月に1度、みんなのために食事を作っていました。居住者全員が食べるわけではなく、希望者分だけ。15食くらいです」と宮前さん。

屋上テラスの植物の世話も居住者が行う屋上テラスの植物の世話も居住者が行う

そのほか、洗濯室、ガーデニングをしたり洗濯物干し場にもなるテラス、持ち寄った本が並ぶ子ども図書館のある内廊下も大事な共用スペースである。

「料理をする、食べる、遊ぶ、掃除をする。そんな日々の暮らしの共同で学べるのは、人それぞれ、やり方も考え方も違うということです。コレクティブハウスの運営は居住者で行うため、定例会など話し合う場を定期的に運営し、そうした場で会話をすることで、違いを受け入れ、お互いを尊重し、共感できる。このような体験が、心地よく暮らすために欠かせない信頼関係を築くことにつながるんです」

勉強をしたり、本を読んだり。子どもたちもコモンルームで思い思いに過ごすコモンルームでの定例会の様子 ※写真はスガモフラット提供。いずれもコロナ禍以前に撮影

家族よりもいろいろなことを話せる、そんな関係を築ける場に ~「coco camo」~

エントランスホールに備えられたカウンター。ここも居住者の憩いの場になっているエントランスホールに備えられたカウンター。ここも居住者の憩いの場になっている

続いては、2020年に京都市内に建てられた「coco camo(ココカモ)」。これまでに3軒のコレクティブハウスを手掛けてきた不動産会社「八清(はちせ)」が運営している。

こちらは「スガモフラット」とは異なり、外観だけ見ると、2階建ての大きな一軒家のようだ。建物に入ったところにあるエントランスホールは居住者用のリビング。カウンターとミニキッチンのほか、テーブルが設置されている。ここで食事をしたり、仕事をすることも可能だ。

居住スペースは、このホールに隣接する共用テラス(中庭)を囲むようにメゾネットタイプの5戸が並んでいる。そのため、居室に行くには必ずホールやテラスを通ることになる。居住者同士が顔を合わせる機会が自然と増える工夫だ。

同社の小山さんは、「誰かと話をしたいときには共用スペースにいる人と会話を楽しめます。反対に、一人になりたいときには居住スペースでゆっくりと過ごせます。目指すのは、束縛感のない心地よいつながりを育む場。居住者は、友達以上、家族未満。でも、家族よりもいろいろなことを話せる、そんな関係を築ける場にしたいと思っています」

エントランスホールに備えられたカウンター。ここも居住者の憩いの場になっている共用テラスを囲むように並ぶメゾネットタイプの居住スペース ※画像提供: coco camo

どうすれば心地よい暮らしができるか、“実験生活”を通して考える~「Cift(シフト)/京都下鴨修学館」~

共用のキッチン。「炊飯器は1台。これをみんなで使っています。居住者からは『持ち物が少なくていい』『みんなで使うから大事に使わざるを得ない』という声があがっています」(右/山倉さん)共用のキッチン。「炊飯器は1台。これをみんなで使っています。居住者からは『持ち物が少なくていい』『みんなで使うから大事に使わざるを得ない』という声があがっています」(右/山倉さん)

最後に紹介されたのは、2020年オープンのシェアハウス「Cift(シフト)/京都下鴨修学館」。50年以上続いていた女子寮をリノベーションしてつくられた2階建ての建物で、21世帯約40人(2021年4月現在)が生活をともにしている。

大きなテーマは“日常的実験生活”。コミュニティーマネージャーの山倉さんは、次のように話す。

「例えば、掃除をしたらどんな気持ちになるかを居住者同士で話をする。みんなでごはんを食べることが自分にとってどんな経験になるかを意識する。人と接することで自分を見つめ直したり、問題に気付く力を養えるきっかけを作っていきたいですね」

「Cift(シフト)/京都下鴨修学館」では月に1度、ハウス会議と呼ばれるミーティングが行われている。暮らしの中で気付いた議題を出し合い、それについて対話することで解決へと導こうというものだ。どうすれば心地よく生活ができるか。この会議もまた実験の一つといえるだろう。

共用のキッチン。「炊飯器は1台。これをみんなで使っています。居住者からは『持ち物が少なくていい』『みんなで使うから大事に使わざるを得ない』という声があがっています」(右/山倉さん)住宅街の一角に建つ「Cift(シフト)/京都下鴨修学館」 ※画像提供:Cift(シフト)/京都下鴨修学館

一人ではない安心感、広がりのある人間関係の中で叶えられる子育て環境が魅力

各施設の紹介の後はクロストークが行われた。フォーラムの参加者からチャットで送られてきた質問などに対して、前出の3人と居住者が回答をする時間である。

一つめの質問は「住もうと思ったきっかけは?」。これに対してまず話をしたのが、「coco camo」の居住者・鈴木さん。仕事をリタイアした後、埼玉から移り住んだ女性だ。

「最初はマンションを購入しようと思っていましたが、娘にここをすすめられたんです。一人よりも安心じゃない?って。確かに、ほかの居住者とゆるくつながれるのはいいなと思いました。入居前にオンラインで内覧ができたり、入居希望の方々と集まれる機会があったのも安心材料でしたね」

夫婦と子どもの3人家族の宮本さんは、「スガモフラット」に住んで13年。入居当時は夫と2人暮らしだった。
「夫婦だけだと地域コミュニティーに入っていくのはなかなか難しい。そう思い始めたことから、いろいろな人との関係で成立するコレクティブハウスに興味を持ち始めました」。ただ、人と暮らすこと、話し合いの機会が多いことはハードルが高かったと宮本さん。「それほどオープンな性格ではないので、嫌になるかもしれない。でも、そうなれば出ていけばいい。ひとまず始めてみよう」と居住を決意したという。

「スガモフラット」と同様、NPO法人コレクティブハウジング社が運営する「コレクティブハウス聖蹟(せいせき)」(多摩市)の居住者・矢田さんの声も紹介しよう。矢田さんがコレクティブハウスの存在を知ったのは、子育て環境について考えていたときだった。

「実家の親や親しくさせてもらっているママ友はいたんですが、もっと周辺に広がっていくような人間関係の中で子どもには育ってほしいと思ったんです」。さらに、「ここなら、それまで妻任せだった掃除や庭の手入れなどもするようになるかなとも。自分が変わる機会になればと入居を決めました」

フォーラムの様子のグラフィックレコーディングフォーラムの様子のグラフィックレコーディング

お互いを助け合い、経験しながら成長していく

実際に暮らしてみて初めてわかることもある。二つめの質問は「住んでみて良かったこと」。

「Cift(シフト)/京都下鴨修学館」の山倉さんは運営者でもあり、居住者でもある立場から「家族だけで暮らしていると見えてこないことに気付ける点」をメリットとして挙げた。「それぞれの人に”暮らしの型”があります。それを意識できると、何か行動をするときに押し付けをしていないか、やり方に固執していないか、と自分自身を振り返ることにつながるのではないでしょうか」

宮本さんは、「スガモフラット」に入居して3年目に出産をした。
「居住者の中に先輩ママが多いのが心強いですね。つわりのときは食事作りをサポートしてくれたり、抱っこ紐のお下がりをもらえたり。助けてもらうだけではなく、私も居住者のお子さんを預かったり、保育園にお迎えに行ったりもしているんですよ。また、うちは一人っ子ですが、同じ年代の子どもたちがたくさんいるので、ときにはケンカになることも。ですが、子どもはそこからいろんなことを経験し、成長しているんだろうなって思います」

読書会や食事作り……。コロナ禍でもアイデアを出し合い、つながりを継続

気になるのがコロナ禍での暮らし方である。最後の質問は「コロナで変わったこと、変わらなかったこと」。

「スガモフラット」では前述の通り、食事作りはストップしている。居住者の大島さんによると、「でも会わないのは残念だねという話になり、日曜夜の1時間だけ、コモンルームで『サイレント読書会』を開催しています。希望者が集まって、黙って本を読むだけですが」。

「スガモフラット」では、昨年、恒例のクリスマス会をオンラインで実施したそうだ。
「コモンルームをスタジオのようにして、一人一人、順番にそこに行って話をするというものです。普段しっかりとした関係性があるからこそ、危機のときにもコミュニケーションを取れるんだろうと感じています」

一方、食事作りを継続しているのは「コレクティブハウス聖蹟」。「避けなければいけないのは、会話をしながら食べること。なので、衛生管理をきっちりしたうえで食事は作る。ただ、話し合いのうえ、食べるのは基本的にコモンルームではなく自宅でということに変更しました」(矢田さん)

「coco camo」の鈴木さんは「コロナ禍で顔を合わせて話をすることは難しくなりましたが、それでも人の気配を感じられるのは心強い。近くに人がいるという安心感や温もりはコレクティブハウスの良さだと思います」

居住者が意見を出し合い、その時々の状況を乗り越えていく。これもまた、“ともに暮らし、支え合う”ことなのだろう。暮らし方にもいろいろな選択肢がある時代。どう暮らすか、誰と暮らすか。改めて考えてみるのもいいのではないだろうか。

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