住宅とオフィスや学校との関係、既存の価値観が転換しつつある

コロナ禍で、日本の住宅に何が起きているのか。住宅と、オフィスや学校などとの関係性が変わり、既存の価値観が転換しようとしているのではないか。
そんな問題意識から、大阪市立大学工学部建築学科と九州“不動産賃貸学”研究会が、2020年7月21日に合同でオンラインシンポジウムを開催した。題して「Afterコロナ時代の住宅と施設」。司会は大阪市立大学講師の西野雄一郎さん。登壇者はUR都市機構西日本支社の小正茂樹さんと、福岡のスペースRデザイン代表の吉原勝己さんだ。

西野さんはこう切り出した。「社会が急速に変わるなかで、住宅の新たな使いこなし方、暮らし方、学び方、働き方が開発され続けています。このシンポジウムには、大阪、福岡はもちろん、韓国からも参加してくれています。みなさんで現状を共有し、With/After コロナについて考えたいと思います」。

シンポジウムはオンライン会議ツールを使い、大阪と福岡を結んで開催された。写真は配信の様子のキャプチャ。画面左上から時計回りに、吉原勝己さん、西野雄一郎さん、小正茂樹さんシンポジウムはオンライン会議ツールを使い、大阪と福岡を結んで開催された。写真は配信の様子のキャプチャ。画面左上から時計回りに、吉原勝己さん、西野雄一郎さん、小正茂樹さん

公的セクターURは、コロナ禍による給付金受給者などへの支援を実施

緑豊かでゆったりとした住環境がUR団地の魅力だ。写真は大阪の千里ニュータウン(写真提供:UR都市機構)緑豊かでゆったりとした住環境がUR団地の魅力だ。写真は大阪の千里ニュータウン(写真提供:UR都市機構)

UR都市機構(以下、UR)は、全国に約72万戸の賃貸住宅を有する、“日本最大の大家さん”だ。駅前のタワーマンションから郊外型の団地まで、多様な物件を所有・管理している。うち、多くが高度成長期に開発されたものだ。
「ゆったりと敷地の広い団地が特徴です。日当たりと風通しがよく、空が広く感じられる。年月を経て木々の緑も豊かに育ち、今となってはなかなか実現できないゆとりが醸成されています」とURの小正さん。こうした特性を活かしながら、Withコロナ、Afterコロナへの対応を進めている。

コロナ禍による喫緊の課題は、感染防止のための休業や自粛によって収入が減った人、職を失った人たちへの対処だ。URは公的役割を担う独立行政法人であり、セーフティネットとしての役割が求められる。そこでまず、住宅確保給付金や持続化給付金などの受給者に対し、定期借家制度を利用して、通常より10~20%安い家賃で住居を提供する「住まサポ定借」を開始した。全国約450団地を対象に、2020年9月30日まで受け付けている。「ほか、すでにURにお住まいの方に対しては、家賃・共益費の分割払いや、家賃が安い住戸への住み替え支援を実施しています」と小正さん。

新たな展開として、これまで併用不可だった「ハウスシェアリング制度」と「マルチハビテーション制度(セカンドハウス利用)」を併用できるようにした。「たとえば、郊外の団地の3DKや4DKを、友だちとお金を出し合って借りて、セカンドハウスやリモートワークに使うなど。家賃4~5万円の住戸を3人で借りれば、1人あたり月1万円ちょっとの負担で済みます。“密”を避ける、新たな暮らし方を想定しています」

敷地のゆとりを活かした移動販売やキッチンカーの導入、団地内宅配も

UR団地ならではのゆとりを活かした取組みに、移動販売車やキッチンカーの敷地内導入がある。「ご高齢の方にとっては、混雑するスーパーに行くのも不安が伴います。団地内に移動販売車が来てくれれば、自宅近くの屋外で食料品が買える。また、団地によっては、日替わりでいろんなキッチンカーを呼んでいるところもあります。家事負担の軽減や気分転換に役立てていただきたいですね。イベント自粛で売り上げが減ったキッチンカー事業者への支援にもなります」と小正さん。ほか、東京都板橋区の光が丘パークタウンゆりの木通り北団地では、団地内店舗による宅配サービスも始まった。

コロナ禍で在宅時間が増えたことは、団地という住環境の見直しにもつながる。これまでは寝に帰るだけだったのが、日中も長い時間を過ごすようになった、という入居者は少なくないだろう。「大阪の千里ニュータウンでは、家具付きのモデルルームを一時的にテレワークスペースに開放する試みを行っています。定期的にご利用くださる方もいて、ご好評をいただいています。同様に、団地集会所を開放した例もあります。テレワーク需要が高まっているように感じるので、団地の持つ様々な空間を活用できるようにしていきたいですね」。

「URとしても、これからは、単に住戸を提供するだけではなく、敷地のゆとりや共用施設を活かした、新しい団地の使い方を提案していきたい。千里ニュータウンではUR初の建て替え賃貸がまもなく完成し、2020年秋から募集が始まります。せっかく更新を進めるのですから、これと併せて、Afterコロナを見据えた弾力的な運営手法を探っていきたいと考えています」

左上/移動販売の様子。神戸市北区の有野団地 右上/キッチンカーも導入。写真はさいたま市のコンフォール南浦和団地。ほかの団地でも様々なキッチンカーが導入されている 左下/泉北ニュータウン内、泉北桃山台一丁団地で開催されたマルシェの様子。「多世代がゆるく集まれるイベントは、今後も必要だと思う」と小正さん 右下/箕面粟生第三団地のバーベキューガーデン。災害時の炊き出しにも使える</br>(写真提供:UR都市機構)左上/移動販売の様子。神戸市北区の有野団地 右上/キッチンカーも導入。写真はさいたま市のコンフォール南浦和団地。ほかの団地でも様々なキッチンカーが導入されている 左下/泉北ニュータウン内、泉北桃山台一丁団地で開催されたマルシェの様子。「多世代がゆるく集まれるイベントは、今後も必要だと思う」と小正さん 右下/箕面粟生第三団地のバーベキューガーデン。災害時の炊き出しにも使える
(写真提供:UR都市機構)

入居者とともに住環境の満足度を高め、愛着が持てるまちをつくる

福岡・スペースRデザインの吉原勝己さんは、親から築古の賃貸マンションを引き継ぎ、賃貸住宅経営の道に踏み込んだ。長年の試行錯誤を経て、現在は「ビンテージビル」を旗印に「築100年の賃貸マンション」を目指し、賃貸住宅オーナーの支援にも取り組んでいる。これまでに福岡市を中心に、全35棟358室のリノベーションや仲介を手掛けてきた。その中で、今回のコロナ禍において、人気を集めるようになった物件が3つあるという。

1つは、久留米市にある築41年の団地型マンション「コーポ江戸屋敷」だ。
福岡市に比べ家賃水準の低い久留米市では、住戸リノベーションに投資しても回収は難しい。そこで、吉原さんたちが注力したのが「コミュニティベネフィット」だ。入居者同士が仲良くするという意味ではなく、共に暮らすことで快適な環境づくりを目指す。エクステリアの緑化やデッキの設置が交流を生み、さらにパン屋やコーヒー店が入居して、今や街並みにも影響を及ぼしつつある。「賃貸住宅を、単に立地・築年・設備で評価する消費者であるよりも、共に何かを生み出し暮らしの質を高める、主体性な生活者でありたいと考える人が増えているのでは」と吉原さんは分析する。

もう1つは、福岡市の築37年のマンション「カメリア小笹」。
坂の上に建ち、5階建てでエレベーターなしと、賃貸住宅としては不利な条件だが、熱心なオーナーが、ウッドデッキやゴーヤのカーテン、広場などを設え、太陽光発電や雨水利用など環境共生にも取り組んでいることが、子育て世代を惹き付けている。間取りは60m2前後の2LDK。「これまでなら、大空間のワンルームや1LDKにリノベーションするところですが、コロナ禍で、再び部屋の数が注目されています。在宅勤務スペースの確保を目的に入居する人が出てきている」

3つめは、吉原さん自身が引き継いだ築42年の「新高砂マンション」。
福岡市中心部に立地する7階建て、全58室。2004年からおよそ16年間かけて、全住戸の約7割に相当する41室をリノベーションした。さらに、2016年には1階のテナントフロアを再構築し、フラワーショップやアパレル、カフェなどの店舗と、クリエイティブなオフィスが集積する「清川ロータリープレイス」に発展させた。屋外駐車場は廃止し、共用のラウンジと一体に使える広場に位置付けている。

「新高砂マンションで注目したいのは、収益の変化です。これまで、住戸リノベーションで一室あたりの賃料は上がっても、年間の合計収入は一定程度に留まっていたのに対し、清川ロータリープレイスができてから、住宅部分の稼働率が上がり、合計収入が急増しました。ショッピングの場や働く場、交流の場が生まれたことが、ここに住む価値や満足度を高めたと考えています」

「在宅ワークが増えたことで、住環境の重要性が増しています。これからは、自分の住む家だけでなく、町全体に愛着を持てるかどうかが大事になるでしょう」

左上/コーポ江戸屋敷。道路面に大きなデッキを設け、シンボルツリーを植えた。デッキに面した区画にはパン屋がオープンしたそうだ 右上/カメリア小笹。オーナー自ら花壇を設えたりブランコをつくったりと手間暇かけて環境を整えている。パーゴラのあるウッドデッキは入居者はもとより近所の人にも開放されている 左下/新高砂マンション。1977年の建設だが、外壁や配管、耐震補強などの大規模改修を行い、築100年を目指す。住戸も7割以上がリノベーションされている 右下/新高砂マンション1階の清川ロータリープレイス。道路面にはブティックやカフェが入居している</br>(写真提供:スペースRデザイン)左上/コーポ江戸屋敷。道路面に大きなデッキを設け、シンボルツリーを植えた。デッキに面した区画にはパン屋がオープンしたそうだ 右上/カメリア小笹。オーナー自ら花壇を設えたりブランコをつくったりと手間暇かけて環境を整えている。パーゴラのあるウッドデッキは入居者はもとより近所の人にも開放されている 左下/新高砂マンション。1977年の建設だが、外壁や配管、耐震補強などの大規模改修を行い、築100年を目指す。住戸も7割以上がリノベーションされている 右下/新高砂マンション1階の清川ロータリープレイス。道路面にはブティックやカフェが入居している
(写真提供:スペースRデザイン)

感染対策や災害避難時に賃貸住宅が地域社会に貢献する可能性

コロナ禍によってあぶり出された課題もある。

URの小正さんは「直接訪問が難しい中、高齢者などでインターネット環境につながらない方の孤立化が懸念されます。サポートが必要だと思われます」と語る。「家に引きこもって運動不足になると、体力低下やフレイル(要介護に至る前段の状態)につながりかねません。大阪の団地では、運動のきっかけになるよう、団地でのお散歩マップを載せたニュースレターを配布するなど、できる限りの工夫に努めています」

一方、福岡では、これを機に全入居者の緊急連絡網を整えたオーナーもいるそうだ。「保証人や連絡先が不明のままだった入居者さんにコンタクトをとる、いい機会になったようです。万一のとき、速やかに対応できる体制がつくれました」と吉原さん。

賃貸住宅経営につきまとう空室問題も、新たな状況下では別の光が当てられる。

たとえば、吉原さんは、入居者の家族に感染の疑いが出た場合に備え、一時的に隔離する場所として空室を用意した。「幸い、まだ使わずに済んでいますが、自分の物件の中に、いつでも使える状態のゲストルームを確保しておくことで、有事の際に地域の役に立つ、社会的意義のある賃貸住宅になれるかもしれない」

さらに、九州は今年7月、各地で豪雨災害に見舞われた。

「九州では、DIYリノベーションを通じて、都市間のリレーションが生まれています。海辺のまち、歴史あるまち、茶畑のまち、掘り割りのまち、温泉のまち、もちろん団地もあって、それぞれの特徴を活かしたまちづくりに取り組んでいます。おのおののまちで頑張っている仲間同士、日常的に訪れ合って魅力を共有することはもちろん、これからは助け合いも必要になるでしょう。豪雨災害では、街ぐるみで被害に見舞われます。そのとき、安心して代替生活を送れる場所が確保してあると心強い。全国に物件を持つURとも連携して、賃貸住宅業界としての連携を探りたいですね」(吉原さん)

住む人を限定しない、賃貸住宅ならではの柔軟性・多様性・開放性は、Withコロナの日本の住環境において、大きな役割を担うことになるのかもしれない。

小正さんと吉原さんの講義を受け、建築学科の立場から西野さんは「今後、新しく住宅を計画するときに何を考えるべきか」を自問したという。

「課題は大きく3つにまとめられると思う」と西野さん。「1つめは、非日常と日常をどうつなぐかということ。災害時と平時、水やエネルギーの問題もあります。2つめは多様性。多様性を担保することは、何かあったときの粘り強さにもつながるでしょう。3つめは暮らしやすさ。建物自体をどうデザインするかだけではなく、例えば、窓からどんな景色が見えるかも大事だと気付かされました。日常的な暮らしやすさを考えるとき、外部の計画がとても重要です。それはすなわち、コミュニティーをどうつくるかということでもある。住む人が主体になって暮らしをより良くしていけるような、空間のゆとりや仕組みづくりが求められます」

スペースRデザイン https://www.space-r.net/
UR都市機構「うちまちだんち」千里ニュータウン特集
https://karigurashi.net/tag/senri-newtown-feature/

2020年 09月19日 11時00分