ペット防災の専門家の協力を得て完成させた多機能バッグ

設計事務所imaの小林恭さん(中央)とマナさん(右)。インテリアデザイナーとしてマリメッコや中川政七商店、太宰府天満宮の案内所などの内装設計を手がけた。デザイナーの見地から動物福祉向上のための活動にも積極的に取り組んでいる

設計事務所imaの小林恭さん(中央)とマナさん(右)。インテリアデザイナーとしてマリメッコや中川政七商店、太宰府天満宮の案内所などの内装設計を手がけた。デザイナーの見地から動物福祉向上のための活動にも積極的に取り組んでいる

災害時のペットの同行避難を考える目的で開催された展覧会『いぬと、ねこと、わたしの防災 いっしょに逃げてもいいのかな?展』。関連イベントとして開催されたトークセッション(5月7日開催)のレポート記事の第2回目。
前回記事ではペット防災の専門家・平井潤子さんによる、同行避難の現状と課題についての解説をお伝えしているが、今回は展覧会でプロダクトを披露したクリエイター5人によるプレゼンテーションを中心に紹介したい。

その平井さんの協力を得てペットキャリーを創り上げたのは、設計事務所ima(イマ)を主宰する小林恭さんとマナさん。物販・飲食関連のインテリアデザインや住宅などの内装設計を手がけるインテリアデザイナーで、プライベートでは猫2匹、犬1匹と一緒に暮らしている。今回、展示のペットキャリーはキャリーバッグのほか、状況に応じてリュックサック、ショルダーバッグ、手提げバッグの3つの使い方ができるという多機能バッグ。背負いやすく持ちやすい形状、ペットシーツやフードなどの収納性、避難先で過ごすことを想定してケージ機能を内蔵するなど、さまざまな創意工夫がなされている。

家の中に置いていてもインテリアとしてなじむものを…

「もともと動物は好きでしたが、東日本大震災で一緒に避難できずにいた動物たちの状況を知り、殺処分の問題にも目を向けるようになりました。保護された被災ペットのシェルターでボランティアをしたり、福島の犬を1匹預かるということを始めたのです。同行避難のことも考えるようになり、ペットと一緒に逃げたいけれども避難所には動物が苦手な方もいるでしょうから、そうした方々と共存できるようなものはないかなと。それでこういうバッグを作りたいと、ずっと思っていたのです。たまたま機会に恵まれて、平井先生にアドバイスをいただきながら制作することができました。避難所で使うためには自然にゲージに入ってくれるよう、ふだんからゲージトレーニングをして、ペットに慣れてもらうことが大切だと思います」と、マナさん。

パートナーの小林恭さんは、デザインのこだわりや制作の苦労話を語った。
「ふだんの外出にも気軽に使えて、家の中に置いていてもインテリアとしてなじむよう、シンプルなデザインに仕上げました。ただ動物がこのバッグの中で居心地よく過ごせることも重要です。『給水ボトルを外付けして、中にいるペットが給水口から水が飲めるようにしたい』など、平井先生からご要望をたくさんいただいて、それにお応えするために改良に改良を重ねました。完成までかかった期間は1年半。災害時の同行避難で少しでも役に立てるようなプロダクトができたかなと思っています」。

平井潤子さんのアイデアを形にしたというペットキャリー。8㎏までのペットを入れることができる。「アウトドアグッズを参考にしているので、リュックにして背負ったとき、背中にフィットするようになっています」と、マナさん。「リュック型ペットキャリーGRAMP」の商品名で販売されている(税抜き45,000円)平井潤子さんのアイデアを形にしたというペットキャリー。8㎏までのペットを入れることができる。「アウトドアグッズを参考にしているので、リュックにして背負ったとき、背中にフィットするようになっています」と、マナさん。「リュック型ペットキャリーGRAMP」の商品名で販売されている(税抜き45,000円)

ペットが避難所で落ち着ける場所として考案したモバイルハウス

上)モバイルハウスを中心としたペットグッズのデザイナーとして活動する江口理架さん。ペットグッズショップ「FLAVOR.」で働きながら、アーティストの神山隆二氏のもとでデザインを学んだという</BR>下)江口さん制作のモバイルハウス。折りたたんで持ち運ぶことができる。商品としても販売されている(Mサイズ/税込み29,160円)

上)モバイルハウスを中心としたペットグッズのデザイナーとして活動する江口理架さん。ペットグッズショップ「FLAVOR.」で働きながら、アーティストの神山隆二氏のもとでデザインを学んだという
下)江口さん制作のモバイルハウス。折りたたんで持ち運ぶことができる。商品としても販売されている(Mサイズ/税込み29,160円)

持ち運びがしやすいこと。これはペットの同行避難では欠かせないポイントだろう。次に紹介する江口理架さん制作のモバイルハウスもそうした使いやすさが特長のグッズだ。
江口さんは「29design」というブランドを立ち上げ、ペットグッズデザイナーとして活動している。

「私は7年ほど前からペットグッズを扱うショップでも働いています。東日本大震災が起きたとき、ショップのお客様には被災地の宮城や福島の方が多かったので、ペットの同行避難には何が必要か、どういうものが欲しいのか、ご意見をお聞きしました。それをもとに作ったのがこのモバイルハウスです。避難所で犬や猫が過度の緊張で興奮がおさまらないようなとき、屋根で囲われている小屋があると落ち着くことができるのかなと考えたのです。サンプルを作り、東日本大震災で被災した友人にも使ってもらったところ『ペットの息がハァハァしてしまってどうしようもなかったのが落ち着いた』とか、『興奮がおさまった』と、感想が寄せられました。さらに改良して、折りたたんで手軽に持ち運べるようにしました」と、江口さんは話す。
シナベニ材がそのまま使われていて、シンプルな作りのモバイルハウス。「ふだんはご自宅で使っていただき、可愛がっているワンちゃん、ネコちゃんの名前を書いたり、ペンキを塗ったりして、思い思いにカスタマイズして使っていただきたいと思います」。

江口さん自身も現在、4匹の犬と暮らしていて、防災対策については真剣に考えているという。
「同行避難に必要なものを揃え、玄関に置いておくことも必要だなと思います。また、私が住むマンションではペットを飼っている人たちが集まって、もしものときに助け合っていけるよう、話し合うようになりました。地域のコミュニティは大切だと感じています」。

手軽に組み立てられて、ペットがゆったり過ごせるケージ

上)株式会社dessenceの代表、山本和豊さん(中央)。埼玉県熊谷市を拠点に活動している</BR>下)建築デザイナーと愛犬家の両方の視点から提案したケージ

上)株式会社dessenceの代表、山本和豊さん(中央)。埼玉県熊谷市を拠点に活動している
下)建築デザイナーと愛犬家の両方の視点から提案したケージ

住宅や店舗などの建築デザイン・施工を手がけるクリエイター、山本和豊さんは手軽に組み立てられるケージを提案した。

「僕らのような、人が快適に過ごせる空間作りの仕事をしている者が、ペットの同行避難で何か可能性を示さないといけないかなと思いました」と山本さんは言う。デザインしたケージは、板をカットして溝を切って、差し込んで組み立てるというもの。分解も簡単にできて、車のどこにも置いておける。
「災害が起きたときは飼い主自身が混乱していたりするのではと思うので、『どう組み立てなきゃいけないのかな?』と迷わずに済むものであることも重視しました」。

もう1点、山本さんがこだわったのは、ケージの中でペットがゆったりできる快適性という。
「僕も犬を飼っているんですが、繋がれているのが嫌いなんです。だからリードをはずしてケージの中でゆっくりできるようにして、屋外に出したときの日よけのために屋根を付けています」。

山本さん、そして江口さんのアイデアに対し、平井さんは専門家の視点でこうコメントした。
「ペットがこの中に入れば安心して落ち着けるという場所を、飼い主が簡単に作れることはとてもいいと思います。被災した人が避難所でよくやっていることが、布や段ボールで間仕切りや、段ボールハウスを作って自分の空間をもつようにしていること。大勢の被災者がいる避難所ではなかなか落ち着けないでしょうし、避難生活が長引いてくると、他の人の目にさらされずに済む空間があることが大事になってきます。それは人間だけではなく、ペットも同じだと思います」。

ちなみに山本さんは、株式会社dessence(デッセンス)の代表。埼玉県熊谷市で大型クレーンの教習所だった建物のリノベーションを手がけ、複合商業施設「NEWLAND」として再生したという実績をもつ。現在、「NEWLAND」のプロジェクト・ディレクターとして運営に携わり、敷地の一角にはドッグランを設けているという。さまざまな犬たちの様子を見てきた立場から、「なかには飼い主の言うことを全然聞かない子もいるんです。そういう状況だと、災害が起きたときに一緒に逃げるのが難しくなるのではないでしょうか。ふだんからペットにしつけをして、飼い主とペットのリレーションが取れるようにしておく必要があると思います。備えがなければツールがあっても、活かせないのでは」と話した。

高齢者のペットを助けるための仕組みを考えた

上)会社TANKの代表、福元成武さん(右)。トークセッションでは、とある動物愛護センターで保護された犬たちのために、ドッグランを設計・施工し、寄贈したというエピソードを語ってくれた</BR>下)福元さんが考えた公助の仕組み。このような模型で表現され、展示された上)会社TANKの代表、福元成武さん(右)。トークセッションでは、とある動物愛護センターで保護された犬たちのために、ドッグランを設計・施工し、寄贈したというエピソードを語ってくれた
下)福元さんが考えた公助の仕組み。このような模型で表現され、展示された

参加クリエイターの5人目は、住宅などの建築・設計・施工に携わる福元成武さん。株式会社TANK(タンク)の代表を務める。福元さんは具体的な避難グッズではなく、高齢社会を見据えてのペット避難の仕組みを提案した。

「僕自身は猫を2匹飼っていて、災害が起きたらどんなふうに避難しようかと考えたとき、僕は自力でペットを助けることができそうな気がしたんです。でも、街を歩いていると、ペットを連れた高齢者が多いことに気づきました。そしてお年寄りの方は、どうやってペットと一緒に逃げるのだろうと。高齢なので自分自身が避難することすら難しい状況なのでは、と思ったのです。そこで、高齢者に飼われているペットが安全に避難できる仕組みを考えてみました」。

どういう仕組みなのだろう? 

「災害時、自分でペットを守ることができなければ、行政や企業の力を借りて助けてもらう"公助″があります。高齢者と暮らすペットが公助されやすい仕組みや、アイテムを考えようと思いました」。
そこで福元さんが目をつけたのは、物流の企業。物品を荷受けして目的地へ運ぶ業種であるだけに、全国の配送網を把握し、物品の管理や記録などのシステムをもっている。そうした専門性を活かし、災害時のペットの避難に利用することを考えたという。

「震災発生後、被災地では支援物資のルート配送が行なわれると思います。配送で回っているとき、発見したペットを拾い、配送車に乗せて飼い主のいる避難場所へ運んでもらうという提案です。こうしたペットの救護活動をやりやすくするために、規格化されたケージをあらかじめ用意しておきます。規格化されたケージなら、荷台に積みやすいだろうし、ペットが拾われた場所などの記録や管理がしやすくなるのではと。このように物流会社の力を借りて、高齢者の同行避難ができればいいなと思ったのです」。

この仕組みについて、福元さんは模型を使って被災地の様子を表現した。ケージの素材に使うのは、フォークリフトの運搬板のパレット。「パレットをモジュール化して4等分化して小型犬を入れられるようにするなど、ペットの避難アイテムに活用するといいと思います」と、福元さんは説明してくれた。

福元さんの構想について、平井さんは「高齢者のペット同行避難の支援体制を考えていくうえで、いい視点です。ペットが迷子になることのないよう、どこの家のペットなのか、正確に記録する仕組みを作る必要はありますが、企業の専門分野を活かした連携は、今後、重要になってくると思います」と評した。

この「ペットの同行避難」を考える一連のイベントが企画された段階ではまさか、熊本で大きな地震が起きるとは思いもよらなかったと、平井さんはじめ、関係者は言う。トークセッションには定員50名のところを100名近い入場者が集まった。その大半はペットと暮らしている人たちで、ペット可のマンションに住んでいてペットの災害対策を担当しているという人や、自治体の防災センター勤務という人もいた。そんななかで、犬や猫などペットを飼った経験のない筆者は少数派だったのではないだろうか。そんな筆者にとって、災害が起きてしまったとき、ペットのいる人たちとどう共存していくか、考えてみる機会になったと感じている。

☆取材協力
公益財団法人せたがや文化財団 生活工房
http://setagaya-ldc.net/

2016年 06月28日 11時08分