北海道ならではの地域構造と「生産空間」

これまで経験したことのない人口減少の時代に突入した日本。なかでも、広域に集落が点在する北海道の農山漁村は、生活に必要な施設や店舗までが遠く、公共交通の運営にも大きなハンディがあり、人口の定着が難しい。道内の農山漁村の居住地の半数は2050年に無人化するという推計もある。その北海道で、どうすれば地域が存続できるのか考えようと、国土交通省の北海道開発局が「北海道型地域構造の保持・形成」に向けた施策を推進している。

開発局は北海道の強みを「食」と「観光」ととらえ、それらを生み出す農山漁村を「生産空間」と定義。単純なコンパクト化では一次産業が営めないため、「生産空間」と、病院やスーパーのある「地方部の市街地」、高次医療を担う「圏域中心都市」の3層の結びつき強化を目指している。2019年2月28日、札幌市で開催されたシンポジウム「守れ!北海道の『生産空間』~地域が存続していくために今何が必要か~」の様子をレポートする。

北海道各地で活動する事業者や有識者を招いて開かれたシンポジウム北海道各地で活動する事業者や有識者を招いて開かれたシンポジウム

セコマの丸谷社長は「まず『地域のこし』を」

特別講演するセコマ社長の丸谷智保さん特別講演するセコマ社長の丸谷智保さん

特別講演では、道民の支持が厚いコンビニ「セイコーマート」を展開する株式会社セコマ社長の丸谷智保さんが「地域と共に歩み存続する経営」と題して語った。

丸谷社長はビジネスモデルを紹介。「川上から川下まで一貫して自分たちでやっています。川上は生産・製造現場で、農業生産法人は120ヘクタールの農地をもっています。製造部門はほとんどが食に関する21工場で、それぞれの地域の特産を利用しています。中流は物流。星形の北海道は人口密度が低く、札幌を中心にほぼ放射状の物流で非常に効率が悪い。そこで各地方センターから店舗のルート物流をつなげています。効率的な物流網を築くのに20年かかりました。下流は小売りで、このようなサプライチェーンを生かし、地域に密着して1,200店舗を営業しています」

セイコーマートは道内179自治体のうち175にあり、地域住民の要請を受けて過疎地へも出店している。丸谷社長は、生産空間を支えることにつながる例として、オホーツク海に面した紋別市の内陸部にある上渚滑(かみしょこつ)地区の例を挙げた。

丸谷社長によると、紋別市は水産業と林業が主産業で、林業の中心地がこの上渚滑地区。人口約900人で、高齢化率が4割にのぼる。小売業の成立が難しい環境で、農協系のスーパーが閉店し店が一軒もなくなったという。そこで地域の期成会がセイコーマートの出店を希望し、600万円を集めて別の土地を買って解体、市に寄付した。市は出店費用7,000万円のうち3,500万円を助成。経営の成立には1日に25万円の売り上げが必要だが、地代がない上に営業時間を朝6時半~夜8時に絞って人件費と光熱費を抑えることができた。既存のルート活用で物流コストも最小限にでき、成立するという判断に至った。またイートインのスペースを広くして都市間バスの待合所にし、集会所にも使えるよう工夫。丸谷社長は「もし店舗で赤字になっても、製造と卸・物流で補完できるのではないか。地域の存続のため店舗を出すと決めるまで2年半逡巡した」と明かした。

丸谷社長は、地域の存続には効率的な物流網が不可欠だとした上で、こうまとめた。「地域住民、行政、民間が三位一体となり、知恵を絞る。右肩上がりの利益を一人だけ取ろうと思ってもだめですね。上渚滑のように、必要なことを地域の住民と話し合い、生産空間を守りながら一緒に存続していければ。900人の集落をどうやって守っていくのか。地域おこしではなく、『地域のこし』が先だと思います」

移動環境の悪化が地域の存続に影

基調講演する日本大学特任教授の石田東生さん基調講演する日本大学特任教授の石田東生さん

続いて、日本大学特任教授の石田東生さんが基調講演。石田さんは、第8期の北海道開発総合計画で、閣議決定される国土計画では初めて、「暮らしを守る」ことと「稼ぐ」ことを同時に考えるものになったとして、人と物のモビリティ(移動)を検討する重要性を説いた。「学ぶ、働く、遊ぶといった生きがいを支えるのはモビリティ。現状は公共交通の衰退やドライバー不足でモビリティが悪化している。その結果、生産空間の存続と物流に赤信号が灯っている」と指摘した。さらに、公共交通やカーシェアといった移動サービス単体では収益化は容易ではなく、そこに物流や買い物、観光、医療といった多様なサービス主体を連携させることが必要だと説いた。

実際のマネジメント体制としては、画一的な開発ではなく、地域の特性に応じて民間の多様な主体を交えて管理運営まで考える「エリアマネジメント」が求められているという。生産空間は自治体の垣根を越えるため多様な連携が欠かせず、将来には複数の市町村、民間団体、地域住民、コミュニティが参加する広域エリアマネジメント組織をつくるべきだと指南。「地域の多様な団体の参加を得て、計画や施策リストの作成だけに終わらせないという決意が何より大事で、ICT(情報通信技術)の力も借りるべきだ」と提言した。

北海道の「食」と「観光」が維持できない可能性

モデル地域での取組みを発表する北海道開発局の平野誠治さんモデル地域での取組みを発表する北海道開発局の平野誠治さん

北海道開発局の平野誠治さんは、生産空間の現状に関し、全国より人口減少が10年進んでいるとして、「このままでは将来、『食』と『観光』という北海道の強みを提供できなくなる可能性がある」と警鐘を鳴らした。

開発局は、生産空間と市街地と圏域中心都市をネットワーク化する「名寄周辺」「十勝南」「釧路」の3圏域をモデル地域に指定しており、「名寄周辺」と「十勝南」では自治体や事業者、有識者らが課題や方向性を共有し、施策パッケージが策定されている。平野さんはその取組み状況を説明した。

「名寄周辺」では、貨物量が少ない宅配事業や、出荷と入荷のバランスが悪い物流システムを効率化するため、地域物流会社を設立して道の駅などでまとめて集荷するなどの案をワーキングチームで議論している。「十勝南」では、食料生産基地として農業就業者の確保に優先して取組み、職場環境の向上やスマート農業の導入等により効率化・省力化を進めることとした。

パネリストからは多様な連携を求める声

パネルディスカッションでは、地域住民、自治体、民間など多様な主体の連携を求める声が相次いだ。

名寄商工会議所会頭の藤田建慈さんは、地元の運送会社の経営が厳しくなっていることを踏まえ「人口減少で流入する物資が減る一方、生産性が向上して作る物や荷物が増える。住民や民間企業に、物流にはコストがかかることを理解してもらい、合理化を進めていかないと、地域住民が安心して作ったり買ったり、生活ができない」と強調。「小さな町や村にもそれぞれの役割がある。都市部と小さな町・村が相互に利用しながら活性化していくべきだと思う」と地域連携の重要性を訴えた。

日本初のチーズ共同熟成庫の運営を支援する帯広信用金庫地域経済振興部長の秋元和夫さんは「過去と未来を共有し、現在の課題を見据えてさまざまな主体が連携を進め、地域を再生しないといけない。金融機関や大学も活動に積極的に取り込んでほしい」と呼びかけた。

後志(しりべし)地方で活動する女性でつくる「しりべし女子会」会長の池本美紀さんは市町村を超えたタッグの大切さを唱え、「行政だから、民間だからは関係ない。住んでいる人が毎日、真剣に考えないと気付きがない」と話した。

コーディネーターで北海道総合研究調査会理事長の五十嵐智嘉子さんは「高度成長期は画一的な社会を求めたが、今はそうではない。違う文化の中で生きるからこそ、自分の役割と活躍の場がある。生産空間を守るためには、住んでいる人だけではなく、いかにファンや関係人口を増やすかが大切」とまとめた。

パネルディスカッションで意見を交わす、五十嵐さん(左上)、藤田さん(右上)、池本さん(右下)、秋元さん(左下)パネルディスカッションで意見を交わす、五十嵐さん(左上)、藤田さん(右上)、池本さん(右下)、秋元さん(左下)

2019年 05月29日 11時05分