上海でいちばん賑わっている場所はどこだ?

上海の摩天楼上海の摩天楼

昨年末、仕事で上海に行ってきた。拙著『第四の消費』の中国訳が昨年から中国で売れ、特に小売業者の中で私の話が聞きたいという声が高まり、講演に呼ばれたのである。
上海といえば中国のみならず世界的に見ても大都市である。常住人口は2,500万人。市内総生産は約45兆円で北京市を凌ぎ中国最大だという。面積は約6300km2(東京都の約3倍)、人口密度は約2930人/km2(東京都は5960人/km2)という。

1990年代に、上海は、浦東地区が経済特区に指定され、市場経済を試す地区になった。2010年頃になると、12-18階建てが最も多い住宅団地が都市周縁地区に大量に建造され、高層ビルの数が世界一になった。それにより、1950年代の1人当たり平均住居面積は3m2以下だったのに現在は40m2まで拡大した!というから驚きだ(早稲田大学イスラーム地域研究機構「全球都市全史プロジェクト」ホームページ参照)。

市内にくまなく建ち並ぶ高層ビルやマンションを見ると、東京ですら平らべったく感じる。
だが、観光地やその駅の中はかなりの混雑であるものの、東京と比べて密度が高いわけではない。普通の街中は思ったより人が少なく、ショッピングセンターの中も客はそれほど多くない。

ところが、私が今回歩いたなかで最も混雑していて、白人観光客も多かったのが田子坊という一角である。たくさんのショップや飲食店が出来た一種の横丁なのだ。

古い町工場街が人気の町に変貌した

田子坊は20世紀初頭にできた工場街である。それが30年ほど前から変貌してきたらしい。最初はティアン・ジー・ファン(田子坊)という画家がここに住み始めてから、次第にアート的な街になっていき、その後やはり画家のフアン・ヨンギュウが街を「田子坊」と名付けたらしい。

近年上海では、古い工場や住宅の文化的・歴史的価値が認識されるようになっており、田子坊も建築的な特徴を残しながら活用されるようになったようである。
狭い路地が面して無数の店があり、カフェ、レストラン、テイクアウトの食べ物屋、アクセサリー、ファッションなどの店が無数に並んでいる。どうみても普通の家の厨房からそのまま食べ物を売っているようなところもあって面白い。日本同様猫ブームなのか、猫カフェもあった。

東京で言えば吉祥寺のハモニカ横丁のようなところだが、元工場街という意味では月島の長屋にすべて店が入ったイメージだろうか。店の種類としては原宿竹下通りに近いかもしれない。
アジアらしい猥雑さが上海にはすでにあまり見かけられないが、ここだけはそういう雰囲気があるのが人気の秘密だろう。大都市として発展すればするほどこうした横丁的な場所が人気を増すのは最近の東京と同じ傾向である。

若い外国人観光客で賑わう田子坊若い外国人観光客で賑わう田子坊

租界時代の資産を生かす

20世紀初頭、上海は先進国諸国の租界だったが、中でも面積としてはフランスの租界が大きかった。
その旧フランス租界は今行っても本当にパリのようであり、街路も建物も美しい。無印良品の上海店があるのもフランス租界地である。

また上海でも20世紀初頭に田園都市運動が日本経由で起こったようである。もちろんイギリス租界もあったから、田園都市運動の本家イギリスから直接の影響もあったかもしれないし、田園都市思想はフランスにも影響したから、フランスから上海への影響もないとは言えない。いずれにしろ、その頃緑豊かな街路と高級住宅地がつくられ、それが今も残っている。

上海の1840年ごろの開港以前の伝統住宅は、平屋の中庭様式の住宅だった。そこにイギリス、フランス租界ができ、洋館が増え、1850 年代からは租界内の中国人向けに「里弄住宅」という集合住宅が急速に増加した。
1920年代になると、田園都市の思想の影響を受けて「ガーデン付き里弄 りろう 住宅」というものも誕生した。

「里弄」とは路地のことであり、路地でつながれた地区全体をさすこともある。里弄住宅とは上海市特有の居住形式であり、路地に面して2階建て、あるいは3階建てのメゾネット形式の住宅が並んだもの。すべてが 1949 年以前に建設された。ガーデン付き里弄住宅は路地ではなく小さな庭に面するようにつくられ、一戸建てもあったという。

里弄住宅の大部分の住民は,何世代もそこで生活してきたという。炊飯,食事,洗濯などの家庭活動はオープンスペースで行われ,里弄全体の住民が一つの家族のようになっていた。老人や児童は生活のストレスが少ないため、大部分の生活時間を里弄で過ごし、近隣の人間関係はマンションの住民より親密だという。

しかし,1990 年代から上海市で始まった旧市街地再開発事業により,里弄住宅を含め,数多くの旧租界地時代の建築物は取り壊しとなった。急激な再開発事業により市民生活も大きく変化したという(任海「上海市の里弄住宅と里弄住民の社会・経済的特徴」『地理誌叢』Vol.51 No. 2)。
そういう背景があるからこそ、田子坊のような横丁も人気なのではないか。

旧フランス租界は静かな高級住宅地で中国国内からの観光客も多い旧フランス租界は静かな高級住宅地で中国国内からの観光客も多い

田園都市のまったりブックカフェでもスマホで決済

租界時代につくられた良好な環境を維持整備するために、上海市は、景観の良い街区や歴史的価値のある住宅を「花苑都市」あるいは「花園住宅」と名づけ、それらの建物から特に優れたものを、上海市の「優秀歴史建築物」として保護している。

優秀歴史建築物の定義は
1.築30年以上であること
2.有名建築家・設計者の作品であること
3.芸術性が高いこと
4.中国の産業発展史上に代表性のある工場、倉庫、店舗であること
5.上海の歴史・文化を代表する建築
であり、1989年上海市が専門家チームを結成し、選定している。第1回の1993年以来これまでに1,058件の建物が選定されているという。

こうした花苑都市地域を散歩していると、小さなタウンハウスのある一角を発見した。東京でいえば今はなき名作団地「阿佐ヶ谷住宅」を彷彿とさせる、のどかな雰囲気の場所だが、そこにブックカフェがあったので入ってみた。
中は代官山か吉祥寺にあってもよさそうなアットホームな雰囲気であり、若い女性が店員をしていた。田子坊もそうだが、人気の店やその雰囲気は上海も日本も共通のようである。

ちなみに上海では自転車はほぼすべてシェアサイクル。お店の支払いもほぼすべてスマホ決済である。こんなまったりしたブックカフェでも支払いはスマホ。木の板に焼き印されたQRコードを読み取れば支払いは終わりである。IT文明とまったりが共存しているのである。

どんな店でもスマホをQRコードにかざせば決済が終わるどんな店でもスマホをQRコードにかざせば決済が終わる

2018年 05月28日 11時05分