「花粉症」は国民症。オールジャパンでの対策が必要

冬の終わりを心待ちにはしていても、春がくるのは憂鬱…と感じる人も少なくないのではないだろうか。スギ花粉が多く飛散する2~4月にかけて、花粉症に悩まされる人は多い。2020年1月23日、花粉問題対策事業者協議会によるJAPOCセミナー「~トップアスリートの花粉症問題と対策~ 2020年花粉シーズンの花粉症対策と最新情報」が開催された。

「花粉症対策は、飛散の多い日に限らず早めの対応が必要であることを啓発するため、2015年に1月23日を『花粉対策の日』として記念日登録しました。スギ花粉症は国民の約3割が罹病していると言われ、その経済的な損害は大きいと言われているものの対策は軽視されている傾向があると思います。国民症とも言える花粉症を、オールジャパンで業界を横断し効果的・効率的に対策を進めるために『花粉問題対策事業者協議会』は2012年に発足しました」と、冒頭に挨拶をしたのは花粉問題対策事業者協議会 代表理事である香川謙吉氏(ダイキン工業株式会社)。香川氏は「業務効率化や働き方改革が進められているが、経済的な損害が大きいと言われている花粉症の対策も同時に進めていく必要がある」とも述べた。

東京都が発表した「花粉症患者実態調査報告書」(2017年12月発行)によれば、春先の鼻炎症状を質問したところ、最重症から軽症まで、なにかしらの鼻炎症状を訴えている人は62.3%と高い割合を占めることが分かっている。
今回はセミナーから、気になる2020年の飛散予測、花粉対策などについてお届けする。

東京都「花粉症患者実態調査」(平成28年度)よりアレルギー性鼻炎の重症度分類に基づく分類を参照して作成東京都「花粉症患者実態調査」(平成28年度)よりアレルギー性鼻炎の重症度分類に基づく分類を参照して作成

花粉生産能力の高い樹齢30年超えの人工スギが増加中

(上)登壇する日本医科大学 耳鼻咽喉科 大久保公裕氏<br>
(下)林野庁「スギ・ヒノキ林に関するデータ」ホームページより森林面積に占めるスギ・ヒノキ人工林の割合を参照して作成(上)登壇する日本医科大学 耳鼻咽喉科 大久保公裕氏
(下)林野庁「スギ・ヒノキ林に関するデータ」ホームページより森林面積に占めるスギ・ヒノキ人工林の割合を参照して作成

基調講演では、花粉症治療の第一人者である日本医科大学 耳鼻咽喉科 大久保公裕氏が登壇。

「花粉症の有病率は1998年と2008年を比較して10年間で約10ポイントも増加。その要因としては花粉飛散量の増加という環境要因があります。花粉の生産能力が高まる樹齢30年以上の人工林が増加しており、スギ・ヒノキの人工林は国土の約19%、面積としては四国がほとんどスギで埋まっているほどの大きさということになります。天然スギは樹齢200年を超えても花粉を生産するというデータがありますが、人工林は今後どれくらい花粉を発生し続けるかはまだ分かりません。ですが今後50年くらいは花粉が多いことが考えられるでしょう」と話す。

花粉対策については、「薬の服用が一般的な対処法ではありますが、その人の症状に適した治療法があるので、市販薬で済ませている人も一度病院で診察を受けることをおすすめします。根本的な体質改善が期待できる皮下免疫療法や舌下免疫療法なども検討してみては」と話した。

トップアスリートの花粉症対策の課題

登壇する国立スポーツ科学センター メディカルセンターの医師、蒲原一之氏登壇する国立スポーツ科学センター メディカルセンターの医師、蒲原一之氏

トップアスリートのメディカルチェックを実施している国立スポーツ科学センター メディカルセンターの医師、蒲原一之氏は「トップアスリートも花粉症を有する人は同様に多い」と話す。またここ十数年で増加傾向にあるとも感じているそうだ。

「仕事の業務効率が花粉症により下がることと同様に、アスリートも花粉症の症状がコントロールできないとパフォーマンス低下の懸念があります。課題としては、花粉症の治療薬には興奮薬やステロイド、血管収縮薬などドーピング禁止物質を含むものが非常に多く、薬の服用がしにくいことです。また年ごとに服用していい条件や薬も変わるため、医師は十分に把握したうえでアスリートの治療に対応する必要があります」とも話した。

今年の花粉飛散量は前年よりやや少ないか

さて、気になる2020年の花粉の飛散量はどうだろう。株式会社ウェザーニューズ 予報センター 草田あゆみ氏によれば、「全国的に見れば、前年より少ないと予想されています。ですが、北海道や東北北部などは前年と比較して多く飛散する可能性がある」とのことだ。

花粉の飛散量はスギ・ヒノキの雄花が豊作かどうかによって大きく変わる。夏の天候が晴れていて暑いと雄花の生育が促進され翌年は花粉飛散量が多くなると言われているのだ。北海道南部や東北北部は暑く晴れの日が多かったため花粉が多くなる予想で、西日本や東日本はその逆の曇りや雨の日が多かったため少なくなるという予想になった。

「今年は記録的な暖冬であることもあり花粉の飛散が平年より早くなることが予想されています。関東南部では数日、西・東日本では1週間ほど、東北北部では半月ほど早まる可能性があります。ウェザーニューズで調査を実施したところ、関東・東海エリアの方ですでに1月20~21日にかけて花粉の飛散を感じていると回答している人が4割という結果でした」

花粉症の人は、例年通りの時期になったら対策をしよう…と思っているうちに症状が出てきてしまうかもしれない。今年は早めの対応が必要になりそうだ。

株式会社ウェザーニューズ提供「2020年花粉飛散傾向2019年比」株式会社ウェザーニューズ提供「2020年花粉飛散傾向2019年比」

早めに準備したい花粉対策

最後に、花粉問題対策事業者協議会が認証する、JAPOC製品の紹介や展示があった。帝人フロンティア株式会社は、花粉がついてもすぐに落とせる衣服用繊維「ポランバリア®」を開発。今後一般消費者向けにJAPOC認証を受けた生地を使用した洋服が店頭に並ぶ。花粉が落ちやすいだけでなく、花粉が通過しない、快適性も考慮し湿気を逃がしやすいこともJAPOC認証の基準としているという。

春にサッシを開けたくても花粉が気になって閉めたままになってしまうという人にとって気になるのが網戸の花粉対策だ。空気清浄網「ナノキャッチ」は、アウターネット、特殊フィルター、インナーネットの3層構造になっており、花粉やカビ胞子などの粒子をブロックする。賃貸物件に住んでいる人にとっては網戸の交換はハードルが高い。その場合はナノキャッチフィルターのみを網戸に設置するという方法もある。(フィルターのみはJAPOC認証外)

花粉症対策として、林野庁はスギ人工林の伐採、利用と植替えを進めている。とはいえ今すぐに効果が出るものではなく、残念なことに今後約50年はスギ花粉の飛散は多いとの予想もある。早めに花粉対策をしておきたい。

(左上)空気清浄網「ナノキャッチ」とフィルター<br>
(右上)花粉対策眼鏡スカッシー(名古屋眼鏡株式会社)<br>
(左下)象印マホービン株式会社の空気清浄機<br>
(右下)帝人フロンティア株式会社の繊維ポランバリア(R)を使用した洋服
(左上)空気清浄網「ナノキャッチ」とフィルター
(右上)花粉対策眼鏡スカッシー(名古屋眼鏡株式会社)
(左下)象印マホービン株式会社の空気清浄機
(右下)帝人フロンティア株式会社の繊維ポランバリア(R)を使用した洋服

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