人と猫との共生を目指す神戸市に本拠地を置く企業がタッグを組む

上/ファミリー向け「ワコーレヴィアーノ高丸 猫の家」の外観は、三毛猫をイメージした色使い。下/単身世帯向け「ワコーレヴィアーノ垂水城が山 猫の家」。ともに猫のシルエットの間接照明が設置されている上/ファミリー向け「ワコーレヴィアーノ高丸 猫の家」の外観は、三毛猫をイメージした色使い。下/単身世帯向け「ワコーレヴィアーノ垂水城が山 猫の家」。ともに猫のシルエットの間接照明が設置されている

兵庫県神戸市では、2017年4月に「神戸市人と猫との共生に関する条例」が施行された。猫によるトラブルや殺処分がない“人と猫が共生する社会”のため、飼い主の責任や野良猫を適正に管理することなどのガイドラインが定められている。

そんな神戸市に本社を構える2社が協力し、猫と暮らせる賃貸物件を誕生させた。通信販売会社の株式会社フェリシモと不動産業の和田興産株式会社だ。

プロジェクトは2018年にスタート。2019年12月にファミリー向けの「ワコーレヴィアーノ高丸 猫の家」、続いて2020年4月に単身世帯向けの「ワコーレヴィアーノ垂水城が山 猫の家」が完成した。ファミリー向けは2階構造で1LDKと2LDK、単身世帯向けは1Kとなっている。

フェリシモは、猫好きが集まるコミュニティ・フェリシモ猫部®をつくり、猫グッズを販売。その金額の一部を「フェリシモの猫基金」として運用し、犬も含めた保護と里親探し、猫の過剰繁殖防止活動などを支援している。

猫と暮らせる賃貸物件の開発について、フェリシモ・生活雑貨事業部 猫部グループの小木のり子さんに取材した。

猫と飼い主、両方に寄り添った室内設計

ファミリータイプのトイレ。猫用トイレを置けるスペース、猫砂を入れられる床下収納を確保。また、猫専用の入り口は、飼い主のトイレについてきたがる猫ちゃん対策としても安心!?ファミリータイプのトイレ。猫用トイレを置けるスペース、猫砂を入れられる床下収納を確保。また、猫専用の入り口は、飼い主のトイレについてきたがる猫ちゃん対策としても安心!?

構想から約2年という歳月をかけた。フェリシモ猫部、和田興産、設計士がアイデアを出し合い、取り組んだという。

「フェリシモ猫部は『猫と人が共に幸せに暮らせる社会づくり』を目指して活動しておりますので、猫にも人にも住みやすく、共存できる家というのを大前提としました。猫向け住宅ですと、ステップや通路などのアスレチック要素はベーシックな設備だと思いますが、今回はさらに切り込んで、猫との“暮らし”を考えたときに、より猫と飼い主さんの生態に寄り添った仕様を心がけるようにしました」

ファミリー向け物件のほうでは、人間用トイレに猫用トイレを設置し、においの問題を解決できるように工夫した。さらに、トイレ用の猫砂は重いのが悩みだが、人間用トイレ内に猫砂を収納できる床下収納を確保。「猫との暮らしで欠かせないトイレとの付き合い方に新しい提案を行いました」と小木さん。

残念ながら、単身世帯向けでは猫用トイレを同じ場所にするスペースの確保はできなかったが、1階の部屋ではトイレに隣接する洗面室に床下収納が備えられており、猫砂やフードなどの猫関連用品を収納することもできる。

猫ファーストな構造

猫用ステップと通路は、猫の運動量に配慮して部屋をぐるりと一周できるような動線にした。フェリシモ猫部のスタッフは、全員猫を飼ったことがあり、その経験を生かして、内装の施工前にステップを数種類用意し、素材の厚み、高さ、ステップ同士の距離などを確かめてから設置したそうだ。

また、「猫は遊ぶだけでなく、ひとりの時間も大切にする生き物なので、猫のストレスを軽減するための隠れ家的な要素も、設計を考えるうえで重要な議題になりました」とのこと。

人間の手があまり届かないところにもステップや通路を配置したほか、通路にはボックスをつけて隠れられるようにした。

ファミリー向けの物件では、急な来客時に逃げ込めるように階段下にスペースが設けられているほか、猫にとって危険が多いとされるキッチンは侵入できないように独立型になっている。小木さんは「通常の物件ならこんな構造にしないという設計でも、猫の安全などを考慮するうえで設計士さんが工面してくださったのが印象的でした。キッチンはまさかの個室にしてしまうというアイデアに着地し、そのなかでも開放感があるようになっています」と語る。

1Kタイプの単身世帯向けでは、居室とキッチンの間にある扉に備わる猫専用入り口(以下、猫口)をロックすることで個室状態にできるので安心だ。

左上/ステップの高さや距離は、老猫でも負担の少ないようにとも考えられた。左下/単身世帯向けではロフトを生かした高低差のある動線に。右上/通路には猫が隠れることもできる箱を設置。右下/ファミリータイプでは、来客などに驚いた猫が隠れられるスペースが階段下にある左上/ステップの高さや距離は、老猫でも負担の少ないようにとも考えられた。左下/単身世帯向けではロフトを生かした高低差のある動線に。右上/通路には猫が隠れることもできる箱を設置。右下/ファミリータイプでは、来客などに驚いた猫が隠れられるスペースが階段下にある

開発時に議論が白熱!? 猫飼いスタッフの熱い思いで、脱走防止用内扉を設置

単身世帯向けの脱走防止用内扉。写真下はキッチン側から見た写真。スライド式&すりガラスで、飼い主にとって圧迫感がないようにした。居室とキッチンの間の猫口のロックとこの内扉で、ダブルで脱走を防ぐ単身世帯向けの脱走防止用内扉。写真下はキッチン側から見た写真。スライド式&すりガラスで、飼い主にとって圧迫感がないようにした。居室とキッチンの間の猫口のロックとこの内扉で、ダブルで脱走を防ぐ

猫の安全というと、飼い主にとって“脱走”も心配なことだ。「猫の家」シリーズでも、脱走防止のための設計にかなり議論の時間を割いたそうだ。「脱走防止の設えをすると飼い主さん的には少し圧迫感を感じる部分が出てきてしまうことが考えられました。ですが、猫部として譲れないポイントでしたので、議論が白熱しました」

ファミリー向けでは、玄関につながる部屋の扉には猫口を設置していないので、うっかり脱走を防げる。

一方、単身世帯向けでは先述のように猫口のロックができるというものの、玄関まで一直線であることからひょっとしたらということがあり得るのだ。

「単身世帯向けでは玄関とキッチンの間に内扉を設置することにしましたが、その構造には苦労しました。既製品はなかったので、和田興産さまがホームセンターで使えそうな建材を購入して実験してくださったり、猫部のわがままにとことん付き合っていただきました。コスト面で合うものを探しつつ、強度もなければなりません。強度については素材があまりにも重厚すぎると圧迫感が出てしまうので、ある程度の薄さが必要です。最終的には、内装の施工会社さんが既存の建材を工夫して組み合わせてくださり、安定感がありつつも、空間を圧迫しないものが完成しました」

全国の猫好きから要望が続々と

単身世帯向け物件を造ったことについて「一人暮らしの方は、保護猫の譲渡の条件が厳しいうえに、単身世帯向けの賃貸はペット不可がほとんど。単身世帯向けこそ『猫の家』は必要なのではと考えました」と小木さん。

猫用通路は透明のアクリル板を採用。これは、猫の肉球を下から眺めたいという猫好きが多いためだ。見上げては癒やされること間違いないだろう。

そして、賃貸物件というと、「原状回復義務」が発生する。猫は爪とぎや、においをつける習性でスリスリして壁紙が汚れてしまうこともあるが、「猫の家」シリーズでは居室の腰壁の壁紙が上下で切り替えていることで、汚れやすい部分だけを退去時に張り替えることが可能。網戸は破れにくい強化網戸で、床はひっかき傷がつきにくいクッションフロアだ。また、ステップも消耗するものだが、壁紙の上から後付けして取り替えやすくしているそうだ。飼い主にとって負担が少ない内装でもある。

ファミリー向け、単身世帯向けともに、猫は3匹まで飼育可能。入居前から一緒に暮らしていた猫以外の動物もOKとのこと。各物件の近くに動物病院もある。

猫OKの物件は需要が高まっている。
小木さんは、「神戸だけでなく、全国にこういった物件が増えていけばいいなぁと思っています。実際、猫部にも『私の住んでいる街にもつくってほしい』というご意見が多数届いています。和田興産さまも、自社だけでなく他社さんにもこういった取り組みが広がればうれしいとおっしゃっていたので、全国の不動産会社さんにぜひ検討いただきたいです。猫部は全国地域にアドバイスなどに伺います!」と熱くアピールした。

取材協力:株式会社フェリシモ フェリシモ猫部 https://www.nekobu.com/
     和田興産株式会社 https://www.wadakohsan.co.jp/index.html

左上/猫用通路は透明で、肉球を見られる楽しい造りに。左下/壁を上下で分けることで、汚れやすいところを取り替えればいいようになっている。右上/猫専用の入り口(猫口)にはロック機能がある。右下/収納スペースを多めにしているのは飼い主にうれしいポイント。なお、入居者にはファミリー向けで毎月5,000円分、単身世帯向けで毎月2,500円分のフェリシモクーポンが特典で付き、フェリシモ猫部の猫グッズも購入できる左上/猫用通路は透明で、肉球を見られる楽しい造りに。左下/壁を上下で分けることで、汚れやすいところを取り替えればいいようになっている。右上/猫専用の入り口(猫口)にはロック機能がある。右下/収納スペースを多めにしているのは飼い主にうれしいポイント。なお、入居者にはファミリー向けで毎月5,000円分、単身世帯向けで毎月2,500円分のフェリシモクーポンが特典で付き、フェリシモ猫部の猫グッズも購入できる

2020年 05月31日 11時00分