5年間に最大約35万人の外国人労働者が増える想定。住居の確保が急務

外国人労働者受け入れを拡大するため、政府は「改正出入国管理法」を2019年4月1日に施行した。
これまで認められてこなかった単純労働就労が介護、外食、建設、農業、漁業など14の業種で解放され、将来的に永住することも可能にするなど、外国人労働者雇用について門戸を大きく開く画期的な改正が行われたことになる。転職の自由も保証されるとあって、大枠では移民政策にも関わる大きな方向転換といえる。

日本企業が質の高い優秀な外国人労働者を継続して雇用するためには、当面、改正法の把握、労務管理などが重要だが、喫緊の課題となり得るのは外国人労働者の住宅の問題だろう。
政府は今後5年間に当該14業種で最大34万5,000人の受け入れを想定するが、人手不足に悩んでいるのは14業種に限ったことではなく、住宅を含めた福利厚生の良否が外国人労働者の受け入れに際して重要なポイントになることは疑いの余地がないからだ。

受け入れ側の住宅マーケットにおいても、30万人以上の労働者が一定期間居住することになればその収益と影響は決して少なくない。技能実習生などはこれまで会社の工場や寮などを改装して住まわせるケースが多かったが、今回の改正ではそのような企業単位の対応では間に合わない可能性も高く、外国人労働者の集合住宅へのニーズが高まることが想定される。
また、新在留資格により家族を帯同できる特定技能2号資格保有者が増えると、家族が一緒に住む一戸建て住宅の需要にも考慮する必要がある。増え続ける空き家を利活用することで地方圏での空き家対策や定住政策が一気に進む可能性も考えられる。
日本には外国人の土地所有を制限する制度が事実上ないので、永住権を取得した外国人が将来的に土地・不動産を購入する可能性があり、外国人に対応した不動産仲介や登記ができる業者も必要だ。

法改正によって外国人労働者の受け入れが始まると、果たして日本の住宅事情・住宅政策はどのように変化するのだろうか。外国人の住宅環境について、その現状と将来の市場について解説をお願いした。

5年間に最大約35万人の外国人労働者が増える想定。住居の確保が急務

コミュニケーションの質が賃貸住宅の本質的で普遍的な価値になる ~青木 純氏

<b>青木 純</b>:場づくりと関係性のデザインのノウハウを最先端で活躍する実践者に学ぶ「大家の学校」やグッドデザイン賞受賞の「青豆ハウス」「高円寺アパートメント」等の運営を行う、(株)まめくらし代表。カスタマイズ・DIY可能な賃貸文化を普及し、経産省「平成26年度先進的なリフォーム事業者表彰」。著書に「大家も住人もしあわせになる賃貸住宅のつくり方」青木 純:場づくりと関係性のデザインのノウハウを最先端で活躍する実践者に学ぶ「大家の学校」やグッドデザイン賞受賞の「青豆ハウス」「高円寺アパートメント」等の運営を行う、(株)まめくらし代表。カスタマイズ・DIY可能な賃貸文化を普及し、経産省「平成26年度先進的なリフォーム事業者表彰」。著書に「大家も住人もしあわせになる賃貸住宅のつくり方」

単身向けのシェア住居で暮らした”シェア体験世代”が増えたことで、賃貸住宅はスペックのみでなく、誰とどんな時間が過ごせるかという共同体の価値で選ばれることも多くなった。共同体において多様性や拡張性は価値であり、その面で外国人居住者は歓迎される状況にあると言える。
もちろん文化や言語の違いによる戸惑いは双方に日常的に想定されるため、入居審査をはじめとするエントリーマネジメントや入居後の日常のコミュニケーションマネジメントが、一層重要となるだろう。日本人や外国人にかかわらず、入居申込書に留学や就労など海外での滞在経験や語学能力を加え、貸主事業者や既存の入居者が直接入居前の見学時に立ち会ってコミュニケーション能力を確かめることも有効である。複数の賃貸住宅を所有する大家さんや事業者にとっては面倒に思われるかもしれないが、企業の採用担当者であれば面談を行うことは当然であり、入居時に関係性を構築しておければ、お互いに不安も少なくなる。

また、貸主側で入居者に近い立場でコミュニケーションマネジメントできる役割の介在人を雇用することも有効と言える。そこから住人に波及し、住人のなかにその役割を自然に担える人材が複数いる状態がベストである。そこから生まれた交流や経験が文化として、共同体の価値を積み重ねていく。これからは既存のルールによる画一的な管理のみに頼らず、日々の変化に応じたコミュニケーションによる運営の概念をいち早く取り入れた貸主や賃貸住宅が選ばれる時代になる。

ソフト面での取組みが生活の問題解決の糸口にも ~室 剛朗氏

<b>室 剛朗</b>:J-REIT草創期より金融機関系シンクタンクで不動産証券化関連業務に従事。現在、(株)価値総合研究所にて、不動産投資市場・低未利用不動産再生・被災地復興まちづくり事業・駅周辺再開発・既存住宅流通に係る調査・コンサルティング業務に従事。麗澤大学経済社会総合研究センター客員研究員室 剛朗:J-REIT草創期より金融機関系シンクタンクで不動産証券化関連業務に従事。現在、(株)価値総合研究所にて、不動産投資市場・低未利用不動産再生・被災地復興まちづくり事業・駅周辺再開発・既存住宅流通に係る調査・コンサルティング業務に従事。麗澤大学経済社会総合研究センター客員研究員

東京都の外国人人口は、2019年1月時点で約55万人となり、20年間で約2倍に増加している。国籍も米国・韓国・中国に加え、ベトナム等のアジア諸国の増加が目立ち、その存在感を強めている。東京以外にも、群馬県・静岡県・愛知県・三重県等のように就業者に占める外国人の割合が高い自治体では、外国人コミュニティが形成されている地域も多くみられる。今般の「出入国管理法」の施行により、今後は5年間で累計30万人程度の増加が想定されており、東京等の大都市だけではなく、地方においても外国人の存在はこれまで以上に大きくなっていく。

こうした状況に対応すべく、国の取組みとして、「1号特定技能外国人支援に関する運用要領」で、外国人の住居の確保にあたり民間賃貸住宅を活用する場合の受入機関等が実施すべき具体的な支援(外国人の連帯保証人となる等)を定め、受入機関等が入居から明け渡し(残置物の処理を含む)まで責任を持って対応することや、日常生活の安定・継続性に支障がないよう配慮することも盛り込んでいる。さらに、「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」の公表や、外国人向けの言語対応サポートを行っている登録家賃債務保証業者一覧をHPに公開するなど、情報提供の充実に努めている。このように、外国人の居住の確保に係る必要なサポート体制の構築が進んでいる。

ある同一国籍の外国人が同じ地域に集積するケースは歴史上多くみられるが、例えば、この既にある集積を活かして、まちの特徴とすることができれば、大きなアドバンテージとならないか。住宅供給面の取り組みとしては、空きアパート・一戸建ての活用を促進するのはもちろんのこと、外国人の生活様式に合わせた専用住居の供給促進や一定程度のDIYを容認することも考えられる。また、居住外国人が必要とする外食店舗や食料品・雑貨店等に対する需要が増すことから、店舗併用住宅の利活用も促進していく。需要面においては、情報発信の充実に加え、外国人と地域の橋渡しを行う外国人支援団体(NPO等)の設立支援・事業支援も行う。こうしたNPOと自治体との連携が奏功すれば、集積メリットを活かした自国文化の発信イベント(グルメ・スポーツ等)の開催といった、まちに新たな付加価値を生み出せる可能性がある。こうしたソフト面の取組みが、地域のコミュニケーションの深化に繋がり、結果として外国人の孤立化を防ぎ、生活に係る諸問題を緩和することが期待できる。

今後の政策決定の中で注目されるのは、特定技能2号の制度設計であるが、特定技能1号での就労期間を永住者への移行条件(5年)に算入することや、特定技能2号の対象業種の拡大に対しては、まだ見通しは不透明である。しかし、外国人の増加はメガトレンドであり、本来的な意味における外国人との共生意識を持つ「体質」に変換する、そうした体質改善が自治体や不動産事業者に求められている。

郷に入れば郷に従えと言うならば、「郷」をしっかり教えよう ~太田垣章子氏

<b>太田垣章子</b>:OAG司法書士法人 代表。神戸海星女子学院卒業後、オリックスブルーウェーブの広報として3年間勤務し、退職後、司法書士資格を取得。司法書士事務所に4年半勤務したのち、2006年独立開業。登記業務以外に賃貸トラブルも専門とし、特に賃料滞納による建物明渡訴訟等、賃貸トラブル全般の受託件数は、延べ2,600件を超えている太田垣章子:OAG司法書士法人 代表。神戸海星女子学院卒業後、オリックスブルーウェーブの広報として3年間勤務し、退職後、司法書士資格を取得。司法書士事務所に4年半勤務したのち、2006年独立開業。登記業務以外に賃貸トラブルも専門とし、特に賃料滞納による建物明渡訴訟等、賃貸トラブル全般の受託件数は、延べ2,600件を超えている

日本で当たり前のことも、これから様々な国籍の人が混在するようになるならば、日本の常識が当然に通じると思ってはいけない。玄関で靴を脱ぐ習慣も、世界共通ではないのだ。物件を貸す側も借りる側もストレスを感じないために、入り口のところでしっかり「郷」を伝えよう。
まずは物件の取扱い説明書を、作成することをお勧めする。具体的には先に述べた室内に靴で上がらないことや、家賃支払いの方法や滞納した時のペナルティ、ゴミ捨てのマナー、生活習慣、細かく具体的に箇条書きにしてみよう。

何をここまで、と侮ってはいけない。国が違えば、共用部分に置かれた各戸の洗濯機ですら、使用中でなければ使われてしまうことすらある。そこに目くじらを立てる方が、おかしい。部屋を借りようとする外国人に、日本のルールさえ伝えればいいだけのことなのだ。

そして一通り書き出したら、それを英語、中国語等に翻訳することを忘れてはいけない。最初にきっちりとルールを教え込むのなら、ニュアンスで伝えるのではなく、しっかり母国語で読んで理解してもらおう。最後に「このルールを守ります」と言う誓約文もつけ、納得してもらったらそこにサインをもらう。これだけで外国人賃借人とのトラブルは、随分と減るはずだ。
家主側は外国人賃借人を受け入れるということをしっかり認識し、賃借人同士が異文化をスムースに受け入れられる環境を整えることが重要である。

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