増えるコンセプトシェアハウス

国際交流、ペット共生、ソーシャルビジネス…。コンセプトをもったシェアハウスが増えてきている。普通のシェアハウスがもう珍しくない現在においては、「どのような人が集まるシェアハウスなのか」が重要視されてきていると言えるだろう。

そんな中、町田市にゲーマーのためのシェアハウスができると聞いた。「ゲームは一人でやるもの」というイメージがある人からすると、「なぜシェアハウス?」と疑問に思うのではないだろうか。実はこのシェアハウス、近年盛り上がりを見せている「eスポーツ」が深くかかわっている。仕掛け人で、ゲーマーのプロデュース業をメインに行う株式会社e’sPROの代表取締役、多田誠さんにお話を伺った。

サブリース問題の余波を受けて生まれた「ゲーミングハウス」というアイデア

高台にあるe'sメゾン玉川学園七丁目。この日は見学会が行われ、次々に見学者が訪れていた高台にあるe'sメゾン玉川学園七丁目。この日は見学会が行われ、次々に見学者が訪れていた

そもそもeスポーツ(esports)とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉とされている。現在は主に格闘ゲームやスポーツゲームなどの競技性が高いジャンルを中心に、世界各地で大会が開催されており、日本人でも、世界的に活躍している選手は少なくない。

多田さんがそんなeスポーツに目をつけ、ゲーミングハウスをつくったきっかけは、賃貸住宅のサブリース問題だった。2018年には女性向けサブリース物件運営会社の破綻や銀行による不正融資などが発覚し、サブリース契約のイメージも悪化。そのあおりを受けて、同様のビジネスを展開していた中には苦境に立たされた会社もあった。多田さんの知人の不動産会社もその中の一つで、入居者がなかなか集まらない中、所有している物件の活用法を相談されたのだという。
人が集まるシェアハウスにしようと、いくつかコンセプトが挙がる中、たまたまテレビで見かけたのが、ゲーマーの集まるシェアハウス。友人を通じてプロゲーマーの知り合いがいた多田さんは、「これだ!」と感じ、当時まだ数えるほどしかなかったゲーミングハウスを提案。実現に向け動き出すことになった。

とはいえ、e'sPROが管理を行うゲーミングハウスも、サブリース物件である。オーナーの警戒感の高まりや、銀行審査の厳しさなどネガティブな要素も多い中、「煩雑な銀行とのやり取りなどはこちらができるだけ代行するなど、極力オーナーの手を煩わせないようにすることで、なんとかOKをもらいました」と多田さん。e’sPROでは現在14棟を管理しており、将来的にはそのすべてをゲーミングハウスとして運営していく予定だ。

もはやオンラインだけでは強くなれない

多田さんの知り合いのゲーマーとは、世界を舞台に活躍するプロゲーミングチーム「野良連合」所属のCrazyPapiyoNこと仲條靖史さん。現在はe’sPROの共同代表も務めている。
入居者を募集する前に、本当にうまくいくのかテストするため、多田さんは仲條さんをはじめとするeスポーツチームに一棟を貸し出し、住んでもらったのだという。

オンラインゲームはインターネット環境さえあればどこでも対戦ができるので、住む場所など関係ないと思う人が多いかもしれない。しかし多田さんは「それでも強くはなれますが、限界があります」と話す。
「eスポーツチームの練習というのは、全員が集まれる時間にオンラインでゲームをして、ボイスチャットなどで改善点を話し合うのが基本でした。でも、それでは練習時間が限られてしまうし、声だけでは伝わりづらいこともある。そこで、顔を合わせてやってみたらどうか?と、テスト入居してもらったのが2018年の9月ごろ。そのころ野良連合は、日本ではトップの成績を収めても、世界大会では勝てずにいました。そこからわずか2ヶ月で、アジア大会優勝、世界大会でもベスト4の成績を収めたんです」

練習の場をオンラインからオフラインに移したことで、めきめきと上達した野良連合。その理由をメンバーたちに聞くと、練習時間が増えたこと(1日10~12時間も練習に費やすのだとか!)、オンラインでの試合後に直接集まり、対面で細かく反省会ができること。また集団生活を行うことによってチームワークが格段に高まったことが挙げられたという。仲條さんたちはその後も入居を続けており、さらに同じ野良連合の別チームも近隣のシェアハウスに入居した。
この実績に手応えを感じた多田さんは、ゲーミングハウスの入居者募集を開始。その第一弾が、今回見学させていただいた「eʼsメゾン⽟川学園Ⅰ」だ。

居室の間取りは同じだが、日当たりがよい南側が人気だという(左上)、キッチンには一通りの調理器具と食器がそろう(右上)、湯舟は無く、シャワーのみ。ゆっくり入浴するよりも、サッと済ませて練習に打ち込みたい人が多いようだ(右下)、<br>洗面所の隣には洗濯機・乾燥機が並ぶ(左下)居室の間取りは同じだが、日当たりがよい南側が人気だという(左上)、キッチンには一通りの調理器具と食器がそろう(右上)、湯舟は無く、シャワーのみ。ゆっくり入浴するよりも、サッと済ませて練習に打ち込みたい人が多いようだ(右下)、
洗面所の隣には洗濯機・乾燥機が並ぶ(左下)

プロゲーマーの声をもとに整えられた環境で実力を磨く

プロゲーマーの助言を受けて整えられた環境。自分で一式そろえようとすれば数十万円かかる(上)、6人で使用できるゲーミングルーム。ここでメンバー揃って練習し、その場で反省会を行うことが強さの秘訣のようだ(下)プロゲーマーの助言を受けて整えられた環境。自分で一式そろえようとすれば数十万円かかる(上)、6人で使用できるゲーミングルーム。ここでメンバー揃って練習し、その場で反省会を行うことが強さの秘訣のようだ(下)

「eʼsメゾン⽟川学園Ⅰ」は2階建て。4.4畳の個室が1フロアに6部屋の全12部屋あり、シャワーブースは全部で3つ、トイレは各階に2つずつというつくりだ。それぞれの個室には共通でベッドとハンガーラック、テーブルが置かれている。
明るく、清潔感のある共用の洗面所の横には、4台の洗濯機・乾燥機が並ぶ。台所にはシステムキッチンが2台備え付けられていて、炊飯器などの調理家電に、人数分の食器まですでに用意されている。多田さんは「トランク一つで入居できますよ」と言っていたが、その通りの充実ぶりだ。

通常のシェアハウスにある、共用のリビングやダイニングは無いが、各階に9畳のゲーミングルームが用意されているのが特徴だ。6人分のゲーム用PC、キーボード、マウスが備え付けられ、プレイしやすいようにデスクは広め。椅子も、長時間座っていても疲れにくいゲーム専用のものを選んだ。
このあたりの選定は、野良連合の選手たちに意見を聞いたという。プロが使っている機材や設備を使ってゲームができるというのは、プロ志望者にとっては非常に魅力的だろう。

何より力を入れたのが、ネットワーク環境だ。オンラインゲームにおいては、切断や遅延といったネットワークトラブルが致命的。そこでこの物件では、ビジネス向けの高速回線を導入。各部屋に有線LANを引いたほか、無線LANも使えるようにし、どこにいても快適なネットワークを使える環境を整えた。多田さんも、「この環境は本当に素晴らしいと思います」と胸を張る。

「家賃は月7万5,000円。共益費は1万5,000円ですが、水道光熱費・ネット料金込みの金額です。共用部分には2週に1回クリーニングが入り、消耗品の補充もします」
個室の広さからすると家賃は高めだが、PCやネットワーク環境を整える費用も考えると、むしろ安いと言ってよいかもしれない。しかも2年以上住んだ場合、備え付けのPCは、退去時に持って行ってもよいことになっている。
「ゲーミングPCに求められるスペックは年々上がっていくので、同じPCを使い続けていると新しいゲームに対応できなくなります。常に新陳代謝させるため、持って行ってもらうことにしました」
ちなみに、自分のPCを持ち込む場合など、PCが不要ということであれば、その分家賃は少し安くなるそうだ。

e’sPROが描く「eスポーツ選手村」構想

扉のデザインがおしゃれな建物。もともとシェアハウスだったこともあり、補修はしても改修はせずに使用しているという扉のデザインがおしゃれな建物。もともとシェアハウスだったこともあり、補修はしても改修はせずに使用しているという

多田さんのもとには、野良連合のファンやプロを目指す中高生、女性プロゲーマーなどから、多くの問合せがきているという。先行して野良連合が共同生活を始め、結果を出していたこともあり、「ある有名プロチームからは、今回の物件の募集開始前に問合せがありました」と多田さん。かなり注目を集めているようだ。

今後の課題は、近隣住民の理解が得られるかだと多田さんは言う。
「シェアハウスになじみのない人もいますし、元々シェアハウスだった物件を借上げているため、以前の居住者がトラブルを起こしていたりすると、はじめから悪い印象を持たれてしまいます。そのため、近隣説明会を開くなどして理解いただくようにはしていますが、あとは実際に入居する人たちがどのような関係性を築いていくかですね。
若い人が多いので、親元を離れて暮らすのが初めてというケースもあり、不安はあります。でも、野良連合の住むゲーミングハウスでは、20代のメンバーがリーダーとなって、10代のメンバーに一般常識なども教えてくれています。シェアハウスでの生活を通して社会性が培われていくことに期待したいです」

「入居するならば活躍してほしい」という願いから、e'sPROでは入居後のサポートも行っている。「そのため、入居者にはプロになりたいかどうか、またどんなサポートをしてほしいか、ということを聞いています」と多田さん。
日本でプロゲーマーとして活躍し続けられるのは、ほんの一握りでしかないが、覚悟を持ってプロの世界に踏み入れようとする人のことは全力でサポートしたい、と多田さんは言う。

「実力があってもチームに入れなかったり、スポンサーに出会えなかったりする原石もまだ眠っているはずです。私たちe’sPROはそういった原石を、住まいの提供だけでなく、チームやスポンサーの紹介などを含めてサポートし、日本のeスポーツを盛り上げていきたいです」
そのためにe'sPROでは、「eスポーツ選手村」をつくりたいと構想しているそうだ。
「4~5棟ずつゲーミングハウスの集まるエリアをつくり、さまざまなゲームのプレイヤーたちが交流し合えるようにしたいと思っています」

eスポーツ選手のスポンサーとなる企業が増えてきている中でも、住まいのサポートは珍しい取組みだ。ゲーミングハウスから新たなスターが誕生するのか、今後に注目したい。

2019年 04月14日 11時00分