男女30人が雑魚寝で暮らす一軒家!?

「渋家(シブハウス)」に集うメンバーたち。年齢・職歴不問、何かを生み出したいと思う人であれば入居が可能だ「渋家(シブハウス)」に集うメンバーたち。年齢・職歴不問、何かを生み出したいと思う人であれば入居が可能だ

渋谷にアーティストやクリエーター、エンジニアなどの異なるジャンルの創造者たちが集う家がある。それが「渋家(シブハウス)」だ。

男女約30人が暮らす家だが、シェアハウスというには勝手が違うようだ。個室があるわけでもなく、ほぼ雑魚寝の状態。あくまでもコミュニケーションを主体に様々なコンテンツを生み出すことを目的とした空間。これまでこの場所から写真、映像、デザイン、音楽など個々人の活動が発信されたほか、メンバー間の協力により様々なアートイベントや音楽ライブなどが誕生している。

最近では、渋家から合同会社も誕生し、映像プロモーションやグラフィック制作などクライアントワークが発生しているという。

まさに、何かを“生み出すこと”に焦点をあてた「場」。これまでの「共同生活」の概念に規定されない「渋家」とはどのような存在なのか?「渋家」の産みの親であり、初代代表の齊藤惠太氏にお話をうかがってきた。

家を借りて暮らすことは、創作になる!

「渋家」発足メンバー、初代代表の齊藤惠太氏。現代美術の創造の一環として二十歳の時に本プロジェクトを発足。劇作家、ディレクターとして活躍する傍ら2015年には、合同会社huezを立ち上げ、取締役として活動する「渋家」発足メンバー、初代代表の齊藤惠太氏。現代美術の創造の一環として二十歳の時に本プロジェクトを発足。劇作家、ディレクターとして活躍する傍ら2015年には、合同会社huezを立ち上げ、取締役として活動する

「家を借りて暮らすということ自体が、創作になりうるんじゃないか? そう思ったのが渋家のはじまりです」と語るのは、現代美術の作品づくりを行いながら、現在は渋家から誕生した合同会社「huez(ヒューズ)」の取締役を務める齊藤氏だ。

「家を借りるという行為自体が現代美術のコンセプトになると思いました。共同生活自体がコミュニケーションであり、ディレクションになります。またそこから生み出されるものがアウトプットとしてあり、全体が創作になる。そこで、2008年に池尻で2DKのマンションの1室を借り、5人で住み始めたのが始まりです」

2008年、2DK・13万円のマンションの一室で始めたプロジェクトは、2009年にはメンバーが10人ほどに増え3LDK・24万円の物件にグレードアップされ、2010年には定員を15人に増やし恵比寿で2フロアを借りることに。そして、2011年には現在の4LDK・58万円の渋谷の一軒家へと規模を大きくしながら変遷してきた。

「2008年頃は、まだシェアハウスという言葉も聞かれない頃で、不特定多数の人間が出入りすることなどに苦情もありました。1年毎に家を変えたのはそのためです。今では、一軒家になりましたし、周辺への配慮なども自然と生まれてきました」

この渋谷の一軒家には、現在30人近くが在籍。2014年は50人までメンバーを増やしたというが、人数が多くなると意見の集約が難しくなることなどもあり、今年はまた募集メンバーを30人程度に戻しているという。

下は高校生から上は30代まで、年齢・職歴を一切問わないメンバー構成

地下1階の部屋は防音対策がとられ、音響機材が並ぶ。ここでイベントなども開催される地下1階の部屋は防音対策がとられ、音響機材が並ぶ。ここでイベントなども開催される

では、渋家の暮らしとはどのようなものなのだろうか? まず、生活空間から紹介していこう。渋谷から徒歩10分強の場所にある4LDKの一軒家。

玄関を入ってすぐに見える1階はPCなどが置かれたワークスペース。地下1階は防音の設備が整い音響機器などもそろっているので、楽曲制作に使われたり、ライブなどのイベントスペースとしても活用される。2階はキッチンと21畳のリビング。3階には布団が山積みされた寝室ひと部屋とクローゼットがわりの荷物置がひと部屋。そして屋上もあるというが、残念ながら屋上へ続く階段は荷物で占領され、この日は上がることはできなかった。

この家の中で30人が暮らすとなると、寝床の確保が大変なのでは? とまっさきに思ってしまうのだが、最近は宿泊人口は意外と少ないそうだ。渋家の家賃システムは、この家に住むメンバー希望者が月額4万円、週3日以内の滞在で別に家がある人用のお家割り希望者が月額2万円と2パターンある。現在半数ほどはこのお家割りを利用し、また正規メンバーであっても、国内外忙しく行き来をしている人が多いため、それほど寝床の取り合いになることもないという。

メンバーの募集要項には、年齢・職歴などを一切問わない。基本的には誰でも受け入れる体制だ。最近のメンバーの中には17歳の男子高校生もいるという。もちろん保護者の承諾を得て入居したもので、プロとして活躍するクリエーターたちに混ざりものづくりをしているそうだ。

「渋家のいいところは、何かをしたいと思ったときに、周りにプロやセミプロで活躍するクリエーターたちも多いので、思ったアイデアを現実化しやすい環境にあることです。先日も高校生のメンバーがグッズを作りたいと言っていましたが、グラフィックソフトを扱える誰かから作業行程を教わるなどして作っていました」

渋家が求めるのは“才能のない人”!?

1階のワークスペース。整理整頓がなされていないのはご愛嬌1階のワークスペース。整理整頓がなされていないのはご愛嬌

「渋家は、極論で言ってしまうと“才能のある人”は求めていません。才能のある人は一人でもできるわけです。それよりも集団だからこそできることを大切にしています。何かをしたいけど、何をしたらよいか分からない若者。そういった人たちが集まり、集団の力で何かを生み出すことを目指しています」

渋家にはほとんどルールがないが、憲法的な項目が3つほどある。それが「①多数決を取らない、②言いたいことを言う、③ルールをつくらない」の3点だ。これも集団の力を生むための工夫といえる。例えば多数決を取らないのは、コミュニティを形成する上で、数の論理で簡単に結果を求めてしまうことを規制するのが目的だ。多数決の手法を用いないということは、それだけコミュニケーションが密に必要となり、自分の意見で誰かを説得しなければならない。それが民主的な状態を維持する上で不可欠なものとここでは考えられているからだ。

「だからこそ、メンバー間でのケンカは日常茶飯事です。それでも摩擦を避けることはしません。ルールなどで規定するのではなく、自分たちで摩擦を経験しながら集団の中での自分の立ち位置をみつけ、コミュニティを形成する。そしてそこから自由な発想で物事を生み出していくのが渋家の狙いです」

渋家から「会社」も誕生

渋家のメンバーでプロデュースしたイベントなども大々的に行なわれている渋家のメンバーでプロデュースしたイベントなども大々的に行なわれている

「家を借りること自体が創造になるのではないか?」そこから出発した渋家だが、7年目となる今年、ここから合同会社の立ち上げも実現した。

「家を借りて、集団の力を生み出す。家というハードとコミュニティというソフト。そのコミットメントができた時に何ができるのかと思っていましたが、当然のことなのかもしれませんが“会社”という枠組みも生成されました」

この会社は、イベントのプロモーションや、クリエイティブな制作を音楽、映像、グラフィックを中心に幅広く行うものだが、どんなことをするかは明確には決まっていない。渋家に集う人々の集団力によって、できることは様々に変化していくことだろう。

現在、2015年のメンバー新規募集を行っているという「渋家」。正直、家の中は整頓された空間ではないが、混沌の中から何かを生み出すエネルギーみたいなものがこの「渋家」にはある。新たにどんな人がこの場所に集い、何を生み出していくのか。この先がまた楽しみだ。

2015年 07月25日 11時06分