国が低所得高齢者等を対象にした住まい・生活支援を推進

体の自由がきかなくなる。死別などで家族が誰もいなくなった。年齢を重ね、高齢になるにつれて誰もが不安に感じることであり、同時に誰にでも起こりうる可能性があることだ。
高齢者向けの施設として有料老人ホームや高齢者向け住宅、グループホームなどがあるものの、費用の問題や入居待ち等による入居難易度の高さなど、誰もが気軽に入居できるものではない。

そのような現状を踏まえ、国では平成26年度より、自立した生活を送ることが困難な低所得・低資産の高齢者を対象に、空き家等を活用した住まいの支援や見守りなどの生活支援を行う「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」を実施。平成27年度は12自治体が活動を行っている。
その活動報告などが行われた、一般財団法人高齢者住宅財団主催の「医療と住まいの新しい関係」~退院先としての住まいのあり方と地域善隣事業の意義~ と題されたシンポジウムの様子をお伝えしよう。

シンポジウムは、東京都港区虎ノ門で開催。一般財団法人高齢者住宅財団 理事長の高橋鉱士さんが進行役を担ったシンポジウムは、東京都港区虎ノ門で開催。一般財団法人高齢者住宅財団 理事長の高橋鉱士さんが進行役を担った

空き家などを徹底的に調査し、高齢者支援 ~北海道本別町~

シンポジウムでは、「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」で成果をあげている3つの地方自治体のプレゼンが行われた。

はじめに行われたのが、北海道本別町。本別町総合ケアセンター高齢者福祉担当 主査 木南孝幸さんが壇上に立った。
平成14年7月、厚生労働省の「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」の指定を北海道内で唯一受け、仕組みづくりを始めた本別町。人口は7,548人。そのうち高齢者数が2,881人で、高齢化率38.2%(平成28年1月末現在)。身寄りのない人、生活困難者にも暮らしやすい町をめざし、高齢者の住み替え支援などを積極的に行っている。

今年2月には、低所得者や高齢者、障がい者らの住宅を確保するため、民間賃貸住宅への円滑な住み替えを支援する「本別町居住支援協議会」が発足。これは、町村では全国で初。協議会では今後、町内不動産業者らと連携した住宅相談体制の整備や、空き家バンクシステムの再構築などに取り組んでいる。

「色々な課題がありますが、最終的には身寄りがない方や生活困難者の方が暮らしやすい町づくりに寄与する事業になる可能性を感じ、モデル事業に手をあげました。
この事業を進めるにあたって、本町では空き家の実態把握というのがまったくできていませんでした。これを何とかしてやらないと、空き家の活用に至らないため、市街にある住宅すべてを対象に調査を行いました。一次調査は、市街地区は自治会長、農村地区は児童民生委員にお願いして空き家を調査。その後の二次調査で、ゼンリンさん(地図会社)の協力のもと、空き家台帳を作成しました」

三次調査では意向調査が行われた。家の所有者は高齢者が多く、85歳以上の割合がいちばん多かったという。利活用を考えた場合も、改修工事費をどうするか、残ったままの家財をどうやって片づけるかのなどの課題が見つかった。また、売却支援の業者の紹介、必要な手続きをして欲しいなどの要望も多かったという。
回答者のうち、利活用の希望については「利活用したい」「条件次第で考えたい」と答えた人の割合は3割以上。利活用の希望の内容は、「売却・賃貸」が多く、その条件として、改修費や維持管理費の負担を挙げる人が多数だったそうだ。

空き家を有効活用した一例も紹介された。
障がいのある夫を6年半介護してきた妻が、介護疲れで衰弱、保護された。その後、夫は自宅から約10km離れた有料老人ホームに入居。しかし、自宅から施設まで通うとタクシー代もかさんでしまう。できるだけ施設に近い住宅が空いていないか探したところ、町の斡旋で老人ホームのすぐ近くの空き家に入居。木造2階建てで家賃は2万円。所有者の親がなくなってから約2年間空き家になっていた物件だった。町と所有者が直接交渉し、安い家賃で貸してもらうことができたという。

「町が空き家を調査して活用できそうな場合、所有者にバリアフリー化などの改修をお願いしています。その費用は所有者の負担になりますが、今後町では助成金も考えています。家賃は、年金暮らしでも負担が可能な月2万円が目安。所有者は最初に改修費がかかりますが、空き家の活用で家賃が入るメリットがあります」

本別町では、「貸して良し」「借りて良し」「まちも良し」の、空き家活用の三方良しを目指して、今後も高齢者支援活動を積極的に行っていく予定だ。

コーディネーターの配置やプラットフォームの構築で高齢者を支援 ~福岡県福岡市~

直近5ヶ月ほど、成約者数が伸びている。「住まいサポートふくおか」のノウハウが蓄積された成果だろう直近5ヶ月ほど、成約者数が伸びている。「住まいサポートふくおか」のノウハウが蓄積された成果だろう

次に登壇したのが、社会福祉法人 福岡市社会福祉協議会地域福祉部地域福祉課 事業開発担当 主査の栗田将行さん。福岡市高齢者住まい・生活支援モデル事業(住まいサポートふくおか)の取り組みや課題についてプレゼンを行った。

「住まいサポートふくおか」は、「緊急連絡先」や「保証人」を確保できない高齢者を支援するため、福岡市社会福祉協議会(市社協)にコーディネーターを配置し、高齢者の入居に協力する「協力店」および「支援団体」の登録を行うとともに、「支援団体」などで構成される「プラットフォーム」を構築し、高齢者の民間賃貸住宅への円滑入居及び、入居後の生活支援を行う事業だ。
厚労省のモデル事業への採択後、福岡市及び市社協の関係者で事業内容についての協議を重ね、「福岡市居住支援協議会」への報告を経て、平成26年10月に事業を開始した。

「コーディネーター」「協力店」「支援団体(プラットフォーム)」の概要は以下の通り。
●コーディネーターとは
市社協に配置している職員で、相談に来た高齢者の身体状況、経済状況、親族の状況などに応じて、支援団体が提供するサービスを組み合わせて提案する。また、高齢者と協力店及び支援団体との間の必要な調整を行い、入居を支援する。
●協力店とは
支援団体が提供する入居支援・生活支援サービスによる保証人や緊急連絡先等の補完効果を家主に説明し、高齢者の入居について家主からの協力を得て、高齢者に対して住宅を紹介する不動産事業者。
●支援団体(プラットフォーム)とは
高齢者の民間賃貸住宅への入居に必要となる入居支援・生活支援関連のサービスを実施する民間企業やNPO団体など。市社協や協力店と連携し、必要とされるサービスを提供することにより、高齢者の入居支援及び入居後の生活支援を行う。また「支援団体」や福岡市の関係機関などで「プラットフォーム」を構築した。

住まいサポートふくおかの概要説明の後、おおまかな事業の流れが説明された。
「まず、社会福祉協議会が入居相談を受け、収入やご家族との状況などを確認。生活支援に必要になりそうなサービスをプラットフォームの中から調整を図り、サービスの利用についてご本人に提案します。同意がもらえたら、協力店に『こういった規模の物件がないか』などと照会をかけます。出てきた物件をご本人(高齢者)が内覧を行い、必要に応じてコーディネーターも立ち会います。
数件あたって気に入った物件があったら、『孤独死のリスクなどがある高齢者かもしれないが、このようなプラットフォームがご本人さんをバックアップするので入居を認めてもらえないか』という具合に、協力店から家主さんに対して確認、説得をしてもらいます。家主さんのご承諾がいただけたら、そこで賃貸借契約が交わされるという流れになっています」

事業の進捗状況について、「毎月の相談数はそれほど変わりませんが、契約数が月2件ほどだったのが直近5ヶ月は月8件ぐらいに増えています。協力店や私たちコーディネーターもこの事業のやり方がわかってきて、ノウハウが蓄積されてきた結果でしょう。スムーズにコーディネートが進んできているのだと考えています」と、手ごたえを感じている様子だ。

成功事例も紹介された。
マンションの4階に暮らしていた82歳の女性。エレベーターがないため、買い物にも困っていたという。事情により家賃と社会保険料を滞納し、所有者から退去を命じられた。ご自身で不動産会社を回ったものの、高齢ということもあり部屋を借りることができなかった。
2週間後には部屋を出ないといけないというギリギリのタイミングでコーディネーターが相談を受け、なんとか転居を実現できたという。

その転居には、ボランティアの定期訪問による「見守り」、生活福祉資金「転宅費」の利用による転居費用の「貸付」、その他「家計相談」「家財処分」「手続支援」などのサービスを、プラットフォーム内外からコーディネートして対応した。住まいサポートふくおかが機能した好例だ。

民家を活用し、「在宅」と「施設」の中間的な役割を果たす ~大分県豊後大野市~

最後にプレゼンを行ったのが、豊後大野市高齢者福祉課 主幹の横田昭洋さん。大分県にある同市は、2016年2月末現在で、人口37,970人。高齢化率40.2%。モデル事業を開始した平成26年10月に比べて人口は778人減少し、高齢化率は1%増加。過疎化が進んでいる町だ。
同市では「くすのきハウス」という民家の借り上げ2件、養護老人ホームの空き部屋の1件を活用し、高齢者の支援を行っている。平成28年度にもうひとつ増やせる見込みだという。

「くすのきハウスに入所した人は、養護老人ホームの畑での作業や草取り、配食サービスの手伝い、鶏やヤギの世話などを行っています。昨年11月には『はとバスに乗ろうツアー』を開催、住人同士の関係が深まり就労意欲の向上にもつながりました。毎週木曜日にはくすのきハウス1で行っているちゅーりっぷサロンに参加し、地域の方々との交流も図っています」と行事や取り組みについて説明した。

また、どのように利用されているかの説明も行われた。一例を紹介しよう。
夫婦と息子の3人世帯があり、障がいを持つ夫を妻が介護して生活をしていた家族。過労から妻の心臓病が悪化し入院。妻は、自分が不在の間の夫のことや経済的な不安からうつ状態になり、精神科に転科。また、自宅では息子が父親の介護を放棄。夫がくすのきハウス1に入居。妻もその後入居。すると介護放棄をしていた長男が受診の付き添いや入院の手続き、さらに定期的な訪問までするようになったという。夫婦は何十年ぶりかに息子の声を聞いたと喜び、家族関係を取り戻したケースとして紹介された。

ほかにも、経済的破綻や火災による住居損失、独居高齢者の体調不良、急な介護者の不在(入院・死亡)、退院者の受け入れなど、最短で3日、長い人は300日以上の利用があり、孤独防止の一時利用や在宅復帰に向けての調整、「住まい」としての機能などを果たしているようだ。

「開始当初は『住まい+生活支援』と考えていましたが、様々な理由で居住することになる利用者に対応することになると、それだけでは足りず、『住まい+生活支援』に加え、『家族関係の調整』や、『社会制度・サービス利用の支援』が必要になってきています。
入居者は衣食住の提供だけでは解決できない問題を抱えていることが多くあり、その問題を少しずつでも解決に導いていく必要があります。そうすることで、入居者が安心して生活できるのではないか、と考えています」

また、モデル事業という位置づけについて、
「柔軟性と創造性をもった事業であることが、現在までの実績につながったと思います。この事業が四角四面の事業であったなら、救えなかった人も多く、事業自体に楽しみがなく希望も持てなかったと思います」と振り返った。
豊後大野市の例では、くすのきハウスに入居することで、元気を取り戻した高齢者も多いという。良好な環境に身を置くことによって心身ともに元気になる典型的なケースだろう。

国や自治体により、様々な公的サービスが行われていることを知ること。そして、事業者が用意した「自立支援」ではなく、本人の意欲・意識による自立が大切なこと。親のこと、自分のこと、そして近所の人のこと。皆が、高齢者が増えるこの国の未来を今以上に真剣に考えていく必要があるのではないだろうか。

くすのきハウスの利用状況。利用日数の最短は3日。「在宅」と「施設」の中間的な役割を果たしているといえるかもしれないくすのきハウスの利用状況。利用日数の最短は3日。「在宅」と「施設」の中間的な役割を果たしているといえるかもしれない

2016年 04月24日 11時00分