「たこつぼのようなアパート」より、多世代が触れ合えるシェアハウスを

時間をかけて企画を練り上げてきた川西さん。住む人にとってのベストを考える姿勢を熱く語っていただいた時間をかけて企画を練り上げてきた川西さん。住む人にとってのベストを考える姿勢を熱く語っていただいた

新京成線常盤平駅(千葉県松戸市)から歩いて4分。道路に面したウッドデッキが印象的な建物が2014年10月末に竣工したシェアハウス、みかんハウスだ。細長い敷地にはかつて3棟の平屋が建っていたが、築40年近くと老朽化が進み、メンテナンス費用も嵩む状況に建替えを検討することに。「アパートを建てませんか、10年間一括借り上げで手間いらずですよ」というハウスメーカーの営業に「普通にアパートを作るのもつまらない」と立ち上がったのが所有者の親族であり、みかんハウスを企画した川西諭さんだ。

大学で経済学を教える川西さんは近年、年齢の異なる人とのコミュニケーションが苦手な学生が多いことが気になっていたという。「今の学生の多くは、大学を出るまで親、先生以外の年上の人間と付き合うことがありません。その状態のまま社会に出て、いきなり上司と付き合わなくてはいけない状況になった時、それがうまく行かないのはあり得る話です。また、学生だけでなく、社会全般としても同じような傾向、つまり、自分のいる狭い世界の人とだけ付き合う、たこつぼ化とも言えるようなものがあると思います。そこで建替えるのであれば、自室に閉じこもっていても暮らしていけるたこつぼのようなアパートではなく、多世代が住み、それぞれが他の居住者と触れ合うことができる住まいにしようと思ったのです」。

1階には地域に開かれたキッチン、住戸には広さ、仕様で様々なバリエーション

手前が入居者用のキッチン、奥のウッドデッキに面しているのが地域に開かれたキッチン。境には引き戸があり、閉めて使うこともできる。それぞれ30m2弱の広さがある手前が入居者用のキッチン、奥のウッドデッキに面しているのが地域に開かれたキッチン。境には引き戸があり、閉めて使うこともできる。それぞれ30m2弱の広さがある

もうひとつ、考えたのは地域に建物の一部を開くということ。ここにも川西さんの問題意識がある。「かつては国がじゃぶじゃぶとお金を使うことで日本全体が豊かになれましたが、今は同じことをやっても一部しか潤いません。逆にこれからは地域を豊かにしていくことが国を豊かにすることではないかと考えるわけですが、そこでは人間関係やコミュニティが大きな意味を持つ。そのため、最近は地域活性化、コミュニティ作りに関心を持っており、いすみ市や奥多摩の活動の支援などを行っています。同様にみかんハウスもこの地で新しいコミュニティを生むような存在になればと、1階に入居者が共用で使えるキッチンのほかに、地域の人も利用できるキッチンを設けています」。

多世代が居住する、地域に開かれた空間がある、この2点を具現化したのがみかんハウスというわけだが、当初の予定では各室はもっとシンプルなものになるはずだったという。「私自身、イギリスで2年ほどシェアハウスに住んだことがあり、経済的に合理的だと評価していました。その合理性を突き詰めて考えると、各室はドア、窓、収納さえあればいいわけで、最初は部屋にトイレはなくても良いと思っていました。が、企画を進めていく間に夜中に起きて部屋を出て、鍵を閉めてトイレに行って……という生活は快適かと考えるようになり、最終的には部屋によってはトイレがあったり、水回り+キッチンがあったりというものになりました。快適さのみを追求すると室内にこもることになり、効率だけを考えると住みにくい。今でも何がベストかは分かりませんが、試行錯誤の結果が現在の姿です」。

多世代が暮らすというテーマからみかんハウスでは11.76m2のワンルーム+ロフトから36.70m2の1LDK+ロフトまで異なった広さの部屋が9室あるが、加えてトイレあり、洗面所あり、トイレと洗面所ありなどと仕様も異なっているのはそのため。シェアハウスと言いながら、水回りとキッチンのある一般の賃貸と同じ住戸もあるのだ。

国産材、自然エネルギーにこだわり、一戸建て同様の快適さを追求

2階にある、一番広いLDKにベッドルームのある部屋。LDKとベッドルームの間に浴室、洗面、トイレがあり、その上はロフトになっている。家族でも住める間取りだ2階にある、一番広いLDKにベッドルームのある部屋。LDKとベッドルームの間に浴室、洗面、トイレがあり、その上はロフトになっている。家族でも住める間取りだ

建物自体にもこだわりがある。建物全体に無垢材が使われているのだ。設計を手掛けた林美樹さんによると「構造材から造作材、家具まですべて国産材を使っています。構造材は栃木など北関東産で、床材は多摩の杉材。30ミリの厚さがあります。キッチンは飯能の西川材です」。無垢材の場合、たまにはワックスがけをする必要はあるものの、足に柔らかく、長持ちする。吸湿性もあるので、室内の湿度をコントロールしてくれ、結露も出にくい。傷がついても、それが味になるため、みかんハウスでは退去時に原状復帰という考え方をしていないとも言う。

「賃貸だからと棚も吊っちゃいけないというのはおかしい。ここでは下地を入れて棚を吊れるようにしており、退去時にはそのまま出ても、外してもいい。次の人もそれが使いたければそのまま使えばいいし、嫌だったら自分の好きなようにすればいい。家は人が手を入れることで変わっていくもの。賃貸でも変わっていっていいと思っています」。

また、共用スペースにはペレットストーブが置かれ、太陽光発電、太陽熱温水器などの自然エネルギーが利用されているのもこだわり。環境に負荷をかけないように作られているのである。ちなみにペレットストーブとは間伐材などを材料に作られた小型の固形燃料を利用するもので、みかんハウスではペレット自体も国産の品を使っているとか。見ているとスイッチを入れるだけで燃焼し、感覚としてはファンヒーターとさほど変わらない感じだった。

天井が高く、窓が多いため、開放的で広く感じる室内

収納のみのシンプルな部屋だが、ロフトがあり、ロフトと廊下の間に窓、屋根にトップライトと風が入るようになっている収納のみのシンプルな部屋だが、ロフトがあり、ロフトと廊下の間に窓、屋根にトップライトと風が入るようになっている

実際の建物を訪れて、まず感じたのは木の床の柔らかさ、温かさである。みかんハウスで使用されている杉などの針葉樹は柔らかく、肌触りが良いのが特徴で、広葉樹は硬くて傷がつきにくいのだとか。子どもが走り回ったりするには杉のほうが気持ちよさそうで、実際、取材でお邪魔した時には床の上でごろごろしたり、滑ったりしている子どもたちも。子どもは猫同様、気持ちがいい場所、ことをよく知っているものらしい。

部屋の広さも印象的だった。もっともコンパクトな部屋は専有面積自体は11.76平米にロフトで7畳弱。だが、天井の高さが4m弱もあり、はるかに広く感じるのである。また、窓も多く、それも広さを感じる要因のひとつ。開放的なのである。林さんはこの住宅を一戸建て同様に気持ちの良いものにしたいと通風を考えて各戸に複数の開口部を設置しており、角部屋は2方向に窓、ロフトのある部屋は窓のほかに天井にトップライトが設けられるなど、開放感に加え、風通しも良さそう。天井の高さを生かして廊下側の上部に窓のある部屋もある。

暖かい家だということも体感できた。11月初旬の取材ではみかんハウスに一泊させてもらったのだが、寝袋だけで十分暖かく、夜中にトイレに起きた時にも寒さを感じることはなかった。断熱性能の高いペアガラスを使っていることに加え、新聞の古紙を粉砕して作ったセルロースファイバーを断熱材として使っているそうで、ここも林さんの言葉によれば「普段、一戸建て住宅でやっているのと同じ仕様」。セルロースファイバーは遮音性も高いそうである。

ペレットストーブも良かった。熱という意味だけでなく、火が燃えている情景は何か、人をうっとりさせるものがあるようで、ぼおっと眺めているだけでも楽しい。部屋を暖めるだけならエアコンでも良いわけだが、そうではなく火を置いたところにこの家の意図があるのだと思う。

一泊泊まってみて分かった、ここってこんな街

団地の中でみつけたレトロな喫茶店。こうした場所があることを知っていれば暮らしも楽しくなる団地の中でみつけたレトロな喫茶店。こうした場所があることを知っていれば暮らしも楽しくなる

今回の取材ではお試し宿泊を体験した。前述したように建物の暖かさはよく分かったし、私が泊まった部屋からは月がきれいに見えることも分かった。さらに面白かったのは翌朝、朝ご飯が食べられる場所を探しに出かけた探検。オーナーの川西さんと各種コーディネートに当たった篠原靖弘さんと一緒に駅を挟んで反対側にある商店街や常盤平団地内を歩き回ったのだが、意外に開いている店があることや行列までできていることが分かったし、団地内には今は少なくなったスターハウスがたくさん残っていることも発見。大興奮してしまった。普通に下見に行くだけなら、こんな発見はなかっただろうと思うと、のんびり一泊しての下見もいい。特に土地勘のない街なら、街を知ってから住むほうが何かと便利だろうと思う。

ちなみに常盤平という街は1959年から募集が開始された、総戸数約5300戸というURの大団地がある街。団地中央を貫くケヤキ並木を始め、緑の豊かな場所で、団地内の贅沢な空間の使い方が特徴でもあり、上野からは30分ほど。のんびりした暮らしができそうな街である。

*スターハウスとは昭和30年代に当時の公団などによって建てられた、中央に階段、その周囲に3戸を配した、上から見るとY字型に見える形状の建物。隣戸のない間取りで、通風、採光などに優れているが、複雑な形状のため、建設にコストがかかると、すぐに作られなくなった。

詳細はこちらから。
みかんハウス http://mikanhouse.jp/

2014年 12月05日 11時33分