空き家問題解消の一つの策。中古住宅活用で若者の就労を支援

トキワ荘プロジェクト・ディレクターの菊池健さんトキワ荘プロジェクト・ディレクターの菊池健さん

近年、人口や世帯数の減少にともない、空き家の増加が社会問題となっている。
総務省の「住宅・土地統計調査」によれば、2008年における全国の空き家の数は約760万戸。その7割近くを占めるのが、築年数20年以上の住宅だ(国交省「平成21年度空家実態調査」)。空き家が放置されれば、防災面や衛生面、景観面においてさまざまな問題をもたらすことになる。このため、増え続ける空き家をどう活用するかが、大きな課題となっている。

こうした中、官民挙げてのさまざまな取り組みが始まっている。なかでも、そのユニークさで注目されるのが、空き家を活用して若者の就労支援を行う「トキワ荘プロジェクト」だ。
NPO法人NEWVERY(ニューベリー)が運営するトキワ荘プロジェクトは、「プロの漫画家を目指す若者に、都内で低家賃の住宅を提供する」活動である。ちなみに「トキワ荘」とは、かつて東京・豊島区に実在した木造アパートの名称で、手塚治虫や藤子不二雄、石森章太郎、赤塚不二夫など、数多くの著名な漫画家を輩出したことで知られる。
この“漫画の聖地”にちなんで、プロジェクトが命名されたことはいうまでもない。

家賃は平均4万円台。空き家のシェアハウス化で格安家賃を実現

トキワ荘プロジェクトが、若者のニート化予防のための支援策としてスタートしたのは、06年8月。NEWVERY代表・山本繁氏の祖母宅が空き家になり、若い漫画家志望者3人に部屋を貸したのが始まりだった。
現在、プロの漫画家を目指す若者のほとんどは、都内でアルバイトしながら生活費を稼ぎ、残りの時間に漫画を描いているのが実情だ。トキワ荘プロジェクト・ディレクターの菊池健氏はこう語る。
「昔から、漫画家を目指す人は、上京して出版社のそばに住むのが一般的でした。しかし、東京は家賃が高いので、1人暮らしにはコストがかかる。結局、アルバイトに忙殺され、夢半ばにしてあきらめざるをえない人も多いのです」
こうした漫画家志望者を支援するため、トキワ荘プロジェクトでは都内の一軒家をシェアハウスとして利用し、格安で部屋を貸し出している。水道光熱費やネット接続料金込みで、月平均4万8000円(6畳間)の家賃と、入居時に支払う3万円の入居費のみ。冷蔵庫や電子レンジなどの家電も用意されているので、都内でワンルームを借りた場合と比べると、初期費用で約40万円、年間で約20万円の節約が可能になるという。

この試みは、漫画家志望者の間で大きな支持を集め、事業は順調に拡大。トキワ荘の数も21軒・116部屋にまで増え、入居待ちが出るほどの盛況ぶりだ。これまでに入居した270名のうち、33名がプロの漫画家としてメジャーデビューを果たしている(2013年6月時点)。

共同生活を通じて互いに切磋琢磨し、自分を客観視する

トキワ荘入居者の作品の数々トキワ荘入居者の作品の数々

だが、漫画家志望者にとって、トキワ荘に住む利点は家賃の安さだけではない。志を同じくする仲間とコミュニティを作り、切磋琢磨できることも、大きなメリットの1つといえる。
「漫画家を目指す人にとって、“仲間作り”は重要です。励まし合い、時にライバルとして刺激を与え合う仲間の存在によって、クリエイターは大きく成長するからです。その点、トキワ荘では、先輩や仲間との共同生活を通じて、成功事例や失敗事例を学び、漫画家になるために必要な情報を得ることができる。そこから得られるメリットには、はかり知れないものがあります」

共同生活のメリットは、こうした“切磋琢磨効果”にとどまらない。仲間との比較によって自分の限界に気づき、早い段階で人生を仕切り直すことができるのも、隠れたメリットの1つだという。
「漫画家志望者のうち、プロになれるのは1割にすぎない。昔から、『漫画家になれるかどうかは、3年で見極めがつく』といわれており、このプロジェクトでも入居期間を3年としています。ところが、1人で漫画を描いていると、比較の対象がないので、自分がプロになれるかどうかを見極めるのがむずかしい。アルバイトしながら漫画を描き続け、気がついたら30歳になっていたという人も少なくないのです。その意味では、早めに見極めを付け、次の一歩が踏み出せるという点でも、共同生活のメリットは大きいと言えます」

東京・京都で2拠点展開。トキワ荘が示す新しい住まいのかたちとは

空き家をシェアハウスとして利用するトキワ荘プロジェクトは、なぜ一定の成果を挙げることができたのか。それは、漫画家という仕事が“職住一体型”であり、共同生活によるさまざまなメリットを引き出しやすかったためではないか、と菊池氏は分析する。
「『安く住める部屋をシェアハウス形式で提供したい』という私たちのニーズに、都内で空き家が余っている状況がうまくマッチしたことも大きかった。それが、トキワ荘プロジェクトがビジネスモデルとして成功した理由ではないかと思います」
今年9月には、京都でもトキワ荘プロジェクトが始動。今後は、新たな漫画文化の発信地となりつつある京都と東京の2カ所を拠点として、トキワ荘プロジェクトを進めていく計画だ。

長引く不況で、若者は現実志向を強めているといわれるが、一方で、プロのクリエイターを目指す若者も少なくない。その意味で、トキワ荘プロジェクトが示した新たな住まいのかたちは、小説や演劇、アート、音楽・芸能などさまざまなジャンルでプロを目指す若者にとっても、福音となりうる可能性を秘めている。
では、仲間との共同生活やコミュニティ作りは、夢を追いかける若い世代にとってどのような意味を持つのか。

つづく連載記事では、京都と東京におけるトキワ荘の事例を紹介し、その実態に迫りたい。

2013年 09月12日 11時22分