外国人の賃貸借契約、課題となるのは難解な不動産用語の“言葉の壁”

▲日本の人口減少が叫ばれる中、外国人入居者は賃貸住宅業界にとって「大切にしたい顧客」だ。特に、外国人留学生の場合は学校が身元保証を行ってくれるほか、近年日本人顧客が離れつつある“昔ながらのアパート”にも関心を示してくれるため、地方都市の賃貸物件との親和性も高い。そのため“いかに外国人入居者を受け入れる賃貸物件を増やしていくか?”が各不動産会社に求められている。※写真はイメージ▲日本の人口減少が叫ばれる中、外国人入居者は賃貸住宅業界にとって「大切にしたい顧客」だ。特に、外国人留学生の場合は学校が身元保証を行ってくれるほか、近年日本人顧客が離れつつある“昔ながらのアパート”にも関心を示してくれるため、地方都市の賃貸物件との親和性も高い。そのため“いかに外国人入居者を受け入れる賃貸物件を増やしていくか?”が各不動産会社に求められている。※写真はイメージ

日本国内における外国人留学生の数は26万7042人 (平成29年度独立行政法人日本学生支援機構データ)。そのうち93.3パーセントがアジア圏からの留学生で、留学先地域を見てみると関東・中部・関西の大都市圏を除いた地方都市の中で「福岡」に次いで多いのが「広島」となっている。

少子化による学生数の減少が叫ばれる中、今後の賃貸住宅業界にとって留学生を含む外国人顧客は大切なユーザー層となる。しかし、広島県内の仲介会社の中で外国人契約数を積極的に増やそうとしている会社はまだまだ少ない。

そこにはどうしても“言葉の壁”が立ちはだかるからだ。

賃貸借契約の際には重要事項説明が不可欠だが、その契約内容は日本人の私たちが目を通しても理解しにくい難解な不動産用語が多い。そのため、万一の契約トラブルを懸念して「外国人顧客を受け入れたくても受け入れられない」と躊躇する仲介会社や賃貸オーナーが多いのだという。

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そこで他社に先駆け、留学生をはじめとする外国人顧客に特化した多彩なサービスをスタートさせたのが、株式会社良和ハウス(本社:広島市西区楠木町)だ。同社では5名の外国人社員による「国際チーム」を形成。外国人顧客の拡大に向けて独自の取組みを行っている。

「言葉が通じる不動産会社」の噂がクチコミで広がり外国人顧客が倍増

▲『良和ハウス』広島賃貸営業部次長の石井幸治さん。「東京や大阪には、外国人ビジネスマン向けの高級レジデンスを専門とした仲介会社がありますが、ここ広島の場合は多くが留学生ですから客層が全く異なります。そのためお手本にできる会社が他にはなく、自分たちでいろいろ考えながらこまやかなサポートを行っています」と石井さん。来店する外国人顧客はほとんどが「紹介」で、外国人社員が接客対応すると7~8割という高い成約率を得られるそうだ▲『良和ハウス』広島賃貸営業部次長の石井幸治さん。「東京や大阪には、外国人ビジネスマン向けの高級レジデンスを専門とした仲介会社がありますが、ここ広島の場合は多くが留学生ですから客層が全く異なります。そのためお手本にできる会社が他にはなく、自分たちでいろいろ考えながらこまやかなサポートを行っています」と石井さん。来店する外国人顧客はほとんどが「紹介」で、外国人社員が接客対応すると7~8割という高い成約率を得られるそうだ

「外国人社員の採用をはじめたのは2017年の4月からです。もともと当社の本社がある広島市西区楠木町には小さな中国人コミュニティがあって、ここ数年で中華料理店や中国物産のお店などがどんどん増え、アジア系の外国人の方たちが多く暮らすようになりました。

また、“外国人コミュニティのある街なら安心して生活できる”という理由で、中国やベトナムからの留学生の数も増えるようになり、外国人顧客の賃貸需要が高まってきたのです。

ここ楠木町に本社を構える当社としては、当然ながらそのニーズを見過ごすことはできませんでしたし、不動産会社としても今後の日本社会の多様性を考えると、外国人顧客をいち早く取り込みたいという想いがありました。そこで、まずは“言葉の壁”の懸念を払拭できる中国人の女性社員を新卒採用し、良和ハウス『国際チーム』を発足することになったのです」

2年前の発足当時を振り返りながら語ってくださったのは、良和ハウス広島賃貸営業部の石井幸治さんだ。同社の日本人社員の数は約250名。その会社組織の中に突然中国人社員が加わることになったため、社内は当初ザワついていたそうだが、外国人社員採用の成果は見る見るうちに上がっていった。

「中国人女性社員が接客対応を行うようになって、これまで100件程度だった外国人来店数が1年で倍の200件に増えました。そしてその次の年にはまた100件増えてどんどん外国人のお客様が集まるようになったのです。どうやら“良和ハウスには母国の言葉が通じるスタッフがいる”という噂がクチコミで広がっていったようですね。改めて、外国人ネットワークのクチコミ影響力の大きさを実感しました。

こうした反響を受けて、次にベトナム人社員を採用。現在は中国人2名、ベトナム人1名、アメリカ人2名の5名のスタッフが『国際チーム』として様々な活動を行っています」(石井さん談)

国際チームの外国人社員は、外国人顧客への接客や現地内覧、契約業務のほか、入居後のサポート、SNSによる多言語での生活情報発信、メディア対応などを行っている。つまり、営業・物件管理・広報を一手に担うことになるため、日本語のスキルだけでなくマルチな対応力が必要だ。

外国人社員が感じている“日本の賃貸住宅業界”の不思議

では、同社の外国人社員は、どのような想いで国際チームの仕事に携わっているのだろうか?入社2年目のアンドリューさん(アメリカ/カンザスシティ出身)と入社1年目のデビッドさん(アメリカ/ロサンゼルス出身)の2人に話を聞いた。

「以前、日本でスポーツ関係の仕事をしていたときも専門用語が難しくて理解するのが大変でしたが、不動産の契約書の内容はそれよりもっと難しいですね。それと、驚いたのは日本特有の賃貸契約の慣習です。アメリカと比べると入居時の初期費用がびっくりするほど高い。特に“礼金”というものがアメリカには無いので、何と訳して説明したら良いのかわかりません。お客様から質問を受けたら“礼金というのは大家さんへのプレゼントみたいなものです”と答えています(笑)」と流暢な日本語で話すのは、入社2年目のアンドリューさんだ。

これまで、良和ハウスの外国人顧客の多くは中国人やベトナム人だったが、アンドリューさんらアメリカ人社員が入社して以降、英語圏の顧客が約20%増加したというのだからその功績は大きい。しかし、アンドリューさんがいま課題に感じているのは、難解な不動産用語の“言葉の壁”だけでなく、“大家さんの壁”だという。

「外国人のお客様がいちばん心配しているのは、“自分でも賃貸契約ができるかどうか?”ということです。これは僕も不動産会社で働くようになって初めて気づいたことですが、日本の賃貸業界ではまだまだ外国人が敬遠されていて、“外国人お断り”という大家さんがとても多いんです。アメリカでは人種差別は違法ですから“外国人だから”という理由で賃貸の申し込みを断ることはできません。なのに日本ではまだまだ大家さんの意向が第一。僕らが紹介をしても大家さんから断られてしまったら、それ以上は契約を進めることはできません。

東京などの大きな都市だともっと違うのかもしれませんが、広島のような地方都市ではまだまだ大家さんの理解を得ることが難しいので、もっと外国人の良いところを認めてほしいと思います」(アンドリューさん談)

せっかく入居希望者が増えても、受け入れる賃貸物件が増えない限り、成約には結びつかない。そのため、同社では“何かトラブルがあったときには外国人スタッフがこまやかに対応する”ということを賃貸オーナーへ丁寧に説明しながら外国人入居者受け入れへの理解を深め、同時に外国人入居者に対しても、日本の賃貸住宅における生活マナーの教育等を行っているそうだ。

▲デビッドさん(左)とアンドリューさん(右)。「僕は10年前に日本へ来て、スポーツ関係の仕事や翻訳の仕事などをしていましたが、知り合いを通じて“不動産の仕事をやってみないか?”とヘッドハントされ、良和ハウスへ入社しました」(アンドリューさん)。「私は5年前に友人の勧めで広島へ。アメリカでは大学を出て小さな会社で働いていましたから、良和ハウスのような大きな組織で働くのは初めての経験です。でも、この会社はとても居心地がいい。お休みなどの労働環境もしっかり整っているので満足しています」(デビッドさん)。2人とも英会話講師をしていた経験があるので社内の日本人社員向けに定期的に英会話研修も行っている▲デビッドさん(左)とアンドリューさん(右)。「僕は10年前に日本へ来て、スポーツ関係の仕事や翻訳の仕事などをしていましたが、知り合いを通じて“不動産の仕事をやってみないか?”とヘッドハントされ、良和ハウスへ入社しました」(アンドリューさん)。「私は5年前に友人の勧めで広島へ。アメリカでは大学を出て小さな会社で働いていましたから、良和ハウスのような大きな組織で働くのは初めての経験です。でも、この会社はとても居心地がいい。お休みなどの労働環境もしっかり整っているので満足しています」(デビッドさん)。2人とも英会話講師をしていた経験があるので社内の日本人社員向けに定期的に英会話研修も行っている

重要事項説明の際には「通訳」を担当、入居後の困りごとはSNSでサポート

▲広島には大手企業も多いため、今後は外国人就労の拡大により技能実習生の賃貸ニーズが増加するものと見込まれている。しかし、技能実習生の場合は大人数での「共同生活」が問題となるケースが多く、受け入れに理解を示す賃貸オーナーはまだまだ少ないのが現状だ。「住まいが無くては、企業としても外国人就労者の数を増やすことができませんから、今後も仲介会社として賃貸オーナー様の門戸を広げる活動を行っていかなくてはいけないと考えています」(石井さん談)※写真はイメージ▲広島には大手企業も多いため、今後は外国人就労の拡大により技能実習生の賃貸ニーズが増加するものと見込まれている。しかし、技能実習生の場合は大人数での「共同生活」が問題となるケースが多く、受け入れに理解を示す賃貸オーナーはまだまだ少ないのが現状だ。「住まいが無くては、企業としても外国人就労者の数を増やすことができませんから、今後も仲介会社として賃貸オーナー様の門戸を広げる活動を行っていかなくてはいけないと考えています」(石井さん談)※写真はイメージ

アンドリューさん、デビッドさんの2人は宅建業免許を持っていないため、外国人顧客の契約時の重要事項説明は免許を持った日本人社員が行い、それを通訳しながら顧客に説明することになる。

英語など多言語表記で賃貸借契約書を交わすことができればトラブルを軽減しやすくなるはずなのだが、契約書内には法律に関わる表現も多く専門知識が必要になるため、“単に書面の翻訳をすれば良い”というものでは無いそうだ。

「外国人のお客さまが特に入居後に大家さんとトラブルになりがちなのは、ゴミ出しのルールです。ゴミの分別はどうしてもわかりにくいので、丁寧に説明するようにしています。

それと、外国人のお客様は契約時に預けた敷金がすべて戻ってくると思っている人が多いので、そうではなくて、必ず敷金から原状回復費用が引かれるということも説明します。“敷金がたくさん戻ってくるようにするために、部屋をキレイに使ってくださいね”とか、“大きな家具を置くときは下に敷物を挟むと畳に跡がつかなくなりますよ”とか、自分の経験も含めてアドバイスをしています」(アンドリューさん談)

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一方のデビッドさんは、営業サポートの傍らソーシャルメディアの配信を担当。英語でオススメ賃貸物件の紹介を行うだけでなく、自転車でいろいろな街へ出かけて話題のレストランやリサイクルショップを紹介したり、広島弁について解説するなど、独自の視点で“広島の魅力”を発信している。

「お客様のほとんどが“初めて日本で暮らす外国人”。最初に暮らす街のイメージ次第で日本の印象が変わってしまうので、家を紹介する私たちの対応は責任重大です。もちろんお客様にもたくさん来てほしいけれど、まずは“広島って良いところだな”ということを知ってほしいと思って、ナビゲーターとして情報配信を行っています」(デビッドさん談)

ちなみに、国際チームが多言語で配信しているのは、ユーチューブ、フェイスブック、ウィーチャットなど。まだ本国にいるうちから物件探しをはじめる顧客も多く、デビッドさんたちのSNS配信を見て問合せが入る事例も増えているという。

「英語圏のお客様はまだまだ少ないのですが、中国人のお客様のフォロワーはもう1000人以上。入居後もSNSのメッセージを通じて、水漏れをはじめとする生活の中の困りごとなど、いろんな相談に外国人社員が答えています」(デビッドさん談)

一般的な仲介会社の場合、ここまで丁寧に入居後のサポートを行うケースは少ないと思われるが、こうした外国人社員の対応については、賃貸オーナーの安心感にもつながっているようだ。また、賃貸オーナー側からの相談にも窓口として対応しているため、万一のトラブルの際には外国人社員が通訳を行いながら入居者とオーナーの間に入り、諸問題の解決に努める。

「国際チームの活動は他社との明確な差別化を図り、結果的には当社全体の信頼評価を高めることにつながっています」と石井さん。良和ハウス社内では、外国人社員の雇用から様々な相乗効果が生まれているのだ。

不動産会社として「外国人が暮らしやすい街づくり」にも携わっていきたい

最後に『国際チーム』のお2人に今後の目標について聞いてみた。

「できれば僕も宅建の免許を取りたいと思っています。これはサムデイ、いつか…ね(笑)。それと、法律の専門家の方にちゃんと見てもらって、多言語での正式な契約書を作成したいです。母国語の契約書があれば、外国人のお客様ももっと安心して暮らすことができると思いますから」(アンドリューさん談)

「私は外国人のコミュニティを作りたいですね。良和ハウスで地域の交流イベントを企画したりして、街と外国人をもっとつないでいきたい。家探しだけでなく、仕事探しや生活の部分までサポートできるようなデータベースを作りたいと考えています」(デビッドさん談)

同社では今後国際チームの社員数をさらに増やし、社員の国籍も広げていく予定だという。

「これからは広島に限らず、日本の地方都市にも外国人居住者が増えていくのは間違いありませんから、私たちはその土台づくりを行っている段階です。日本が今後グローバルな国を目指すのであれば、外国人の方たちが安心して暮らせる家があって、仕事があって、充実した生活が送れる場所をつくらなくてはいけません。わたしたち不動産会社も今後の意識改革として、単に“家を貸す・管理する”だけでなく、“外国人の方が暮らしやすいグローバルなまちづくり”に積極的に携わっていくことが求められているのかもしれませんね」(石井さん談)

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良和ハウスの『国際チーム』発足から2年。今後チームの社員数が増え、活動がさらに広がっていくと、いつか『日本を代表する観光地、ヒロシマ』から『日本で最も外国人が住みやすい街、ヒロシマ』へと、広島の街のイメージが変わる日がやって来るかもしれない。

■取材協力/良和ハウス
https://www.ryowahouse.co.jp/

▲広島市西区楠木町に本社を構える『良和ハウス』。広島・岡山県下に15店舗を展開する地元の大手不動産会社だ。「外国人社員の採用を行っている不動産会社は広島にはまだありません。当社がまず取り組むことで、広島県内の各不動産会社が外国人顧客に対する理解を広げてくれたら…という想いもあります。今は10年後、20年後の土台づくり。これからは地域の不動産会社がみんなで一丸となって、外国人顧客マーケットを盛り上げていきたいですね」(石井さん談)▲広島市西区楠木町に本社を構える『良和ハウス』。広島・岡山県下に15店舗を展開する地元の大手不動産会社だ。「外国人社員の採用を行っている不動産会社は広島にはまだありません。当社がまず取り組むことで、広島県内の各不動産会社が外国人顧客に対する理解を広げてくれたら…という想いもあります。今は10年後、20年後の土台づくり。これからは地域の不動産会社がみんなで一丸となって、外国人顧客マーケットを盛り上げていきたいですね」(石井さん談)

2019年 03月31日 11時00分