線路や幹線道路の近くなど外部からの騒音問題を抱える物件をどうするか?

昨今、空室の多さが社会問題化している賃貸住宅。現在でも飽和状態なのに、節税効果を期待して新築の賃貸住宅がどんどん建築されている。客付けの難しさや安定経営への不安に頭を悩ませている賃貸オーナーも多いだろう。

それでは部屋を借りる方の立場になって考えてみる。部屋を借りる際の着目ポイントはざっと以下のようなことだろうか。「築年数や外観の見映え」「鉄筋コンクリート造や鉄骨造、木造などの構造」「どこの会社が建てた賃貸住宅か」「通勤や通学に便利な沿線かどうか」「駅やバス停からの距離」「部屋の広さや美しさ」「日当たりや風通しのよさ」「駐車場の有無」「ペット可か否か」「女性専用」など、きっと様々な項目から検討するはずだ。

ここで忘れてはならないのが音の問題。トラブルが多発する上下階や隣室からの音の影響も見逃せないが、線路や幹線道路の近くなど外部からの騒音は快適な毎日を脅かしかねない、生活する上でとても重要なポイント。同時に、賃貸オーナーとしては解決が難しい厄介な問題でもある。

その外部からの音の問題を逆手に取り、「遠慮なく音が出せる創作空間」を提案したシェアアトリエ「SOSAK KYOTO(ソウサク-キョウト)」が京都にできたというので早速取材に訪れた。

京都駅八条口から徒歩10分、京都市南区に建つSOSAK KYOTO。1階に3部屋、2階に4部屋の合計7部屋。</br>ほかに共同作業スペースや打ち合わせスペース、共用ダイニングルーム、仮眠室を用意。建物のすぐ横にJRの線路がある京都駅八条口から徒歩10分、京都市南区に建つSOSAK KYOTO。1階に3部屋、2階に4部屋の合計7部屋。
ほかに共同作業スペースや打ち合わせスペース、共用ダイニングルーム、仮眠室を用意。建物のすぐ横にJRの線路がある

陶芸や彫刻などのアトリエ利用から演奏の練習まで、音を気にせず打ち込める環境を提供

6月17日(土)に行われた完成見学会イベントの様子。壁塗り体験ワークショップのほか、岸本さんも講師を務める、これからの働き方を考える未来の学校「世界文庫アカデミー」の生徒による販売会などが行われた6月17日(土)に行われた完成見学会イベントの様子。壁塗り体験ワークショップのほか、岸本さんも講師を務める、これからの働き方を考える未来の学校「世界文庫アカデミー」の生徒による販売会などが行われた

お話をうかがったのは、add SPICE代表、不動産プランナーの岸本千佳さん。以前LIFULL HOME’S PRESSで紹介した「京都移住計画」のメンバーのひとりであり、大学卒業後、東京の不動産ベンチャーに入社しシェアハウス事業・DIY事業の立ち上げに従事した後、現在京都を中心に空き家の活用やシェアハウスの企画などを含めた不動産業を営む。

「オーナーの知人から相談を受け、この建物の再生に取り組みました」と岸本さん。この建物は築60年。老朽化が進んでいたこともあり、この10年ほど誰も入居者がいなかった。さらに、老朽化と並ぶ大問題にオーナーは頭を抱えていた。騒音である。鉄道の大動脈、JR東海道線のすぐ横に建っているため、目と鼻の先を電車がひっきりなしに通過することでとにかくうるさい。この音の問題も入居希望者を遠ざけていた大きな原因だ。

「老朽化が進み、しかも電車の音がうるさい。更地にしても道がないため駐車場にできない土地で、オーナーも半ば再生をあきらめかけていた建物でした」
そこで岸本さんは、電車の音がうるさいなら、逆にその音を利用しようと思い付いた。
「部屋がいくつかあるので、シェアアトリエがいいのではないかと考えました。もちろんオフィスやスタジオなど自由に使うことができます。線路の横という立地プラス反対側も倉庫なので、音を気にせずに作業や演奏に没頭できます。木工、金工、陶芸、彫刻などのアトリエ利用から、楽器練習、撮影スタジオなど様々な用途に使えると考えました。仮に修繕に莫大な金額を使っても費用対効果で考えたら元が取れないと考え、このような利用の仕方がオーナー様にとって一番いい答えだと確信しました」

芸術大学の移転など人の流れも計算。自由に改装可能&原状回復不要でクリエイターにアピール

SOSAK KYOTOの企画・運営・管理を行うaddSPICE代表、不動産プランナーの岸本千佳さん。「京都は昔からの歴史を脈々と受け継ぐと同時に、新しい文化、人を受け入れることによる新陳代謝がある街。若いクリエイターが育つ土壌があると思います」SOSAK KYOTOの企画・運営・管理を行うaddSPICE代表、不動産プランナーの岸本千佳さん。「京都は昔からの歴史を脈々と受け継ぐと同時に、新しい文化、人を受け入れることによる新陳代謝がある街。若いクリエイターが育つ土壌があると思います」

音を出せる部屋といっても、芸術作品の創作活動や音楽の練習などで使う人がいなければ空室となってしまう。その点に不安はなかったのだろうか。
「京都駅周辺は木造住宅密集地域のため、音を出せる環境がほとんどありません。クリエイターの友人が多いのですが、その友人たちから『気兼ねなく音を出せる場所がない』という悩みを何度も聞いていました。京都には芸術系の大学が多く、クリエイターの卵も多い。その人たちの需要に応えたいという思いもありSOSAK KYOTOをつくりました」

また、京都市西京区にある京都市立芸術大学が2023年に京都駅東側の崇仁地域に移転すること、さらに左京区は芸術の街として成熟しているので、新たな創作場所を探すとなると京都の街中で未開拓のこの建物周辺にクリエイターが集まる可能性があると考えたこともリノベーションを後押しした。
「近年、京都駅の南側にクリエイターが集まってきているように感じています。京都市立芸術大学の移転もありますし、クリエイティブな動きに乗れるかと考えました」

SOSAK KYOTOは自由にクリエイティブな活動ができるように、壁、床、天井を自由に改装可能。しかも退去時の原状回復は不要という。これは岸本さんの「思う存分創作活動をして欲しい」という気持ちの表れだ。

お洒落なロゴは化学式をモチーフにしたもの。一人で取り組むもよし、さらに複数で活動することでよりよい化学反応が起きますようにとの願いが込められている。
「建物が蘇る様を見られることがこの仕事の面白さ。オーナー様ですら価値がないと思うものを再生することにやりがいを感じます。オーナー様にも『岸本さんと出会わなければこのような物件はつくれなかった』とお喜びいただきました」
今後どのような入居者を獲得できるか、楽しみに結果を待ちたいと思う。

■SOSAK KYOTO/http://addspice.jp/case/sosakkyoto/

2017年 07月18日 11時05分