規制緩和で先行する「特区民泊」はどうなっているのか

前回<民泊解禁に向け、見えてきた規制緩和の行方。検討会で進む議論とは>でお伝えしたように、民泊の規制緩和に向けての議論は厚生労働省の検討会で活発に行われ、その方向性が明らかになってきた。
この検討会とは別に、すでに民泊の規制緩和で先行しているのが、「国家戦略特別区域法」による民泊だ。これは第2次安倍内閣が成長戦略のひとつとして掲げているもので、特定の地域を特区に指定し、その区域においていわゆる岩盤規制を打ち破り、経済成長につなげていくことを狙いとしている。2015年度末までを集中取組期間として、医療、教育、雇用等において規制改革を実施してきた。

民泊が法的に問題といわれているのは、旅館業法における旅館業にあたる可能性があるにもかかわらず、営業許可を取らずに宿泊料を受けて人を宿泊させている部分だろう。しかし個人が営業許可を取得するのは、部屋数が5部屋以上必要であったり、フロント設置の義務があったりと現実的ではなかった。そこで、特区においては民泊を旅館業法の規定の適用除外とすることが決まった。

特区に指定されたのは、首都圏では東京都、神奈川県、千葉県(千葉市・成田市)、関西では大阪府、兵庫県、京都府。各都道府県において条例を制定する必要があり、特区に指定されたからといってすぐに民泊が認められるわけではない。また、保健所を設置する市または特別区においては、それぞれの市または区で条例を制定することになる。条例制定の後、民泊を行おうとする個人や事業者が申請を行い、「特定認定」を受けるという流れである。

2016年3月末の時点で条例の制定が済んでいるのは、東京都大田区、大阪府と大阪市。大阪府の中で独自に保健所を持つ堺市、高槻市などは、それぞれで条例を制定する必要があり、現時点では未制定。吹田市や池田市のように不参加としている市もある。

特区に指定され、条例が制定されても、すべての場所で民泊が認められるわけではない。「特区民泊」が可能な場所は「建築基準法上『ホテル・旅館』が建築可能な用途地域であること」と定められている。すなわち、住居専用地域、工業地域、工業専用地域では不可となる(第一種住居地域では3,000m2以下なら可)。

大田区は「国家戦略特別区域法」によって指定されている区域大田区は「国家戦略特別区域法」によって指定されている区域

国家戦略特区でも要件は思いのほか厳しい

特定認定を受けるための要件は、国家戦略特別区域法で細かく定められおり、自治体の裁量に委ねられているのは最低宿泊日数のみだ。最低宿泊日数は7~10日の範囲で各自治体が決めることとされ、東京都大田区、大阪府、大阪市も7日(6泊7日)としている。それ以外の要件はどの自治体でも基本的に同じだ。

7日以上という要件に使い勝手の悪さを感じるが、これを緩和するのは難しそうだ。なぜなら特区での民泊はホストとゲストの間に賃貸借契約を結び、7日以内の解約ができない旨の条項を設けるよう求められているためだ。また、途中でのキャンセルはできないとされており、もし途中でゲストが別の宿泊施設に移ったとしても、ホストはその契約期間内には別のゲストと契約することができないのである。ちなみに、「特区民泊」の正式名称は「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」といい、ゲストは外国人に限定されると誤解されがちだが、日本人の宿泊も含まれている。

他の要件について、「特区民泊」がスタートしている東京都大田区の事例を中心に説明しよう。風呂やトイレを含めた居室の必要床面積は25m2以上。風呂やトイレを除いた面積は、ゲスト1人あたり3m2以上とされている。設備として求められるのは、換気扇、窓、部屋の照明、エアコン等。寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理器具や清掃用具も必要である。「特区民泊」可能な物件かどうかを左右する大きな要素は、浴室、洗面、水洗かつ便座式トイレの有無。これらの設備は共用ではなく、ゲスト専用のものでなければ認められない。

ハードルを上げているのは、外国語による賃貸借契約書と案内を用意する必要があること。案内には、設備の使用方法、ゴミの捨て方、緊急時の通報先といった内容を含めなければならない。賃貸借契約そのものは、インターネット等を通じて非対面で行うことも認められており、仲介事業者に任せることも可能だ。
本人確認のルールも決められており、宿泊開始時と終了時に外国人はパスポートで、日本人は顔写真付きの身分証明書でゲストの本人確認をしなければならない。滞在者名簿の作成と3年以上の保管も義務付けられている。

民泊を難しくしているもう一つの要件が消防設備の設置だ。「特区民泊」を行う建物では、消防法令で義務付けられた設備が設置されている必要がある。カーテン、じゅうたん等は「防炎」ラベルのついた製品の使用が求められている。避難経路図の掲示も必要だ。自動火災報知設備も設置しなければならない。これは建物全体に火災を報せるもので、室内のみで鳴る警報よりさらに大型の設備となる。東京消防庁の資料によると、外国人滞在施設は「旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの」とされているため、一般的な賃貸物件よりも高い水準の消防設備が要求されているのだ(必要な設備は建物によって異なる)。

申請前に、民泊の実施を近隣住民に書面で周知することも求められている。書面には苦情窓口の連絡先の記載が必要。大田区が提供する「特区民泊認定に関するQ&A」には、「反対意見があった場合はまず理解を得られるよう誠意を持った対応を行ってください」とあるが、「安全・安心して滞在できる環境が確保されていれば複数回のやり取りや同意までは求めていません」ともあり、近隣住人の同意を得るまでに至らなくともよいようだ。

こういった要件をすべてクリアして、ようやく民泊の申請ができる。ひとつの建物で複数の部屋を「特区民泊」に使用するならば申請は1件で済むため、集合住宅で複数の部屋を民泊に供するような場合は効率よく進められそうである。

鳴り物入りでスタートしたが、認定件数はまだ少ない

全国に先駆けて条例が施行された大田区では、空の玄関口、羽田空港を抱える立地ということもあり、大きな話題を呼んだ。大田区による5回の説明会には、合計で約1,000人が参加。民泊への関心の高さに注目が集まった。各紙報道によると、この説明会で参加者からあがったのは「要件が厳しく、6泊7日以上としているところが難」という声。実際に、当初申し込みがあったのは3件に過ぎず、認定を受けたのは2件のみ。観光庁の統計を見ると「観光・レジャー目的の滞在」は6日間以内が7割弱を占めている。7日以上滞在する旅行者でも1ヶ所に留まるとは限らず、使い勝手がよいとはいえない。民泊要件への懸念事項が浮き彫りとなる結果になった。

このような状況ではあるものの、大田区の松原忠義区長は会見で「条例の狙いは、あくまでも安心して泊まれるというのが第一。一定期間はこのままで進めるのがいいと思う」とコメントしている。(参考:「石破内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成28年3月4日」)

もちろん前向きな動きもある。保有物件で認定を受けたある法人は、「最新家電を備えた部屋」「2,000冊のマンガが読める部屋」等を今後は検討していく予定で、旅館・ホテルにはない個性的な施設を民泊の魅力として押し出していこうとしている。このように、ビジネスとして積極的に取り組んでいこうという一部の動きがあるのも確かだ。

また、大田区は商店街と大田浴場連合会とともに「特区民泊セット」を作成。商店街の多言語マップ、クーポン、シャンプーやミニバスタオルの入った「民泊手ぶらセット」がもらえる体験入浴券を用意し、ホストに提供している。ホストが鍵といっしょに入浴券をゲストに渡し、地元の商店街を使ってもらおうという考えだ。

こうして2016年1月27日に民泊の受付申請がスタートした大田区だが、現時点では期待されたほどの盛り上がりにはなっていない。無許可の民泊がすぐになくなるわけではなく、手間をかけて許可を取ろうとするとホストが増えない可能性もある。だが「特区民泊」を大きなビジネスチャンスと捉える積極的な企業もあり、区全体で盛り上げていこうとしている。「特区民泊」はまだ始まったばかりの、手探りの段階だ。前回紹介した厚生労働省の検討会の中間報告を踏まえて、民泊がよい方向へ成長していくことを期待したい。

※この記事は「民泊JAPAN」クローズに伴って、同社にて運営するLIFULL HOME'S PRESSが著作権を引き継ぎ、使用許諾権に基づいて公開しています。情報は「民泊JAPAN」掲載当時(2016年4月18日)のものとなります。

羽田空港を抱える大田区。5回開催された説明会には約1,000人の参加者が集まり、関心の高さがうかがえた羽田空港を抱える大田区。5回開催された説明会には約1,000人の参加者が集まり、関心の高さがうかがえた

2016年 04月18日 11時00分