流通の変化が生んだ「深大にぎわいの里」

「深大にぎわいの里」は、そばで有名な古刹の深大寺と、京王線調布駅とのほぼ中間にある。1972年に建設された建物で、11階建てと7階建ての2棟からなり、それぞれ3階以上が賃貸住宅、1階と2階が卸売市場となっていた。卸売市場の「武蔵野市場」は地域の流通を担う存在で、最盛期には、精肉や鮮魚、野菜、食品関連の商品を扱う卸売業者が90店近く入居。競りなども開かれ、活発な商いが行われていたそうだ。

しかし、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどが増え、消費者の買い物のスタイルなども変化したことによって、卸売市場の役割や需要が低下し、武蔵野市場の卸売業者も次第に減っていった。そして2005年、所有者が調布を中心に物件の売買や管理を行う株式会社調布みつぎ不動産研究所に代わると、「深大にぎわいの里」(以下、にぎわいの里)として再出発することになった。

築40年超の建物だが、きちんと管理されており外観から古さは感じない築40年超の建物だが、きちんと管理されており外観から古さは感じない

まずは知ってもらうことと、活性化に注力

市場の名残で今も水・日曜日定休の店が多い(上)<br>普段は多くの人が訪れる、地域の台所となっている(下)市場の名残で今も水・日曜日定休の店が多い(上)
普段は多くの人が訪れる、地域の台所となっている(下)

武蔵野市場は一般消費者向けではなかったが、にぎわいの里は一般消費者向けに開放していきたい、と調布みつぎ不動産研究所は考えた。利用者増に向けて、同社の農業部門である三ツ木農園で栽培している野菜をはじめとした直売所を設け、テナントも、問屋ではなく一般向けの商店にしていこうと考えた。
「それでも賑わいはなかなか回復せず、入居店舗の経営者の高齢化なども手伝って、退店するテナントも。特に1階は、シャッターが目立つ状態になっています」と、同社のシニアリーダーの浅里謙介氏。現在のテナントは、武蔵野市場時代からの卸売業者やスナックに加え、カフェやパン店、生花店、理髪店、塾など20あまりだ。
「この場所を地域の人が集まるような場にしていきたいと考えたのですが、そういった場の運営をした経験はありませんでした」と浅里氏。そこで、調布で精力的に活動する人たちの力も借りて、にぎわいの里を知ってもらい、活性化させようという動きが始まった。

「調布には、地元で何かしようという人が多いんです」と話すのは、造形作家でスタジオげん代表の山田はるこ氏。にぎわいの里で地元の主婦たちが始めたコミュニティカフェで、子ども向けワークショップを開いたことをきっかけに、広さも料金も手ごろな空きテナントにアトリエを構えたという。山田氏いわく、この地域で活動している人同士はイベントなどを通してゆるやかなつながりがあると言い、にぎわいの里に集まってきたのも、そうしたメンバーであった。

新たに入ってきた個性的なテナントたち

「紗ら+」は深大にぎわいの里のコミュニケーションスペースのような場所(上)<br>この場所でイベントが開催されることもある(下)「紗ら+」は深大にぎわいの里のコミュニケーションスペースのような場所(上)
この場所でイベントが開催されることもある(下)

合同会社パッチワークスも調布で活動する団体のひとつ。「調布を面白がる会」をはじめ、調布の活性化を考えたり、魅力を再発見したりする企画やイベントなどを提案していたグループから生まれた会社だ。そのパッチワークスが行ったのが「深大にぎわいの里を面白がる会」。約50人の参加者がにぎわいの里を見学するとともに、空いている1階スペースの利用法などを自由に語り合うイベントだった。「キャンプ場にしようとか、面白い意見がいろいろと出ましたよ」とパッチワークスの関根麗氏は振り返る。このイベントには浅里氏も参加し、以降、パッチワークスもにぎわいの里の活性化に関わるようになった。現在パッチワークスは、にぎわいの里の2階に移転を予定しており、これから内装のDIYを進めようとしているところだ。

そして、「深大にぎわいの里を面白がる会」で浅里氏と出会った株式会社ロックアップ/調布支社「調布企画組」の代表取締役社長の長尾純平氏は、2階で「紗ら+」(さらさら)を運営している。同社は映像やウェブの企画制作が本業だが、「人が集まる場所を作りたくて」(長尾氏)と始めたものだ。しかし、「紗ら+」は単なるカフェでもスナックでもない。
「1日マスターという仕組みを設けていて、これまでにドローンの普及活動をしている大学教授や、映画監督、造形作家などに店長になっていただいています」と吉川氏。
同店には1日マスターを中心にさまざまな人が集まり、飲みながら気軽にコミュニケーションを図ることができる場として機能しているのだ。長尾氏、吉川氏はともに調布の出身で、にぎわいの里は子どものころから知っている場所。長尾氏は「いろいろな社会実験をするのに適した、面白い空間です」と話す。

賑わいをつくるオーナーとテナントの連携

子ども向けワークショップのようす。このような、来る人が楽しめるコンテンツを用意することが必要だ子ども向けワークショップのようす。このような、来る人が楽しめるコンテンツを用意することが必要だ

このようなつながりが広がる中で、浅里氏は、パッチワークスをはじめ、にぎわいの里の活性化に取り組む人たちと話し合いを重ね、賃料を改めた。「1階の賃料は1年目が正規料金の4分の1。2年目が半分、3年目が4分の3として、この場を利用して何かチャレンジしてみようという人が借りやすいようにしました。2階も正規賃料より低い、坪単価3,000円に設定しています」
また、スポット的な利用に対しても積極的だ。
「映画の撮影で使いたい、イベントの会場にしたい、コミュニティカフェを開きたいといった要望には、柔軟に対応しています」と浅里氏。こうした取り組みを続けた結果、にぎわいの里の利用者が少しずつ増えるとともに、新しいつながりも育ってきたのだ。

浅里氏は、「不動産業のノウハウだけでは、にぎわいの里が本当に賑わいを取り戻すことは難しい」と話し、賃料やインフラはオーナーである調布みつぎ不動産研究所が整え、魅力の創出やプロモーションはテナントのアイデアも取り入れ、連携して進めることが必要と考えている。テナント側の長尾氏も同意見だ。
「交流人口を増やし、魅力や賑わいを口コミで伝播させることが重要です。そのためには来た人が楽しめるコンテンツを用意する必要があります。私たちとしては、1日店長を拡充していきたいです」
関根氏も同様に、にぎわいの里に出入りする人を増やすことを提案する。
「事務所を移転したら、キャンプ道具や工具類などをレンタルしたり、シェアしたりする活動を始めたいと考えています。小さなことでもいいのでさまざまなアイデアを考えて、試してみたいですね」

これからの不動産ビジネスのあり方とは

全国的に問題となっている、空き家や空きテナント。浅里氏は、オーナーとテナントが連携することは、にぎわいの里だけでなく、今後の空き家対策を考える上でも大切だと言う。
「調布市のある空き家を貸す際に、オーナーと入居希望者に直接話し合ってもらい、賃料も両者で決めてもらったことがあります。お互いの信頼関係があれば、本当は不動産会社が介入する必要はないのかもしれませんね」。不動産会社が間に入り、賃料などを決めることによって、オーナーの思いが見えづらくなり、かえって空き家の活用を難しくしているのではないか、というのが浅里氏の推測だ。
「オーナーにも空き家をどうにかしたいという思いはあるわけですから、不動産会社はその思いを大切にし、オーナーと入居希望者が信頼関係を築く手伝いをしていくべきなのかもしれません」

にぎわいの里の活性化に取り組む中で、従来の不動産ビジネスとは異なる手法の必要性に気づかされた、と振り返る浅里氏。多彩なテナントが入居した2階では、それぞれが得意な分野を活かして互いに助け合う、長屋のような雰囲気が生まれている。新規テナントが入居すれば、内装や看板製作、販促などを相談できる会社が近くにあるため、サポートしてもらうことが可能なのだ。この雰囲気が全体に伝播していけば、この場所に賑わいが戻ってくる日もそう遠くはないように感じた。

(左から)スタジオげん代表の山田はるこ氏、調布企画組の吉川慎太郎氏、調布みつぎ不動産研究所の浅里謙介氏、<br>調布企画組の長尾純平氏、パッチワークスの関根麗氏。(左から)スタジオげん代表の山田はるこ氏、調布企画組の吉川慎太郎氏、調布みつぎ不動産研究所の浅里謙介氏、
調布企画組の長尾純平氏、パッチワークスの関根麗氏。

2019年 02月16日 11時00分