2018年に社会問題化した「引越し難民」

引越しのシーズンといえば、企業や学校などの新年度が始まる3月から4月。国土交通省の資料によると、特に3月の引越し件数は、4月を除く他の月の約2倍と集中する。引越し費用も、閑散期に比べると2倍、3倍と高騰する。費用が高くなっても、引越しができればいいが、問題は、費用を支払えるかどうかにかかわらず、希望した日時に引越しができない事態が発生したことだった。2018年に社会問題化し、マスコミなどでも大きく取り上げられた「引越し難民」だ。

深刻な事態に対して国土交通省では、消費者に引越し時期の分散化を呼びかけたり、3月~4月の引越し予約状況を知らせたりといった対応を行う一方で、「標準引越運送約款」を改正した。引越しの解約・延期手数料を引き上げたほか、1台のトラックで複数の引越しを行う「積み合わせ運送」も認めた。さまざまな施策にもかかわらず、引越し難民の完全な解消には至っていない。

国土交通省 「2017(平成29)年度における大手引越事業者6者の引越件数」国土交通省 「2017(平成29)年度における大手引越事業者6者の引越件数」

引越し会社50社がプロジェクトに参加

「引越し難民ゼロプロジェクト」は、今も続く引越し難民の問題に対して、引越し会社が主体となって解消に取り組むというものだ。全国の約50社の引越し会社と、引越し会社のためのプラットフォームの運営などを行っている株式会社リベロが参加する。その発足式が2020年1月22日に都内で開催された。

発足式の冒頭、リベロの代表取締役である鹿島秀俊氏は、全国の引越し会社の悩みは共通していると挨拶。続いて実施されたトークセッションでは、引越し会社が抱える悩み、引越し難民を生む背景や現在の引越し事情などが紹介された。

引越し会社の本音もうかがえたトークセッション。右手から株式会社リベロ 代表取締役 鹿島 秀俊氏、株式会社リベロ  横川尚佳氏、イナミ引越サービス 稲見政隆氏、日本通運株式会 引越営業部長 土田久男氏、アップル引越センター マネージャー田中康貴氏引越し会社の本音もうかがえたトークセッション。右手から株式会社リベロ 代表取締役 鹿島 秀俊氏、株式会社リベロ 横川尚佳氏、イナミ引越サービス 稲見政隆氏、日本通運株式会 引越営業部長 土田久男氏、アップル引越センター マネージャー田中康貴氏

引越し難民の背後にある「通信販売」

トークセッションでの解説によると、引越し難民の背景にあるのは、何といっても通信販売の存在だ。宅配の需要が増えたことから、引越しから転業・転職する事業者が増えた。また、働き方改革の推進で残業が少なくなったことや、若年層の免許取得率が低下し、トラックドライバーのなり手が減ったことも影響している。トラックドライバーの有効求人倍率は、2018年11月には2.91倍を記録している。こうした背景から稼働トラックの減少などを招き、需給のバランスが崩れた結果が、引越し難民につながっている。

リベロのプラットフォームに参加している引越し会社ヘのアンケート調査によると、3月から4月の繁忙期の引越しの依頼に対して、断る割合が20%を超える引越し会社は約70%にもなるそうだ。また、繁忙期の引越し料金が、通常期と変わらないと回答した会社はゼロだった。通常期の2倍から2.5倍との回答が最多で、全体の3分の1を占めた。

引越し繁忙期の現状。株式会社リベロ提供引越し繁忙期の現状。株式会社リベロ提供

料金の高騰を招く「トラックの空荷問題」

トークセッションに参加した株式会社イナミコーポレーション代表取締役の稲見政隆氏は、「長距離の引越しは、人もトラックも拘束時間が長くなるので、高額になりがちです」と指摘。「特に問題は、トラックが引越し先から空荷で戻らざるを得ないこと」と話し、見積もりが高くなる最大の要因とした。日本通運株式会社 引越営業部長の土田久男氏は、「長距離の引越しでは、途中でトラックをリレーしたり、JR貨物のコンテナで運んだりと効率のいい運用で経費を抑えています」と説明。しかし、繁忙期には、コールセンターの担当者を3倍にするのをはじめ、引越し現場の下見をする担当者や営業担当などを増員する必要があり、社内で補う努力はしているものの人件費がかさんで見積もりはどうしても高くなると言う。

土田氏によると、繁忙期の引越しの申し込みは、2,3年前から早くなっていて、「個人の場合は、年が明けるとドンドン入ってきます」とのことだ。アンケート調査でも半数の会社が問合わせは早くなっていると回答。土田氏は、3月から4月への集中回避は難しいと分析している。

引越し申し込み時期について。株式会社リベロ提供引越し申し込み時期について。株式会社リベロ提供

問題解決のカギを握る引越し会社の連携

稲見氏は、トラックの空荷問題の解決には、引越し会社同士の連携、情報の共有がカギとし、「それぞれの会社がロスを減らしても、引越し業界全体のロスを削減することにはつながりません」と訴えた。愛媛県を地盤とするイナミコーポレーションでは、リベロのプラットフォームなどを通じて、四国の他県や岡山県の同業者と協力し、県をまたいだ引越しを受注しているそうだ。リベロの常務取締役の横川尚佳氏も、プラットフォームやコールセンターの運営などを通じて、業界全体のサポートに努めたいと応じていた。

最後に、消費者に向けて「引越しの日程について、可能であれば1週間など余裕をもって引越し会社に預けてほしい。日が限定されるなら時間の幅を広げてほしい。そうすれば繁忙期でも引越しを引き受けやすくなり、効率的なトラックの配車が可能になって、より安価での引越しが実現します」と訴えて、発足式は幕となった。

引越し業界を取り巻く難しい状況が見え、引越し難民にならないためには、自ら早めに行動したり情報収集をしたりと、引越し会社任せにしないことが大切とわかった発足式だった。この春、引越しの予定がある人は、早めの行動と、国土交通省など関係機関の情報収集にあたることをお勧めしたい。

発足式には、マスコミのほかに引越し会社の代表なども参加発足式には、マスコミのほかに引越し会社の代表なども参加

2020年 02月09日 11時00分