昭和40年代に建てられた都心の公務員宿舎の跡地を大規模に再開発
東京都中野区江古田は中野区の北部に位置する住宅地である。今回の大規模開発の場所である江古田三丁目は、かつて国立療養所中野病院があり、移転後の跡地は住民の憩いの場所である緑豊かな江古田の森公園となっている。
公園に隣接する場所には昭和40年代に建てられた公務員宿舎があり、跡地となっていた。その跡地をUR都市再生機構が取得、その後再開発計画にあたりURが住宅事業者を公募したのが今回のプロジェクトの始まりである。
今回は、その約4.4haにおよぶ再開発を取材。選定されたプロジェクトのプランで注目された新たなまちづくりを目指す物件設計とはどういうものなのか。
選定された積水ハウスと物件の運営をささえる積和不動産にお話を伺いながら、今回のプロジェクトを象徴する賃貸住宅棟の「プライムメゾン江古田の杜」を取材してきた。ご案内いただいたのは、積和不動産(株)の清水さん、菅藤さん、佐藤さん、積和グランドマスト(株)の高橋さんである。
提案の核となった『コドモイドコロのある街』というコンセプト
再開発のプロジェクト全体は「江古田の杜プロジェクト」と呼ばれる。今回、取材させていただいた賃貸住宅棟の「プライムメゾン江古田の杜」以外にも、プロムナードを挟んで建てられた分譲マンションの「グランドメゾン江古田の杜」、および総合東京病院新棟を有する約4.4haの大規模再開発である。
「今回のプロジェクトで住宅事業者として選定されたポイントですが、“多世代や多世帯が交流しつつ、住み続けられる、住み続けたいまち”を核とした物件の設計にあります。私たちはそれを“コドモイドコロのある街”としました。
コドモイドコロ…といっても子育て世帯向けだけのまちや物件の設計ではありません。“イドコロ”という言葉に、みんなで見守る、まちで育てる…という気持ちを込めています。子育てファミリーを中心に学生・高齢者など多様な世代が住み暮らすことと、世代間の理解や交流を生むことで、まちの絆を深め、住み続けたい魅力あるまちをつくりたい、世帯の循環を生み出したいという取り組みです」という。
多世代の需要ごとの賃貸物件をつなぐことで目指す「世帯の循環」
プライムメゾン江古田の杜には、世帯の循環を目指す目的で、学生から子育て世帯、高齢者向けの賃貸マンションまでさまざまな世代をカバーする賃貸住宅が用意されている。
・プライムメゾン江古田の杜 ウェスト・イースト → 子育て世帯向け賃貸マンション
・グランドマスト江古田の杜 → サービス付き高齢者向け住宅
・マストワン江古田の杜 → 学生向け賃貸マンション
その他に介護や医療体制が必要な高齢者のための施設である、
・ニチイホーム江古田の杜 → 介護付き有料老人ホーム
がある。
「子育て世帯用の賃貸物件とサービス付き高齢者向け住宅は、セキュリティはありますが、棟内でつながっており、子世帯はプライムメゾンで、親世帯はグランドマストで、と近居暮らしも可能です。都内の一戸建てで住んでいたけれど、子どもたちが独立して二人では(もしくは一人では)広すぎてしまうので便利なマンション暮らしを…と考えている方もいらっしゃいます。また、単身となった親御さんを心配して、自分たちの住まいの近くでつかず離れずの暮らしをしてほしいと望む子どもさん世帯もいらっしゃいます。賃貸ですので、自宅をそのままにして、気軽にマンション暮らしを体験してみる、といった方もいらっしゃいます」と、高橋さん。
敷地内に病院や介護施設もあることから、家族の状況に変化があっても対応できる、という住居設計となっている。
まちと人とともに成長できる「育てていく住環境」をつくる
そして、世代間のコミュニティ創出を目指すプライムメゾン江古田の杜の中心となる施設が「リブインラボ」だ。リブインラボは、1階にコンビニエンスストアのほか、認可保育所、交流スペースである「えごたいえ」、レストランが、2階には学童クラブ、キッズルーム、絵本ライブラリーのほか、音楽演奏やカラオケを楽しめる防音室、イベントや教室などに使える多目的ルームを備える。
今までの、ロビーを抜けて利用する居住者のためだけの施設……というより、プロムナードに面した街に開いた施設であり、明るく使いやすい印象だ。
「実際に絵本ライブラリーやキッズルーム、レストランは、居住者でなくても地元の方々に多く利用いただいています。地域みんなで集える空間をつくることで、さまざまな交流が生まれてくれることを期待しています」という。
「特にキッズルームは、杉並区や中野区で子どもたちの育成について約20年活動を続けているNPO法人ZEROキッズさんに委託しています。"こどものパワーで地域をつなぎ文化をつくる! "というZEROキッズさんのコンセプトは今回のプロジェクトに共通するところがあります」。
キッズルームに常駐するZEROキッズのスタッフの方は
「子どもたちの成長を見守る活動をする中で、地域の方々が集いやすく、明るくきれいな施設を使えることはとてもありがたく思っています。実際にたくさんの地域の子どもたちが利用してくれて、あたらしいまちの活気につながっていけばいいな、と思っています」と話す。
平成27年度の総務省の国勢調査によると、夫婦と子どもからなる世帯は減少しつつあり、最も多い世帯類型は単独世帯となりつつあるようだ。ファミリー向けだけの大型物件を建てて終わりという時代はいまや昔の話となっている。
世代ごとの暮らしを層のように支え、循環するという考え方は、これからのまちづくりには必要である。このプロジェクトが、その目的通りにまちの愛着とむすびつき、人と人とをむすび、記憶を育てていくことを期待したい。
■取材協力
プライムメゾン江古田の杜 http://www.pm-egota.com/
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