オイルショックを機に、「量から質へ」とシフト

建て替え前の諏訪2丁目住宅。2011年7月空撮。提供/諏訪2丁目住宅マンション建替組合建て替え前の諏訪2丁目住宅。2011年7月空撮。提供/諏訪2丁目住宅マンション建替組合

高度経済成長期、都市部に大量の労働力が流入し、住宅不足が深刻化。急増した人口の受け皿として、各地の郊外に大規模団地を中心とするニュータウンが形成された。
だが、開発から40年以上が経過した今、団地の老朽化と高齢化はとどまるところを知らない。人口減少にともなう都心回帰の影響もあって、ニュータウンは存亡の危機にさらされている。
そんな中、すでに本誌でも既報の通り、全国のニュータウンでは再生に向けてさまざまな取り組みが行われている。では、国内最大規模を誇る東京・多摩ニュータウンではどのような取り組みが行われているのか。その最新状況についてレポートする。

多摩丘陵を切り拓いて開発された、多摩ニュータウンの総面積は約30ha。東京の西南約25~40km、町田市・八王子市・多摩市・稲城市の4市にまたがり、居住人口は約24万人に上る。
諏訪・永山地区(多摩市)で初めての入居が行われたのは、昭和46年。わずか3年間で、多摩ニュータウンの人口は瞬く間に3万人まで膨れ上がった。

だが、ニュータウン開発のきっかけとなった高度経済成長は、昭和49年のオイルショックで終わりを告げる。これにともない、多摩ニュータウンの住宅供給の方針も「量から質へ」とシフト。画一的な大規模団地だけでなく、タウンハウスや戸建住宅など、多種多様なタイプの住宅が供給されるようになった。まちづくりにあたっては景観も重視され、多摩ニュータウンは日本有数の“公園都市”として名を馳せることとなった。

超高齢化の理由は「団地の老朽化」と「間取り・設備の陳腐化」

その多摩ニュータウンにも、「超高齢化」の大波が押し寄せている。
初期のニュータウン開発の舞台となった多摩市では、昭和35年~平成2年の30年間で人口が約15倍に増加(現在の人口は約14万人)。だが、平成7年をピークとして、15~64歳の生産年齢人口は減少の一途をたどり、老年人口が急増している。
「多摩ニュータウン全体の人口はまだ増え続けています。しかし、2050年には多摩ニュータウン全体の人口が7%減。ニュータウンの多摩市域だけに限ると、27%減が見込まれています。とくに人口減少が顕著なのが、初期に開発されたエリア。昭和46年に入居が始まった諏訪・永山地区では、人口の32%が減少すると予想されています」と、多摩市役所都市整備部でニュータウン再生を担当する永井修課長は語る。

なぜ、諏訪・永山地区では超高齢化が進行しているのか。最大の理由は「団地の老朽化」と「間取りや設備の陳腐化」にある。古びた団地の作りもさることながら、部屋の間取りも時代遅れの印象をぬぐえない。団地住戸は40m2台の3DKが基本。今なら1LDKか2DKのスペースを無理やり3DKにしているわけで、広々としたリビングを好む若い世代にはいかにも受けが悪そうだ。

「高度経済成長期には、ここに子育て世代が一家4人で住むのが一般的でした。しかし、今は、40m2台の住戸に4人が住めるという時代ではない。お子さんは成長して大学に進み、そのまま就職して実家には戻ってこない。今の子育て層が、エレベーターのない5階建の団地に住むかといえば、なかなか難しいのが実情です」(永井氏)

諏訪2丁目住宅の建て替えによって誕生した『Brillia(ブリリア)多摩ニュータウン』。撮影/松田平田、提供/諏訪2丁目住宅マンション建替組合諏訪2丁目住宅の建て替えによって誕生した『Brillia(ブリリア)多摩ニュータウン』。撮影/松田平田、提供/諏訪2丁目住宅マンション建替組合

老朽団地を高層マンションに建て替え、若い世代の呼び込みに成功

多摩市役所 都市整備部 ニュータウン再生担当課長・永井修氏多摩市役所 都市整備部 ニュータウン再生担当課長・永井修氏

こうした事態を受けて、平成25年7月、東京都やUR都市機構、多摩市などが中心となり、多摩ニュータウン再生検討会議が発足。平成27年10月には「多摩ニュータウン再生方針」が発表され、翌28年、多摩市でも独自に再生方針が策定された。

現在、諏訪・永山地区では、さまざまな団地再生の取り組みが行われている。なかでも話題を集めたのが、「日本最大級の建て替え」といわれた、諏訪2丁目住宅のマンション建て替え事業である。
これは、分譲団地である諏訪2丁目住宅の老朽化にともない、640戸の一括建て替えを行うという壮大なプロジェクトであった。住宅管理組合は、「このままでは住み続けられなくなる」という住民の不安を受けて、築40年目となる平成22年に大規模な建て替えを決定。行政の支援もあって、平成26年11月、諏訪2丁目住宅は『Brillia(ブリリア)多摩ニュータウン』に生まれ変わった。
この建て替えによって、5階建の団地23棟は14階建の高層マンション7棟となり、住戸数も640万戸から1249戸へと倍増。増えた609戸分は分譲し、建て替え費用は売却益でまかなうという手法も世間の耳目を集めた。

『ブリリア』への建て替えは、諏訪地区の超高齢化に歯止めをかけるという意味でも、劇的な効果をもたらした。30~40代の子育て世代がマンションを購入したことで、諏訪地区の高齢化率も32%から24%へと急降下。現代のニーズに合った住宅さえ提供すれば、若い世代は多摩ニュータウンに戻ってきてくれるということを、ブリリアの事例ははからずも証明する結果となったのである。

ライフステージに合わせた住み替えで、住宅のアンマッチを解消

美しい街並みが印象的な鶴牧・落合地区。昭和58年に放映され大ヒットしたテレビドラマ『金曜日の妻たちへ』のロケ地にもなった美しい街並みが印象的な鶴牧・落合地区。昭和58年に放映され大ヒットしたテレビドラマ『金曜日の妻たちへ』のロケ地にもなった

多摩ニュータウンが抱えるもう一つの悩みは、「住宅のアンマッチ」である。
田園調布のような街並みを目指して開発され、昭和57年に入居が始まった鶴牧・落合地区は、多摩ニュータウンの中でも洗練された町並みで人気の高いエリアである。この地区には100m2超のマンションやタウンハウス、2世帯同居住宅などが軒を連ね、200m2の土地に150m2近い戸建住宅が建っているケースも少なくない。

「広い家に老夫婦や独居のお年寄りが住み、『2階はほとんど使っていない』というお宅も多い。そういう家を子育て世代に貸していただき、お年寄りは買い物や病院通いに便利な駅前のマンションやサービス付き高齢者住宅、特養ホームなどにお移りいただく。そんな人の循環が生まれれば、住宅のアンマッチも解消され、若い人にも安心して子育てしてもらえるのではないか。ライフステージに合わせて住替えすることによって、地域が”終の棲家”となるような形にできないものか、と考えているところです」(永井氏)

その一環として、多摩市では「住み替えバンク」の設置を検討中。JTI(※)制度をモデルとして、住み替えの促進を図る考えだ。JTI制度とは、50歳以上の人が所有する耐震性のあるマンションや戸建住宅をJTIが借り上げ、賃貸住宅として提供する仕組み。家賃保証制度が適用されるので、借り手が見つからなくても家賃収入は保証される。

「とはいえ、JTI制度が利用できるのは負債がない人のみ。住宅の耐震性も問われるので、非常にハードルが高いのが実情です。そこで、行政の支援により“多摩市版・住み替えバンク”を作るべく、プロジェクトを立ち上げて研究しているところです」(永井氏)

※JTI=日本移住住み替え支援機構

恵まれた自然環境を活かして「健幸都市」を目指す

多摩ニュータウン内に張りめぐらされたペデストリアンデッキ。歩車分離が徹底しており、車道を横切らなくとも家から駅前まで行くことができる多摩ニュータウン内に張りめぐらされたペデストリアンデッキ。歩車分離が徹底しており、車道を横切らなくとも家から駅前まで行くことができる

多摩市では、諏訪2丁目住宅の成功事例を踏まえ、ニュータウンの他の分譲住宅の再生も支援していく考えだ。また、都営住宅1500戸の建て替えも予定しており、平成28年度中には着工される予定だという。

そもそも、多摩ニュータウンとはどのような町なのか。実際に歩いてみると、多摩丘陵の地形をうまく活かして、町全体がデザインされていることがわかる。谷戸(谷間)を走る幹線道路と尾根部に作られた歩道が立体交差しているため、歩車分離が徹底しており、ウォーキングには最適だ。木漏れ日を浴びながら森林浴を楽しんでいるうちに、気がついたら3時間も経過していた。

「(多摩ニュータウンが市の面積の6割を占める)多摩市の公園面積は11.17%で都内トップ。4車線道路の上に127の歩行者専用橋が架かり、都市基盤が大変整備されています。ペデストリアンデッキが毛細血管のように張り巡らされているので、子供たちは車道を一切横断することなく、学校や公園、駅前まで歩いていける。まさに、“子育てするなら多摩ニュータウン”。安心して子育てできるだけでなく、多様な世代が楽しく住み続けられる町になっていくと思います」

多摩ニュータウンの魅力はそれだけではない。恵まれた環境のなせるわざか、「多摩市は東京都平均と比べて、健康寿命と通常の寿命の差が小さい」と永井氏は言う。健康寿命と通常の寿命の差が小さいということは、それだけピンピンコロリで元気に老後を過ごせるということだ。その差は、男性の場合、東京都平均の3.12歳に対して多摩市では2.83歳、女性の場合、東京都平均の6.50歳に対して多摩市では5.82歳(※)。いずれも多摩市は東京都平均を上回っている。
「今後は団地の中に休憩場所やカフェも作り、歩くのが楽しくなるような町にしていきたい。健康で幸せに暮らせる“健幸都市”を目指すこと。それもニュータウン再生の一環と考えています」(永井氏)

子育て、健康、自然との触れあい――かつて都市計画の担当者が夢見た「理想都市」のDNAは、さまざまな環境資産として今に引き継がれている。次回は、無印良品と連携した団地再生プロジェクトなど、多世代共生の取り組みについてさらに掘り下げてみたい。


健康寿命→多摩市平均:男性81.67歳/女性83.53歳、東京都平均:男性80.81歳/女性82.43歳。平均寿命→多摩市平均:男性84.50歳/女性89.35歳、東京都平均:男性83.93歳/女性88.93歳。(平成25年東京保健所長会方式により算出。出典/『たまプラス 統計データ 2016年3月号』東京都多摩市発行)

2017年 02月13日 11時06分