団地リノベーション住戸、1年後の住まいぶりは?

その名の通り、周囲には広大な竹林がひろがる洛西NTにある竹の里団地は総戸数570戸の大規模団地その名の通り、周囲には広大な竹林がひろがる洛西NTにある竹の里団地は総戸数570戸の大規模団地

霧雨が降る日曜日の寒い昼過ぎ。阪急京都線「桂」駅から京都市営バスに乗り約20分、洛西竹の里団地へと向かった。2014年1月にHOME’S PRESSで「女子大生のリノベーション 〜 京都女子大学×UR 築30年超の団地が変身」の記事中で紹介した団地の一つだ。その住戸で1年間生活したご家庭を訪問し取材する機会を得ることができた。

リノベーション住宅については、「使い勝手のよい間取り」「デザイン性の高さ」「工事にかかるコスト」といったHOW TO記事や物件の紹介記事は多く見かけるものの、リノベーション住宅に住むと生活がどのように変わる(変わった)のかという情報が不足している。リノベーションに関する記事の多くは、手段としてのリノベーションを知るには良いがリノベーションを行う目的を伝えられず単なる「工事事例紹介」にとどまっているものが多く、「リノベーション」という言葉自体にどこか薄っぺらな印象を感じるものもある。そんな思いを持つ人は、私以外にもきっといるに違いない。そこで「リノベーションされた住まいで、どのように生活が変わったか?」を検証するため、約1年ぶりに洛西竹の里団地にやってきたというわけだ。

訪問したのは30代後半の共働きご夫婦+保育所に通う今年小学校1年生となるお兄ちゃんと4歳のお嬢ちゃんの4人家族。建築系のお仕事に就くご主人が不在だったので病院勤務の奥様(Aさん)に話を伺った。

直感で決めた、リノベーション住戸への住まい替え

北側の洋室。シックなフローリングと淡いブルーの壁紙。中を見た人は「これが団地!?」と驚くそうだ北側の洋室。シックなフローリングと淡いブルーの壁紙。中を見た人は「これが団地!?」と驚くそうだ

Aさんが引越しを考えた理由は「前のうち(賃貸マンション)が古すぎたから」。住戸内の仕様や設備が古い上にメンテナンスも不十分であった。実家から泊まりに来たAさんの父にも「ここは(住環境が)よくない」と言われる始末。来年(2015年)は息子さんが小学校に上がるタイミングでもあり、引越しするならそれまでに済ませたい。早速新しい住まいを探し始めた。

阪急「洛西口」駅やJR「桂川」駅の駅周辺には多くの新築マンションが建設中であった。Aさんはモデルルームを幾つか見に行った。しかし「ピンとくる物件がなかった」。新築マンションを買ったものの引渡し直後からトラブル続きでいい思いをしていないという知人がいたこともあり、新築マンションは選択肢から外れた。ご主人は勤務の都合から駅に近い物件を希望していたが、Aさんは緑の多い周辺環境や二人の子供の面倒をご主人の両親に手伝ってもらえることを考えバス便エリアであるご主人の実家の近くが良いと考えていた。ご夫婦で相談の結果、奥様であるAさんの意見を尊重し、ご主人の実家近くのバス便エリアで住まい探しをすることになった。

住まい探しでまず頼ったのはWEBサイト。ご主人の実家近くで賃貸物件を探した。あたりには賃貸マンションは少なく、ほとんどがURの物件であった。そのURの物件中で目に留まったのが前出の京都女子大学×URリノベーション住戸、洛西竹の里団地だった。偶然Aさんの職場に同団地に住んでいる方が複数いらっしゃり、子育てがしやすく買物施設(「ラクセーヌ」「洛西タカシマヤ」)も近くにあり住みやすい団地であると勧められたため、現地見学をすることに決めた。

もともとAさん、リノベーション住宅には少し興味があった。ただ、あくまで「少し興味があった」だけ。マンションを買って自分で間取りや仕様を考える程の意欲があったわけではない。共働きであるがゆえ、あまり多くの時間を割くことができない。なので、リノベーション住戸が複数用意されていたこの団地はAさんにとって魅力的だった。3〜4種類の住戸を見学し、WEBサイトでみたときから「一番気に入っていた」青い間仕切り壁の住戸に決めた。即決だ。「賃貸はこの団地の(リノベーション)住戸しかみていません」。

デザインが気に入った「青い壁」、その思わぬ効果

空室の時にみた「青い壁」は相当“尖った”造作だったが、インテリアと調和した今はどこか控えめに見えた空室の時にみた「青い壁」は相当“尖った”造作だったが、インテリアと調和した今はどこか控えめに見えた

他の賃貸物件は一切見ず同団地のリノベーション住戸だけを見て、WEBサイトで「これだ」と思った住戸に即決。そのポイントはなんだったのか?

「リビングの広さ。キッチンから子供が見渡せるのがいい」とAさん。リビングダイニングから子供部屋にかけての開放感がポイントとなった。ダイニング、キッチンとリビングの間には建具等の間仕切りがなく、その隣の子供部屋もWEBサイトで紹介されていた青い腰壁の間仕切りによる緩い区切りしかない。広々とした空間となっている。キッチンで作業中も、リビングを見ることができ、子供部屋にいても子供の声や動きが感じられる。

この青い壁。お兄ちゃんお嬢ちゃんだけでなく、その友達にまで大人気らしい。高さが一様ではなく階段状になっているため上り下りしたり腰掛けたりするのには丁度よく、友達が遊びに来た時は電線に停まる小鳥よろしく「子供たちが列になって壁の上に座っている」ようだ。また、子供達が壁の上からジャンプして飛び降りることもあるという。Aさん、止めないんですか?「飛んでも大怪我をするような高さではないので、飛ばせてます」。壁の下には柔らかめのファブリックソファ。子供が飛び降りたくなるのも無理はない。

青い壁のお家に行きたい!と友達が言ったかどうかは定かではないが、お子さんの友達を家に招く回数は格段に増えた。「引越す前のマンションでは(お子さんの)友達の家を順に回っていた」のが今では「友人が家が片付いていないからって言うと、ウチに来たら?とこちらから誘う」機会が増えた。友達を家に招く機会が増えると今度は「家を片付けるようになった」。Aさん曰く「掃除や片付けはできない方だった」らしいが「綺麗な部屋を綺麗なままにしておきたい」という気持ちが起き、マメに掃除や片付けをするように。住まいが変わって、生活に変化があったのだ。

リノベーション住戸が変えたもの

バルコニー前に置かれた数々のグリーン。“魅せるリビング”として重要なアイテムとなっていたバルコニー前に置かれた数々のグリーン。“魅せるリビング”として重要なアイテムとなっていた

ご主人の生活にも変化があった。

南向きのリビング。バルコニーにでる掃き出し窓の前に複数の観葉植物が並んでいる。その調達とディスプレイ、共にご主人が行っている。引越しまでは観葉植物を愛でる趣味など無かったらしいが、この場所に飾りたい、ということで懲りだしたらしい。はじめは一つしかなかったのが、自身で追加で購入したり知人から分けて頂いたりで、今では大小取り混ぜ二桁に近い数の観葉植物が並べられている。冬の間は夜間に窓際へ置いておくのは植物にとって良くないらしく、窓から離して室内に退避させるのだが「夜の移動は私がやらされています」とAさん。今までになかった余分な仕事が課せられるようになり面倒だと語るものの、Aさんの口調を聞いているとまんざら嫌でもないように聞こえた。

玄関の靴箱、リビングの収納ユニットはご主人が自作された。玄関の靴箱は、以前の住まいで使っていたものにペンキを塗ってご主人がカラーリングし直して再利用している。上に置かれているアンティーク調の木枠付の卓上鏡はご主人が複数の雑貨屋等を足で回って苦労の末見つけた品だ。リビングの収納ユニットは、IKEAで購入した品物をベースに開き扉をつけたり移動させやすいようにキャスターをつけたりしハンドメイドしたオリジナルの家具だ。いずれも平日の夜や休日の時間を割いて作成した。それ以外にも、小物雑貨を揃えたり、カーテンを選んだりと、インテリアコーディネーター顔負けの作業をこなしている。今も、カーテンを新しい物に変えたい、カーペットを新調したい等いろいろな考えを持っているそうだが、まずはこの春小学校入学を控えているお兄ちゃんの為の勉強スペース確保が第一優先。子供部屋を模様替えするのか、あえて勉強机を買わずにリビングで学習できる環境にするのか、ご主人の楽しい悩みは春まで続く事になる。

リノベーションの持つパワー

青い壁の向こう側は子供部屋。多感な時期をリノベーション済住戸で過ごす子供たち、将来その話を聞いてみたい青い壁の向こう側は子供部屋。多感な時期をリノベーション済住戸で過ごす子供たち、将来その話を聞いてみたい

約1時間半程の間、リノベーション住戸に住んで引越し前と何が変わったかをAさんに聞いた。Aさんからでてくる話の大半は、家族や個人の生活が変わった事であった。「××が使いやすくなった」「××が楽になった」等の機能的なことではなかった。

引越し前のAさん宅は、外出する事が多かったらしい。家の中は快適ではない、片付けて人を呼ぶのも面倒だから、「主人が子供を連れて公園等に行く機会が多かった」。今は「外出する日も、出発は午後にして、午前中は家でゆったりと過ごす事が多い」らしい。引越す前迄は食事の際にダイニングテーブルに直接おいていた食器類、今では「お気に入りのランチョンマットをおくようにしています」との変わり様。リノベーション住戸に住むようになって家の中で過ごす時間がとても楽しいと感じられるようになったわけだ。

Aさん家族は、引越そうと思ったエリアに偶然リノベーション住戸があり、そこに住むことになった。そして1年が経ち、生活スタイルも変わった。Aさんは今、この住まいを選んだことにとても満足している。そんな幸せそうに暮らすAさんをみて、「引越す時はそのままそこに住ませて!」と言う友人もいるそうだ(URの募集ルール上できません、あしからず)。Aさん、ここにはどのくらいの期間お住まいになるつもりですか? 「下の娘が小学校を卒業する迄、後10年程が一つの目処です」「その後は(近所にある)主人の実家に移ると思います。それまでの間、賃貸生活を楽しむという感じです」。自分でリノベーションをしようとすると数百万円のコストがかかり、なにより持ち家を手当てする必要がある。その点、賃貸住宅であれば、住まい心地が悪ければ引越せば良い。住宅購入+リノベーションに比べるとコスト負担は圧倒的に少なくて済む。ライフスタイルを変える力を持つリノベーション。賃貸市場にもっと増えても良いのではないか。Aさんのような体験をできた方が増えれば、その影響力でマーケットは加速度的に広まるように感じた。

九州にお住いのAさんのお父様、ここに引越してからすでに3度遊びに来ているらしい。以前は実の娘の住まいを「ここは(住環境が)よくない」と評したのが、今回のお部屋では「ここは、違うわ!」と絶賛。3度来たうち2度はお母様抜きで一人で遊びに来たらしい。「京都に遊びに行く時のホテル代わりです」と笑いながら話すAさん。本当に幸せそうな笑顔であった。

住宅のリノベーションは、単なる「改装」ではない。人を動かし幸せにする潜在的な力を持っている。そんな風に思えた今回の取材だった。

洛西NT団地リノベーションプロジェクト 京都女子大学×UR:http://www.ur-net.go.jp/kansai/kyojo/project.html

2015年 03月10日 11時22分