トライアルステイの利用者はどんな方?

前回、三浦市で昨年から行われている「トライアルステイ」の取り組みを紹介したが、今年も9月17日~10月16日に第1期が実施された。各地で短期から長期までさまざまに行われているトライアルステイだが、ここ三浦市では2週間~1ヵ月と参加しやすい期間の設定で実施されている。

昨年は2週間のみのトライアルだったが「少し短い」という利用者の声を受けて、今年は1ヵ月のプランも新設された。第1期はその1ヵ月のお試しプランとなる。果たしてどのような方が利用し、トライアルステイではどんなことをポイントに、移住の是非を探っているのだろうか?

今回は、第1期のトライアルステイ2週間目となる吉山さんファミリーに、その活用ポイントや実際に制度を利用してみての感想をうかがってきた。

今回取材させていただいた吉山さんファミリー。現在は横浜在住。三浦市に移住を検討中で
1ヵ月間のトライアルステイに参加
今回取材させていただいた吉山さんファミリー。現在は横浜在住。三浦市に移住を検討中で 1ヵ月間のトライアルステイに参加

遠くの実家よりも、近くの田舎!?

三浦は、海も近く緑も多い。子育てにはうれしい自然環境だ三浦は、海も近く緑も多い。子育てにはうれしい自然環境だ

取材を引き受けていただいた吉山昌輝さんファミリーがステイをされているのは「三浦市初声町和田」。三浦半島の西側、三崎口駅から京急バスに乗り10分ほどで到着するエリアだ。住宅街ではあるが長浜海水浴場も近く、森林や果物農園も点在するのんびりとした景観を楽しめる。

現在、吉山さん御一家は横浜に在住。もうすぐ2歳になる娘さんが生まれてからは、自然豊かな場所で子育てがしたいと移住を検討してきたという。今回は奥様の恵子さん、娘さんのみどりちゃんの3人でこの場所にお試し移住をしている。

移住先としてなぜ三浦市を候補地にされているのか? 横浜市内の職場に勤める吉山さんご夫婦は、職場を変えることなく通勤できるエリアが大前提だったという。恵子さんは東京出身で田舎と呼べる場所はない。昌輝さんご自身は実は島根の離島に実家があるというが、Uターンをするにはハードルが高いと考えている。

「僕の実家は島根の離島で海も山も自然は豊かです。ただ、離島というのは生活の不便さも際立ってしまいます。人口3000人の小さな島なのでコンビニもない状態。大きな買い物や病院に行くには船で本土に渡らなければなりません。輸送も船に頼るので物価も高めです。子育てや収入を考えるとなかなか厳しいものがあります。今住んでいる横浜よりは自然環境は豊かであってほしいけれど、ある程度利便性も必要。職場への通勤も考えた結果が三浦でした」(昌輝さん)

逗子や横須賀なども候補として考えたというが、自然の多い場所に移るには自然災害にも気を配らなければならない。ハザードマップを確認しながら津波やがけ崩れの危険性が少ない地域も加味していくと、さまざまな条件に一番合致したのは三浦市のあるエリアだった。それからは、生活環境や子育て環境などを調べ、不動産会社にも足を運んだという。

「しかし、ネットでいくら詳細を調べてみても、休日に町を訪れてみても、その町の空気感は分かりません。そこで移住体験ができないかとトライアルステイを探していたのです」(昌輝さん)

トライアルステイで確かめたいポイントとは?

そんな頃にこの制度の情報を目にした昌輝さんはすぐに応募「運よく今回のトライアルステイに参加ができた」というのだが、お子さんが小さいうえに共働きという状況では、1カ月のトライアルステイに踏み切ることすら難しかったのではないだろうか。

「実は横浜では娘は待機児童になってしまい、現在も保育園に通えていない状況です。二人とも同じ会社で介護の仕事をしているので、昼夜とシフトをずらしながら家庭内保育をしています。そんなこともあって、トライアルステイにも躊躇せずに申し込むことができました。私たちが移住エリアとして考えている三浦市の地域では待機児童がいないことも移住地としての魅力の1つでした」(昌輝さん)

具体的に移住計画を進める吉山さんファミリーだけに、このトライアルステイで確かめたいポイントも多くあったという。まずは、通勤が苦痛にならないか。子育て環境として自然が多いことは分かっていたが保育所などは整備されているか。買い物など日常生活の利便性はどのくらい都市部の生活と変わってくるのか。などなどだ。

「実は私は虫が苦手なので、自然が多くなるとどの程度虫の影響もあるのか。そんなリアルな点も気になってました」(恵子さん)

吉山さんご家族は、移住の希望エリアがかなり絞られていたため、場所を重視してこのエリアにトライアルステイを行っている。そのため、ステイの物件はかなり築年数の古い木造住宅。正直古民家というおしゃれさはなく、昭和の古さを感じる物件。それだけに虫の発生状況などもリアルに感じられたという。

「横浜のマンションでは、室内では見ることのなかったナメクジと遭遇したり、庭の草も多いので今の時期虫よけスプレーも手放せません。ただ、築年数が古い物件でこの程度なら大丈夫かなという気にもなりました(笑)」(恵子さん)

吉山さんのトライアルステイ物件は、2DKの築年数の経った物件。物件よりも立地場所を優先してこの物件での参加を決めた。今回は洗濯機と冷蔵庫は備え付けられていたが、そのほかは利用者が準備した吉山さんのトライアルステイ物件は、2DKの築年数の経った物件。物件よりも立地場所を優先してこの物件での参加を決めた。今回は洗濯機と冷蔵庫は備え付けられていたが、そのほかは利用者が準備した

通勤は快適、物価はちょっと高め?

海のある暮らしは心を豊かにする海のある暮らしは心を豊かにする

そのほか一番気にしていた通勤の面では、最寄り駅となる「三崎口」は始発駅。楽に座れるため現在の横浜の自宅から職場に通う時間とさほど差はなく、電車が混まない分通勤は楽だという。

子育て環境も「子育て支援センター」に足を運び、移住した後の保育所の確保にも安心感を持てた。子供の成長とともに、小・中学校、そして高校まではエリアに選択肢があることを確認できた。

「ただ、この辺りでは小学校でスクールバスが走っていないため、どのように通学しているのか。そういった点もトライアルステイ中に確認したいと思っています」(昌輝さん)

意外だったのは、野菜や魚などの生鮮品が横浜の安売りスーパーなどと比べると少し高めなこと。ただし、鮮度は間違いなく新鮮。ちょっとした物価の違いは、住んでしまえば慣れていける範囲と判断しているという。

「私自身は、移住先に海がなくてもよいと思っていたのですが、実際に生活してみると海が近くにある環境というのはやはり魅力的でした。子供も喜びますし、それだけで生活が豊かに感じられます」(恵子さん)

「僕自身マグロは別に好きでもなかったんですが、今回のトライアルステイの最初に市内バスツアーが開催されて、そこでマグロを食べたらやっぱり美味しい。小さなことですがやっぱり現地に住んでみるといろんなことが感じられます」(昌輝さん)

移住への背中を押してくれる「トライアルステイ」

写真は交流会の様子。三浦のまぐろを食べながら、トライアルステイ参加者が地元の方々と情報交換ができる
写真は交流会の様子。三浦のまぐろを食べながら、トライアルステイ参加者が地元の方々と情報交換ができる

三浦市のトライアルステイでは、初めに市内紹介のバスツアーと地元の方や先に移住をされた方との交流会が行われる。こうした交流会も三浦の雰囲気を肌で感じるには役立ったという。

「交流会では、先に移住をされた先輩方とお会いし、こまごまとした生活のポイントなどを伺いました。でも一番大きかったのは具体的な情報もさることながら、みなさんがここでの生活を楽しまれていること。その充実感を感じさせてもらえたことが、何よりも安心感につながりました」(恵子さん)

実は期間中、有志による親睦会としてバーベキュー大会なども予定されていたのだが、残念ながら台風の影響でこれは中止となってしまった。そんなこともあり吉山さんには「もう少し交流会などが活発になれば……」との思いは残る。ただし、こうして実際にこの場に1ヵ月滞在できたことは移住への決心をさらに固めたものだったという。

「トライアルステイの制度は、私たちにとって確実に背中を押してくれるものでした。もちろん全部を知ることはできませんが、頭で考えているだけでは見えないものが見えてきます。楽しいだけでなく、生活でちょっと不便な点や気がかりな点というのも見えたからこそ、逆にこれくらいなら生活できるという思いにつながりました」(昌輝さん)

移住にはメリットだけでなく、そこには必ずデメリットも存在する。ただ移住者にとって一番不安なことはそのことが見えないこと。トライアルステイは一部であってもそうしたメリット、デメリットを実際に感じさせてくれる。

今回のトライアルステイでの経験は、吉山さんにとって「さらにもう一歩、地に足をつけさせてくれた」という。すでにある程度移住先の物件も絞りこんでいるという吉山さん。トライアルステイで実感を得て、今後は物件の契約に踏み切っていきたいとしている。

2016年 10月17日 11時05分