大洗の最大の魅力は、「おじちゃん、おばちゃん」の人間力

大洗町の商店街。ミニイベント開催中は多くのガルパン・ファンでにぎわう大洗町の商店街。ミニイベント開催中は多くのガルパン・ファンでにぎわう

人気アニメ『ガールズ&パンツァー』(通称『ガルパン』)の舞台として、アニメ聖地巡礼のメッカとなった茨城県大洗町。前回は、大洗町がガルパンでまちおこしを始めた経緯と、その取り組みについてレポートした。アニメ放映の開始から4年近くが経過した今も、大洗町はファンを魅了し、多くのリピーターを生み出している。その理由とは一体何なのか。大洗町役場商工観光課の平沼健一氏は語る。

「あるファンの方が、『大洗は私たちにとってのテーマパークです』と言うのを聞いて、ビックリしたことがあります。自分の好きな作品に登場する風景が実在していて、そこに来ると自分の好きなアニメの世界に入り込める。テーマパークのように何度も来たくなる場所だ、とおっしゃるんですね」

大洗町では、リピーターを飽きさせないよう、1年を通じてさまざまなイベントが開催される。春と秋の祭に合わせてガルパン・コラボのイベントを開催。また、四季折々にスタンプラリーを企画したり、商店街でキャラクターの誕生会や謎解きゲームを催したりと、何度でも町に足を運びたくなるような工夫がされている。
だが、ここでは、イベントはあくまでも交流のきっかけ作りにすぎない。大洗町の最大の魅力は「おじちゃん、おばちゃん」にあると捉え、その軸をけっして見失わないところに、大洗のまちづくりの真骨頂がある。

「今はコンビニやスーパーがあって、人と会話しなくても生活が成り立つ世界ですよね。でも、それでは物足りないと感じている人が多い。商店街の強みってコミュニケーション力だと思うんです。大洗に来るファンの方たちは、親戚の家に遊びに行く感覚で、店主に会いに来る人が多いんですね。大洗に来ると実家のようにホッとできて、リフレッシュして帰ることができる。それでいて、海の幸や季節ごとの観光も楽しめる。それが、リピーターになった理由だと聞きますね」(平沼氏)

プロジェクト成功の理由は、「行政主導ではなかったこと」

大洗町役場・商工観光課の平沼健一氏大洗町役場・商工観光課の平沼健一氏

では、大洗のアニメによるまちおこしはなぜ成功したのか。その理由として、平沼氏は「行政主導ではなく、商工会が中心となって動いたこと」を挙げる。

「こうした取り組みを行政主導で行うと、失敗するケースが多いんですね。行政は縛りが多いので、『ロケハンでここを撮影したい』と言われても、公平性の問題などがネックになってなかなか進まない。その点、商工会のほうが柔軟に動けるし、人脈という点でも横のつながりがある。その意味では、商工会が中心となって動いたことがプラスに働いたのではないかと思います」

行政主導のまちおこしでは、箱モノやイベントに予算を投じ、入館者や参加者の数を集計して経済効果を算出するという手法に走りがちだ。だが、それでは、ファンの琴線にふれる交流は生まれにくい。商店主の集合体である商工会が主導的な役割を務めたからこそ、地に足の着いたアイデアが生まれ、人肌の温みを持ったファンとの交流が可能になった。
もう1つの成功要因は、具体的な物事の進め方にある。ガルパン・コラボのキーマンである常盤良彦氏は、商工会の有志が少人数でトライアルを繰り返しながら、慎重に取り組みを進めてきたことが成功につながった、と語る。

「最初から大風呂敷を広げないのが、僕らのやり方なんです。最初は少人数でコソコソ進めながら足固めをし、リスクヘッジをしながら、回収できる見込みが立ったところで皆を巻き込んでいく。そのためには、有志が手弁当で結果を出していくしかない。手弁当でやりながら、『悪いけど3000円出してくれませんか』と言えば、皆、喜んで出してくれます。結果を出すまでは扉を閉めておいて、少しずつ門戸を広げていった。それが成功した理由だと思います」

ツール内製化でコストを切り詰め、缶バッジで原資を稼ぐ

ガルパンの缶バッジ。商店街で商品を購入するとオマケで付いてくるガルパンの缶バッジ。商店街で商品を購入するとオマケで付いてくる

だが、手弁当で結果を出すためには、徹底的にコストを切り詰めなければならない。商工会では、キャラクターの等身大パネルや幟、スタンプラリーなどの制作も一切外注せず、企画デザインから印刷までを内製化。大洗鹿島線の車両ラッピングも、有志とボランティアが手作業で行った。その手作り感が大洗らしいとガルパン・ファンを喜ばせ、大洗を応援する人の輪がますます広がるという相乗効果も生まれた。

とはいえ、手弁当の活動では、いずれ限界が来ることは目に見えている。長期的にガルパン・コラボを続けるためには原資作りが必要だ。そこで作戦本部が目をつけたのが、震災復興プロジェクトの一環として販売していた「缶バッジ」だった。

「当時、震災復興の缶バッジを売って、売上の一部を復興資金に当てていた。その缶バッジをガルパンにコラボさせてもらうことにしたんです。商工会で作った缶バッジを1個40円で商店街の人たちに買ってもらい、店の商品のオマケとして付けるというシステムを作ったわけです」(常盤氏)

たとえば、店で300円の唐揚げを買うと、ガルパン缶バッジのオマケが1個ついてくる。何度も通えば、そのたびに違うデザインの缶バッジがもらえる。この缶バッジ作戦はファンのコレクター心理を刺激し、リピーター化への呼び水となった。これまでに300種類以上の缶バッジが作られ、累計販売個数は30万個以上。利益は1個当たり約5円とわずかだが、イベントや集客に必要なツールはほぼ内製化しているので、商店街のミニイベントのために遣ってもたっぷりお釣りが出る。
この仕組みを確立したことが、ガルパン・コラボを続ける上で大きな助けとなったことはいうまでもない。

大洗の魅力に惚れ込み、移住者が続出

大洗のガルパン人気は、思わぬ波及効果をもたらしている。聖地巡礼を機に、大洗町に移住する人が続出したのだ。これまでに移住したガルパン・ファンは約20名。その多くが独身男性で、30代~50代が中心だ。
とはいえ、ガルパンが好きという理由だけで、職を投げ打ってまで移住するとは思えない。彼らを大洗移住へと駆り立てたものとは何だったのか。

ある40代のAさんは、東京で20年近く勤めた会社を辞め、大洗町に移住した。
「大洗に来てみたら、町のおじちゃん、おばちゃんが面白くて、食べ歩きもできるのですっかり気に入ってしまった」というAさん。親しくなった商工会の人にイベントの手伝いを頼まれたのがきっかけで、大洗への移住を真剣に考えるようになり、ついに大洗の会社に転職してしまったという。

都会での暮らしに疲れ、大洗で落ち着いた生活をしたくなった。大洗が好きになって毎週通ううちに、思い切って引っ越してしまった――移住の動機はさまざまだが、ガルパンが好きで大洗に通ううちに、大洗の魅力に惚れ込んでしまったという点は共通している。
大洗の何が、ガルパン・ファンをそれほどまでに惹きつけるのだろうか。

「それはやはり、住みやすさでしょうね。大洗は夏涼しく冬暖かく、観光スポットも豊富で、小さな町なりにいろんなものが揃っている。町のおじちゃん、おばちゃんも恥ずかしがり屋だけど、人間味があって温かい。そんな大洗とファンを、ガルパンがつないでくれた。ガルパンという共通言語を持ったことで、ファンの方たちが大洗の魅力を発見してくれたんです」(常盤氏)

商店街の店先に置かれた等身大パネルを媒介として、ファンと店主の間に交流が生まれる商店街の店先に置かれた等身大パネルを媒介として、ファンと店主の間に交流が生まれる

次なるコンセプトは、「男が駄々をこねても帰りたくない町」

大洗町での取り組みは高く評価され、2013年、観光庁主催「今しかできない旅がある」で観光庁長官奨励賞を受賞。2014年には「茨城イメージアップ大賞」大賞を受賞し、2015年には経産省「がんばる商店街30選」にも選出された。

「ガルパンがきっかけで、商店街の人たちが本当に明るくなったんです。皆さん、『ファンの方々と会話して元気をもらった』『商売にハリが出てきた』とおっしゃるんですね。『ガルパンがなかったら店を畳んでいた』『自分の代で終わりにするつもりだったけど、息子が後を継いでくれることになった』と、うれしそうに話してくれる人もいて。ガルパンは本当に地元に元気をくれたと思います」(平沼氏)

とはいえ、コンテンツ頼りでは、いずれブームが去ることは目に見えている。次なる一手をどう考えているのか。
「僕らは、ガルパンという木の葉を森の中に隠したいんです。ガルパン以外の要素(木の葉)が増えていけば、ガルパンという木の葉は森に埋もれつつも、1つの文化として残っていく。その意味で、今後はホビーというジャンルにこだわっていきたい。コンセプトは、『男が駄々をこねても帰りたくない町』。それを核にいろいろなことを企画中です」(常盤氏)

上野東京ラインが開通し、茨城と東京との距離は縮まった。北関東自動車道や圏央道のインフラ整備も進み、今や大洗町は旅番組やグルメ番組で引っ張りだこだ。「こうした地の利を活かし、ガルパン後を見据えたプロモーションに力を入れていきたい」と平沼氏も抱負を語る。

震災で疲弊した大洗の商店街は、ガルパンとのコラボにより息を吹き返した。商店街の魅力は人肌の温もりにあり、そのポテンシャルを引き出せるかどうかは、心の交流を生み出す仕掛け作りにかかっている。都市から失われた人と人とのつながりを、どうすれば紡ぎ直すことができるのか。大洗町とガルパン・ファンの蜜月は、私たちに多くのことを示唆してくれる。

大洗マリンタワーにある”ガルパン喫茶”。街歩きを楽しむファンの憩いの場だ大洗マリンタワーにある”ガルパン喫茶”。街歩きを楽しむファンの憩いの場だ

2016年 09月16日 11時06分