「映画×まち」をテーマにしたシンポジウムが開催

岡崎シビコで開催されたシンポジウムの様子。写真左から映画やアニメでのシティプロモーションに尽力する豊田市の清水雅行さん、西尾市の下村秀樹さん、豊橋市の鈴木惠子さん岡崎シビコで開催されたシンポジウムの様子。写真左から映画やアニメでのシティプロモーションに尽力する豊田市の清水雅行さん、西尾市の下村秀樹さん、豊橋市の鈴木惠子さん

最近、映画でまちおこしという話をよく耳にする。フィルムコミッション(以下FC)を作り、ロケを積極的に誘致することでまちおこしをしている地域が増えてきているらしい。FCとは、映画やドラマなどのロケを誘致したり撮影協力、エキストラの手配など映像制作の支援を行う非営利団体組織のことだ。
全国各地のFCの活動を支援する特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッションのホームページによると、2017年4月現在で同団体に加盟しているFCの数は116にのぼる。地方でのFCは、非加盟も含め増え続けているという。

また、2005年3月に公表された国土交通省、経済産業省、文化庁による「映像等コンテンツの制作・活用による地域振興のあり方に関する調査」(※)内では
「地域振興の観点からは、映画等のロケーションの誘致による直接的な経済効果だけでなく、映画、漫画、アニメーションなどの舞台への観光客の誘致による経済効果も大きいことから、両方の観点から施策に取り組んでいく必要がある。」
とし、10年以上前から地域再生への産業分野としても映画などの映像コンテンツは重視されてきた。

愛知県岡崎市でも、この春FCが立ち上がることになり、これに先駆けてさる2017年3月25日「映画×まち」をテーマにしたシンポジウムが開催された。FCの活動がまちづくりにどのように関わるのか、その結果まちがどのように変化するのかを考えるものとなった。

※国土交通省総合政策局観光地域振興課、経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課、文化庁文化部芸術文化課の三省庁が連携した調査。(平成17年3月公表)

園子温監督作品に何度も登場! ロケ誘致に成功した豊橋市

「岡崎市アートコミュニティプロジェクト事業」の一環として開催されたこのシンポジウム。
パネリストは、

●豊橋観光コンベンション協会・事業推進部次長であり、愛知県東三河エリアのFC「ほの国東三河ロケ応援団」を立ち上げ、団長としてテレビ・映画のロケ誘致に力を注ぐ鈴木惠子さん。

●豊田市役所職員を経て映画制作団体M.I.Fを設立、現在豊田市で製作中の映画「星めぐりの町」の支援活動を行う「豊田星プロ」代表の清水雅人さん。

●三河地域を中心に、アニメや漫画に関わる地域活性化事業や、愛知県主催の「あいちポップカルチャーフェスティバル2017」の企画制作なども手掛ける株式会社N.P.C.ent代表取締役下村秀樹さん。

のお三方。司会進行役は、岡崎市内の現代美術ギャラリーのオーナーであり、「あいちトリエンナーレ」や同市のアートプロジェクトに携わる鈴木正義さんで行われた。

すでに豊橋市では2008年に愛知県東三河広域観光協議会の事業のひとつとして「ほの国東三河ロケ応援団」が立ち上がっており、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』『みんな!エスパーだよ』『リーダーズ』『ルーズヴェルト・ゲーム』『少女』『新宿スワンⅡ』など、「え?これも豊橋で?」と驚いてしまうほど豪華な作品の舞台となっている。豊橋市は映画以外でも情報番組などを合わせると年間20~30本の誘致に成功しているという。

特に奇才として知られる園子温(豊川市出身)監督は豊橋市をお気に入りのロケ地として、何度も撮影に訪れているそう。
「深夜の銃撃戦のシーンで繁華街のお店の窓ガラスがバリバリに割れることを前提としてのロケもありました。オープンしたてのお店でさえ撮影をOKしてくれたんですね。夜中の大きな音を出すことも市民の理解と協力があってできました」と鈴木(惠)さん。さらに『新宿スワンⅡ』の撮影では、駅近の繁華街を3日間休業させての夜通しの撮影もあったという。商店を休業するというのはかなりクレームがきそうなものだが「逆に"ありがとう"と言われることのほうが多いんです」と鈴木(惠)さんは言う。

ドラマ『ルーズヴェルト・ゲーム』のロケでは、延べ5000人のエキストラを球場に集めて野球観戦の撮影が行われたが、エキストラとして参加した地元の人たちが撮影スタッフに毎回差し入れを持ってくるようになったとか。
「豊橋でロケをしてくれてありがとう」という気持ちだと鈴木(惠)さんは言う。山のようになった差し入れを見て監督・スタッフも「こんなに差し入れが多い地域はない」と大喜びだったそうだ。
このような話を聞く限り、豊橋市ではまちをあげて撮影スタッフを歓迎するという空気がすでにできているようだ。

「ロケという非日常の楽しみを地元の方にどれだけ味わっていただけるか。ロケ隊に満足していただくだけではなく、まちの人にも喜んでもらえる場をできるだけたくさん作っていきたい」と鈴木(惠)さん。写真上:ドラマ『ルーズヴェルトゲーム』のロケでは野球場のスタンドに毎回大勢の市民エキストラが集まった。写真下:映画『新宿スワンⅡ』では商店街を休業して乱闘シーンの撮影も行われた。写真提供/ほの国東三河ロケ応援団「ロケという非日常の楽しみを地元の方にどれだけ味わっていただけるか。ロケ隊に満足していただくだけではなく、まちの人にも喜んでもらえる場をできるだけたくさん作っていきたい」と鈴木(惠)さん。写真上:ドラマ『ルーズヴェルトゲーム』のロケでは野球場のスタンドに毎回大勢の市民エキストラが集まった。写真下:映画『新宿スワンⅡ』では商店街を休業して乱闘シーンの撮影も行われた。写真提供/ほの国東三河ロケ応援団

豊田市では市内を舞台にした映画撮影がスタート

豊田市が行った『星めぐりの町』製作発表会では、主演の小林稔侍さん(写真左から二人目)、黒土監督(左から三人目)が登壇。清水さんら「M.I.F」のほか「とよたフィルムコミッション」「映画を活かしたまちづくり実行委員会」「三河映画ザ・フィルムズコミューン」が協力し撮影支援を行っている。写真提供/豊田市豊田市が行った『星めぐりの町』製作発表会では、主演の小林稔侍さん(写真左から二人目)、黒土監督(左から三人目)が登壇。清水さんら「M.I.F」のほか「とよたフィルムコミッション」「映画を活かしたまちづくり実行委員会」「三河映画ザ・フィルムズコミューン」が協力し撮影支援を行っている。写真提供/豊田市

豊田市では清水さんが中心となって、2007年より西三河地域で活動する自主映画製作団体を統合したM.I.F.(Mikawa Independent movie Factory)を設立(※)し、豊田市を舞台にした自主映画を製作し、自主映画を集めた映画祭「小坂本町一丁目映画祭」を開催するなど、地元に根差した映画を作り続けてきた。

映画祭を開催してきたことで、「まちの人の映画への興味は高まった」としながらも「地域振興というところまではなかなかまだ難しい」と、清水さんは話す。

「いい映画を作って観光に来てもらうことは重要だと思います。ただそれをメインに考えるというのは、少し違うかなと。結局のところ、大切なのは市民の心の豊かさなんじゃないでしょうか。生活水準が高いとかそういうことではなく、"このまち楽しい"とか“いいまちだな”と思う感覚っていうんでしょうか。まちに対する誇りをみんながもてるということを大切にしていくべきだと思います」とも話していた。

また、豊田市では2017年4月まで、同市を舞台とする映画『星めぐりの町』(黒土三男監督、小林稔侍、高島礼子主演)の製作が行われており、清水さんが代表を務める「映画『星めぐりの町』を実現する会」が中心となって、市民からエキストラを募ったり、撮影見学会を開催するなど、まちぐるみで映画づくりを楽しむムードが高まっている。
豊田市駅前通りの再開発事業で今秋には市内初のシネコンが駅前に完成予定。そのスクリーンに映し出されるのが自分たちのまちの映画となれば感慨もひとしおだろう。


※2016年3月に発展的解散。現在は映画人材の交流・育成は、行政とも連携した映画を活かしたまちづくり事業「映画街、映画人、とよた」に引き継がれている。

シティプロモーションの新しいツールとして注目を集める漫画やアニメ

一方、漫画やアニメといったツールで地域活性を行っている下村さんは、最近ではアニメが行政からも注目されていると話す。
下村さんが手掛けた愛知県西尾市のシティプロモーション漫画『ニシオノ』は、インターネットで無料公開しており10~20代の若者を中心に話題に。書籍化もされており現在は第三期に入る人気ぶりなのだそう。
愛知県刈谷市観光協会の市制65周年記念事業としてショートアニメ『ひかり ~刈谷をつなぐ物語~』も制作。これまでに市が制作したプロモーション動画のPVが通常500~1000PVに対し、2万5000PVを記録したという。どちらの作品も実在の高校や、神社、史跡などリアルな映像と全国区で名のある声優を起用することで、TwitterなどSNSでの拡散を狙うというのが若者をターゲットにした活性化の"仕掛け"だと下村さんは話す。

「東京集中型で制作されているアニメですが、地方での制作も少しずつ始まっています。地元にある製品とコラボしたり、大ヒットとなった『君の名は。』や『この世界の片隅に』など、地方を舞台にしたアニメのおかげで聖地巡礼に来る若者でまちがにぎわったり、そういう効果はおおいに期待できますよね」。
さらに、
「アニメは日本だけでなく海外にも広く発信できるツールです。今アニメイベントには中国系だけでなくアラブ系の人たちも多く来場しています」と下村さん。

アニメの聖地巡礼やコミックマーケット、世界コスプレサミットなど、世界から注目される日本のアニメや漫画。官公庁も「日本のアニメを活用した国際観光交流等の拡大による地域活性化調査」や「映像等コンテンツの制作・活用による地域振興のあり方に関する調査報告書」など、アニメや漫画を新たな観光資源とした調査を公表しており、海外の観光客への訴求もできるコンテンツとして、アニメの注目度は増している。

西尾市のシティープロモーション事業として制作された漫画『ニシオノ』は、市内に住む高校生を主人公にした青春ファンタジー。60万人以上のフォロワーをもつ声優を起用したことによりSNSで一気に拡散。話題となった。Ⓒ西尾市新文化創造制作委員会西尾市のシティープロモーション事業として制作された漫画『ニシオノ』は、市内に住む高校生を主人公にした青春ファンタジー。60万人以上のフォロワーをもつ声優を起用したことによりSNSで一気に拡散。話題となった。Ⓒ西尾市新文化創造制作委員会

映画はそのまちのプライドとなる

すでに東海地方ローカル局のドラマのロケやNHK連続テレビ小説「純情きらり」の舞台にもなった岡崎市。放送後には舞台となった八丁味噌蔵(写真)や六所神社に多くの観光客が訪れたそう。映画は観光客誘致のツールとしてもおおいに期待が寄せられている。写真提供/岡崎フィルムコミッションすでに東海地方ローカル局のドラマのロケやNHK連続テレビ小説「純情きらり」の舞台にもなった岡崎市。放送後には舞台となった八丁味噌蔵(写真)や六所神社に多くの観光客が訪れたそう。映画は観光客誘致のツールとしてもおおいに期待が寄せられている。写真提供/岡崎フィルムコミッション

映画やアニメが放映されると、それによって観光客が増えると期待する声もある一方で、今回司会を務めた鈴木正義さんは
「映画に限らずアートや音楽でも外から人を呼ぶことを目的としてしまうとダメだと思いますね。大切なのは、そのイベントが終わった後、そのまちに何が残るのかだと思います」と話す。

そのまちに何が残るのか―。
その答えとして「お金では買えない"市民のプライド"ではないでしょうか」と、鈴木(惠)さん。
最初は、俳優見たさにエキストラに参加していた人も回を重ねるごとに成長し「豊橋で撮影するのならいいものにしたい」と意欲を見せるようになったという。ロケを何度も経験するうちに、先述の清水さんのコメントのように「まちに対する誇り」が、貯蓄されていくのかもしれない。

今春立ち上がったばかりの岡崎FC。2017年3月1日にエキストラ募集を告知したところ一ヶ月ですでに120人の登録があったというから、市民の関心は高いといえよう。
映画やアニメなど映像コンテンツがどこまで地域再生に貢献できるのかは未知数。舞台となったまちに"誇り"をもたらす、まちが活気づくという点では大きく貢献してくれるのは間違いなさそうだ。


【取材協力】
岡崎アートコミュニティプロジェクト
http://www.city.okazaki.lg.jp/300/303/p019247.html

岡崎フィルムコミッション
https://fc.okazaki-kanko.jp/

ほの国東三河ロケ応援団
http://www.honokuni.or.jp/ouen/

映画「星めぐりの町」応援サイト
http://hoshimegurinomachi.jp/

愛知県西尾市シティプロモーション事業 漫画『ニシオノ弐』公式サイト
http://www.nishiono.com/

2017年 04月25日 11時06分