鏡餅とは

お正月飾りの中で、もっとも一般的なもののひとつが鏡餅。お正月には、多くの家庭で飾られているのではなかろうか。鏡餅は一年を守護する歳神様への供物とされ、「苦しむ」につながる29日と「一夜飾り」になる31日を避けて、28日か30日に飾るのが一般的だ。そして松の内が終われば、鏡開きといって餅を割り、お雑煮やおかゆに入れて食べるご家庭が多い。ちなみに鏡開きの際は包丁を使うと切腹を連想させるので、木槌などを使う。

現代では餅搗き機で簡単に餅を搗けるが、それほどの量は必要ないからとお店で購入するご家庭も多いだろう。自宅で搗いた餅の方が、縁起が良いような気もするが、実は江戸時代ごろから餅を外注する風習は始まっており、餅つき道具をもって周る餅つき業者もいたらしいから、それほどこだわる必要はなさそうだ。
飾り方は、三宝の上に半紙を敷き、羊歯の一種である裏白を白い側を上にして置き、その上に大小の丸い餅を重ね、ダイダイを上に載せるのが基本。串柿や昆布などを使うこともあるが、飾り方は地域によって違うので、正しい飾り方が決まっているわけではない。

串柿の柿は「嘉来」に通じ、「喜びが来る」ことを意味する縁起の良い果物と考えられている。串には8個刺さっており、2・8・2の組になっているのは、「外はニコ(二個)ニコ、仲睦(中6つ)まじく」のごろ合わせ。昆布は「よろこぶ」のごろ合わせだ。裏白は左右一対になっているため、夫婦が共に白髪になるまで長生きできるという意味がある。
また鏡餅は、鏡・刀・玉の三種の神器を表象しているとも言われ、餅は鏡、串柿は刀、橙は玉を表しているとされる。

鏡餅を飾る場所は床の間がふさわしいが、日本間のないお宅なら、玄関やリビングの、目線より少し高い場所に置くと良いだろう。

鏡餅は歳神様への供物の意味がある鏡餅は歳神様への供物の意味がある

日本人と餅

中国では、「餅」と言えば小麦粉などの粉を加工したお菓子のことを意味する。「月餅」はその代表だろう。
しかし日本の餅は、もち米を蒸して臼と杵でついた「搗き餅」を指すのが一般的だ。そして「搗き餅」と同じぐらい食べられているのが「練り餅」だろう。米や穀物を粉にしてから水などで練り、蒸したり茹でたりして加熱したもので、団子や求肥がこれに当たる。

日本人は古来、搗き餅をハレの食べ物としてきた。粘りがあって加工しやすく、保存しやすいのも理由の一つだろうが、稲に魂が宿るという日本人独特の感覚ゆえかもしれない。
餅を稲霊とする例として、山城国風土記逸文や豊後国風土記逸文に残る「餅の的」の物語が知られている。田畑を豊富に持つ富豪が餅で的を作って弓矢で射かけたところ、餅は白い鳥となって飛んでいき、富豪は落ちぶれてしまったという。山城国風土記逸文では、富豪の名を秦伊呂具(はたのいろぐ)としており、白い鳥は稲荷山に至り、そこに稲が生えたと説明している。これが伏見稲荷の由来だと説くのだ。そしてその後伊呂具の子孫が白い鳥の降りた場所を見に行くと松の木が生えており、これを引き抜いて家で育てたところ、福を授かったという。

また豊後国風土記の総記には、景行天皇の時代に白い鳥が飛んできたと書かれている。舞い集まった鳥は餅となり、それがさらに数千株の芋となった。そしてその花や葉は冬になっても枯れなかったという。これを見た人は、「天皇の徳が天地の神と感応しあった徴である」と喜び、それを聞いた天皇は「これは神様から授かった豊草である」とおっしゃったという。つまり餅は豊穣のシンボルでもあるわけだ。ちなみに国名の「豊後」は「豊草」を由来とし、このエピソードが重要視されていたことがわかるだろう。

年中行事に見る餅

初釜で供される花びら餅初釜で供される花びら餅

また、年中行事にも餅は多用されている。鏡餅の他に、上巳の節句に供えられる菱餅、端午の節句のかしわ餅、中秋の名月の月見団子などは、誰でもすぐ思いつくに違いない。地域によってはよもぎ餅と白餅だけが使われたものもあるが、一般的な菱餅は、赤・白・緑の餅を薄く伸ばして重ね、菱形に切ったものだ。邪を払う赤と清浄を意味する白、そして芽吹きの生命力を連想させる緑を重ねることで、春先に漂う邪気を祓おうとしたとされる。

かしわ餅は餡を入れた練り餅に柏の葉を巻いたもの。柏は新しい葉が出るまで古い葉が落ちないことから、子孫を絶やさない縁起担ぎになる。これは江戸時代、武家社会から生まれた風習のようだ。
月見団子は本来里芋を飾っていたものだが、いつのころからか団子が主流になったらしい。現代でもお寺や神社の歴史ある名月会では、剥いた里芋が供えられていることがある。

このほかにも、農業における重要な縁起物として、亥の子餅がある。秋の収穫シーズンに、子孫繁栄を祈り、厄祓いのために作られるもので、餡子をまぶしたもののほか、栗や胡麻が混ぜ込まれたものなどがあり、地域によってバラエティ豊かだ。
また、お茶席の初釜では、薄紅色に彩色した餅に味噌餡とごぼうをはさんだ「花びら餅」が供される。

神饌としての餅

倭文神社の神饌「人身御供」倭文神社の神饌「人身御供」

餅は、さまざまな神社の神饌としても多用される。現代では搗き餅を丸めて供え、神事の後に撒かれることも多いようだが、神饌の餅にはいろいろなパターンがある。加熱の方法もさまざまで、たとえば春日大社の神饌として有名な「ぶと」は練り餅に餡を包んで揚げたものだ。

大蛇に人身御供を捧げる風習があったと伝わる奈良市の倭文神社では、秋祭りの際に「人身御供」と呼ばれる神饌が調製される。これは人の代わりとされていて、餅につけた串をずいき刺して胴にし、芋の頭をつけることで人の形になっている。
大阪の恩智神社で秋祭りに供えられるお供えも、人の形に整えた餅だ。人の罪穢れをこの餅に移し、それを神前で祓うことで清め祓われるのだという。

このような例を見る限り、餅は人の代わりになるとも考えられていたらしい。特別でありながら、身近な食べ物だったからだろうか。

昔から人々の生活の近くにあったお餅だが、これからの季節は雑煮などに入れて食べる機会が多いだろう。お正月太りしない程度に楽しみたいものだ。

2015年 12月27日 11時00分