道頓堀をプールにする奇想天外な計画

地元の人だけでなく多くの観光客で賑わい、大阪の象徴とも言える道頓堀地元の人だけでなく多くの観光客で賑わい、大阪の象徴とも言える道頓堀

大阪は活気と人情の街。しかし、一面ではいささか賑やかすぎ、はっきりものを言い過ぎる大阪の人間を、怖いと感じる人もいる。良きにつけ悪しきにつけ個性の強いこの街の象徴とも言えるのが、通称「ひっかけ橋」やグリコのネオンサインで知られる道頓堀だろう。
道頓堀と言えば、大阪の名所でありながら、現在は水質が悪いとか、野球やサッカーの大きな試合の際に若者がダイブするなどのイメージを持った人が多いと思われる。その道頓堀川を800mもの巨大プールに変身させる計画が発表されたのは、2012年のこと。
「あの水の中で泳ぐの?」「深すぎるのでは?」と、驚きの声が上がったが、何も堀そのものの中で泳ぐのではない。布で箱を作って堀に浮かべ、プールにするという計画なのだ。
しかし計画の進捗状態は不透明で、「本当に実現するの?」「中止になったのでは?」という声が聞かれるのも事実。また、「プールができたからって、大阪の街にどんな影響があるの?」という疑問もある。そこで、この計画を推進する、道頓堀プールサイドアベニュー設立準備株式会社広報・渉外担当の福田靖夫氏に話を伺ってみた。

大阪を盛り上げたいという想いから始まった

道頓堀プール構想は、大阪府市統合本部特別顧問の堺屋太一氏が提唱したものだが、そもそもの発端は、地元企業や店舗の「ミナミを盛り上げたい」という想いだったそう。
「大阪ミナミの印象は汚い、怖い、放置自転車が多いなど、あまり良くありません。強引な客引きがいたりと、治安面にも不安があり、『観光に行くのは怖い』『住むのはもっと怖い』という声も聞きます。大阪の人は基本的に親切ですし、安くておいしい店も多く、本来住みやすい街のはずなのですが、その魅力が十分伝わっていないのです。来年2015年は道頓堀開削400年。地元企業や店舗の間では、これを機会にミナミを安心で安全な街に生まれ変わらせ、さらに大阪の魅力を世界に向けて発信したいという意見が高まりました。そこで、数々の博覧会プロデューサーを務めてこられた堺屋太一氏に『道頓堀博覧会はできないか』と相談したのが、道頓堀プール構想のきっかけです」
と福田氏。

イベントを開催するにしても、ほかの都市の後追いではつまらない。地域だけで盛り上がるような中途半端なものではなく、世界中が驚くような一大イベントを起こしたいという考えがあったという。
それにしても、道頓堀をプールにするという構想には、地元の面々も呆気にとられたとか。しかしここで、「まぁ、とりあえずやってみよか」という、実に大雑把でおおらかな大阪人精神が発揮される。とにもかくにも地元企業や店舗が出資して準備会社を作り、各所から一人ずつ出向、道頓堀プールサイドアベニュー設立準備株式会社が立ち上がったのだ。福田氏は「面白そう」と自ら志願したのだという。

開業は2015年の夏

道頓堀に800mのプールができれば、ミナミの景色はこう変わる道頓堀に800mのプールができれば、ミナミの景色はこう変わる

具体的なプールの構造について聞いてみた。
「布で作られた「布函(ふかん)」と呼ばれる箱を、発泡スチロールで浮かせた水槽をプールにしようというのが、道頓堀プールの計画です。プールの長さは800mですが、布函は20m幅で作ってつなぎ合わせます。これにより、シーズンが終われば分解収納できるわけです。また、『とんぼりリバーウォーク』と呼ばれる遊歩道をプールサイドにするのですが、すべてをプール用としてしまっては一般歩行者が困ってしまうでしょう。そこで、幅8メートルの遊歩道のうち、川に面した内側4メートルがプールサイド(有料ゾーン)、外側4メートルが一般遊歩道(無料ゾーン)というように区画整理します」

それにしても、道頓堀の汚れた水がプールに混じるのではと心配になるが、実は、道頓堀川の水質は思いのほかに向上しているという。2000年、大阪府・市は、「大阪は水の都」と位置づけ、道頓堀川水位の調節と、汚水の排出、清流の引き込みを実現するため、上下流部に水門を設けた。その結果、現在の道頓堀川は、水質指標・生物化学的酸素要求量(BOD)が1Lあたり3mg以下と、環境基準をクリアできるようになっているのだ。

しかし、一般府民には、一向に進捗状況が見えてこないのだが、現在どのような状態なのだろうか?福田氏に尋ねると、
「布函は別の場所で作るため、道頓堀の見た目にはなんら変化がなく、実現を心配されるのですが、現在、布函幕の安全性を検証実験している段階です。開業は2015年の夏。その春ごろには、一般の方にも『プールができるぞ』と実感していただけるのではないでしょうか。もちろんそれまでにもポスターを貼ったりして、雰囲気を盛り上げるための工夫は考えています」
とのこと。計画は着実に進行しているようだ。

巨大プールが大阪にもたらすもの

全長800mを活かし、さまざまな水泳競技を計画している全長800mを活かし、さまざまな水泳競技を計画している

では、道頓堀プールはどのように活用されるのだろう、そしてひいては大阪をどのように変えるのだろう。
「直線800mの水泳競技会を実施する予定です。また、トライアスロン競技開催の打診も受けています。通常の遠泳では、競技者がどんどん岸から離れていってしまい、その様子を追うのが一苦労ですが、道頓堀プールを利用すれば、終始遊歩道から迫力ある中継ができます。また、遊歩道を歩く人口が増えることを見込んで、出店の希望も増えてきており、街の活気が盛り上がるのは間違いありません」
と、福田氏。さらに、
「大阪という街は、日本第二、第三の都市です。しかし、世界遺産もなく、日本一のものもあまりない。大阪人は『東京には負けへんで』と言いつつ、結局は負けていることをオチとするような、どこか自虐的なノリがあります。だからこそ『ほかには絶対ない、世界一のもの』を作るということに意味があると考えています。道頓堀プールができれば世界から注目が集まるし、地元大阪府民自身も大阪を誇りに思うようになるでしょう。そうすれば、大阪の魅力である人情とノリの良さはそのままに、違法駐車など『行儀が悪い』とされる行為が減り、大阪の個性はますます魅力的になるのではないでしょうか。そうなれば、『大阪へ行きたい』『大阪に住んでみたい』と、もっと人が集まってくると思うのです」
と、期待を込めた。

やってみなきゃわからない!大阪人の楽観性が街の魅力

大阪は観光の街。特に電気屋街の日本橋が近いミナミは、海外からの観光客も多い。そんな場所に世界一のプールができれば、大阪の知名度がアップすることは間違いないが、なにしろ世界で初めての試み。成功するかどうかはまったくわからない状況だ。
しかし、福田氏は、「事前研究によれば、現在大阪の街に多い東南アジアからの観光客は、街中で水着姿になるのを躊躇する傾向があり、道頓堀プールで泳ごうとはしないだろうとも言われています。でも、街中で泳ぐためにヨーロッパからの観光客が増えるかもしれませんから、やってみなくてはわかりません」と笑う。

安全確保のためプールを空にする時間を設けようとしても、プールサイドとなる遊歩道は狭く、混み合ってしまう。リゾート気分を味わってもらうためには、人数制限が必要だ。また、現在想定している1時間2000円の入場料は、「ちゃっかりしている」大阪人に受け入れられるかも未知数。不安がまったくないと言える状況では到底ない。
取材の間、福田氏は「とにかく、やってみなきゃわかりません」と何度も口にし、笑った。

このような大阪人のバイタリティーや楽観性はこの先も変わることはなかろうが、「世界一のプール」と共にプライドが生まれ、整然とした住みやすい街に進化するかどうかはまだわからない。しかし、「とにかくやってみる」と進んでいくその精神こそが、大阪が誇れる魅力なのかもしれない。

■参考リンク
道頓堀プールサイドアベニュー設立準備株式会社
http://dotonbori-poolside-avenue.com/

2014年 07月04日 11時39分