いたるところに存在する日本の神

山にはオオヤマヅミの神、海にはワタツミの神、そして川にはセオリツヒメと言った具合に、日本には八百万の神様が存在すると言われているが、実は家も同じ。家の中にも神様がいる、あるいは降臨すると考えられてきた。

もっとも身近なのが正月に降臨する歳神様だろう。
お正月は良い一年を運んでくる歳神様をお迎えする日だと考えられてきた。だからこそ日本人は、お正月を前に大掃除をして家を清め、神様が家の中にいる正月の間はしめ縄を飾って結界を作り、清らかさを保ったのだ。また歳神様以外にも、家の中に住むと考えられてきた神様もいる。

では具体的に、家のどこに神様が住むと考えられてきたのだろうか?

家を守る神様のお札。どこに飾るべきか?

家の守り神というわけではないが、古来日本では土地や地域を守護する鎮守の神がいると信じられてきた。例えば地鎮祭は鎮守の神に家を建てる許しを得るためのものだ。
ちなみに、鎮守の神を表す言葉として、現在ではもっぱら「氏神」という言葉が使われているようだ。しかし本来の「氏神」は、その一族を守護する神様を指した。昔は親類一族が近い場所に集まって住んでいたため、土地の神である鎮守の神と氏神が同一視されるようになったと考えられている。ただし、藤原氏にとってのアメノコヤネ命など、一族の守護神としての「氏神」もいるので、混同しないよう注意が必要だ。とはいえ、古くから続く家系ではない、一般のわれわれにとっての「氏神」は、家のある土地の鎮守の神という認識で良いだろう。

初詣では、この鎮守の神(氏神)を祭る神社に参り、お札をいただいてくることも多いが、何しろ住んでいる土地の守護神のお札だから、おろそかにはできない。それではどこに飾るべきだろうか?
結論から言えば、神社によって違う。正面がその年の恵方に向くよう貼るべしとする神社もあれば、南に向けて貼るよう指定する神社もある。さらに玄関の扉に貼るものもあるから、神社が決めた規則にのっとって貼るのが良いだろう。
特に決まりがない場合は、家の中でもっとも清浄な箇所に貼ると良い。清浄な場所とは、トイレや浴室と、壁を隔てて面していないこと、またその上に部屋があると、人の足の下に位置することになるから、最上階が良いだろう。もしどうしても階下にしかスペースがない場合は、「雲」「空」あるいは「天」と書いた札や木板か、雲の形に彫刻された「雲板」を天井近くに取り付けると良い。
お札の正面は南か東を向くようにするのが一般的だ。ちなみに、神社の多くも南を向いており、北向きの神社は少ない。神聖なものは、太陽に正面を向けるのが良いと考えられてきたのだろう。

家の中にいる神様

かまどには神様がいると信じられてきたかまどには神様がいると信じられてきた

では、家の中ではどこに神様がいると考えられてきたのだろうか?もっとも重要視されてきたのは台所。いわゆる「かまど神」だ。お正月、台所に小さなしめ飾りが飾られているのを見たことはないだろうか。これは、かまど神の鎮座する場所を清浄に保つため、結界を作っているのだ。
かまど神は火の神だが、先祖信仰とも結びついており、地方によってその性質が変わる。ただ、かまど神への信仰は日本全国にあり、昔話にも登場するので、簡単に紹介しよう。

正直者のおじいさんが滝の女神を助け、お礼にと小さな男の子をもらう。この子がおへそをいじると金の粒が飛び出すため、おじいさんは大金持ちになるが、欲深いおばあさんがもっと金を出させようと男の子のへそをほじくりかえすと、滝の女神が怒って男の子を取り返しにきてしまうのだ。悲しんだおじいさんが滝の女神に謝罪に行くと、「男の子の肖像画を描いてかまどの上に飾りなさい。そうすれば家は栄え、おじいさんは長生きできるでしょう」と教えてくれるのだが、この男の子の面相が面白い。いつも白目を剥き、くちびるをとがらせているのだ。この男の子の名前は「火男」、それが訛って「ひょっとこ」になったという。つまり、ひょっとこの原形は、かまどの神様なわけだ。昔からかまどの神が馴染み深い存在だったことがわかるだろう。

また、門を守る神様もいる。日本神道では天石門別神と呼ばれる神様が門を守っていると考えられているが、道教で鬼門を守ると考えられている神荼(しんと)と郁塁(うつるい)の方が有名だろう。中華街へ行くと、この二柱の神の神画が飾られた門戸を見ることも少なくない。

意外に歴史の浅い神棚の由来

神棚は伊勢信仰の流行をきっかけに生まれた神棚は伊勢信仰の流行をきっかけに生まれた

家の中で神様を祭る場所と言えば、神棚を思い浮かべる人も多いだろう。ただし、神棚の歴史は江戸時代末期からで、古いものではない。そもそも日本では、かまど神や門神のように日常的な守護神は別として、神は祭りに際して降臨する存在であると考えられていた。そのため、常に神を祭る習慣はなかったのだ。

神棚が登場したきっかけは、伊勢への「おかげ参り」の流行だと言われている。おかげ参りの流行も、自然発生的なものではない。日本各地で伊勢の神札が天から降る「お札降り」が起こり、民衆に伊勢を目指させたのだ。当然、お札が自然と空から降るわけがなく、お札を撒いた人々がいた。それが誰だったのかはいまだ謎だが、この後伊勢への案内人を務めながら伊勢の神札を配布し、伊勢参りを勧める「御師」と呼ばれる人々が登場する。そして、伊勢参りができない人はこの神札を家の中で祭り、伊勢参りの代わりにできるとした。その際、神札を納めるために生まれたのが神棚。だから、家の中でお札などを祭るために、神棚が必須なわけではないのだ。神棚を設けるなら、お札を貼る場所、つまり最上階でもっとも清浄な場所が良く、南か東に向けると良いとされる。

日本の神様は家の中にもいること、そして大げさな設備は必要ないことがわかった。ただし、神様の加護を得ようとするなら、いや加護を期待していなくても、神様が訪れる家の中は、清浄に保つべきだろう。新年の区切りということで、今年は例年より心をこめて掃除をマメに行ってみてはいかがだろう。

2015年 01月03日 11時35分