ナイトシーンが大きく変わろうとしている

風営法が制定されたのは、敗戦後の混乱期の1948年(昭和23年)風営法が制定されたのは、敗戦後の混乱期の1948年(昭和23年)

風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)が改正され、2016年6月23日に施行された。同年12月15日にはカジノを含む統合型リゾートを解禁するための「IR整備推進法」も可決、成立した。国内の「ナイトシーン」が大きく変わろうとしているが、何がどのように改正されたのか、改めて整理しておくことにしたい。

まず改正風営法だが、主な見直しポイントは次の5つである。
□ 客にダンスをさせる営業に関して規制の範囲や内容の見直し
□ 新たに分類する許可業種「特定遊興飲食店営業」の規定整備
□ 良好な風俗環境を保全するための規定の整備
□ 風俗営業時間の緩和
□ ゲームセンターへの18歳未満の者の立入り制限に関する見直し

このうち最も大きな変更点は「ダンス営業」の見直しである。風営法が制定されたのは敗戦後の混乱期だった1948年(昭和23年)だが、当時は男女がダンスを楽しむナイトクラブが次々と生まれ、売春の交渉をする場として利用されたという。そのためダンスそのものを風営法による規制対象としたのだ。

それから70年近く経って社会も変わり、中学校の授業でダンスをするような時代になったのにも関わらず、改正前は「ダンス教室」や社交ダンスの「ダンスホール」なども風営法の対象だったのである。

風俗営業の対象を絞り、特定遊興飲食店営業を新設

風営法の改正によって、飲食を伴わないダンス教室やダンスホールなどは完全に規制対象から除外されたが、実態を鑑みて考えれば当然の措置だろう。キャバレーやキャバクラなどは引き続き「風俗営業」として扱われる一方で、「接待」を伴わないナイトクラブなどは照明の明るさ、深夜営業の有無、酒類提供の有無によって分類されることとなった。

店内(客席)の照明が10ルクス以下なら「風俗営業」となるが、10ルクス超の場合は「深夜営業+酒類提供」であれば「特定遊興飲食店営業」、深夜営業か酒類提供のいずれか一方だけであれば「飲食店営業」とされ、風営法とは別の法律によって管理される。そのため風俗営業から特定遊興飲食店営業に移行しようとする場合は、特定遊興飲食店営業の許可申請が必要となる。

10ルクスとは映画館における上映前の客席と同じ程度とされるが、目が慣れればそこそこ明るい印象だろう。また、ここでいう「深夜営業」とは深夜0時から早朝6時までの営業を指す。「風俗営業」に該当する場合にはこれまで営業時間が最長で深夜1時までだったが、改正後は条例による延長が可能となった。

風営法のうち「客にダンスをさせる営業」の見直しイメージ(警察庁公表資料より引用)風営法のうち「客にダンスをさせる営業」の見直しイメージ(警察庁公表資料より引用)

24時間営業のクラブが認められる地域は限定的

店が飲食を提供し客が音楽に合わせて踊るようなクラブ営業について、店内の照明が明るく、アルコール類を出さなければ「通常の飲食店」として24時間営業が認められるものの、そのような営業形態では利用者側のニーズが少ないだろう。

店内の照明を明るくしても、アルコール類を出す場合には都道府県公安委員会から「特定遊興飲食店営業」の許可を受けなければ24時間営業ができない。そして、この「特定遊興飲食店営業」については自治体が営業地域や営業時間を制限できることに注意が必要だ。

たとえば東京都(警視庁)の場合、都心区では「設置許容地域」が比較的多いものの、周縁区では一部の地域にとどまる。多摩エリアになると八王子市、立川市など10市の中の一部地域にすぎず、調布市をはじめ16市4町村では許容地域そのものがゼロである(2017年1月現在)。

制限の方針は自治体によって異なるが、原則として1平方キロメートル内に300軒以上の店がある「繁華街」や、深夜に居住する人が1平方キロメートルにつき100人以下の港湾地域や倉庫街など「人があまり住まない地域」が許可の対象となる。だが、車でなければ行きづらい立地に「特定遊興飲食店営業」の店舗ができれば、交通安全上の問題を引き起こすこともあるだろう。

また、「特定遊興飲食店営業」の許可を得るためには一定の改装工事が必要となるほか、客室面積が33平方メートル以上でなければならず、許可地域制限の問題と合わせてハードルは高そうだ。許可がないままで客を朝まで踊らせるクラブなどを営業すれば、従来は営業停止などを受けるだけだったが、改正後は「2年以下の懲役」「200万円以下の罰金」などといった刑罰の対象となっていることにも留意しておきたい。

今回の風営法改正に伴い、客の迷惑行為防止措置や近隣からの苦情処理、近隣環境への配慮義務なども設けられた。深夜、早朝の営業が可能になったことによる近隣への影響を考慮したものだが、店を出た酔客などの行動を店側がどこまでも管理できるわけではない。客の帰路にあたる地区では、ある程度の影響が避けられないだろう。

しかし、いくつかの難しい問題があるにせよ、これまで閉鎖的だったナイトシーンが開放され、大手資本も参入しやすくなったことで、新しい業態が生まれる可能性も大きく広がることになりそうだ。夜のまちが多彩になり、朝まで安心して遊ぶことができるようになるかもしれない。

風営法改正による弊害も!?

風営法の改正によって、スポーツバーでの応援はアルコール無しに?風営法の改正によって、スポーツバーでの応援はアルコール無しに?

ただし、風営法の改正によって困った立場におかれているのが、いわゆる「スポーツバー」だ。中継映像を流すだけなら問題ないとされるものの、店側が応援を盛り上げようとしたり、何らかのイベント的要素を含んだりすれば「遊興」の提供とみなされ、新たに設けられた「特定遊興飲食店営業」の対象になりかねないのである。

スポーツ中継は国内に限らず、海外で行われる「日本代表戦」や欧州・南米のサッカー、アメリカ大リーグ、五輪、W杯など日本時間では深夜になることも多い。「特定遊興飲食店営業」が許可される地域であれば照明を明るくすることで何とかなるとしても、許可を受けられない地域ではアルコール類の提供をやめるか、店側が盛り上げないように自粛しながら黙々と映像を流すだけにするしかないのだ。

警察庁は、とくに人々の関心が高い試合などについて「短時間だけ」「1晩かぎり」「6ケ月に1回以下」なら特定遊興飲食店営業の許可がなくてもOKといった旨の見解を示しているが、準々決勝、準決勝、決勝と進むような大会を考えれば現実的ではない。

また「ライブハウス」も難しい問題を孕んでいる。警察庁はパブリックコメントに対する考え方の中で、「実演者が客の反応に対応し得る状態で演奏・演技をする場合は遊興に該当する」「モニターやスピーカーを通じて鑑賞する場合で実演者が客の反応に対応できないときは遊興に該当しない」としている。ライブハウスの生演奏であれば必然的に前者であり、深夜営業でアルコール類を提供するなら「特定遊興飲食店営業」とみなされそうだ。その許可を得るために店内を明るくすれば、興ざめするバンドやファンも多いだろう。

改正風営法における「遊興」や「接待」の定義のあいまいさを指摘する声も強いようだ。たとえばカラオケの場合に、客の要望に応じてマイクや歌詞カードを手渡したりカラオケ装置を操作することは「遊興をさせる」ことにあたらないが、歌うことを客に勧めたり合いの手を入れたり、あるいは客の歌を褒めはやせば「遊興をさせる」ことになるという。

また、客にショーを見せる行為について、不特定の客に対するものであれば「遊興」、特定の客に対するものであれば「接待」になるとしているが、特定遊興飲食店営業で認められるのは「遊興」までであり、「接待」は風俗営業の許可が必要だ。特定の常連客しか入っていないときに、その求めに応じてショーの構成を変えれば問題視されることになるかもしれない。

IR整備のためには風営法の改正も必要だった

2016年12月15日に成立した「IR整備推進法」のIRとは「Integrated Resort(統合型リゾート)」の頭文字である。カジノ、劇場、エンターテインメント施設、ホテル、国際会議場などが一体となった施設だが、これまで非合法だったカジノを解禁することから、とくに「カジノ法案」「カジノ解禁法案」などと呼ばれることも多い。しかし、IR施設に必ずカジノが設置されるわけではないことは理解しておくべきだろう。

国会での審議期間が短かったことから「拙速だ」「ギャンブル依存症対策ができていない」などの批判も多いようだが、今回の「IR整備推進法」はあくまでも推進法であり、規制内容や依存症対策などを具体的に盛り込んだ「IR実施法案」はこれから審議されることになっている。また、IR法案が初めに国会へ提出されたのは2013年であり、一人ひとりの国会議員が研究を重ねる期間は十分にあったはずだ。

なお、民間による一つの試算によればIRの経済効果は年間1兆1,400億円にのぼるとされるが、国内の公営ギャンブル(競馬、競輪、競艇など)の売上高は年間6兆円に迫り、パチンコの市場規模は年間23兆円を超えるという。依存症対策はカジノだけでなく、これらの既存ギャンブル市場を含んで考えなければならない。

それはさておき、カジノは世界の140ケ国で合法化されており、365日24時間営業の施設も多いようだ。それを解禁しようとするのに、クラブの深夜営業すら難しくする従来の風営法は障害だっただろう。風営法の改正はIR導入のための地ならしともみなせる。

東京都、横浜市、千葉市、大阪市、大阪府などでは早くもIR誘致に向けた活動が始まっている。横浜市は2014年度、東京都は2015年度から調査を開始しているほか、大阪府では2017年1月に「統合型リゾート(IR)について知ろう、考えよう!」と題した府民向けのセミナーを開催する。観光立国への起爆剤として自治体の期待値も大きいようだが、IR立地地域の住民の理解を得られるような制度設計も欠かせないだろう。

カジノは世界の140ケ国で合法化されており、365日24時間営業の施設も多い。</br>今回の風営法改正はIR導入のための地ならしかカジノは世界の140ケ国で合法化されており、365日24時間営業の施設も多い。
今回の風営法改正はIR導入のための地ならしか

2017年 02月06日 11時05分