個人のSNS発信が人気メディアへ

『箱庭』がつくった女性専用シェアハウス。室内は「アトリエ」をテーマにした、クリエイティブな空間が広がる『箱庭』がつくった女性専用シェアハウス。室内は「アトリエ」をテーマにした、クリエイティブな空間が広がる

早耳で感度の高い女性が、こぞって集まるサイトがある。ウェブメディアや雑誌の編集を手がけるRIDE MEDIA&DESIGN株式会社がつくった“女子クリエイターのためのライフスタイル作りマガジン”『箱庭』だ。「女性社員が個人でやっているブログやTwitterがおもしろい。これらをまとめて、女性クリエイターから発信する情報が見られる“場”をつくってみてはどうか」というアイディアからはじまった。

現在はウェブサイト『箱庭』で情報発信を行っているほか、クリエイターが見つけてきた雑貨などを販売するECの運営、ワークショップの開催、ウェブサイト運営のノウハウを集めた書籍を発行するなど活動の場を広げている。
『箱庭』は2012年5月11日にオープンし、3年弱で月間26万人が集まるサイトへ成長している。

「クリエイターは仕事柄たくさんの情報に触れるし、アンテナを張って常に新しい情報を仕入れることが本業のひとつです。雑誌やデザインにその結果を反映させますが、それ以外に発信するツールも機会もありませんでした。また、会社員のクリエイターは外のクリエイターとつながる機会があまり無いとも感じていました。そこで、共通の職種の人たちがお互いに情報発信をしつつ、クリエイター同士がつながるサイトをつくろうと思いました」と『箱庭』編集長でウェブデザイナーの東出桂奈さん。

そんな『箱庭』が東京・西荻窪で女性専用のシェアハウスを手がけたと聞いて見てきた。

メディアから生まれた「リアルな空間」

シェアハウス1階にある「アトリエ(DIYルーム)」シェアハウス1階にある「アトリエ(DIYルーム)」

「クリエイターの理想の家をシェアハウスでつくってみたいと思いました。一人暮らしで引越しをしても、結局同じような間取りに住んでいるという現実、アトリエを別で持つとお金がかかるし、ものづくりをするために、まず部屋を片付けないといけないという悩みを持つ人が多いことが、メディアの運営を通してわかってきました。この時期から“ものづくりの場所がある家”という構想が編集部のなかにありました。本当は使ってみたい工具や、高価な食器・調理器具を取り入れるなど、“集まって住む”から出来ることを取り入れたシェアハウスは、私たち箱庭編集部の夢の家でもあります」

『箱庭』はウェブサイトでの情報発信が基本だが、書籍の発行やワークショップの開催で活動内容が“立体的”になってきたのを感じていた。そこに“ものづくり”を共通テーマにした家づくりの案が浮上し実現したのは、自然な流れだったという。

ウェブメディアがリアルイベントを開催することは増えてきたが、継続するリアルな空間づくりにまで発展する例はまだ少ない。編集が本業のメディア会社ならではの発想とセンスと実行力のたまものだろう。
JR中央本線「西荻窪駅」から徒歩20分、一軒家が建ちならぶ住宅街にある『箱庭の住めるアトリエ』、場所を西荻窪にした理由は「実際に箱庭メンバーが暮らしていて住みやすいし、好きな街だから」だという。物件ありきやエリアマーケティングの結果など、“不動産的”ではない発想から生まれたシェアハウスの全貌を、次の章で見ていく。

“アトリエ”がテーマのシェアハウスづくり秘話

木造地上2階建ての築34年、1階が2LDK+納戸・2階が4部屋の一軒家を、1階に1部屋+LDK+アトリエ(DIYルーム)・2階に5部屋のシェアハウスにリノベーションした「箱庭の住めるアトリエ」。クリエイター集団がつくるシェアらしく、想像力が高まる空間づくりの工夫が至るところにある。

個人ではなかなか揃えられないドライバーや電気丸ノコなどの工具がそろったDIYルームは、壁一面を有孔ボードに、LDKはスタジオとしても利用できるように写真映えを考えて、4面すべての壁を違う素材にしている。イベントの開催も想定して、リビングの椅子とテーブルは折りたたんで簡単にしまえるものを選び、空間を広くとれる工夫をしている。当初無垢を予定していた床は、汚れても大丈夫なようにタイルに変更をした。
「たとえば、観葉植物に水やりをして多少こぼれても気にしなくて良いような“ざっくりと使える家”にしたいと思いました。個室部分もアトリエをテーマにリノベーションをしていて、壁は自由に塗装できるように仕上げ材の状態で貸し出します」

リノベーションのパートナーは鈴木工芸社。「nostos books」「THE GOOD GOODIES」など関東圏の人気店を手がけており、東出さんが以前に仕事をして店舗設計に惚れ込んだことから依頼をしたという。新築は考えなかったそうだ。
「新築でイチからつくったほうが、きれいにきちんと出来ると思いますが、元からあるものならではの歴史を感じる空間が好きです。古民家が持つ味のある雰囲気はつくれないし、空き家問題に少しでも貢献したいという気持ちもありました。この家は、庭好きの家族がきちんと手入れをしてきたことがわかる広い庭と、シェアハウスに向いている部屋数があったので決めました」
また、都市圏に住む若い人たちのなかには一軒家に住んだ経験が無く、住むことへの憧れが無い人もいる。そういう人たちに、一軒家の魅力を伝えたいという思いもあるそうだ。

シェアハウスの運営で最近増えているのが、空間を作りこまず入居者のセンスと自治に任せるスタイル。この流れにあって『箱庭』の編集者のこだわりを詰め込むという、ある意味流行とは逆行した空間づくりは、運営側の“本当にこのシェアハウスをやりたい”という人間臭さの表れのように感じる。既に多くのファンを持つ『箱庭』メディアの強みを生かした運営方法といえそうだ。

左上:キッチン 右上:共用のリビングルーム 左下:アトリエ(DIYルーム) 右下:共用のダイニングルーム左上:キッチン 右上:共用のリビングルーム 左下:アトリエ(DIYルーム) 右下:共用のダイニングルーム

手づくりで暮らしを楽しむ人が増えた

サイトオープン当初から、女性クリエーターのためのものづくりをテーマにしている『箱庭』、3年弱の運営で暮らしを楽しむ人が増えたのを感じるという。
「欲しいものを“買う”から、“つくれるものはつくる”に意識が変わったように思います。ものづくりが本業でなくても、趣味でつくる人が増えましたし、教わりながらつくるワークショップの種類が増えました。また、今まで外に出て遊んでいたのが、家に重点を置いて室内での暮らしを大切に考える人が増えたと思います。量産されたものを買うことから、つくり手の顔が見えるものを買うことにシフトし、徐々に自分でつくる人が増えている段階ではないでしょうか」

『箱庭の住めるアトリエ』は、駅徒歩20分、家賃は79,000~85,000円+共益費12,000円だ。ものづくりに興味の無い人にはきつい駅からの距離と家賃ながら、既に3名が入居を決めている(2015年3月16日時点)。何回か引越しを経験し次は妥協したくないという人や、共通の趣味をもった人と繋がりたいという人からの問い合わせも多いそうだ。

メディア運営で培われた知識や、ワークショップで読者と実際に出会い、その悩みを吸い取ってできた『箱庭の住めるアトリエ』。時代の流れを敏感に読み取り、ときには流行をつくりだす「メディア」が仕掛けるシェアハウスの今後に注目だ。

左上:「DIYルーム」には個人では買えない工具も取り揃えている 右上:iittalaのプレートやボウルは、食器好きには知られる憧れの逸品 左下・右下:個室の一例。押入れやクローゼットの無い部屋には備え付けの棚が用意される左上:「DIYルーム」には個人では買えない工具も取り揃えている 右上:iittalaのプレートやボウルは、食器好きには知られる憧れの逸品 左下・右下:個室の一例。押入れやクローゼットの無い部屋には備え付けの棚が用意される

2015年 04月10日 11時06分