高齢者向け住宅・施設の増加で、さまざまな問題が浮上
本格的な超高齢化社会を迎え、2025年には65歳以上の人口比率が3割を超えるといわれる(内閣府『平成25年版高齢社会白書』)。また、高齢者の単身世帯や夫婦のみの世帯も増加しており、「老後の住まいをどうするか」は切実なテーマとなっている。
「2000年に介護保険が導入された当時は、老人ホームの数も少なく、選択肢はごく限られていました。しかし、厚労省が管轄する従来の老人ホームに加えて、2011年には国交省が管轄するサービス付き高齢者向け住宅も創設されるなど、ここ10年で高齢者向け住宅・施設は急速に増えています。一方で、外から見るだけでは、施設が提供するサービスの中身がわかりにくいのも事実。このため、”終の棲家”となるはずの高齢者向け住宅に入居したにもかかわらず、実際にはその内容が十分把握されず、入居者と施設側の思いにギャップがあることが多いのが実情です」
そう語るのは、一般社団法人高齢者の住まいと暮らしの支援センター副理事長・安藤滉邦氏だ。
安藤氏は2004年に株式会社ケアプロデュースを設立。一般向けに、老人ホームの紹介サービスを行ってきた。だが、高齢者の相談に乗るうちに、さまざまな問題が浮上してきたという。
「そもそも“老人ホームとはなんぞや”という基本的なことが知られていないため、入居してから『こんなはずでは』と疑問を感じる人も多い。土地家屋を売り払って老人ホームに入居する予定だったが、期待と現実のギャップに気づき、希望するホームに入居できない人も少なくありません。また、今後は、土地建物や年金など、高齢者の資産が狙われるケースも増えてくるでしょう」
高齢者の住み替えに精通した「シニアライフプランナー」を養成
老後の住み替えには、不動産の処分や資産の相続など、複雑な問題がついて回る。このため、高齢者の生活に関わる幅広い知識がなければ、住まい選びのアドバイスを的確に行うことはできない、と安藤氏は語る。
そこで、こうした人材を養成するため、安藤氏は2013年9月、一般社団法人高齢者の住まいと暮らしの支援センターを設立。『SHLCシニアライフプランナー認定資格』を創設し、資格取得のための養成コースを立ち上げた。
これは、老後の住まい選びを通じて、高齢者が抱えるさまざまな問題を解決に導くプロフェッショナルを養成するための認定制度。介護保険制度や各種施設・住宅についての基礎知識から、費用の内訳や介護サービスの実態に至るまで、実用的な知識を学ぶことができる。
コースは初級編と中級編に分かれている。一般の方を対象とした初級編は1日(受講費用19,800円)で、高齢者の住まいを考える上で要となる介護保険制度や、各種施設・住宅についての基礎知識を学ぶことができる。また、中級編は1~2日(同19,800~29,800円)で、より実践的な住まい選びのポイントや、入居前に押さえるべきこと、費用の中身などが学べる。この他、ケアマネージャーや介護福祉士を対象としたケアマネプラス編(1日:同19,800円)も行われている。また、今年夏には、施設見学もできる上級編がスタートする予定だ。
「高齢者の住まいの相談に正確に答えられる人材は、まだまだ少ないのが実情です。その役割を担う専門家として、シニアライフプランナーを養成していきたい。今後は、シニアライフプランナーを地域ごとに登録して、住民の相談に乗る仕組みを作りたいと考え、各自治体にもお声がけをしているところです」
親の資産をめぐる“骨肉の争い”にどう対処するか
では、なぜ、シニアライフプランナーのような専門家が必要なのか。
「高齢者の住み替えにあたっては、自宅の売却や空き家の管理、遺品整理など、さまざまな問題がついて回ります。老人ホーム選びの相談が、相続やお墓の問題に発展し、家族間でトラブルになるケースも珍しくありません。入居相談が7件あったとすると、1~2件は家族がお金のことでもめているのが実態です」と、安藤氏。
たとえば、次男以下が親の面倒をみている場合、「親を預かっているのだから、親の財産の権利は全部俺のものだ」と主張するケースがあるという。また、親の年金を、同居している子供がひそかに自分の生活費に充てているケースもみられ、それが原因で兄弟間の話し合いがこじれることも少なくない。
「家族間でもめ事が発生した場合は、家族会議の場に同席し、私たちが間に入って話をまとめることもあります。こうした席では、どうしても“自分の都合”が優先になりがちなので、『財産のことより、親御さんの生活を第一に考えてください』と呼びかけるようにしています」
住み替え成功のポイントは「施設見学」と「体験入居」
現在、高齢者向けの住宅・施設は多様化しており、入居一時金がいらない公的な特別養護老人ホームから、数千万円の入居一時金が必要な民間の高級有料老人ホームに至るまで、さまざまなタイプが提供されている。このため、入居者の予算やライフスタイル、健康状態に合わせて最適な住まいを選ぶことが重要となる。
では、高齢者の住まい選びを成功させるポイントとは。
「何より大切なのは、最低3ヵ所は施設を見学することです。3ヵ所ぐらい見学すると、施設全体の使い勝手や食事の内容、職員の態度や入居者の雰囲気など、さまざまなことが五感でわかってきます。
そして、施設に行ったら、できるかぎり施設長に会うようにしてください。なぜなら、施設長の考え方によって、施設の雰囲気はガラッと変わるからです。事前に入居を体験できるサービスもありますので、必ず体験入居を行い、その間に施設長と面談するようにしてください」
もちろん、できるだけ多くのパンフレットを集め、内容を熟読して比較検討するなど、事前の情報収集が大切であることはいうまでもない。だが、資料だけでは実態がわからないのも事実だ。
「これからは、施設運営の裏側まで踏み込んだ情報や知識を提供できなければ、“終の棲家”を納得して選んでいただくことはできない。そのためにも、優れた知識と技術をそなえた専門家を育てていきたいと考えています」
安心して住める“終の棲み家”を手に入れるには
とはいえ、住まいさえ確保すれば、老後を安心して暮らせるとは限らない。今後の大きな焦点となるのが、「高齢者の財産をいかに守るか」という点だ。
「いずれは、老後の住まい選びから相続税や独居老人の成年後見、身元保証の問題まで、トータルに対応できる相談窓口を作りたい。そのためにも、自治体と連携しながら、シニアライフプランナーが地域で活動できるようにしていきたいと考えています。70~80年の人生経験を持つ高齢者の悩みを解決し、安心・安全を担保するのは容易ではない。机上の作業だけではなかなかうまくいかないので、自治体や弁護士、税理士、司法書士などの専門職と連携しながら、新しい仕組みを作り上げていきたいと思っています」
10年後には人口の3分の1が定年世代となる、超高齢社会・ニッポン。税負担が増えて年金収入が減るなか、終の棲家をどうするかは、今以上に切実な問題となるだろう。
厳しい環境の中で老後を豊かに生きるためにも、40、50代のうちからさまざまな知識を学び、来るべき老後に備えることが必要といえそうだ。
取材協力:一般社団法人高齢者の住まいと暮らしの支援センター
※2014年5月17日(土)、5月31日(土)に初級講座あり。
その他、中級講座も実施中。
詳しくはhttp://kourei-shien.or.jp/
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