“収穫の時期”にふさわしい終の棲家を求めて

『アルチェ』を企画設計した(有)インターステーション代表・田島進氏『アルチェ』を企画設計した(有)インターステーション代表・田島進氏

超高齢化社会の到来が迫る中、「老後の住まいをどうするか」は切実な問題となりつつある。「一戸建てで気ままな老後を送りたい」と望むアクティブシニアは多いものの、高齢者世帯は孤立しやすく、防犯面でも問題が多いのが実情だ。

独り暮らしでも安全な一戸建てに住み、安心してガーデニングやペットとの暮らし、地域との交流が楽しめるような暮らしができないものか――そんな思いから企画されたのが、シニア向け賃貸一戸建て住宅『アルチェ(Arce)』だ。企画・設計を行ったインターステーション一級建築士事務所(東京・板橋区)代表取締役・田島進氏はこう語る。

「都内の住宅地の建ぺい率が60%だとすれば、一戸あたり40%の空地が出る計算になります。4棟の一戸建てを1ヵ所に集めて周囲を囲み、空地を中央に集約すれば、広い中庭が作れるだけでなく、セキュリティも確保することができます。これなら都心の一等地でも、低コストで安心な一軒家での暮らしが実現できるのではないか。そう考えたのが、そもそもの発端でした」

アルチェを企画したもう1つのきっかけとなったのが、田島氏自身のプライベートな体験だ。
「私の両親が難病を患って施設に入所したのですが、一戸当たりの広さはわずか18m2。『こんな病室のような部屋が、果たして終の棲家といえるのか』と、大変疑問に思いました。高齢者向けの施設や住宅の多くは、住み心地よりも、コストや事業性を優先して設計されているのが実情です。施設に入るしか選択肢がなくなる前に、住み慣れた場所で、老後の暮らしに合わせて住み替えたほうが、豊かな暮らしが営めるだけでなく介護予防にもなる。そんな発想から『アルチェ』を考案したのです」

セキュリティも万全。4~6棟の平屋住宅を外壁と門でぐるりと囲む安心設計

アルチェの全体図。平屋の一軒家4棟を外壁と門で囲む設計アルチェの全体図。平屋の一軒家4棟を外壁と門で囲む設計

アルチェは、120~130坪の敷地内に平屋の一戸建てを4~6棟建て、周囲を外壁と門でぐるりと囲むのが基本コンセプト。門には防犯カメラが付いたオートロックの集合玄関を1つ設け、ここに郵便受けや宅配ロッカーなどを置く。セキュリティとプライバシーに配慮して、外壁には窓を設けず、吹き抜けの天窓から外光を採り入れる設計だ。

「集合玄関を作れば、電気・水道・ガスのライフラインを1本で引き込み、4棟に分岐することができるので、公共料金の節約にもつながります。門のインターフォン越しに、高齢者を狙った勧誘や詐欺をブロックすることもできるので、セキュリティ面でも安心です」

家の間取りは2LDK。寝室のほかにゲストルームもあり、友人や子供、ヘルパーの寝室や収納室として利用できる。室内はコンパクトだが、掃除の負担や車椅子での移動を考えれば、かえって使いやすいともいえる。
各戸ごとに坪庭を設け、敷地内には共用の中庭も。木陰に椅子とテーブルを置き、入居者同士で将棋やお茶を楽しむことができる。また、中庭越しに互いの様子がわかるので、孤独死を未然に防ぐ効果もありそうだ。

「アルチェは、敷地内はすべて車椅子で移動できるバリアフリー設計です。ただ、団塊世代は考え方も気持ちも若いですから、建物もなるべくお洒落にしたい。高齢者向けといいつつ、住むからには建物自体も魅力的なものにしたいと考えています」

独立した暮らしを営みながら、近所づきあいも自然に楽しめる

アルチェの内観。バリアフリー設計なので、車椅子での移動も可アルチェの内観。バリアフリー設計なので、車椅子での移動も可

アルチェの最大の特徴は、独立した暮らしを維持しながら、住民同士の交流も楽しめる点にある。その基本コンセプトを活かせば、さまざまな応用が可能だ。親しい友人や価値観を共有する人が集まって暮らすもよし、老親と子供が同じ敷地内で暮らすもよし。もしくは、親世帯がアルチェに入居して子世帯は近所に住むなど、さまざまなパターンが考えられる。

「最近は、老親介護のためにお子さんが仕事を辞めるケースも増えていますが、アルチェでは、同じような境遇の方が支え合って暮らすことも可能です。ここでなら、『ちょっと出かけてくるので、うちの親を見ていてもらえますか』と、気兼ねなく言い合える関係を作っていただけるのではないでしょうか」

高度経済成長により地域の絆は失われ、高齢者1~2人世帯の多くは孤立した生活を送っている。そのことが、認知症の進行を早め、患者の数を増やす一因ともなっている。
一方で、施設に入ったはいいが、共同生活に馴染めず、引きこもりになってしまう人も少なくない。その点、隣近所との交流が自然に楽しめるアルチェなら、認知症の予防にも効果があるのではないか、と田島氏は期待をのぞかせる。

「今後は、地域の医療機関や施設と連携して受け皿を作り、在宅ケアができる体制を作りたいと考えています。訪問介護はもちろん、掃除や買い物補助などのサービスも必要に応じて提供し、将来的にはコンシェルジュを置いて、入居者の悩みや相談に対応できるようにしたい。ここで在宅ケアを受けながら、穏やかに終末期を過ごしていただくのが理想です」

アルチェを全国展開し、“プチ移住”も経験できる仕組みを作りたい

敷地内には共用の中庭も。晴れた日には入居者同士の交流が楽しめる。(c)190敷地内には共用の中庭も。晴れた日には入居者同士の交流が楽しめる。(c)190

現在、同事務所では、アルチェの事業主体となるパートナーを募集している。
「将来的にはアルチェを全国展開し、入居者が、各地のアルチェをウィークリーマンションのように短期で利用できるような仕組みも考えたい。『夏の2ヵ月間は北海道のアルチェに移住する』というように、別荘感覚で楽しんでもらえれば、と考えています」

なお、同事務所では、アルチェに代表される一戸建てのコミュニティ型賃貸住宅を「リンクハウス」と名づけ、アルチェなどで特許出願中。他にも、独身女性向けの「フィゴーナ」や、シングルマザー向けの「マードレ」などのブランドをシリーズで展開している。

「最近は都内のマンションの売れ行きが芳しくないため、ディベロッパーが、お金儲けの手段として高齢者向け事業に乗り出しています。しかし、本当に高齢者の立場に立って考えれば、この分野はけっして事業性が高いとはいえない。それでも、あえてアルチェに取り組んでいるのは、今後はこうした老後の住まいが必要だと痛感しているからです。長年、頑張って生きてきた人が、老後に『こんなところに住まなくてはならないのか』と悩むような社会はおかしい。人生の終の棲家にふさわしい、豊かな住まいを提案していきたいですね」
そう、田島氏は思いを語ってくれた。

在宅ケアが発達したヨーロッパでは、家族や親族だけでなく、近所や友人同士が支え合って、高齢者の独り暮らしをサポートする文化が根付いているという。自立した生活を営みながら、地域とのゆるやかなつながりを紡ぎなおすにはどうすればいいのか。アルチェは、その問いに対する1つの有望な解答といえそうだ。

(有)インターステーションが企画するリンクハウスの詳細
http://www.interstation.co.jp/

2014年 08月07日 11時56分