「本当なら来年(2027年)の今頃には乗れていたはずなのに…」時折そんな会話が飛び出す、リニア中央新幹線。静岡工区の水問題などで品川~名古屋間の開業は2036年以降となり、建設促進へ姿勢を軟化させたことで、“最後のピース”ともいうべき区間が動き出した。
とはいえ工事現場での地盤沈下、工事費の高騰など開業までなお予断を許さないのが現実だ。 
そんな中、「岐阜県駅」(仮称)を建設中のJR中央本線「美乃坂本(みのさかもと)」駅一帯を歩いてみると、様々な期待と課題が垣間見えた。

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巨大建造物が姿を現す リニアが予感させる激変の光景

JR中央線の車両が行き交う背後に広がる岐阜県駅(仮称)建設現場。駅ホームの橋脚などの工事が進むJR中央線の車両が行き交う背後に広がる岐阜県駅(仮称)建設現場。駅ホームの橋脚などの工事が進む

岐阜県駅(仮称)が建設される岐阜県中津川市の千旦林地区。かつて田畑と里山が広がっていた一帯には、乗降ホームを支えるいくつもの柱や車両基地の骨組みが威容を誇る。その足元を見ると、地面がむき出しになった広大な更地が広がり、大型車が行き交う。

駅の東側では、線路と交差するように濃飛横断自動車道の工事が進む。岐阜県郡上市を起点に下呂市などを経由して中津川市へ至る約80kmの地域高規格道路で、リニア駅から県内各都市や観光地へのアクセスを強化する役割が期待されている。

駅の工期は2031年までの予定だ。巨大プロジェクトが進んでいることと、リニア事業の波及効果の大きさを期待させるスケールが伝わってくる。

また岐阜県駅がもつポテンシャルにも注目したい。県が打ち出した「第2次リニア中央新幹線活用戦略」によると、主に以下の経済波及効果が想定されている。

(1)アクセス向上による企業進出
交通アクセス向上でまず挙げられるのがこれだろう。コロナ禍でリモートワークが進んだとはいえ、サテライトオフィスの需要は高い。リニアなら名古屋まで約15分(現在は在来線で最速70分)、品川まで約60分の利便性が受け入れられれば、企業や研究施設の立地先として、大都市に比べ不動産価格の割安感から注目が高まりそうだ。

(2)東西南北への観光軸の形成
北に飛騨高山や下呂温泉、東に中山道馬籠・妻籠宿や中央アルプス、さらに鵜飼や戦国合戦の舞台など歴史的な観光資源、清流と豊かな自然を擁するエリアだけに、岐阜県駅を拠点に観光需要の増大が(とりわけインバウンドに対し)期待できる。中央自動車道とつながる濃飛横断自動車道の工事も進んでおり、既存の交通ネットワークとの連携・再構築が進めば、「結節点」としての価値も高まる。

(3)総合車両基地の活用
岐阜県駅に建設中の車両基地と整備工場が生み出す雇用は約1,000人~1,500人規模と試算されている。新たな住宅や医療・福祉、商業施設などの需要が見込める。リニアを間近で見られることから研究開発機関などとの連携や、体験学習の場などとして駅一帯そのものが観光資源となりそうだ。

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完成イメージ図を掲示する飲食店が市内に多く見られる。1日の利用者が約2300人のJR美乃坂本駅が大変貌を遂げる日はいつか完成イメージ図を掲示する飲食店が市内に多く見られる。1日の利用者が約2300人のJR美乃坂本駅が大変貌を遂げる日はいつか
完成イメージ図を掲示する飲食店が市内に多く見られる。1日の利用者が約2300人のJR美乃坂本駅が大変貌を遂げる日はいつかリニア駅周辺のまちづくりイメージ(引用:中津川市)ターミナル機能とマンション、ホテル、公益施設などを配置する

新駅周辺の土地価格は堅調 一方地元民からは冷静な反応が

JR美乃坂本駅。朝夕以外は無人駅となる。美濃地方にありながら複雑な「濃」を避け「乃」を充てたというエピソードがあるJR美乃坂本駅。朝夕以外は無人駅となる。美濃地方にありながら複雑な「濃」を避け「乃」を充てたというエピソードがある

これらが現実になるにはまだ時間と課題が残るが、現状、土地価格にリニア効果はみられるのか。2026年度の周辺の駅ごとの上昇率は以下の通り。

・美乃坂本 +0.99%
・中津川  +0.32%
・落合川 -0.62%
・阿木 -0.87%
・坂下 -1.47%

美乃坂本駅は中心地・中津川駅前よりも上昇幅が大きく、中津川市平均(+0.43%)を牽引する役割を果たしている。

とはいえ、地元を歩くと住民は総じて「静観」といった印象を受ける。

駅前の老舗和菓子店の店員は、「工事やってるなあって感じで、今は話題にも上らない」と話し、不動産会社も「売買の動きは今はほとんどない。ビジネスホテルが1軒できたくらいで、そこも工事関係者が宿泊しているようだ」とリニア特需の動きはないと話す。
駅前に停まっていたタクシーの運転手は「早くて10年後のことだし、リニアの駅が出来てもよその観光地に持ってかれるんじゃない?駅そのものが観光地になる可能性はあるけどそれだと稼ぎにならないし」と、素通りされる未来を懸念する。

開業60年以上を経た東海道新幹線・岐阜羽島駅を例に「あそこみたいに、急には人は増えないんじゃないか」と話す人もいた。長すぎるプロジェクトに対し当初の期待がしぼんでしまったようで致し方ない面もあるが、静岡県知事が静岡工区着工を容認し開業への動きが前進したことで、住民の声にも変化が生まれる可能性はある。

建設GO、でも予断を許さない工事が続く。開業はいつ?

美乃坂本駅から西へ約15キロにある岐阜県瑞浪市大湫。中山道47番目の宿場町としての歴史がある。この水田の真下をリニアのトンネルが通るが工事はストップしたままの状態が続く美乃坂本駅から西へ約15キロにある岐阜県瑞浪市大湫。中山道47番目の宿場町としての歴史がある。この水田の真下をリニアのトンネルが通るが工事はストップしたままの状態が続く

一方、地上の工事に目を奪われては、リニアの現実を見誤りかねない。

美乃坂本駅がある中津川市から西へ車で約20分の岐阜県瑞浪市。リニアが地下を通るエリアの住民は、今も不安が消えない。
2024年、トンネル工事現場周辺で地下水位の低下が確認され、その後水位低下による地盤沈下も発生した。現場は断層に沿って地下水が流れていて、工事の影響で井戸が干上がり水田から水がなくなった。数ヶ所で稲の発育不良が見つかり、JR東海が修繕作業を行って、今年の田植えへの影響は回避された。また地盤沈下で建物数棟が傾く被害も出ている(修復工事は完了済み)。

トンネル工事は中止されたまま、今も再開時期は未定だ。JR東海は住民説明会を重ねているが、住民からは「やるなら早くやってほしい」との意見が多く聞かれる。
「この先何の問題もなく進むとは思えない。何かあったらその時に補償をしっかりやってほしい」「安心して水が使えることが必須。その上で早く工事を再開してほしい」という、こちらも長年の疲れとも諦めとも受け取れる。

地盤沈下で傾き修復された建物。被害を受けた建物は数軒にものぼる地盤沈下で傾き修復された建物。被害を受けた建物は数軒にものぼる
地盤沈下で傾き修復された建物。被害を受けた建物は数軒にものぼる引用:国土交通省

フェーズは新たな段階に リニアを待ち受ける光と影 

日々姿を変えるリニア岐阜県駅の工事現場。背後には田畑と里山、集落が広がるのどかな風景が対照的に広がる 日々姿を変えるリニア岐阜県駅の工事現場。背後には田畑と里山、集落が広がるのどかな風景が対照的に広がる 

これらの懸念は、ここ岐阜県東濃に限った話ではもちろんない。今後各地のリニア工事現場で起きうることで、その都度開業時期に影響を及ぼす恐れがあるということだ。そうなればコストはさらに増加し最終的には利用者にも跳ね返ってくることになるだろう。
それでも地元の期待は根強い。長引く「調整のフェーズ」から、「開発推進のフェーズ」へ、慎重かつ早期の転換が求められている。

なお、先述した岐阜県のリニア活用戦略では、「首都機能の分担」も効果のひとつに挙げられている。 
国の「東京圏の中枢機能のバックアップに関する検討会」の取りまとめ案では、首都機能のバックアップ場所の要件として「東京圏と同時被災の可能性が低い」「中枢業務を遂行できる施設と要員が確保できること」が挙げられている。その条件を満たしているのが、まさに岐阜県駅(仮称)が置かれる岐阜東濃エリアだ。

1990年代に首都機能移転議論が活発だった頃、岐阜東濃エリアは「栃木・福島」「三重・畿央」などと並んで移転候補地になった。副首都構想では大阪がリードしている感があるが、この構想はあくまで首都機能の分散が目的で、候補地は1ヶ所に限られるわけではない。リニア開業が長年の膠着状態を経て動き出したことで、岐阜県駅(仮称)周辺はその潜在能力を一層引き出すことになりそうだ。「三大都市圏に近づく」ことへの地元住民の期待は高い。

JR東海本社が入るJRセントラルタワーズ(名古屋市)。このビルの直下でもリニアの建設工事が進む。かつて「人の流れを変えた」「タワーズ効果」と称賛されたが、リニア開業で再び人の流れが変わると予想されるJR東海本社が入るJRセントラルタワーズ(名古屋市)。このビルの直下でもリニアの建設工事が進む。かつて「人の流れを変えた」「タワーズ効果」と称賛されたが、リニア開業で再び人の流れが変わると予想される